2023/10/25 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 川辺」に徒花ジョーさんが現れました。
徒花ジョー >  
メグ・メール街道から外れた自然区域。
人の手が入らない場所はそこは獣道。
何が起きようと自己責任が自然の掟だ。
整備されてない泥濘んだ土を踏み分け、草木をかき分け邁進する。

「……ついたか」

そうして開けた場所に出れば広がるのは川のせせらぎ。
澄んだ水源には月明かりが反射して美しく輝いていた。
カツン、と杖で砂利だらけの足場を付き、背負っていた布袋を地面に下ろす。

徒花ジョー >  
生憎と自然愛好家でもキャンプが趣味というわけじゃない。
仕事でなければ好き好んだ危険地帯に足を踏み入れたりはしない。
今回は、とある地方領主の依頼でここまでやってきた。

『───────。』

詠唱。今は使われない古い時代の言葉。
所謂"魔物避けの加護"に該当する魔法だ。
この辺りには、水棲の魔物も生息する。今回の依頼は駆除ではない。
面倒事を避けるためには、原因を遠ざけるのが一番だ。
砂利を踏み鳴らし、川辺へと膝をついた。水の冷ややかさが肌を撫でる。

「どれ……」

躊躇なく水面に人差し指を突っ込む。
ぽちゃり。小気味よい音のまま付着した水を掬い上げ、躊躇なく水を啜る。

徒花ジョー >  
その口は人のよりも多くの情報を伝えてくれる。
味、毒性、水質。ありとあらゆる情報が舌の上で滑り落ちるように脳に記録される。
暫くして、ゆるりと人差し指を口から離す。
憂いを帯びた暗緑の双眸が水面に移った。

「水質は異常無し、か」

人が生活する上で欠かせないものは幾つか有る。
重要視されるべきは当然"水源"だ。水なくして、生活は成り立たない。
ジョーに託された依頼とは、水源の確保である。
懐から取り出した羊皮紙のノートに指を走らせる。字の滲まない魔力文字だ。
情報はちゃんと形に残るようにしなければ、意味がない。

「さて、お次は……」

水質は問題ない。
では、後はどう水を運ぶか、だ。

徒花ジョー >  
とは言っても技術の進歩は目覚ましい。
今更悩むようなことでもなく、確立された技術がある。
それが今日、持ってきたものだ。水辺から離れた荷物。
布に巻かれたおおよそ2メートルほどの大荷物だ。
杖の宝石が、月明かりより一層明るく輝いた。

『─────(開いて、伸びろ)。』

カツン、古い言葉と命と共に地面を穿つ杖。
突風に巻かれたかのように布が舞い、中身のそれがびっくり箱のように飛び出した。
自然色に塗装された長い長い筒状の機械。やや地面を刳り、埋まるように水面とその反対側に伸びていく。
水を汲み届ける。大型ながら非常にシンプルな魔導機械だ。

「……一昔前には、水源一つで血が流れたものだが……ああ、いや。相当昔か」

人間の感覚では、その記憶は一昔前ではない。
軽く咳払いをしながら、魔力で勝手に組み上がる魔導機械を見守った。

徒花ジョー >  
青年ははっきり言って、家族がいた思い出と言う記憶以外にこの国に良い感情は抱いていない。
上の連中は自分のことに精一杯で、時に弱者が虐げられ慰み者にされるかのような斜陽の国。

「この国には、うんざりすることが多すぎる……」

辟易とした溜息とともに吐き捨てた。
とは言え、国は確かに人がいてこそ成り立つものである。
悪道正道、日の下に暮らしているものは理不尽に平等だ。
だからこそ、腐敗する木っ端役人共の中には、このように自らの領土の民を思うものもいる。

「今やこうして、機械一つで水を届けられる。
 ……暫くあの領土も水に困ることはないだろう」

ふと見上げる星空は嫌味なほどに明るくて、思わず鼻で笑い飛ばした。

「……うんざりする」

だからこそ、胸を張れる行き方をする連中は長生きしてほしいものだ。

徒花ジョー >  
「さて、と……」

後はこいつがしっかりの伸び切るまで見守るだけだ。
精々一週間、"随分と短い"。技術の進歩にはいつだって驚かされる。
コツン、と杖を叩けば転移してきた椅子に腰を掛け、同じく転移してきたランタンに火を灯す。

ひざ掛けに引っ掻かていた本を開き、川辺の寒風に肌を撫でられ一息。

「……──────。」

ぺらりと一枚ページをめくれば、気づけばあっという間に終わっている。
その地方領主の領土開拓に成功し、村はひっそりと賑やかになったという。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 川辺」から徒花ジョーさんが去りました。