2024/05/15 のログ
ご案内:「ル・リエーの水遊場」にエンさんが現れました。
エン >  
時節はまだ春のはずが日差しは強くじりじりと肌を焼いて空気は湿っぽく、蒸し暑い。
王都では早くも冷たい飲み物やら氷菓子やらを売りにしはじめる店が出始めて、
財布や仕事に余裕がある者は港湾都市へ避暑を求めるなんて話もちらほら聞こえ始めた。
水遊びも盛んになりはじめて水遊場にもまたそれなりの客入り。
人混み、程でないにせよ多少騒がしくなってきた事に合わせて、
追加料金払って一つか二つ階層を上げる客も居る。

「ふーーー」

内一人もそのクチだ。只、それだけでなく、

「今に始まった話じゃないけども。……本当に近頃は体力が落ちていかん」

人が少ないところで思いっきり泳ぎ回りたいから、と。自分が思いっきり泳ぎ回ると他のお客さんが危ないから、だ。
……トビウオとかそのあたりの親戚さんだろか……? なんて、目撃者には疑われるほど。
バタフライで水面を掻く度足を跳ねさせる度水面を飛んで跳ねてを数十往復した、後。
肩を荒い息で跳ねさせながら水場から陸地へと上がってくると、頭を一振り、水滴を飛ばす。
終始ぴったりと綴じられたままの瞼をサングラスで覆ってからパーカーを羽織ると、
手近な寝そべり椅子へとどっかりと腰を落としてから頭を垂れる。

エン >  
「ぁー。こういうのいけないんだっけ」

運動を重ねて気怠さに任せて座り込んでしまったが、ふと。
心配への負担がどうのとどこだかで聞き齧った知識に顔を上げ、

「ぇー。ストレッチしてからか……」

荒い呼気はそのまま立ち上がれば、腕を伸ばしたり、腰曲げたり。
身体を動かすたび、みちり、ぎしり、なんて擬音が響きそうな程、
絞り上げた二頭筋が撓み二つに割れた胸筋や六つに割れた腹筋が反る。
水を吸ってもさらりと着心地のいい上着が筋肉の凹凸をくっきりと浮かべて、
肌が直接見えなくなっても粒々とした肉体を、見えるところはしかと露わに、
水滴をその造形にあわせて折れたり曲げたりとしながら滴らせてストレッチ。

「若いはずなんだけど気分は年寄りだよ、まったく」

今更現役に戻るつもりもなければ現役なんか戻れるはずがないのも重々承知にせよ……
『三十路に入ると体力がくっと落ちるぞ』云々どこかで聞いた話を実感し始める昨今。
避暑もかねて遊びがてら運動してみたら思ったよりか落ちてて殊更実感羽目になってしまった。
ため息交じり、独り言。呼吸を整えながらに、いっちにぃ、さんし、と掛け声も偶に零して、

「ん゛~~~……」

年寄りくさい唸り声も一緒に出ている。

ご案内:「ル・リエーの水遊場」にドリィさんが現れました。
ドリィ > 王都へ帰還するなり──春の様相はどこへやら、陽射しは強くまるで初夏の如く晴れ渡る。
よく働いたし懐も潤った。早速労働に勤しむ気はさらさらに無い。
こんな日はエールでも浴びるように飲むに限るが──折角なら相応しいロケーションが欲しいもの。

故に、女は水遊場に出向いた。
別に誰ぞと戯れたいでもなし、男を引っ掛けるつもりも無しなら、
多少値を吊り上げて快適な階層を利用したいもの。
売店で購入したエールの杯を片手に、──… ひたりひたりと歩むしなやかかつ肉感的な御足。
タオルを肩に掛けた黒のビキニ姿。先ず、訪れた女が見留めたのは…

