2023/12/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城内礼拝堂」にヴァンさんが現れました。
ヴァン > 寒い。

窓の外は風こそないものの、今にも雪が降ってきそうな空。
息を白くさせながら、松明やランタンで微かに照らされた回廊を男は歩く。その目は昏く、どこか剣呑さを感じさせる。
普段城に赴く時の正装ではなく、カジュアルな服を着ている男は足早に進んでいた。

キィ、という軋んだ音が礼拝堂内に響いた。注意深く室内に視線を走らせる。人影はいない。
扉を閉じると、外気から遮断されているためか室内がやけに暖かく感じる。
小さく息をつきながら、ゆっくりと祭壇の前へと歩き出した。

ヴァン > 日付変更を告げる深夜の鐘が響く。

男は一瞬天井に視線をやり、最前列の長椅子に腰掛けた。木製の椅子は少し冷たい。
また息をついて、両手を組んだ。そして膝の上に肘を載せ、手の上に顎を載せる。

男は祈らない。
男は祈る神を持たない。秩序も混沌も男には煩わしい。
ただ己自身のために生きてきたし、これからもそうだろう。

男は聖騎士(パラディン)であり、復讐者(アヴェンジャー)でもあった。だがそれも昨日までだ。
獲物を狩りつくした狼はどうすべきか――まとまらない考えのまま、辿り着いた。

ご案内:「王都マグメール 王城内礼拝堂」にマーシュさんが現れました。
マーシュ > 「──────」

明かりの落ちた、というのも当然か。今宵は大きめの祭儀が普段は一般参賀のできない聖堂が開かれてそちらで執り行われている。
一般の──平民もそちらへと誘導されているはずだから。

だから、ここには今宵関係者くらいしか寄り付かない、はずなのだ。

「………………、……?」

中途半端に弛んだ扉を押し広げた先に人影を見つけて、だからわずかに息を飲んだ。それから───それが知り合いの後ろ姿に似ていることにも気づいて、そ、と歩みを寄せた。

「今宵の礼拝は、別の聖堂で行っていますが……───参加ご希望ですか?」

ごく一般的な言葉を向ける。
恐らくは、そうではないのだろうことは、どこかで理解しつつ。

ヴァン > 背後で扉の開く音。そして、微かな足音。

「いや、今日は――今日も、か。カミサマに用があって来たわけじゃない」

首を巡らせて恋人の姿を認めると、男は笑った。ただ、どこか弱々しい。
普段の穏やかさや、意地悪さを含んだそれとはまたちょっと違う。
手招きをした後、長椅子を軽く叩いた。隣に座ってほしいのだろう。

彼女に用事があって来た。だが、いざ相対すると何から口にすればいいのかわからない。
己自身に少し呆れつつ、静寂に耐えられずに言葉を紡ぐ。

「今日間違ってここに来る人なんているのかい?」

自分のことを棚にあげつつ聞いた。知っていれば、目立たぬようそちらへ赴いていただろう。

マーシュ > 己が水を向けておいてなんだが、相変わらず信仰心の薄い返答にゆるく肩を落とす。
礼拝に訪れるものがみな信仰に篤いわけじゃないのは理解してはいるものの──その立場でそうもきっぱり言い切るのはどうかと思うのだ。
咎めてるわけじゃないが、どちらかというと諦観に近い。

向けられる笑みの気配。弱いそれにわずかに眉を上げる。
手招きと、傍らを示す仕草に躊躇ったが、おとなしく腰を下ろすことにした。普段からそんな振る舞いをする相手でないことは承知しているし。

普段とは違う法衣の衣擦れがかすかに響き、柔らかな乳香の移り香がその挙措に応じてかすかに薫る。

静寂に押し出されるようにして紡がれる言葉に、わずかに首を傾げる。

「普通は誘導されるはずですから、ここにいらっしゃる方はほとんどいないかと思います。」

それに普段は入れない祭礼用の聖堂を使用している。
物珍しさも手伝ってその誘導に抗う人はほとんどない、とは思う。……目の前にその例外が存在してはいるのだが。

「ただ、まあ。私たちが様子を見に来ることはありますけれど………、それで、………どうかなさったんですか?」

普段と似てるようで、やはり違う様子にそれとなくは気づく。
だからというわけではないが───言葉を促すように問いを向けた。

ヴァン > 表情の変化に気付き、笑ってみせた。
困らせたい訳じゃないし、もちろん悲しませたくもない。それでも自然と口にするのは性分なのだろう。

「そもそもこの時間に訪れる人も少ないしな……」

考え事をしている時、瞳には誘導の人影が映っていたなぁと思いだす。ぼんやりここに向かうとは、我ながららしくない。
促されると僅かに頷いた。伝えるべきことは簡潔・明解だ。
時折、男の周囲には監視の目がつく。しばらく撒いていたが、今はありそうだ。口許を隠し、低い声で話す。

