2024/05/26 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 旧道」にミホ・クギヤさんが現れました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 旧道」にキュリアスさんが現れました。
ミホ・クギヤ > 木漏れ日が茜色に変わる旧街道。
鬱蒼と生い茂る木々に頭上を覆われた野道を、巫女装束が足早にザカザカ進む。
肩に担いだ棒の先には蓋のされた桶が吊るされ、剥がしちゃいけなそうなお札がベタベタと貼られている辺りお仕事帰りなのだろう。
日暮れに間に合わせようと競歩の勢いで健脚をフル回転させるが、そろそろ望み薄かもしれない逢魔が時。

「――あー…もー… あーもーっ… 身のっ程知らずが手間かけさせてくれちゃってまあ… ああベタベタするぅ…」

おすまし顔であれよと圧をかけるような紅白の装束に反して、黒髪を方々にハネさせた巫女は不機嫌を露に眉根を寄せて。
装束は汗だけでなく重たく湿り、磯のニオイをさせていた。
所々黒ずんで見えるのは墨か何かを洗い落としたのか。
夕日も輝きを落として夜の帳が迫る中、背中の桶が中で何か蠢いているようにゴトゴト揺れて――
ゴトン! 地面に下ろし ガタン! 踏みつけて バン! 袖から引っ張り出したお札を叩き付けるが、

「あ、あれっ… あれっ… ったくもーっ! もーっ!」

吸着されるはずのそれが上手くいかないのは濡れてしまったせいか、そんなにヤワじゃなければ何か良くないものを浴びたのか。
バラバラと不発のお札をメンコでもするかのように散らして、何枚目かで燐光伴ってお札が吸着すると、桶は静かになった。

キュリアス > 酷く不機嫌そうな声が響き渡る。
鬱蒼とする木々の下、和風の巫女服を着た女が何やら騒いでいた。
ちょうど日が沈み始め、そして魔が活発化し始める時間帯。
そんな中で、さらに森の中で騒ぐともなればこの猫は気にしてしまうタチであった。

「んにゃあ」

そんな猫の鳴き声が女の頭上に響き、やっていることを猫は覗き込む。
イライラが募っているのだろう、そうでなくてもあんな風におそらくは海水で濡れて重くなっている服。
しかも、日でそんなに乾いていない。さぞやこの道をその姿で走るのは体力も使ったろうに。
しかし、なにやら不思議な桶を持っている。中には…まぁデビルフィッシュでも入っているのだろうか。
それにしては猫から見ても厳重に札がされており、剝したらどうなるのかと思ってしまうが。
さて、それはやめておこう。ピョン、と樹上から猫は身軽に飛び降りる。

「随分イラついてるにゃあ」

そんな声が、桶の隣に降りて来た猫から聞こえる。
不思議な色合いをした、明らかに魔物や化生の類いの姿をした猫であった。
黄金の瞳と蒼い白目が、興味深そうにその桶へと向かって…やっぱり好奇心は抑えられない。
その札の一つに、爪を立てて軽く引っかくとまた桶がガタガタ揺れ始めることだろう。

ミホ・クギヤ > 「んー?」

その鳴き声に、あるいはその主に、霊感ある者が何か感じるところはあるだろうか。
おーん?と胡乱気に宙を仰いで、そういえば化け猫の噂を聞いたなとぼんやり思う。
その話を聞いた時は、そんな、人種と宗教の坩堝たる王都において化け猫なんて言われましても、と首を傾げた。
そういう魔獣化した何かとか、どなたかのお式、使い魔?とか、何でもありそうで何が出てもあまり驚けない土地柄だ。
しかし―― 桶と格闘する傍らに飛び降りて来た猫は、蛍光紫と白のまだら。
なるほど、決して猫カテゴリーから大きく外れず、しかし猫離れした体色をして化け猫と称するのは適当な気がする。
『あ、猫だ』と猫がその生涯で何度言われるか分からないテンプレートを口にしようとしたところで、人語がかぶせられた。

「相手にとって悪くない話を持って行ってる自信があるのに、
 先方が譲歩したら譲歩しただけ付け上がってくるような頭オカシイ手合いのケースが一番苦t―― ってこりゃ!」

こういう界隈の住人である。
今更体色で予告してくれた化け猫が人語を発するくらいでは驚くまい。
聞いてくれるかい、と愚痴りはじめたら空気読めない猫がお札を引っ掻いて。
再びガタガタし始める桶の蓋をきつく踏ん付けながら、前傾姿勢でとりあえず猫の頭をはたきにいった。
成功しても失敗しても、往生際の悪い!とまたお札をバラバラバラ、何枚目かでピタッ! シーン。

「――良いニオイでもしたのかい。煮ても焼いても食えない業突く張りだよ。」

キュリアス > 「ん”に”ゃあ”!!?」

はたかれた猫が、頭の上で小鳥と星が回っている姿を見る。
くるくると回るお星さまと猫をしばらく見ている間に、この巫女は桶に対するいろいろを終えたらしく。
ぶんぶんと頭を横に振ってまた桶を見れば、もう札がびっしりと貼られた桶の出来上がり。
くんくんと鼻を鳴らして中の匂いを嗅ぐが、札のせいで東洋特有の魔力の匂いと磯の香しかなくなってしまって。
どこか残念そうに、猫は人のように肩を落とした。