「ん? トビウオとかそのあたりの親戚さんかなァー…??」

そんな光景であったものだから、俄然トビウオさんに興味が湧くというものだ。
故に、歩みの先は見事な跳泳を披露し水辺に到る彼の許となろう。

尤も、女が声の届く距離迄歩み寄った頃合には、かの人物はストレッチの最中。
律儀に数を唱える声と爺臭い唸り声とを交えた姿に先程迄とのギャップがどうにも。

「あっれぇ…? 随分勢いよかったと思ったんだけどぉ……?」

思わずに笑い雑じりを投げ乍ら、手短なチェアへと、ぎし。張り布を軋ませて豊満な尻肉を放り置いた。

エン >  
王都もそこかしこも蝕むきつい日差しは水遊場の硝子越しにもまたきつく降り注いでくる。
とは、いえ、空調や、水場の水飛沫に人気の少なさが相俟って街中よりは幾分もまし。
財布にそれなりの負担を強いた成果でのんびり過ごすには良い塩梅は……
トビウオのせいで結構なぶち壊し具合になってしまったろうか。
魚サイズならとまれ人が剛速球もかくやと水面を跳ねればかなりの騒音である。

「ん゛~~~む゛ぁ……」

一応トビウオ側もそのあたり配慮したつもりであったし遊泳前には人気がないのも確認したが、
自分の出す騒音のせいで誰かが入ってきたのを確認出来なかったし後にも確認を怠っていた。

故、

「んぁ?」

爺臭い掛け声やら唸り声を散々上げたあとで更に間抜けな声を上げて、届いた声に疑問符が飛び出る。

「ぁ。あー。誰か居るとは思わなんだ。うるさかった……よねぇ。いやぁ、申し訳無い」

しなやかな足音にチェアの軋む音。それに、張り布へ食い込む柔らかな音と若い声音。
意識すれば耳へとあれこれ届く情報に、サングラスと顔を向けると、
それでも若干視線を向かわせるべき場所からはずれるが彼女へと向いて。

確認するまでもなく相当な騒音だったろうことは自覚するところである。
胸の前で両手を合わせて、北方の習慣ではあるが此方でも見ないではないだろう謝罪の形を取って声音でも告げる。

ドリィ > 訪れて早々、目に飛びこむ猛然と水面を跳ね泳ぐ人影らしき様は、中々に見物であった。
港湾都市の海水浴場ですら見掛けない、マーフォークも吃驚の泳ぎっぷりだ。
故に──誰にもちょっかいを掛ける予定は無かったのに、つい。足が向いてしまった。

「ふクッ。あははっ…… だぁいじょぉぶ。 そのままどぉぞ?」

濁点雑じりの唸りに続き、空気の弛緩する一声が届けば。
堪りかねたかに吹きだして、女は甘い愛嬌を響かせる。

相手の傍の椅子からひとつふたつばかり距離を置いた椅子に自身の居場所を定めたのは
これ以上邪魔するも無粋だろうと思ったがゆえ。
うなじにて縛り結ぶホルターネックの胸元は、肉をとっぷりと動きに撓ませ。
胸元に負けじと重いヒップは、撥水の油を塗り込まれた布張りチェアに柔く潰れる。
脚を組み、ゆるい傾斜に背もたれを寝かすチェアに身を倒せば、椅子は課された役目に光栄そうに軋んで応えた。
パラソルの日陰に眼差しを眇め。ぐびり、手にしたエールを一口嚥下して。

「んーん。あまりに壮観だったから、トビウオさんの御尊顔を拝みにきただけ。
 むしろ、魚の1匹でも跳ねてたほうがー… 水辺的には風情があってオッケーよ。」

そして、そんな相手は魚面でも無ければ爺でもなさそう。
サングラスに眼は隠れているものの、整った、酒の肴に愛でるに丁度いい貌だ。

エン > 海の民でも吃驚仰天の泳ぎっぷりは、彼女は面白いと興が乗ったようだが他の客には大層受けが悪い。
階層をまた一つ上っていく者やら下がっていく者やらばかりで今の階層には二人っきり……
豊満なお尻を追っかけて結構粘った軟派も居たものだが、石の水切りばりに飛ぶ男がセットでは、
流石に近付きたくなかったらしく諦めて踵を返したようだった。

