2023/08/23 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/中庭」にリュシアスさんが現れました。
リュシアス > 規則的に鉄靴の足音を鳴らしながら、夜の城内を巡回していた男はふと、中庭の前でその足を止める。
人気の少ない城内の外れという位置と深い植え込みの所為で、男女が秘密の逢瀬を重ねる場面に遭遇する事もしばしばあったが、どうやら今夜はその心配は無いようで。
手入れの行き届いた花壇の傍に設けられたベンチへと男は腰を降ろし、男はふーっ……と長い息を吐く。

「――――……今夜も特に異常なし、と。」

宛ら小休止に対する言い訳のように、誰に報告するでも無くそう呟いて、ベンチの背凭れに身を預ける。
先日、城塞都市アスピダの方では何やら動きがあったようで、顔見知りの騎士たちも何人か駆り出される事となったのだが、
当の男の元まで及んだ影響は殆ど無く、強いて言えば城内の見回りに割かれる人員が減った所為で持ち場が増えた事くらいだろう。

―――どうにも実感が沸かない。

どうやら王城に逗留する王侯貴族たちも似たようなものらしく、遠くからは普段と変わらぬ夜会の音楽と談笑が微かに聞こえて来る。
そんな現状に思いを馳せながら、男は今一度ふーっ……と深い溜め息を吐いた。

リュシアス > 暫くの間そうやって、何処か遠くの夜会から聞こえて来る弦楽の調べに耳を傾けながら小休止の時間を過ごしていた男だったが、

「………誰だ?」

中庭の片隅に感じ取った気配の持ち主へ向けて、鋭い声音で尋ねかける。
ベンチに身を預けた姿勢の侭、しかしその相手が少しでも動く気配を見せようものならば、
すぐさま立ち上がり腰に帯びた長剣を抜き放つと同時、その切っ先が届く距離まで踏み込めるよう身構えながら―――。

しかし、気配の主は男の声に動じるどころか、意に介した様子すら感じられない。
膠着状態、と呼ぶには些か緊張感の欠けた沈黙が数秒の間続いた後、先に動いたのは相手の方だった。

敵意や害意の類は一切感じられない。
人目を忍んでやって来た男女とも、己のサボりを咎めにやって来た同僚とも違う。
何しろその相手は、人ですら無かったのだから。

「――――、………猫?」

夜闇に溶け込むような黒い毛並みを持った猫が一匹、円らな瞳で男の方をじっと見つめていた。

リュシアス > 腰に帯びた長剣の柄から手を離し、男もまた相手の方へと視線を投げ掛けてその姿をじっと観察する。
夜闇のような黒い毛並みは明らかに人間の手が行き届いていたし、
そもそも幾ら今は人手不足とは言え、このような城内にまで野良猫の侵入を門番や見回りの騎士たちが許す筈が無い。
となると残る可能性は、何処かの王侯貴族が持ち込んだ飼い猫か、宮廷魔術師の使い魔か――大方その辺りだろう。

「お前の主人はどうした?この辺りには居ないのか?」

問い掛ける。
後者であったならば会話が成立する可能性もあったのだが、こちらを見詰めた侭首を傾げる相手の様子にその希望が潰えた事を悟る。
やれやれ、と呟きながら中庭のベンチから腰を上げ、男の小休止は終わりを告げる。

「仕方ない、自分も付き合ってやる。
 ………ついでにお前の主人が、とびきりの美女だったりすると有難いんだがね。」

最後にそんな軽口を付け足してから、鉄靴の足音を鳴らして男が歩き始めると。
その言葉の意図を理解しているのかいないのか、黒猫もまたそれに同行するように四本の足で歩き始めるのだった。

リュシアス > 先刻までの規則的な響きとは違い、時折立ち止まっては相手の歩調に合わせながら進む鉄靴の足音。
結果として、黒猫の主人が見つかるまで一人と一匹による散策は城内の殆どを隈なく歩き回る羽目となったのだが―――。

決まった持ち場をただ巡回するだけよりは愉しい時間だったよ、と後日男は知人に語った。

ご案内:「王都マグメール 王城/中庭」からリュシアスさんが去りました。