2025/02/23 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にテンドンさんが現れました。
■テンドン > 「な゛ぁ゛~~~!!!゛」
感嘆符にまで濁点が付随する。
悲鳴というか叫び声は殆どかき消されてしまっていた。
何故って突然の通り雨に見舞われてしまっている為に。
土砂降りの降水の機関砲に打ち据えられたまらじと逃げ込んだ矢先は、貧民地区に数多く点在しているあばら家の一つとなる。
時刻は夜更け、霞む天体すらも曇り模様の大空に隠され、地上は一寸先すらも窺えない照度。
「ぶあぁあああああ゛ひどい゛い゛い゛い゛い゛」
辛うじて無事だった全方位遮蔽の硝子と金属フレームのランタンの灯火が此処の唯一の光源。
ぶるぶる震える全身から濡れ鼠、または濡れ牛と呼称すべきかぼたぼたに滴る含み水が足元の床板に流れ伝う。
目を開ける余地すらもない、睫毛一杯に早朝の朝露みたいなのが玉を結んで重たくなっている。
水分を含んでじとじとべったりに輪郭も怪しくなった有様で飛び込んだ玄関口から中に一歩二歩。
■テンドン > 「お邪魔しまあ゛す゛」
涙と汗水と雨滴の区別も一切つきはしない。びしょの濡れだ。
掠れた鼻声に応じる声は闇夜の向こうからは聞こえては来ない。
当然至極、此処一帯の家宅については何度も行き来している御蔭で完全に網羅している。
此処もまた住民が居ないまま久しく時間ばかりが過ぎ去る廃墟の一つ。
いや、申し訳ない。
人間の住民は居ない。鼠とか蜘蛛とかゴキブリとかその他蟲とか。
そういった風雨を凌ぐ場所を求める生き物達は沢山棲んでいる。
今も手元にぶらぶらしている露滴るランタンの明かりから逃げるかのように、視界の端でかさかさ逃げて行く無数の影がちらついた。
ぐすぐす鼻先を鳴らして何か諸々を啜りながら踏み入る。
人が住まなくなって劣化の著しくなった床板が悲鳴のような音をがなりたてる。ぎいいいい、と。
黴や微生物やシロアリに蚕食された場所を踏み抜いたら大変だ。
朧気な視界の中に足元を確認しながら避けて進む。
■テンドン > 「とっつぜん降って来たね。何処かで狐が嫁入りでもしたのカナ?」
ごうごうと頗る唐突マッハに齎された集中豪雨は今も局地的にこの一帯を襲っている。
何の前触れも無かったかのように思えたのに、外壁にぼうぼう吹き付ける風の強さは閉じこもる三匹の子豚を家から追い出そうとする狼の息吹さながらだ。
傍目から見れば酔っ払いの千鳥足めいた足運びは危険な場所を回避しつつ中へ中へ。
天井の雨漏りがつむじの上にしとしとぴっちゃり撫でつけて来る。首を竦めた。
そうして玄関戸から続く廊下を渡ってリビングらしき場所にへと到着。
らしき、という不確定な要素がくっついて来るのは、この間取りにおいて家具の一切が持ち出されてしまってもう埃以外は何もないからだ。
「さぶいいいいい…雪山遭難じゃなくても凍死の危機って冬季だと何処にも在る…!」
がたぶる震えながらその中央となる場所にへと移動。
そして仕事、というよりもプライベートで今日本日に彼処の古物取り扱いの場所を巡って集めていた古着を背負う鞄から引っ張り出す。
若干雨に侵されて湿っているのは仕方ない。
概ね乾いて無事そうな奴をぽいぽい其の場に放る。
■テンドン > 「~~~~~っ」
指を立てておまじないの呪文の詠唱。
「えいっ」
指先を足元に堆積した布だまりに突き付けると。
ぼっ🔥と音を立ててそこに生じた炎が点火。
■テンドン > 「あれっ」
しゅん…しかし直ぐに火は消えてしまう。
布が湿ってしまっているからだ。
火が燃え移る前に無くなった。
「…うーわ、えいっ。えいっ。駄目か。もっと火力…もっと、もっと」
何度か指先を突き付けて火のまじないを起こすものの延焼し、広がるまでには至らない。
ガス切れのライターをかちかちやってるような所作。
念じる眉間に一杯にしわを寄せて、むむむ、と、唸りながら強く念じる。
集中する魔力、または精霊達の集いによってじわっと周囲の湿気が高まる熱に炙られるかのように瞬間的に蒸気となって白く舞い上がる。
水浴び場のサウナ場みたいに。
「えいっっ!!」
