2023/08/30 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/庭園」にマーシュさんが現れました。
マーシュ > 昼下がり。
少し雲が出て陽射しの弛んだ時間帯。
外廷に近い場所にある庭園の片隅。

整えられた緑地に木陰を提供する樹木の袂に身を寄せる形で女はいた。
膝の上には古ぼけた詩歌集。
それを手繰る手は今は力なく投げ出されて────。

「─────」

白布にくるまれた頭がかすかに揺れる。
午睡の誘いに負けた様に意識を揺蕩わせ。

マーシュ > 近頃にしては珍しく、陽射しが柔らかかったから。あるいは風が心地よかったから。

それらは季節の移ろいを示すほんのわずかの兆しであるのかもしれない事柄。

日々の祈りの合間に時折できる空白の、短い時間をどうすべきか悩んだ女はすでに内容を暗誦できるほどに読み込んだ書を一つ手にとって庭園を訪れていた。

外廷に近い場所ならさして問題もないだろうと。
逢引きに使われそうな花咲く生け垣や、四阿を避けるようにして訪れた場所で腰を下ろして、風を受けているうちに──、といった所。

ご案内:「王都マグメール 王城/庭園」にリュシアスさんが現れました。
リュシアス > 鉄靴の音を規則的に鳴らしながら、王城の見回りの最中。
しかしながら、柔らかく差し込む日差しと吹き込む風が心地良く、欠伸を噛み殺しながら足を運んだ庭園で人知れず小休止――などと目論んでいたのだが。

どうやらその日は先客が居たらしい。

「――――……修道女殿?」

木陰を形成する大樹にその身を預け眠る、修道服姿の女性の姿。
絵画の一部から切り取って来たようにも思えるその光景に数瞬、我を忘れて見惚れてしまったのだが―――。
幾ら王城内とは言え――否、であるからこそ此の侭放って置くのも不用心と、その微睡みを妨げてしまうのに若干の躊躇いを覚えつつも男は声を掛ける。

マーシュ > 柔らかな草を踏む気配。遠慮がちではあるが通る声が、己をあらわす単語を紡ぐのに、投げ出されていた指先がわずかに動く。

「───────………」

ふ、と呼気を揺らす気配と。
伏せられていた瞼が上がり、わずかに周囲を確認するように視線を動かした後、たたずむ騎士の存在に気が付くと緩く双眸を瞬かせた。

樹木に預けていた背を離すと、軽く居住まいを正して。

「……はい、──何かご用向きでしょうか」

膝上の詩歌集を回収すると装束の隠しに戻し、呼びかけに応じる様に言葉を返した。

リュシアス > 長い睫毛が揺れ、ゆっくりと花開く様に瞼が持ち上げられる。
その下から覗く藍色の双眸が少し遅れてから男の姿を認める様を見守ってから、騎士の作法に則った会釈をひとつ差し向けて。

「起きておられたのなら失礼。何か用という訳では無いのだが……この様な場所で若いご婦人が独り転寝とは些か不用心かと思い、声を。
 ………もしお休みになられるのであらば、空いている貴賓室まで案内致しますが。」

最後の提案の後にふ、と小さく笑うのはそれが軽い冗談を込めての事。
それから男の視線はふと、相手の膝上から修道服の中へ仕舞われた古ぼけた書へと落ちて。

「………詩歌集、ですか?その装丁には見覚えがあります。確か………。」

呟いて、その中に或る詩歌のひとつを読み上げようとするものの、
空んずるには余りにたどたどしく、所々に齟齬が目立つのはうろ覚え程度でしか無かったが故。
暗誦できるほどに読み込んだ彼女にとっては、その様はさぞ滑稽に映る事だろう。

マーシュ > 向けられた会釈に表情の薄い女は、それを受けるようにして首を垂れる。
そも、己のようなものが、騎士階級の彼らに礼を取ってもらう必要もないのだけれど──、そのあたりは、相手には相手の立場やメンツがあるのだろうと受け入れつつ。

「……いえ、少し微睡んでおりました。……お気遣いありがとうございます。……でも、ええと。私は貴賓ではございませんので……」

冗談めかした言葉に対して少しだけ驚いたように目を瞠る。
彼の言葉と視線が、書へとさまようのに素直に頷いた。

「はい、……ええ、そのとおりです」
容姿に似合わぬたどたどしいその韻律に少し笑んだ。
軽んずるのではないが、そうやって砕けた振る舞いを見せてくれる気遣いに対して。

「……私が最初に手にした書になります」

古ぼけている理由を一つ示すように言葉を返し

リュシアス > 会釈に対して首を垂れる相手の所作を見て取ってから、緩やかに礼の姿勢を解く。
男の様な騎士階級が修道女である彼女に対し、その権力を傘に横暴を働く事こそあれ、
態々声を掛け礼を向けるのはもしかしたら珍しいのかも知れない。

尤も、男とて一切の下心が無いと言えばそれは嘘になるのだが。
それを無闇に表に出す事はせず、己の冗談に真面目な返答を返す彼女の言葉に笑みの色が深くなる。

それから、たどたどしくうろ覚えの詩歌を吟ずる男の声に、薄かった女性の表情に笑みの花が咲くのを見て取れば、拙い詩歌を歌う声はぴたりと止んで、其方を見遣る。
軽んじられたとは思わないが、ただ少しだけ照れくさそうにくすんだ金髪の頭を掻いて、

「そうでしたか。生憎、自分はきちんと読んだ事は無いのですが……母が好んでいたのを何となく覚えていたもので。
 気に入っている一節などあれば、よろしければお聞かせ願っても?」

最後にそう請うたのは、ちょっとした好奇心。
彼女が躊躇ったり拒む素振りを少しでも見せようものならばすぐに取り消そうとするだろう。
ただ、もし叶うのであれば、その一節を彼女の声が謡うのを聞いてみたいというささやかな欲望を口にして見せた。