「んん。かたじけない」

ころころと弾むような可愛らしい笑い声に、はて? と、騒音はとかく自分の間抜けさは自覚出来ずに首を傾げた。
腕を弛めたり背筋を伸ばしたり両掌を地面にぴったりと立ったままにくっ付けたり。
ご自由にとの事なので謝罪の掌も解いて身体を暫く解していたがそれも暫くで終わり。
ぁ゛ーーー……とかこれまた年寄の匂いがする溜息を一つ零した。

寝転ぶ仕草一つからも、柔らかな生地よりもなお柔く押し込まれた肉付きが揺れる音がする。
足裏で砂が、肢体で張り布が、踏まれる度喜悦さえ上げそうなたわわさがよく届く。
背丈はこれぐらい。実りはこれぐらい。云々しきりに訴える音は聞き入りそうになる、が、
セクハラいけませんとばかり軽く自分の耳朶を掌でぴしゃんと叩いて気付けを一発。

「お目汚しにならないといいけれども、いかがかな?
 ふふ。ありがとう、そう言って貰えるとこちらも気が軽くなる、けれど、そうさね……
 お詫びの一つもしないじゃ無作法も過ぎるなぁ。一杯ぐらい奢らせて貰えるかな?」

ご尊顔。なんて言われてみれば細くも細りすぎない顎やすらりと引き締まった頬を右で撫でてみたりとしながら。
もう片方は、おそらくエールだろう、弾ける炭酸と僅かなアルコール臭や麦の香りがするものへ左手の指で差し。

「……ナンパみたいなやり口だな、いや、そういうつもりは決して無いんだが」

自分で言ってて思った。ナンパみたいな、というかナンパの遣り口だこれは。
いやいやいや、と、慌てて左手を左右に振る。奢るのは虚言じゃないがナンパ違う、と。

ドリィ > 御尊顔を見留めたのなら、なお愉快。
小綺麗な容貌且つ均整のとれた筋肉美を晒す男が、微妙な爺むささを醸しつつに身を解すさまは、中々に趣がある。
冒険者や傭兵等の類だろうか。それとも本当に齢数百年にて人に化ける術を覚えたトビウオさんか。
こういう相手を鑑賞しつつに嗜む白昼の自堕落なエールは実に旨い。最高の昼下がりである。

お陰でチェアに落ち着いたばかりだというのに随分と酒が進んでしまう。
ぐびりぐびり、───…ぷ、はぁぁぁ。 甘解れた弛緩が男の聴覚に届くだろう。
何やら耳朶をぴしゃりとやる謎の奇行もあれど、女の審美眼に適う程度に男の容貌は悪くない。
別アングル迄くれてしまうサービス精神も100点だ。

「んーーー♡ 水も滴るイイ男、ってカンジ。 いやぁー…んふふ。酒がおいしーぃ。
 なぁに?一杯奢ってくれるのぉ? ──あは。うれし。お兄さんのお陰で、エールが進んじゃって進んじゃって。」

縁を摘まみ掴んだ杯をふらふらと揺らすは、既にこの女、男を肴に一杯を飲み終えたらしかった。
それにしても一人葛藤している姿も実に可笑しくて味わい深く、どうにも飽きない。
これが所謂ギャップ萌えというやつか。
うっかり御満悦に酒を欲して空の杯を唇に咥えてしまった。いやいやもうこれ入ってない。

「ふっ…ククク…、~~~~ッ。  えーー、ナンパはしてくれないの? 泳ぐ方がお好き?」

なので、思わず茶々を入れてしまう訳で。

エン > 己の容姿が殊更悪いとは思っていないにせよ特段に美形などとも思っちゃいない。
水も滴る、云々の褒め言葉には照れ臭そうに、笑って腰に手を当てながら顔が背く。
“別アングル”をもう一つ披露しながら、ついでに
顔芸にはとことん向いていないだろう事が丸わかりの仕草であった。

耳朶を引っ叩いて、尚、鼓膜を衝撃で幾らか麻痺させて、尚、
甘ったるい吐息は唇の輪郭さえ浮かぶ程よくよく届く。
声の高さといい言葉にたっぷりと含まれる愛嬌といい、
さぞや可愛らしい女の子なんだろうなと思うぐらいには。

