2025/01/17 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にグアルティエロさんが現れました。
■グアルティエロ >
雨が降れば屋根から雨漏り壁から浸水のボロ家。
風が吹けば屋根から何から吹っ飛ぶだろう荒屋。
富裕層が飼育する犬のほうが余程余程余程上等だろう廃屋一歩手前が軒を連ねる貧民街。
通りには、吐瀉物やら、血痕やら、酔い潰れて寝ている酔っ払いやら、喧嘩か強盗か顔も判別できぬ程殴打された誰かやら、乳房も臀部も顕に無惨に割かれた衣類を纏った諦観を浮かべる女と下卑た笑みを浮かべながら腰を振りたくる男やら。景観も、治安も、清潔感も何もないこの光景がまだ平和な部類というそんな場所の一角には公園……只の空き地だが公園と呼ばれている場所がある。其処では――
「神さんいうんはよう俺らん事見てん。ほんと、えっらい見てん、もうガン見やガン見、ごついストーカーや」
聞く人が聞けばとんでもねぇ事宣っているとんでもなくド派手な男が居た。
「せやから嘘はいかん、ぜぇったいバレてあとでお仕置き食らう。ごついストーカーからえぐい仕置き食らう。
イヤやろ? 俺はイヤや。何で人生こない苦労してんのに人生終わったあとまでんなことされなあかんねや」
夕暮れの日差しにきらきらと、紫色に、青色に、桃色に光る髪とそれ以上に目に痛い趣味の悪いジャケット。
どうぞ襲って下さいと言わんばかりの超が幾つか付いて悪も幾つか付くような目立ち屋が“神”を語る。
酒瓶か何かが収まっていただろう木箱にどっかりと腰掛けて足を組み頬杖をついて、姿勢も悪い。
しかし手には、見る人が見れば間違いなく本物の、ノーシスの教えが綴られた写本。
「せやから、嘘はいかん。まぁしゃない場合もある、そらしゃあない、けど基本はやっぱあかんのや」
聴衆は、意外にも多い。ホームレス、孤児、娼婦、あらくれ、等、等、色々な見目の男と女が居た。
■グアルティエロ >
「嘘ついて人ぶん殴って人から金せしめて騙って搾って人襲って無理矢理ハメて。
“悪い事”をすればするほど仕置きえぐぅなる。想像してみ? 想像出来る限り。
自分がされて嫌~~~~~~~~~……な、事の、数百倍エグいことされんの。
何で死んだ事もねぇのにそんな事わかるかって? わかる。
俺一度死んだ事あんねんけどそん時まーえらい目遭ってよ。
頼むから勘弁してくれ言うて涙とか鼻水とか小便とか糞漏らして土下座したで」
けたけたと気楽に笑って言うものだから子供達は元より大人まで怪訝な目で見た、その折。
タートルネックで覆われた首周りの生地を引っ掴みずり下げた時には所々から悲鳴が上がった。
鋸で少しずつ削られた、ような、狼の群れに咀嚼された、ような、虫が無数に湧き出た、ような、
或いはそれら全てをぎっしりと詰め込まれたといっても良さそうな形容しがたい傷跡……
普通こんな事をされたらとても生きていけないような行いをされた残滓がその首には首輪がごとく刻まれている。
「これ。蘇生した時にな。付いててん。
首に致命傷負ってくたばった訳ちゃうで? いや。まあなんや。風邪こじらせてな……」
タートルネックの生地を元の位置に戻しながら、サングラスの奥にある鋭利な瞳も口の端同様笑みに撓む。
鋭利な顔付きでこうして笑むと胡散臭い印象がとても強い男ではあった。語り口も軽い。然し。
「因みにこれこの話すると浮き出てくるんよ。地味に痛いねん。勘弁して欲しいわ」
傷跡があんまりにも常軌を逸しているからか、少なくとも聴衆の間では、真実味が生まれていた。
「で。こうならんために、悪い事したらあかんよいう話。もうしちゃった? なら、お仕置きや。
しかーしまだ諦めるのぁ早い。挽回のチャンス結構あんねん。
これ昔はもっと痛かったんやけど今はそこまでやのうてな?