■テンドン > 「どわっ!!??」
激しく燃え上がる🔥は天井をもつかんばかり。
床面に瞬間盛った業火から生じる気流によって多潤の衣装の裾が吹かれるように浮き上がった。
驚きにたたらを踏み、膝が崩れてぺたんと其の場に尻もちをつく。
だが頑張った甲斐があったようだ、炎の勢いは瞬間だけで直ぐに和らぐ。
くすぶる熱気は古着を燃料にして食べてぱちぱちと燃え始めた。
廃墟の中で焚火?と思うかも知れない。恐ろしいまでの湿度の濃さ故に火は長く燃え広がる事もないのだ。
「ひいい、ひ、ひ…火!!」
凍えた体にとっては砂漠のオアシス。
覆いかぶさらんばかりに炎に当たり出す。
四肢をついて這い蹲るようにしてよろよろ近づき、
照らしつける炎に孕んだ熱気を浴びて氷解するかのように表情の緊張が弛緩した。
■テンドン > 「は~~~~……死ぬかと思った」
人心地の顔になる。
火に擦り寄らんばかりに距離は近しい。
爆ぜる熱気が必要以上に強くならないように注意を張りつつ。
ぺたんと其の場に膝を崩すようにして座り直した。
アホみたいなゆる顔で火炎の光明を全身に浴びる。あったか…あったかい……。
ぶるるっ、と、全身が勝手にシバリング、悪寒という奴だ。
「っっっ、いや、風邪引くねこれ、流石に」
水をたっぷり吸った濡れ雑巾になったポニーテイルの一房を手に取る。
ぎゅうっと絞る。
ばたばたばたばたたたたっ。水滴が凄い勢いで圧搾されて零れ落ちて来た。
ひえー、という顔。
「道理で重たい訳だね、これ」
■テンドン > 「うへえ……」
上着を脱ぐ。
その下に着込んでいた衣類もいそいそと脱ぎ取る。
上半身はサラシ一枚になった。
べたべたに水吸って乳肌に張り付く感覚がものすっごい気持ち悪い。
言葉に出て来た声のまんまの表情で一つ一つ水を搾り取る。
「むにゃむにゃ。風よ」
指先を突き付け、精霊に命じて炎によって渦描く気流の一部が暖気を孕んだ手となる。
ドライヤーみたいなものだ。
温風に薄ら湿った髪の毛や肌を撫でつけさせて乾かせる。
「人間って何処かの学者先生の説の一つによるとそもそもは海が始まり、みたいな話も聞くけど絶対嘘だよね。水浸しのストレス半端ないもん」
■テンドン > 「……死を乗り越えた反動の安堵からなる快感って奴だろうか、これは」
ホットパンツも脱いで下着姿で両足を前に放り出す。
強烈な負荷状態から開放された状態に全身弛緩。
めらめら燃える炎にあたりながら両手を座り込む自分の左右について楽に構える。
肌乾燥させているつもりが、じゅわじゅわ雨漏り水が絶えず日の中に飛び込む為に蒸気がふわふわ浮かんでいるので蒸気浴みたいな感じだ。
あったかいのはいいが乾かしたのがまたしっとりとかそけく潤む。
「うーん、危険の渦中に身を投じて死と隣り合わせの冒険をしている人たちの気持ちがほんのり解りそうな、解らないような…」
■テンドン > 「お」
気付いた。豪雨の音が何時の間にか絶えている。
ついでに言えば雨漏りの勢いも大分減衰している。
見回す目線が闇の向こう側を顧みる、外の方だ。
雨が止んだらしい。
「ボクが避難後直ぐに止んじゃったじゃん。雨神様の意地悪だねこりゃ」
んあーー、と、呻くような声を漏らしながらのそのそと立ち上がる。
晒している衣類の多くは殆ど乾燥していない、水気を含んだままだ。
でも、全く着用にたえない、というわけでもない。
「此処に身を置きっぱなしにしてる方が危険だしね」
半乾いた衣類の袖に腕を通す、パンツ履く。
余り心地良いとは言えないが、流石に裸のまま外出て帰る訳にはいかない。
羞恥という感情以前に寒くて死んでしまうのだ。
かそけく燃える炎にへと目を投げ遣る。
「消えて、よしっ」
指先を突き付けると走るつむじかぜ。
その通過後において大きく火は揺れると。
霞むように消え去った。
■テンドン > 「鎮火。帰ろうね~」
火の後始末を終えると生き残った古着を抱え込み。
てくてく若干軽い足取りは廃墟の外にへと出て行く事になる。
雨上がりの街中を行き、いざいざ自分の家にへと帰宅するのだ。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からテンドンさんが去りました。