「んふふ。ああ、失礼、愛らしくて。いや、見えてはないのだけれどさ。見えなくったって可愛らしいのはわかる」

お目汚しにならないどころか酒が進んで進んで仕方ないと言葉に嘘偽りない重みの消えたグラスの音と。
名残惜し気にか、お強請りか、グラスに唇が近付いて声が籠もると、あんまりに愛らしくってつい笑みが溢れて。
見えてないと、サングラスのツルを右手で軽く持ち開ければぴったりと接着したように綴じた瞼が彼女にも見えるだろう。

ここからは若干遠いが離れたところにある売店のほうへとひらりひらりと手を振って、人差し指と中指を立てる。
中層階以上ともなるとここらで店を出している人はこういうサインには敏感でさっとよく冷えたエールを二つ分持ってきてくれた。
一つは自分に、一つは彼女にと受け取ってから差し出して、

「はい、どうぞ? お嬢さん。
 ナンパはねー……するにしてもだ、今したら格好が悪いにも程があるよ。もうちょっと格好良くしたいというか……」

いかにもワンナイト狙ってますとばかりのナンパ男が吐くような台詞で、しかもお詫びにかこつけて。
ナンパすること自体は良いにしても遣り方がどうにも気に入らないとか何とか嘯いていた。

ドリィ > 別アングル追加迄してくれながらに微妙にノリきれてない気恥ずかしさを醸すのに、
見守る女の口元が思わずニヤける。気障ったらしいところが微塵も無いというか、
なんなら愛嬌すら漂わせる、微温湯めく男の態度には好感が持てたから、
その男の声が若干の笑いを含んだとて、失礼なんて誰が思うだろう。

見えてはない。その言葉に──女が双眸を丸くするのは一瞬。
直ぐに表情を変えるのは、満更でも無さそうな、むずりとした破顔。そして、それが齎す淡い息漏れ。

「ん? そぅなの?

 見えてない人に、可愛いって言われるのってぇ…、うふふ。中々に響くかもー…。」

容姿で、肉体で讃辞を受ける事には慣れている。だが、男が褒めたのは視覚に左右されぬ何かであるのだろう。
それは下手な口説き文句より響くというものだ。嗚呼、いますぐ酒を煽りたい。女の正直な気持ちであった。
加えて、サングラスに阻まれていた目許、御尊顔の全貌が窺えたなら、

「 ぁ。すてき。」

女は、ごく短く男の閉ざされた眦を、ふんわりと酒気漂う言葉に褒める。多分、笑み含みに。
そして男が売店にエールをオーダーしてくれたなら、それを遠慮無く受けとっては、
欲求の儘に、ぐびりと傾け咽喉を鳴らす。 ───… ふ、はぁ っ。 満足たる表情を、息に伝えるよに深く伸ばして。

「いやァー… でもお兄さんのそぉゆうカンジ、結構ねぇー…こぅ、ズキュンと胸にキてるわけでー…
 ぁーーでもなぁー。格好イイ感じでこられたら、それもそれで今日とのギャップが堪んないのかもぉ…?」

酔っ払いの講釈めいて宣ってるけども、この女ほぼほぼ素面だ。
どうナンパされるも捨てがたい。格好悪いのもクる。恰好良いのもきっとクる。
悩ましいとばかりに腕を組み、頭を捻り。眉を顰めてユルく甘く唸る声。またエールを、ぐび、一口。

エン > 眉毛は困り眉で口元は擽られて擽ったがりが堪えるみたいに真一文字がむずむず動く、照れ隠せてない照れ隠し。
彼女の声の揺れや唇からひしひしと漏れる笑気が面映い。
目線どころか顔正面もあんまり向けられなかったけれど。