ずばり、良い事をする、ちゅー事やな」
ずばり、のあとで言い出されるのは拍子抜けするような答え。
■グアルティエロ >
「悪い事しとったんなら悪い事せんようにする、これだけでもう、良い事や。
他にもまー色々あるけど俺は良い事しとったら今ちょい痛いぐらいになった」
一つ、二つ、三つ、四つ、五つと五本指で数えられていく“良い事”。
「ま、そも、こないな傷跡まで付けてくれた“神さん”が本物かどうかは知らんし、顔も覚えとらんし。
もうとにかく痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて何されてんのかも判らんが痛いのだけ覚えとるんよ」
その広げられた掌がぺらりと写本を捲る。ぺらり、ぺらりと捲った先には死後地獄に落ちた咎人の挿絵があった。
「で、まあ、似たようなこと書いてある本があって似たような事言うとる人が居った、から、俺はノーシスにおる。
君等に入れー言うとるとか別の宗派ん人に改宗薦めとる訳ちゃうで? 世の中こんな事もあるよ言うとん。
それが俺の、“親切”や“良い事”いうわけやな、同じ目遭うとる人もちょい減らしたい、ほんま、ほんっま、痛かったんやて、あれ」
そして、本を閉じる。一応持ってきている写本のさらに写本を幾つか荷物の中から取り出して、良ければ読んでなー、等と言いながら飴や手作りのクッキーが詰まった袋と一緒に聴衆たちに一人ひとり手渡していく。中には、飴やお菓子だけ受け取る者も居たけれどそれはそれで親指と人差し指で丸を作ってから笑って。
「今日はここまでにしよか。詳しい話聞きたかったら近くの教会まできぃや、暫くはそこに居るし何なら寝床も貸したるさかい」
そうして今日の“説教”は終わり、聴衆たちが各々の帰路につくのを、夕日が沈みゆくのと一緒に見送っても暫く男はそこに居る。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にルスランさんが現れました。
■ルスラン > 貧民区にしては珍しく、暴動もないままに宗教活動が行われているらしい。
古惚けたフードに空いたほつれの隙間から方角だけちらりと見やるも今は自分の取引のほうが先。
依頼者である男は金と心づけ程度の食べ物を。依頼先である路上の男娼からは情報を。
お互いにやりとりを済ませたところで、随分騒がしい人だかりについて尋ねてみるも男娼には興味のないことらしく興味なさそうな、気のなさそうな、そんな返事だけが戻ってくる。
「…そう。
いや、誰なのかと思っただけだよ」
聖女御自らお出ましの施し行脚でないというのに、暴動もなく、野次もないまま集会が行われているのは、用事がなければここに足を踏み入れない男の目にすら奇異に映った。
母の国では掃き溜めに何とやらというらしいが、まさにこのことなのか。
情報源とは解散し、帰投するまでにはまだ聊か時間もある。
だから、何とはなしに足が集会のほうへと向かう。
集会そのものの輪に加わりはしないものの付近の一角から眺めやれば、それこそ掃き溜めには鮮やかすぎる毛色と眩しさに襤褸越しながら青い瞳を眇めるに至った。
陽が落ちていく最中、その説法者の存在は後光が差すように眩しかったのもある。
しばらくすればひとり、ふたり、と、散じていく様子。
手には菓子の入った袋を持つ者もいる。
なるほど、あれがあの説法者の話を真面目に聞いていた聴衆たちへの報酬なのだろう。
小さく鼻を鳴らせば記憶の端に引っかかるような独特の甘いにおい。
秘かに眉を顰めたのちに襤褸の庇を改めて目深に被りなおしてその様子を眺めていようか。