2025/01/18 のログ
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グアルティエロ >  
下手に派手であると、目立つだけだが、髪色から上着から口調から声質から匂いから奇異な男が貧民地区で説法開始と、ド派手な男はそれはもうド派手に目立ちに目立ちまくっていた。関わっちゃいかん類だ、と、悪辣な行いに長けている者だからこそ持つ勘みたいなものが働いた結果……なのかどうか兎角その集会は始まりから終わりまでが随分と平和であった。夕日も半分程が地平線に隠れ、尚きらきらと髪を輝かせた男は、

「うん? 何や、(ぼん)。そないなとこで眺めとらんで近くでもっと眺めても良えで?
 心配要らん。無料(ロハ)や。金取れる自信はあるが、ふふ、俺は親切やからな!」

途中でふらりと立ち寄る者。途中でふらりと立ち去る者。最初から居た者。等。等。等
髪色と上着のせいで大人しく見えるだけで実はそれ単体でも結構派手な夕日色のサングラス……
に隠れていたり隠れていなかったりする瞳は本に向けられているようでいて聴衆を見ていたのか、
相変わらず視線はそのままのくせ遠巻きに見ている彼に向けて声を発した。
飄々と、軽々と、けたけたとまるで子供みたいな笑い方のくせ面構えが妙に胡散臭い笑みが顔に張り付いた儘。

「……。……どこかで会うた事ある気ぃすんな? どこやったか、まあええわ、人類皆知り合いと誰か言っとったわ」

かんぱーい! と。持ってもいない杯を掲げる仕草をする様子は一見酔っ払っているようにも見えるかもしれない。
かんぱいの音頭を取った左手とは別に、ちょいちょい、と右手で手招き。

ルスラン > 掲げられた左手をまず青い視線が追いかけ、そのままの流れで逆光から抜けた説法者の顔を漸く確認するに至る。
凝視して三秒、はく、と唇が空いたのはもちろん驚き故に。
そうか、道理で甘い香りがするわけだ。
ここまで思い至れば記憶の中の甘い香りを頼りにするまでもなく。
遠巻き過ぎて眩しすぎてわからなかった説法者の姿を襤褸のうちから改めてよくよく確認する。
余りにも古い記憶の中の男と合致しすぎていて、神妙な面持ちのままに空いた口をどうにか塞いで咳払い一つ。

まさかこちらに気づいているとは思わなかったが、こちらを手招くその男の指先に逆らうことはしなかった。
どこかで会ったことがある気がする、それはそうだろう。
こちらだって、会った覚えがあるのだから。
尤も、すぐに思い出せなかったのは許してほしいものだ。

「…ご無沙汰しております、師父」

あの場所がどうであったにせよ、孤児院にいる間に世話になったことがある相手には違いない。
襤褸の庇を脱ぐことはしなかったけれど、少しだけ持ち上げて仰ぎ見れば男の黒い髪も青い瞳もサングラス越しの説法者の眼に映るだろう。

世話になっていたのは声変わりする前の自分だし、あの頃は体も今のようには大きくなかった。
孤児院にいた子供は当然自分ひとりではないのだから、当然説法者が忘れていたとしても無理のない話。

「お変わりないようで、何よりです」

自分の経た年月を考えればもっと老いていてもおかしくない男の姿を至近距離で改めて眺めて、それから緩やかに小さく頭を下げた。

グアルティエロ >  
バターとバニラの芳醇な、たった今、シュークリームをしこたま作った厨房から出てきたばかりでありそうな程甘い香り。
実年齢に反して若すぎるほどの若さを保っている鋭利な顔貌は、或いは、彼が記憶している顔貌よりも、若干、尚……?
赤子が成人して故郷を巣立ち両親に仕送りをしている程の歳月を経ながら変わらぬどころか若返っている感さえ漂わせる笑み。