ごほん、と態とらしい咳払い一つで向き直り。

「そうなの。たとえば、そうさね、やっぱり盲によく感じるのは声が筆頭だけれど……
 お嬢さんの声はとっても可愛いと思う。ふわっと軽くって鈴みたいに耳障りが良い。」
 俺はちょっと耳がいいほうだから仕草もある程度は解る。仕草も良いよねぇ。
 お口寂しくってグラスにつけて喋ってたり、笑ったりするとき少ぅし身体がゆるゆる揺れてたり、お酒ほんとに美味しそうに飲むなぁって感じる息遣い。
 可愛らしい」

可愛いと一言で片付けてしまってはぞんざいだからとどう可愛いかをとくとくと語る。
褒められるのも面と向かって褒めるのも気恥ずかしいのでむずむず口のまま、格好はいまいち付ききらないのだが。

「んん゛。んふふっ。ありがと。外しておこうか」

瞳孔は伏せられたままだがそれでも刃物で切れ込みを入れたような鋭い目尻や整えた眉毛の面相がまた恥ずかしくって乾いた笑気を零す。
折角しきりに褒めてくれるのだからとサングラスを外してしまえばパーカーのポケットへと突っ込んで。
目に見えないなら他で見えるようにと長ぁく零れる吐息に一つ頷き、
乾杯と自分の分のエールを飲めば苦みも炭酸も飲み下して一息。

「男ってのは、目明きも盲も俺も変わらんよ? 可愛い子のまえでは格好つけたがりだ。
 今のところは勘弁してもらって次は格好付けてナンパさせてくれると嬉しい」

どうにも、彼女のストライクゾーンは結構手広く自分はそこかしこに刺さるらしい。
うーん、と声音一つでも悩ましそうな仕草がよくよく伝わってくるのに肩を揺らして笑って。

「一先ず、自己紹介から始めようか。ユウエンだ、あーと、ユウが姓でエンが名前」

お隣失礼しても? と、掌で示してから、自己紹介。

ドリィ > 咳払いは、ささやかな攻守反転の皮切りの如く。
まさか、そうくるとは思わなかったので、女の双眸がきょんと丸くなったろう。

「ぇ。 ぅわ。…わぁ。
 ちょっとぉ…そぅゆうの、言っちゃう?ゆっちゃうんだ???
 
 えぇ…、どぉしよ。不意打ち過ぎて、──……ぅ、わあ。もぅ三杯くらい飲めちゃうかもー…。」

その切り口は、褒めそやす言の葉に慣れた女にすら、擽ったい盲であるが故の観点で。
仕舞いに、声で伝わらぬだろう仕草息遣いすらも語られたなら、
酒には色ひとつ変えぬ頬が、僅かに熱帯びたよな気がして思わず掌が頬をぺちと触れ冷やす。

───ふぅっ。仕切り直しに、また一口。
仰ぎ向けた上目に、サングラスを外した容貌が映り込めば、女の面はふやけた笑みを浮かべようか。

「ぁ。 うれし。」

サングラスがあっても悪くない。けれど無いなら彼の浮かべる機微が分かり易く、魅力的だ。
向けられた名を聞きながら、女はチェアの傍らを空けようか。
座面は広く、二人程度なら肩を並べて座れるだろうから。勿論、隣に配された別のチェアでも構わぬけれど。

「オッケー、エンね。
 じゃあー…もし次に出逢えたらー……そのときは、格好良く口説いてもらっちゃおうかなァ。」

盲いた男が、もし。鼓膜に留まる残響を頼りに、己の名を呼ぶ奇跡めいた再会があるのなら。
そんなのは、どうしようもなくロマンチックで、恋にだって落ちてしまいそう。
だから、女は男を指にて招く。すぃ、と手の片方が男の肩に触れ、
内緒話の距離を強請ったなら。その耳元に唇寄せて息すらまぶして囁こうか。
耳腔に忍び込ませるひそやかさで。脳味噌に留める糖蜜に、悪戯心を包んで粘らせて。

