2024/01/01 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にゴットフリートさんが現れました。
■ゴットフリート >
そろそろ深夜にさしかかろうという刻限。
分厚い雲が空を覆い、そこからちらつく雪が薄っすらと街を白く染める夜。
けれど、その白では、物寂しく朽ちた街並みを飾るには不似合いというものだろう。
王都貧民地区、その中でも、更に寂れたような場所。
治安、などという言葉の意味さえ失われたような場所。
けれども、ある種、安定しているのかも知れない。
犯罪を犯す者も、犠牲者となる者からさえも、見捨てられたような場所なのだから。
雪が積もる入り組んだ街路に並ぶ家々の大半は無人。
――そんな場所だからこそ、“都合がいい”こともある。
「すっかり寒くなりやがったな…」
白い息を零しながら、初老の男が呟く。
薄く、道に積もった雪の上に足跡を刻みながら、路を歩く。
この街並みには似合わない、仕立ての良い外套に身を包んだ巨躯。
その足取りは、散策のそれというよりは狩人に似ている。
これから、獲物を狩りに行く高揚を覆い隠した
あるいは、獲物を塒に運んで弄ぶ愉悦に弾みそうになるのを抑えたような。
そんな、弛緩はないけれど、どこか慾に塗れた歩き方だった。
そういった者にとっては、この場所は、都合がいい。
キリ――……キリ――……。
それに重なるのは微かな軋む音。
そして、男の足音の数歩後ろに刻まれる足音。
点々と、その主の姿も見せぬ侭に、見えぬ侭に、一人と一体は曲がりくねった街路に足を進めて。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にタピオカさんが現れました。
■タピオカ > 王都中心部から離れているとはいえ、魔族の国との境界線という戦略的な位置を牛耳る伯爵家当主の身柄を欲しがる者は居る。
その当主が、賄賂や根回しで地位を確率しているのなら、なおさら。
仲介人を数人、通った上で冒険者ギルドに降りてきた依頼はこうだった。「悪党を生け捕りにしろ」
そんな依頼を引き受けた冒険者がひとり、雪に薄暗い貧民地区に現れる。
ふら……ふら。
仕立ての良い外套を纏った足音。そして姿も見せぬ足音の前方から影が揺れている。
街灯もまともに整備されていない、寂れた家から漏れる湿気た暖炉の色でどうにか認識できる程度の人影は、ゆっくりと彼らの前に進む。
痩せこけた、目やにだらけの野良犬の横を通ったその姿は小柄で目深にフード付きマントを被っていた。裾は糸がはみ出し、色は汚れてすれきって、とても冬の寒さから守ってくれそうにない。片足は裸足。もう一方で引きずる片足は、膝から下を粗末なショートボウがくくりつけられていた。義足としても、お粗末な代物。
「ああ……。スピリットさま……。
とても寒くておなかがすいて……、この冬をとても越せません……。
どうか……お恵みを……」
ちょうど歩幅2歩分の距離までよろよろと近づくと、目深なフードの奥から。少女と呼ぶには掠れすぎた、ガラスを石でなぞるような声を出す。貧民地区によくいる物乞いの少女。
それを装って、両手の手のひらを、重ねるようにして差し出した。
――ぼろぼろのマントの袖の部分には、ちょうど手首の裏で隠せる位置に昏睡毒の塗られた小さな仕込みナイフが存在している。
相手が恵みを差し出すか、それとも物乞いだと適当にあしらうか。
どちらにせよ、隙を見せた瞬間にそのナイフを用いる心算だ。
彼の見えない護衛が、そのきな臭い暗器を嗅ぎつけるかどうか。
■ゴットフリート >
向ける視線に映るのは、襤褸布のような外套を纏った小さな姿。
片足を引き摺る姿に、目を細めて見れば、義足…というにはあまりにも粗末なもの。
その見た目に相応しい掠れた声が、慈悲を懇願する。
「ほう――確かに、寒い夜だもんなァ?
良いぞ。食い物で良いんだろう?」
言葉が、響いて返る。
お恵みを、と乞う少女に向けたそれはあっさりとした肯定。
けれど、少なくとも“慈悲”なんていう言葉とは最も程遠い類の声だ。
灰色の瞳は、まるで珍しい動物でも見るように
下賤な生き物を嘲るように深い笑みを刻んで、また白い息を吐き出す。
キリ――…
という音が一瞬響いたのが、少女の耳にも届いただろうか。
まるで、何かが彼女の脇を通って、背後に進んだような気配で空気が動いて
瞬間――『ぎゃん!』というか細い悲鳴が響いて聞こえるだろう。
振り向けば、少女の背後から漂う新鮮な血の香り。
痩せこけた野良犬に、見えない何かが突き刺さって、胴を抉り
その憐れな生の終焉を告げて――そして。
「―――ほら、それで十分だろ?」
少女に向けて響くのは、初老の男の声。
まるで当然のように、善行でも悪行でもない。
彼女を弄ぶ意図すらないように、顎で野良犬の死体を指してみせて。
■タピオカ > 雪に野良犬の血の香を漂わせながら、貧民地区の夜は過ぎていき――。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からタピオカさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」からゴットフリートさんが去りました。