2023/08/28 のログ
ご案内:「ル・リエーの水遊場」にヨハンさんが現れました。
ヨハン > 「おや?お一人かな?」

その少女に声をかける、程よく筋肉のついた青年が一人。
黒い海パンを水で濡らして、太陽に照らしながら片手にはフルーツジュースを持っており。
一人でぶらぶらと、ナンパでもしようかと歩いていたら寂しそうな背中を発見して。

「浮かない顔を見ると、何か嫌なことがあったって感じかな?
 僕でよかったら話に乗るよ?なんてね。よっこらしょっと」

ちゃぷちゃぷと波紋を広げている水面。少女の隣に座りながら。
僅かに距離が空いているのは、少女への配慮かもしれない。
先ほどまで泳いでいたのだろう、濡れた黒髪を掻き上げながら、蒼い瞳を少女に向ける。

「ま、とりあえずどうぞ?あっちの屋台で無料で持って行っていいから持ってきたんだ」

と、透明なコップの中に、黄色のフルーツジュース一杯が入ったものを少女へと差し出して。

リコッタ > 「…………はぇ?」

最初は自分が話しかけられているとは思わなかった。
しかし、ずっと投げ掛けられ続ける声に、その相手が自分だと遅れながらに気付く。

「えっ、ぁ……その……す、すいません……」

自分より頭2つ以上は大きい上に、鍛え上げられた筋肉の威圧感。
元来気の弱い少女は必要以上縮こまるようにして、ドリンクを受け取った。
失礼とは思いつつも、そんな肉体を正面から見る勇気もなく。

「えっと、特に……嫌なこと、って、わけじゃ……ないんですけど……。
い、一緒に来るはずだった、友達が……ちょっと、急用で……」

黄色い水面に視線を落としながら、ぽつぽつと言葉を漏らした。

ヨハン > 「いやぁ、謝らなくて大丈夫さ。僕も声が小さかったしね?」

微笑みながら、ドリンクを受け取る彼女を見つつ。
最初は目を彼女と合わせていたが、途中から怯えを感じ取って水面の方に視線を移す。
そのまま、話し始める彼女の言葉を聞いて。

「あぁ、そっか。本当なら二人で遊ぶ予定だったんだね。
でも一人になっちゃって、せっかく来たから、やっぱりそれでも行こうってなった感じかな?」

という風に予測を口にしながら、自分も同じように水面をちゃぷちゃぷと足で揺らし。
広がる波紋を自分は視線を落として、彼女は黄色いジュースに視線を落としていたが。
互いに下を向きつつ、青年は言葉を続けて。

「まぁそんな日もあるさ。気を落としちゃうのは仕方ないけど、楽しみにしてたんだよね。
なら、そうだなぁ。じゃあ、よかったらどう?」

いつの間にか、彼女のすぐ隣まで距離を詰めて。
そっと片手を彼女の視線の前に差し出す。

「今から僕と友達になって、一緒に遊ぶって言うのはさ?」

彼女が視線を上げて青年の方を向けば、目をつぶって爽やかな笑みを浮かべる。

「勿論、いきなり初対面の人にそんなこと言われても、嫌って言われても仕方ないから遠慮しなくていいよ!」

リコッタ > 「い、いえ……そんなことは……」

むしろ男性の声は、ちょっとビクッとする程よく聞こえている。
ただ、この広く大勢の人がいる水遊場で、自分が話し掛けられるとは露ほども思わなかっただけで。

ちゃぷ、と控えめにジュースに口を付ける。

「そう……ですね。そんな、ところです。
久し振りに、外で遊べると思ってたから……ちょっと、気が、急いてしまって。
……でも、さすがに、1人で来るのは……先走り過ぎたな、って……」

はぁ、と溜息をつく。
周囲から聞こえてくるのは、楽し気で明るい歓声。
そもそもが自分には似つかわしくない場所だったんだろうな、などと思っていたところ。

突然、視界に現れた大きな掌にギョッとした。

「はぃ……!? ぇ、なん、トモ……友達に、ですか……!?」

驚きにコップを少しお手玉しつつ。
困惑の表情で、あなたの笑顔と掌に視線を往復させる。

正直に言えば初対面の異性、しかも年齢も体格も上の相手からのアプローチは少し怖い。
しかし、きっと善意から差し伸べられたであろう手を払うことにも、罪悪感を感じてしまう。

「え、っと、ご、ごめんなさい……今日は、なんだか、もう……遊ぶ、ような気分じゃ、なくて……。
……でも、その…………お友達になる、くらい、なら……」

ぼそぼそと小さく呟きながら、手を差し出そうとはするものの、それをあてどなくうろうろさせた。

ヨハン > 「あぁ、びっくりさせちゃってごめんね?」

くすり、とお手玉をする彼女に笑いを重ねながら。
瞳の中にある、恐れと警戒。まぁ当然かと内心で思いつつも。
手をうろうろとさせている彼女に、「ふふっ」と笑った後。

「うん、大丈夫だよ。むしろ怖がらせてばっかりだったね。
それでも、友達になってくれるなら嬉しいよ。ありがとう」

大きな掌で、彼女の掌に重ねて。ごつごつとした男らしい掌は柔らかさなどはなく。
そんな手で握るマネもせず、ただ掌を重ねるだけで。
ただそれだけで満足したように何度か頷きながら。