それが。

「うん? ん? え? お」

唇を尖らせたり、口の端がへの字に曲がったり、口が僅かに空いてからもっと開いて彼よりも感情表現豊かに彼を見遣って百面相。

「ルスランか! なんや! えっらい久しぶりやんけお前手紙の一つも寄越さんでぇ!」

襤褸と庇で隠れても、唇の艶もすっきり通った鼻梁も見覚えが、庇を上げれば、綺麗な青色の瞳に見覚えが、何より特徴的なのは男のよく通る低い声より特徴的な声音に聞き覚えが。彼が孤児院を出てから、幾人もの子供達が孤児院を出てから、幾年経っても姿形が変わろうとも覚えのある名前を呼ぶ。椅子代わりにしていた木箱から立ち上がれば、ぬうっと、高い上背が夕日をさらに隠しながら、他人行儀に下がる頭へより大きな笑い声を上げてから両手を広げる。

「頼りがないのは元気な証拠たぁ言うけど寄越さんすぎやろほんま。ほれ来いはよ来い。
 高い高いー……は、うん、好きやったけど止めとくか、俺んせいで嫌いになりかけたもんな」

空高く、孤児院の屋根がやや小さくなるぐらい、力加減誤って放り投げた記憶がある。彼はトラウマになって逆にないかもしれないが。
ハグ待ちの姿勢のまま、説法の時もよく通るしかなり大きな声量ではあったが今は殊に喧しいぐらいにでかく笑気も上げっぱなし。

ルスラン > 「ちょ、声が大きいです師父…うわっ」

勢いよく立ち上がられると流石に驚かざるを得ない。
当時から随分と体格の良い人だったが、大人になった今でも更に自分よりも上背がある人だ。
だからその一挙一動に勢いがつけられては、軍人になったとはいえ平均すれすれの男は直ぐに対応は難しい。

両腕を広げる様には懐かしさを覚えるものの、逡巡した後苦笑と共に両の掌をあげて緩やかな降参の姿勢。

「…もう屋根より高々と飛ばされるのは御免ですよ。
それに、素直に喜べる歳でもありませんので」

確かに勢いよく飛ばされて鳥や木の天辺と仲良くなりかけたことはある。
実際に当時は軽くトラウマにもなりかけたが、体よく加齢を嵩に断った本当の理由は口にはすまい。
頭では理解が出来ていても、体が受け付けない別の根深いトラウマは今も消えていない。
けれど、それを今この場で口にする必要はないだろう。
だか今はら両の掌を下ろしながら、男の傍らにある写本へと視線を向けることにする。

「不義理で申し訳ありません。
院を出てから、忙しくしておりまして。
…師父は相変わらず説法と菓子作りを?」

説法も勿論だが、よく孤児院で菓子を供していたのを思い出す。
回りの子供たちの勢いに負けて、貰い逸れたり、割れたクッキーの小さな欠片ばかり食べていたのも懐かしい。
配っていた菓子の袋の中身もきっと男が用意したものだろうと推測できた。

グアルティエロ >  
「もっとデカくしたって構わんぞ!!! ぬははっ」

子供にとっては、巨人と見紛う背の高さ、声のデカさ、身体の厚み。
子供達にはそれでよく仮想敵にされて脛を蹴っ飛ばされる。
『あ゛ーーー!!』とか情けない悲鳴を上げて大仰にのた打ち回る姿は、思い出として残っているだろうか。尚、今も孤児院では偶にそうなっている。

ハグを遠慮する姿に、それはもう不満を全面に出し唇を尖らせてブーブーと口でブーイングしつつも最後は肩を竦めてハグ待ちの両手を下ろした。

「あの頃の俺はまだ、スーパーグアルティエロやった、しかしもはやハイパーグアルティエロ、同じ轍は踏まへん。
 何や何やおどれーノリ悪ぅなってからに昔はもうちょい……ノリ悪かったか……」

男があの孤児院に、あの派閥に、あの宗派にいて地下をまったく知らぬ筈はなく子供達でさえ男がひょこっと地下のほうから出てきているのを目にする機会はよくよくある。彼もそれを、彼ならば何度か地下に居たころ彷徨いているところを見た事はあったかもしれない。今日のように写本や手作りの菓子を持って、うろうろうろうろ、色々な部屋に文字通り首突っ込んで、『まいどーーー!!』等とでっけぇ声で叫んで、等。見た目は当時より若返っている感まであっても言動は相変わらず。彼が遠慮する本当の理由も、察しているやらいないやら。