「だぁーかぁーらぁー……、声………覚えて帰って… ネ?」

ちゅ。唇を触れさせぬまま、疑似めいたスタッカートだけ鳴らして遠離り。
悪びれずに快闊に名乗るのだ。既に半分減ってるエールを掲げ。乾杯、の仕草と共に。

「あたしはドリィよ。名前もちゃぁんと、覚えてね?」

エン >  
「言われたことない? こぉゆうの。喋り方だって可愛いに一点入れさせてくれ。
 間延びしても聞こえにくくも耳障りでもないのは姿勢も発音も息継ぎも良いからだよ。
 曲がらずに歪まずにすーっと耳に入ってくるのは、鈴と言ったが、我ながら良い表現だった。
 ……こんなことにも気づかんとは他の男も見る目がない、と言うのは簡単だが……
 きっと、そんな事に気付かないぐらい見た目だってとっても素敵だからだろうさ」

出るわ出るわ、褒め言葉。一度口火を切ったら中々止まらず、つらつら、つらつら、つらつら。
目に見えないから耳で聞こえる事をたっぷりと伝えていく、最中。仕草もある程度は解るという言通り気恥ずかしそうに頬に添えられた手にまで言及してそれまで“可愛い”と。目に見えなくっても想像に易いぐらい見目だって“可愛い”と。喋る喋る。彼女に合わせてエールをもう一口含んで途切れるまでずっとこの調子であった。

視界には確かに映っていないが視界を占める暗がりに彼女のふにゃりと緩んだ笑みが浮かぶようで、
褒めに褒めたら素直に受け取ってくれて照れてもくれる愛らしさにくつくつと笑気で喉が鳴る。

「どういたしまして? では、失礼させてもらって……」

サングラスがなければよくわかるだろう、口元と同じぐらい可笑しそうにも機嫌良さそうにも撓む目元。
触れるとすぱっと切れそうな鋭さのくせ今は随分と柔らかく撓んでいる。
彼女が開けてくれた隣に腰を下ろせば、ぎしぃ、と筋肉質な見目相応に重く、柔さを頼んでいた張り布に悲鳴を上げさせ腰掛けて。

「格好つけたがりってところでもう格好悪いのが申し訳無いところだよ。
 出来る限り頑張らせてもらおう」

彼女の声は耳によく残る。雑踏の中でも、喧騒の中でも、或いは聞き取れてしまうかもしれない。
“次”はもしかしたらそんなロマンチックな少女漫画もかくやの出会いの可能性は……
今きっと跳ね上がったろう。
何? と、招く仕草に首傾げては耳を寄せれば、耳で感じる柔さ以上にしなのある仕草から次ぐ蜂蜜よりもずうっと甘い囁きと、リップノイズで。耳に脳髄にしかと彼女の声が刻まれたのだから。

ぞく、と背筋を這い上がったものに一瞬肩が跳ねたが、直ぐ、可笑しそうに震えて、

「乾杯。悪戯好きな、ドリィに」

グラスをもう一度だけ掲げて手首を返せばグラスに小さくぶつける。
ガラス同士がぶつかる小気味いい音が響いた。
互いに一度口をつけた場所の近くがぶつかったのは、偶然。

ドリィ > そして女の頬の鎮火を待たぬうち、更に連ねられる讃辞に、
頬に滑らせた掌が今度は己が耳朶の片方を摘まむ羽目に陥る。
本当は目だって見えてるのじゃないかと思う程の、手の動きにまで到る指摘。

「ぇえッ…わぁっ…えぇ……ちょっと、…褒めどころが斬新で、照れるんですけどぉー……。

 やだ、なにもぅ、…もしかして口説きだすと、そぉゆうカンジなひと?
 …もぉこれ、こっちだって気合入れて臨まないとー…。」

先程迄とは打って変わった饒舌。耳にこそばゆい独特の敏さ。
思わぬ再会時の強敵を匂わせる片鱗に、若干、予定外に翻弄された感があればこそ、
女の胸裡にもわもわと湧く、対抗意識めいたもの。
負けてなるものかとばかり、顰め眉。謎の気合に息巻く様がきっと相手にも伝わろう。