「全て――全て終わった。朝になったら大学は大騒ぎだろうな」

マグ・メール大学。ノーシス主教異端派の牙城。
男が狙っていた最後の一人は大学の要職につく人物であり、過去異端審問庁啓蒙局の局長でもあったことは以前彼女に伝えた。
その人物への復讐が果たされた、ということを男は告げていた。手段はともかく、相手を破滅させたのだと。

ただ、その事実は今後が見通せないことも示している。
証拠は出てこないが、経緯を知る者は誰もが『男がやった』と考えるだろう。
主教はどう反応するのか。どこまで影響が及ぶのか。

「周囲が慌ただしくなるかもしれない。案外、何もなく終わるかも。
マーシュの周囲で何か異変を感じたら何でもいい、教えてほしい」

男は聖印を弄りながら伝えた。二人にだけ通じる符丁のようなもの。

マーシュ > 「今宵は少し事情が違いますけれど……?」

変化に目ざとく、かつ慎重な相手がその違いに気づかなかった、というのはそれだけで普段と違う何かがあるということ。
此方を気遣うように笑みを向けるのに視線を横に流す形で目を向けながら。

相手が言葉を編むのを待つ時間。
普段なら揺れる灯影が無数に連なる場所も、今はただ、静謐が押し寄せてくる。

「────……そうですか」

低い声音で告げられる言葉。
己がそれに対してかけられる言葉は少ない。
”それ”は彼の人生の目的の一つだと承知しているくらいで──それを否定する権利も、かといって推奨できるようなことでもない。
そうして今ここにいる彼はその目的を果たして、ここにいるのだと。

首肯して、視線を落とす。
喜ばしい、と言祝ぐようなことでもない。ないけれど───。

「───………。明日以降の出来事は、それはそれで。
…………、………頑張りました、ね?」

どんな選択肢を選んだのかはわからない。
世間一般的には誉められたことじゃないのだろうとは思うが、具体的なことは己は何も知らされていない。
それは相手の慎重さであり、そして気遣いでもあるのだろう。
己にかけられる言葉はさして多くはない。それが適切なのかもわからないまま、紡ぐ。

「………『奥』に籠っていれば、大体のことは通り過ぎてしまいますから
私のことは気になさらなくても。ご自分を大事に」

王城では多少勝手は違うが、それでも修道院というのは閉じられた場所。
情報の遮断はたやすいし、そして胡乱な人物を寄せ付けることも少ない……一応は。
修養のため、と外からの干渉を弾くことも可能だ。
それを知らない相手ではないとは思うけれども、心遣いに対しての返答を返す。

彼の指が聖印を弄るのに視線を向けて、こちらも応じる仕草を返す。
装束越しのそれは特に意味のない無意識の仕草にも似て。

ヴァン > 「頑張った――どうなのかな。十年間、そのためだけに生きてきた。俺も、あいつも。
死者への鎮魂以上に、己の魂の安寧を得るために。正直な話、実感が湧かない」

あいつと呼んだ人物の心当たりは一人しかいないだろう。姦しい黒髪眼鏡の雇われ店長。
性格が似通わない二人を繋げる事柄として、そこまで意外には思われないだろう。

「ただ――君がいることで、俺は次の一歩が踏み出せる気がする」

気恥ずかしいのか、少しだけ顔を背けた。
ある一つの場所にだけ生きると、それが終わった時に人は壊れやすい。
仕事を退いた時。
家族を全て喪った時。
国が亡んだ時。

復讐が終わった今、男には大切な縁がある。
それは血の繋がる家族であったり、その繋がりを再生した女性であったりする。

「あぁ……中には強引な連中もいるからね。
さて、真面目なシスターに見つかったことだし、ひさしぶりに礼拝に参加するか。場所はどこで……?」

常識が通じない人や組織は多い。それは主教も例外ではない。異端審問庁はもとより、神殿騎士団も比較的常識の埒外で動いている。
無法を意味する訳ではないが、無理を通す輩はいる。そのことを男は危惧しているようだった。