「今度からは年一でええから手紙出せ。
 立派んなってくれたんは感涙もんやけど。やだ。涙ちょちょ切れるわ。
 お? おー。見ての通りや。食うか? 美味いでぇ~~~」

幾つか余っている写本や菓子袋へと目線が釣られれば長い手がひょいっと袋を一摘み。
巾着のような形にハート型に器用に結ばれたリボンを解けば中身はバタークッキー。
小麦色に綺麗に染め上がった真四角のそれは袋の口からちらりと見えた途端から、ふわり、ふわり。
男の身体から放たれているもの以上に甘くて鼻の奥に染み込むような濃ゆいバターの香りがふわり。
ん。と、掌に袋を乗っけて彼へと差し出す。

ルスラン > 「…流石に目立ちすぎです」

本当に記憶の通りが過ぎる。
それでも子供達にはその愛嬌故に今も好かれているのだろう。
強く咎めることが出来ないのは、自分もまた子供の自分には世話になったが故だ。

聊か不満そうに捲くし立てる声が萎んでゆく理由は解らなくもない。
確かに周囲の子供たちに比べれば当時の自分はあまり主張もできない子供だった。
孤児院に顔を出すときも、地下で後姿を見かけた時も、自分から声を掛けたことはほとんどない。
いつの間にか気づかれて、声を掛けられることがほとんどだったと再確認するばかり。

「年に一度…ですか。
ご期待に沿えられるかはわかりませんが努力はします」

襤褸の合間から日の陰り具合を、男の巨躯越しに確認する。
流石にそろそろ帰投せねばならないだろう頃合だと思っていたところに差し出された袋がひとつ。
青を瞬かせて、袋と、説法者の間で視線を往復させる事、二度三度。
袋に入っているのをきちんと見るのは初めてだが、感じる甘い香りは懐かしいもの。
僅かに口元を緩めて差し出されたその袋を両手で受け取った。

「…なるほど、こちらも相変わらずですか。
ありがとうございます、帰り道の共に頂戴します。
俺は、そろそろ戻らねばなりませんので」

会えてよかったと言外に。
襤褸の庇を再び目深に被れば、甘い香りの包みを懐に携えて今度は深く確かに一礼を。
薄汚れた外套の裾を翻せば、その姿は貧民街の中にあっという間に掻き消えてゆく──。

グアルティエロ >  
「わかったわかった、しゃあないな、後で俺一人でもっと目立つわ」

ライトアップしてー音楽流してー楽器も弾いてー。云々。
貧民地区で説法開始に飽き足らず貧民地区でソロライブする気か、する気だ、そんな気であるのを口走りながらも一応彼が今襤褸や庇で姿形を偽っているところは察して遠慮するらしい旨もぼやきに混ぜながら、今度は男が降参とばかり両手を上げて、頷いた。“子供”が本気で嫌がることは子供みたいにぶーたれつつも最後は折れるのもあの時のまま。

「おう。しまいにゃカルネテルさんちにお気持ち表明の手紙を叩き付けるから本気で努力せぇよ」

しまいにゃ本気でやりかねない男が言うから説得力が違うか。
意外そうに青色を瞬かせる様子に訝しそうに眉根を寄せて首を傾げた。けれど。
はよ取れ、とばかり、さらにずいと袋を押し付けんばかりになっていくしそこで受け取られれば漸く掌引っ込めて頷き一つ。

「あほ言え昔より腕上げとるから後でぎょーさん吃驚せぇ。
 おう。それじゃあまたの。ルスラン。会えて良かったわ」

一礼に、片手を腰に当てて、片手はゆるりひらり、柔らかく緩やかに振られる。
踵を返してから瞬き一つ二つの間に人通りと深くなった闇へと掻き消える姿を、少し、見えなくてっても、少し、見ていたが。

「さて。俺も帰るか。今夜は教会でライブじゃーい待っとれぃシスター&子供たちぃー」

踵を己もと帰して独り言すら大きく聞く気もない人にまでよくよく届けながら、歩き出した――……

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からルスランさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からグアルティエロさんが去りました。