傍らに座すべく椅子を軋ませた男は、サングラスが無ければ矢張り、随分と印象が変わる。
それでも、何処と無く普段は纏うのだろう鋭利や、鍛え上げられた肉体の練度が仄かに知れた。
中身の詰まっていそうな筋肉の重みに、苦情を訴えるチェアを黙殺しつつ、

「ふふっ。 どんな風に格好つけてくれちゃうのかなぁー…。たぁのしみ。」

隣にある、肩が仄か笑いに揺れた。

広い王都、多くが行き交う雑踏。
そんな奇跡、本当に起こるのかも知れないけれど。酷く愉しいから、きっとこれが最適解。
手向けられた乾杯。グラスをかちあわせる澄んだ響きにたゆんでゆらめくは泡の波。
たぷんと揺らめく波立ちに、すかさず唇を寄せたなら、また。───…ぷ、はぁ。満足に息を抜く。

「はぁ…。 おー…いし。」

女の頭がこてんと揺らめき、男の肩に重みを預けるは、ほんの少しのこと。
続きは──ひょっとしたらひょっとして訪れる、何時かに取っておくべきなのだから。
故に、これからはじまるは男の鼓膜に女の声を馴染ませる試みめいた、酒飲みのくだらない与太話。
そして、もしかしたら脚力自慢を思い出した女の提案にて一戦くらいはトビウオに挑むことだってあるのかも。
斯くして、有意義な白昼の平穏は、暫し続き…。

エン > 褒められて照れてそっぽを向いた男はどこへやら、褒めるときには目が見えているなら目をしかと見据える真正面からつらつらつら。……急に気恥ずかしさがどこかへ飛んでいった、わけでなく結構頑張って向き合っている証拠は実はそこかしこ。

「いいや。そっぽ向いたんじゃあ嘘臭い。一言で片付けちゃ誠実さに欠ける。気合入れてるだけ。
 俺の気合これでいっぱいいっぱいなのでお手柔らかにお願いしたい」

耳がぴくつき目元がひきつり口元も時折真一文字になりかけてどれもがそのうち朱に染まりそう。
彼女の内に燃え上がった対抗心がこれを打ち砕く日はそう遠くなさそうな有様であった。
まぁまぁまぁ、なんて、掌を向けて、伝わってくる息遣いも言葉も気合たっぷりの様子に既に白旗上げかけている始末ときた。
とはいえ、次だってまた褒めるときがきたのなら、止まらなくなる気配は十二分にあるけれど。
サングラスがなくなった分だけ、サングラスがあった時でも分かりやすかった顔芸の向いて無さはより顕著。

「気障な台詞はぱっと思い浮かばないたちなんだけど……これは一つや二つは考えといた方が良さそうだ……」

どうしよっかな? と、困ったような、楽しそうな、何方とも付かぬ笑みが浮かんで顎に手を添える。
彼女の笑みについつい釣られてそんな顔もすぐ笑み一色になってしまえば笑気は絶えない。
“次”の出会いの確証もないがどことなく感じる予感にもまた笑って、一口また一口と、
彼女に飲みのペースも釣られていれば揺れる麦色も弾ける炭酸も見る見るうちに減っていく。
ぷはぁ~、と、どうにも間抜けな吐息。

「気が合う誰かといるときは、特にね」

もう一杯頼んでさらに二杯目三杯目にいくかいかぬかの折に傾いだ頭を肩と胸とで受け止める。
倒れないように腕も回して肩を抱くがそこが色気を持つのは、またそのうち。
他愛もない話でも面白おかしく語ったり語られたり笑ったりしていると不意に上がった勝負ごと、
『ふふふこのエンに泳ぎで勝負を挑むなど』などと妙に芝居がかった台詞と共に上がった勝敗は。
さて?
体力が落ちているところに酒が回って惨敗したか、意地を見せて何とか勝ちを拾ったか。
さて?
何れに転んだかは二人とそして遠くで商機と共に伺う売人の秘密。
どうあれ、平穏の一言には違いなかったろう――……。

ご案内:「ル・リエーの水遊場」からドリィさんが去りました。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」からエンさんが去りました。