2023/11/03 のログ
■”徒花”ジョー >
「…………」
ひらひらとマスターへと手を振った。
酒を一杯くれといったもの。さも当然、まるで常連のようなハンドサイン。
「……よく言われる」
不思議、変わった人。
自分なりに人間らしく人付き合いをしているつもりではあった。
どうやら彼女にとってもそう見えている。やはり、"普通"というのは難しいらしい。
ことり、と置かれたグラスには黄色の炭酸水。薄い酒の入った、果汁系の酒だ。
「そうだな。長生きしていると難儀なことも多い。
……特にこの国には、うんざりすることが多すぎる」
長い、長い歴史を見てきた。
既に擦り切れて忘れてしまったことはあるが、その通りだ。
静かに首を振れば、酒を静かに口に含んだ。
ゆるりと翠の横目で見やる彼女はなんだか楽しそうだ。
笑い上戸というやつか。まぁ、同席者が楽しそうなら何よりだ。
このような明るい場所で、辛気臭い顔をしている方が異端者なのだ。
「そうか。気に入ってくれたなら何よりだ」
なんでも無いものだが、大切な思い出がそう言われて悪い気はしない。
無表情、冷淡。ジョーの能面も、ほんの少し柔らかくなった気もする。
「……随分と窮屈そうな家だな。こんな水一つ飲めないとは」
「差し詰め家出してきた。……とまではいかんか」
時折出てくる彼女のお家事情。
言葉だけで言えば、自分が描く家庭より冷え切ったもののようだ。
同情こそすれど、表に出すような真似はせず、酒とともに流し込んだ。
■イェフィム > んくんく…、と一杯の果実水を大事そうに飲んでいく。
「だろうね、なんつうか…変ともとられそうな人っていうか。
でも悪い意味じゃなくて、何て言ったらいいのかなー…。」
変、と言ってしまったらなんというか、悪口のように受け止められてもおかしくない気がしてしまった。
でも当人に悪口を言ったつもりはなく、不思議な人というか、それも少し違うかなと思った結果。
普通の人、何て、人間の中にだって珍しいのだからそこは仕方ないと思うけれど。
「だろうね~、見たくもないものを見なきゃいけないデショ。
人間の一生でだって見たくないもの沢山見るだろうにねェ。」
この国に限ったことじゃないだろうけれど。
ちび…とわずかに残った酒を飲みながら、ふっと目を細める。
言ってしまえばこの地区だって見たくないことだと感じる人は多いだろう。
けれども、此処が現実である人間もいるのだ。
笑い上戸と一言で言ってしまえば簡単だが、楽しんでいるのも事実だった。
家で飲む堅苦しい酒とは違う、安くてもそれで構わないと思える酒だ。
「ん、イイもの教えてくれてありがとうね。」
ほんの少し柔らかくなった気がする表情に目を細めつつ、
此方もこれが一つ、イイ思い出になったと。
「ははは、家出かぁ、そんなことする気起きなかったなぁ。
とりあえず食わせてもらってる分の働きはしないとって思ってたばっかで。」
窮屈な家と言われれば否定はしない、むしろできない。
だって事実窮屈だと思っているのだから。
「だけどもう、今となっちゃ向こうから見ても問題児扱いだからねぇ。
それも仕方ないし、俺も否定しないし、うん、しゃーなし。」
ぐい、と酒の入ったグラスを一気に傾けて飲み干すと、
後は残るのは果実水の入ったグラスのみ。
家に帰っても“待つ”人はいないのだ。
だから帰る気は無かったが、今日は男性とのやり取り通り素直に帰る気で。
■”徒花”ジョー >
「好きに評価してくれて良い。思ったことを口に出しても、気にしはしない」
他人の評価を一々気にして生きている訳では無い。
それに、悪口じゃないかどうかだなんて言うのは聞いていればわかることだ。
少なくとも彼女のその言い淀みは、不用意な悪意を与えないための優しさだろう。
からん、とグラスの中の氷が揺れる。
「そうだな。……だが、それだけでない事は確かだ。
少なくともこの一杯は、悪くない。お前も、そうは思わないか?」
この国には、この世の中にはうんざりすることが多すぎる。
長く生きているからこそ実感する。だからこそ良いことも目についている。
本当にこの世が暗黒だと言うのであれば、今の自分もいなかった。
案外小さな幸せも、長い一生空見れば染み込むものだ。
彼女にそんな一杯あるのだろうか、と一つ尋ねる。
「気にするな。礼を言われるようなことじゃない。俺としては、その味を忘れてくれなければ良い」
その方が、彼女との思い出も広く残るだろうから。
「…………」
「家族仲は良くないんだな」
聞く限り、真っ先に思ったのはそんな事だ。
互いに歩み寄れない、というよりは随分と冷めきった関係だ。
他人の家庭に踏み入って物を言うのもおかしな話だ。
「……お前の事情だ。俺に口出しする気はない。
だが、愚痴程度なら聞いてやる。一杯の酒で忘れられる程度にはな」
■イェフィム > 「そう言ってもらえると嬉しいよ。
なんていうか、うまい言葉が見当たらないっていうか、元から頭のいい方じゃないからね。」
最後に煽った酒で喉が焼けるような感覚になるものの、
果実水のおかげでか大分酔いは落ち着いている。
自分の言葉が優しさになっているのか、自分ではよくわからないものだ。