「にゃあ、海の魚っぽいニオイがしたから美味しそうだなぁって思ったにゃあ。
 でもこれ多分深海類だから危なそうだにゃ。というか人里に持っていくの危なくないかにゃ?この手の生き物」

てしてしと猫の手、今度は爪を立てずにその桶と札に興味深そうに触れる。
もう動くことはなく、完全な沈黙状態を保っている。中にいる奴は今どうなっているのだろう。
興味津々ではあるが、自分ももしかしたらこの中に突っ込まれる事があればと思うとぞっとした。

「あぁ、そういう奴はよくいるにゃあ。下手に出れば出るほど強気になる典型的な奴にゃ。
 しかも、そういうのって貴族も平民も関係なくいるのが面倒だにゃあ。
 僕ちゃんもそういうのの手合いを何度か見たことがあるし、相手したことがあるからわかるにゃ」

うんうんと猫なのに両腕を組んで、理解を示すようにうなずく。
さて、そう話していれば気になるのはこれを運んでいる人物。
見慣れない服装に身を包んでいる、もじゃもじゃした女は何者なのだろう。

「ところでもじゃ女ちゃんはこれをどうして運んでいるのにゃ?
 多分磯臭いのもそれのせいだし、魔物退治が生業なのかにゃ?」

ミホ・クギヤ > お、かわいいなとスタンが入った猫に和んだが、ちょっと強くやり過ぎただろうか。
しかし『引っ掻いちゃダメ』度合いを分からせるには丁度良い力加減な気もして悪くは思わない。
散らかした不発のお札をカサカサ拾い集めながら、一応猫への警戒も解かずに。

「タコだよ。食べられるってんならもうソレで無かった事にしちゃいたくなるが… ダメだね。落とし前つけさせなきゃならない。」

お腹空いてんのかい、と相手を猫だと思えば少し同情的になってしまう乙女心も持ち合わせているが。
いやいやダメダメ、コイツは食当ると首を振り―― てしてし には やんのか? と目が細まるが、触れるだけならまあ。

「水から離せば大した事は出来ないさ。 …いやまあね、うん、無難にいくなら持ち込まないのが一番だけど。
 この程度ならウチの方で責任持つよ。 こってりと説得して仲良くしてもらうんだ。」

――ぼくちゃん、の一人称が何だか妙に気になったがさておき。
実にニンゲンっぽい事を言う猫を 何者か? と見つめて。

「も、もじゃじょ? …ああうん、魔物退治って括りで良いと思う。
 元々は、自分で狩りするよりニンゲンからかっぱらった方が楽って気付いたタコだ。
 初めはそれくらいだったのに栄養たっぷりで知恵つけて一帯の主とかもてはやされるようになって、神格化して。
 機嫌良く治めてくれてりゃ良かったんだけどヒトに手を出すようになった。
 イケニエとか求めんのは100年早いんだわこの程度の霊格で。なーにが年一で処女一人だっての!」

ゴンと桶を小突いて、どっこいしょと棒で肩に担ぎ。

「そういう猫さんは? 何者だい、化け猫って噂になってるけど。」

キュリアス > 若干警戒されている。まぁ残念ながら当然と言う奴だろう。
好奇心に身を任せて、彼女のやった仕事を邪魔しようとまでしてしまった。
それを反省しているかはともかく、今はもう札を剥すような真似はせず。
札を集め直している巫女へと黄金の瞳を向けながら。

「タコちゃんかぁ。嚙み応えあるけどナマだと嚙み千切るのが出来ないから苦手にゃあ。
 焼いても下手な奴が作るとヌメリがとれてなくてマズイからにゃあ。
 もじゃ女さんがこれ食べるのにゃ?」

目を細めている彼女の様子に気が付いていないのか、そんな明らかに見当違いなことを言って。

「へぇ~。タコちゃんと仲良くするなんて珍しいにゃ。
 もしかして召喚術とかその辺りが出来るのかにゃ?僕ちゃんも捕まえて説得されちゃったりするのかにゃ?」

興味が桶から巫女の方へと移ったのか、質問をしながら近づいていく。
少々人間らしい動作や表情の変化をするが、形だけなら間違いなく猫であった。
ぺろりと磯臭くなってしまった前足を舐めて、尻尾をゆらゆらとさせながら。

「だって髪がもじゃもじゃしてるからもじゃ女にゃ。名前があるなら聞くけども。
 …ああ、このタコも付け上がっちゃったタイプかにゃあ。
 そりゃあもじゃ女ちゃんがイマイチこのタコを好きになってなさそうなのもわかるにゃ。
 人身御供とかどこの地域でも嫌われるものなのに、しかも処女かぁ。
 小さな村ではそれは致命的過ぎるにゃあ」

やけにそう言う事に、というか人間の事情に理解があるようで。
肩に担いでいる彼女の後を着けるように近づく。

「猫ちゃんはキュリアスだにゃ。ただの猫だにゃ」