「僕はヨハン。よければキミの名前を教えてくれると嬉しい」

それ以上近づくことも、触れることもなく。視線を見つめて。

リコッタ > 「怖がらせて、ばかり、というか……私が怖がってばかり、といいますか……。
その……なんだか、すいません…………」

目線を落として、羞恥に顔を赤らめる。
触れた掌に、彼女の手がビクッと跳ねたのを感じるだろう。
反射的に手を引っ込めそうになるが、どうにかそれを押し止めて。

固く、節くれた、無骨な手だ。
武器など持ったこともないひ弱な自分の手とは、何もかもが違う。

「……ぁ……そ、そうですね……とんだご無礼を……。
リコッタ・フォルティ、です。よろしく、お願いします……」

ほんの僅かばかり、触れる手にキュと力を込めて、精一杯の握手の真似事。
もしかすると、王都でそれなりの規模の商会を営む「フォルティ家」の名は、聞いたことがあるかも知れない。

ヨハン > 「いやいや、いきなり声をかけた僕の方が悪いんだから気にしないで」

顔を赤くさせる彼女に、そんなことは気にするなと明るい笑みを浮かべて。
触れた手が驚きから震えて、引っ込めようとするのを止めた彼女に温かいものを感じる。
柔らかな、おそらくは武器を持ったことなどない、普通の女の子の掌。
おそらくは今後もないだろうその感触を想いつつ、告げられた名前に。

「フォルティ……へぇ。もしかして商家の貴族の?
もしそうだったら、不敬罪だったかな?まぁ、今更友達になるって言った以上は僕は気にしないけどね」

彼女の方から、僅かに握ってくれる力を感じて。こちらもほんの少しだけ握り返す。
握手というには脆く、弱い。それでも、勇気をなんとか振り絞って握ってくれた彼女の心は決して無下には出来ないというものだ。

「ま、次にいつ会えるかなんてわからないけど。もしも誰かに話したい悩みがあったら何でも聞くからさ。
覚えていたらいつでも呼んでね。多分平民地区のどっかの冒険者の宿にいるからさ」

そう告げながら、ゆっくりと立ち上がって。

リコッタ > 「え、ぁ、はい……すいま……いえ、あ、ありがとうございます……。

…………あ、ご存じ、でしたか……。
えっと、実家は確かに商家、なんですけど……爵位とかが、あるわけじゃなくて……。
ただ……家が少し長く続いているだけ、といいますか……」

さすがに自分の口から「ただ他より裕福なだけ」とは言いづらい。
とはいえ、爵位がない以上、身分的にはただの平民である。
話しているうちに少し緊張もほぐれたのか、表情からも怯えたような雰囲気が薄まり。

「そう、ですね……また、どこかで会えましたら……。
…………悩み、を……、………………。」

語尾を濁して、困ったように曖昧に笑う。
自分が抱えている一番の悩みは、決して「誰かに話したい」ものではないから。

「……いえ、こうして悩みを聞いて頂けただけで、十分です。
今日は、ありがとうございました……ヨハンさん」

こちらもコップに気を付けながらよたよたと立ち上がり、あなたに深々と頭を下げた。

ヨハン > 「貴族でもない名家って感じなのかな?
まぁ、どっちにしろ有名なら僕からしたらそんな程度さ。
僕は家名もないし。ただの外から来た冒険者だからね。
ま、もしかしたらキミの家の商品から何か買ってるかもしれないけど」

もっとも、そんなに貴族情勢などに秀でているわけでもない。
緊張が少しずつなくなった彼女の、ほんの少しだけ柔らかくなったような顔を見ながら。
完全に晴れた表情をしている訳ではないが、それでもさっきよりはマシになったと信じて。

「うん。まぁ、そうホイホイ話せるような悩みばかりとは限らないしね。
……ん、ならいいんだ。お礼はまた今度会った時に遊んでくれたらでいいよ」

ひたひらと、掌を振りながら頭を下げた彼女に軽く声をかけて。

「それじゃ、僕はこの辺で失礼するよ。あんまり一人でいると僕みたいに話しかけられちゃうから、気をつけてね~」

と、笑いながら声をかけて、その場から離れていく

リコッタ > 「あ、あはは……自分の口からは、なんとも……。
それに、私はまだ養ってもらっているだけの学生の身ですから……。
自分の力で生きているヨハンさんの方が、ずっとご立派ですよ」

家に貢献しているどころか、家に余計な負担を掛けている身。
どうにも後ろめたさが強く、ことさら家名を誇る気にはなれない。
もっとも、誇るような性格でもないけれど。

「それくらい、でしたら……もちろん……。
……そ、そう、ですね……ヨハンさんのような、方ばかりとは……限りませんし……。
私も、もう少ししたら、戻ります……。

…………また、どこかで……」

去り行くあなたの背中に何度もぺこぺこと頭を下げて。
やがてその背中が見えなくなると、もう一度水際に腰を下ろす。
もらったフルーツジュースでちびちびと喉を潤し。

やがて、それが空になれば、自分も女子更衣室へと引き上げて行くだろう。

ご案内:「ル・リエーの水遊場」からヨハンさんが去りました。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」からリコッタさんが去りました。