「いい人生だった、と最後に言えるといいなとは思ってるよ。
うん、そうだね、今のこの瞬間も悪くないなって思うし、楽しいよ。」
短い人生、それでもくそったれな生まれだからこそ、刹那的な瞬間を楽しんでいる。
そういうところもあるからこそ、今のこの瞬間が楽しければそれでいいと思う。
見たくないもの、顔を背けたい事実はたくさんあるからこそ。
だからこそ、今のこの果実水一杯がなんだか楽しく思えた。
「俺が、礼を言いたいだけだから、そういう時は「そうか。」って言っておけばいいんだって。」
やっぱお兄さんって変わってるわ。
そう言ってゆるゆると笑う。
「ん?ああ、そりゃもともと家族じゃないからね。
でもいいんだって、おかげで自由気ままにさせてもらってるし。」
ははは、と緩く笑いながら肩をすくめる。
冷めきっていると言ってしまえばその通り。
でもそれで好き放題させてもらってると思えばまぁ悪い気はしてないと。
「ふひ、ありがとうございます。
と言っても愚痴ることなんて…、夜遊びについてぐちぐち煩いとか、
たまに見合い話持ってこられてウザいくらいかなぁ。」
ぎし、と椅子を鳴らして小首をかしげる。
前者についてはやめる気が無く、後者については義両親がやめる気無い。
その為、堂々巡りしていることだけど。
■”徒花”ジョー >
「……おかしいやつと言いたいなら、それでいい。自覚はある」
少なくともそういう自覚はある。
また一口、酒を口にすればふぅ、と一息。
「……そうか。そうだな……」
少なくとも彼女の礼を無下にする権利は己にはない。
礼を言いたいから言った。確かにその通りだ。
うんざりするような世の中だが、時折感じる人の善性。
こういうのには思わず頬をほころばした。
それを誤魔化すように、最後の一杯を煽る。
「複雑な家庭環境だな。事情は知らんが、互いに気苦労は多そうだ」
親の心子知らずか、或いは逆か。
はたまたどちらも”体裁”のための反発か。
事情を知らない自分がとやかくと介入する気は微塵もない。
仕事であれば話は別だが、何にせよ神経質な話だ。
足元に転がした杖を掴めば、席を立つ。
「……俺に言われるまでもないだろうが、お前の人生だ。好きに生きろ。
だが、未だに親の世話になって文句をいうだけなら、子どものワガママと変わらない」
「お前がそこまで子どもではないとは思うが、一応な」
どれだけ文句を言おうと、血の繋がりはなくとも形式に親と子。
どんな事情であれ世話になった恩義と責任は発生する。
その"庇護"に甘んじた上で文句を言うのであれば、それは単なるワガママだ。
かつんかつん、慣らすように床を杖で叩けば彼女を見やる。
「俺はもう行く。……お前はどうする?帰るなら送っていくが……」
■イェフィム > 「ん-。悪い意味での変わってる、というわけじゃないんだけどね。」
自覚があるといわれれば、うん、とまた一つ小さく頷く。
ちびり、ちびり、と、果実水を飲みながら。
「うん、それでいいのさ。
大体の場合、お礼を言うのは言いたいからだと思うんだよね。」
それは受け止めておいて損になることは無いだろうと。
というか、損得で考えるべきでも無かろうと。
時折人に善性を感じるというのならば、それが人間だからだろう。
…なんか詩人っぽくてちょっと恥ずかしいけど。
「ははは、もはや気苦労は仕方のないことと思うことにしてるよ。」
少なくとも、お互いがお互いを思って…なんて話ではない。
ケタリと笑いながら、カラン、と氷を鳴らしてぐいっと果実水を飲み干していく。
青年がどうこう言ってくるようなタイプじゃないと、この短い時間で何となく悟った気がする。
だからこそ、こんなことまでぽろりと零してしまったのだろう。
「あはは。そうだね、そうできるといいかな。
さすがに親に世話になっていたらここまで言わないって。」
よいせ、と立ち上がりながら店主に、今日はここでやめとくよ、と告げると支払いを済ませる。
少なくともただ、我儘を言うだけの子供にとどまる気は無いと。
そう思っているからこそ、多分青年の言うように「好きに生きる」ということはできないだろうなと。
その言葉は果実水と一緒に飲み干しておいて。
「俺もそろそろ、言われた通りに大人しく帰ることにするよ。
って、俺もこの通り騎士だから、送ってもらうほどか弱くないつもりなんだけど…。」
むしろ善良な市民を送るよ?と、小首をかしげつつ、
道が分かれるまでは一緒に歩いて行ったことだろう。
■”徒花”ジョー >
「……騎士、か……」
成る程。そう言われて頷いた。
「では、お言葉に甘えるとしよう。
……こう見えて"か弱い"一般市民だ」
なんて適当抜かせばかつん、かつん、と杖を突き外へと出ていく。
夜道を歩き、夜風に吹かれ靡くローブ。
話を振られなければ、マグ・メールの外れにつくまで非常に静かな帰り道になるだろう。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からイェフィムさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」から”徒花”ジョーさんが去りました。