最後に冗談めかした言葉を告げると立ち上がる。貴賓室への同行を求めるということも考えたが、今夜は皆が忙しい。
マザー・セシリアとは顔なじみだ。今後のことを考えると不真面目なことは避けた方が無難だろう。
祭儀に顔を出した方が今後の受けが良くなるかもしれない。男は――男にしては珍しく空気を読んだ。

マーシュ > 「生きてゆくこと、を頑張っていたんでしょう?」

少しだけ語調を軽くするようにして応じた。
そんなふうに苛烈に生きたことはない。おそらくはこれから先も。
ただ、激しく燃えれば燃えるほど尽きてしまうのは早いものだ。

成したいことを成して、そのまま次を望める人はそう多くない……けれど。
できればそうやって残った時間を長く歩んでほしいと思うのは部外者だから思うのか。

「どちらも少し休むべきだと思いますよ。
……何かしていたほうが気がまぎれるんでしたらそれでもいいとは思いますが。

…………、………はい」


思いがけない言葉まで向けられたのには少々言葉を失う。
ややあってから、そちらには端的すぎる返答を返すのは、女にだって羞恥心はあるのだ。

「………────ええ、素直に助けを求めることにします。」

重ねられる心配に、己から引きだせる情報などないに等しいことを分かってるだろうに。
それともだからこそといえるのかもしれないが。
それに応じる言葉に安堵してもらえるといいのだけれど。

立ち上がる相手に合わせてこちらも身を起こした。
案内を請う言葉に、ご案内しますよ、と応じながら。

「いつもは閉鎖されてる聖堂なので。………あちらのほうが今宵は明るいのでわかりやすいですが、一緒に戻りましょう」

柔らかく言葉を向ける。
相手がこちらの上司である修道女への心象をよくしようとする行動には首を傾げるものの、悪いことではない。
静かに歩きだす。こんなふうに向かうのは───、それもまた、悪くはないなと思いながら。

ヴァン > 「休み、か。……そうだ。今度、九頭龍山脈の温泉に行ってみないか?二泊三日くらいで」

先日抽選会場で目にした景品を思い出す。あいにく男の手元には粗品しか来なかったが。
九頭龍山脈は遠いが、飛竜便や高速馬車を使えば半日でいける距離だ。

続けた言葉の後、はい、という返答を聞くとやや耳が赤くなった。

「――あぁ、東棟にある広い所か」

普段閉鎖されている、という言葉で心当たりがあるのだろう。先程ここに来るまでに通って来た所だ。
歩調をあわせ、歩き出す。すぐに礼拝堂は無人となった。

マーシュ > 「………温泉?…………時間は作ればなんとかなる、と思いますが」

旅籠のほうじゃなくて山脈…?と首を傾ける。
あまり都の外に出ないのは変わらないからその誘いは魅力的には感じて。

歩きながらそんな他愛もない会話に興じていればきっと、目的の聖堂にだってすぐ着いてしまうのだろう。
再び無人となった礼拝堂が、沈黙に沈むのは間もなくのことだった。

ご案内:「王都マグメール 王城内礼拝堂」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城内礼拝堂」からマーシュさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城2【イベント開催中】」にイグナスさんが現れました。
イグナス > 冬だが、昼間は日が差せば温かい。今日もそんな日和だ。
広い王城――といっても街に近い区域の中庭。仕事や休憩の者たちが行き交う場所。
あまり王城には似付かわしくない武骨な、そして巨大な冒険者の風体の大男。

そんな男が中庭に設置されたベンチを悠々と占拠しながら、しかしてちょっと憂鬱気に空を見上げて、ためいき。

「うまくいかねェもんだなァ。」

ぼそりとぼやいた。
ギルドの依頼で王城の護衛兵士の練兵…もちろん専門家としてではなく、冒険者としての経験値を買われての仕事だ。
対魔物の講師&実技といった様子であった。
午前中の講義と実技を一通り終えてみたが――。

「向いてねンだな、きっと。」

ぐぬぬと呻く。面白そうな依頼だからと受けてはみたが。
基礎能力も武の体系も諸々違えば、教えることも難しいことが多い。
厄介な魔物の特徴くらいは話せるが、こんなもんでいいんだろうかと、ひとり首をかしげていた。