2023/08/05 のログ
ご案内:「王都マグメール王城 門前」にリカさんが現れました。
リカ > 昼下がり、今日も容赦なく照りつける陽射しが地面を焼き、
ともすれば立ち昇る陽炎が、ワンピースの裾をゆらりと舞い上がらせる。
女の腕では一抱え程にもなる布包みを胸に抱え、もう何度訪れたか知れない門前で、
気合を入れるために、大きく深呼吸をし。
厳めしい顔つきの兵士が控えている詰め所の受付口へ、そっと歩み寄り、

「こんにちは、今日も暑いですね……!
 あの、これ、少ないですが皆さんでどうぞ!」

抱えてきた布包みを開き、ずしりと重い革袋を差し出す。
中身は良く冷えた―――――良く冷えていた筈の、果実水である。
店で鍛えた愛想笑いを貼りつかせ、屈託のなさを前面に押し出して、

「あの、……こんなに暑いと、皆さん、色々と大変なんでしょうね?
 そんなときに、申し訳無いとは思うんですけど……ちょっと、
 地下の様子、とか? 伺いたいなと思って……」

地下、というよりは、囚われている虜囚の、現状。
もっと言えば、その中の特定の一人がどうしているか、それだけが知りたいのだけれど。

ご案内:「王都マグメール王城 門前」にヒューゴさんが現れました。
ヒューゴ > いかめしい顔つきの兵士が見るのは、何度も来ている少女が抱えるよく冷えた果実水か、はたまた屈託のなさを見せる少女とその柔らかく若い肢体か。

そんな兵士が口を開こうとした時に背後から現れるのは騎士服に身を包み、蒼い瞳を持つ釣り目が厳しめな印象を与える男。

「どうかしたか? ふむ。君は…。」

そんな男が自然と見下ろすのは皮袋を差し出す一人の女性。
男は改めてあいての風体を眺めれば、報告書に何度か名前の挙がっていた相手であることに気づいてから少し考えるように目を閉じ、頷き目を開けてから兵士へと目配せをする。
その兵士は嬉しそうにしながらも貴重な女っ気との会話の機会が搔っ攫われたことに少し残念そうな様子を見せながらその皮袋を受け取ろうとする。


「お嬢さんは私が引き継ごう。 本来飲み物は受け取るわけにはいかないが… いつもの様に。」

兵士たちで分けるといいと言外に伝え、再び向き直ると、男は低くも穏やかな声を相手に向ける。

「さて、それではここで話を続けるわけにもいかないからな、応接室でよければ話をしよう。」

指し示すのは男の園…飾った言い方を除すれば、むさ苦しく、窓を開けて換気をよくしていても男たちの汗の匂いやらが染みついているのではと錯覚する様な詰め所の奥にある応接室へと相手を誘う。

リカ > 休日やバイトに向かう前、仕事の後など、折に触れ足を運ぶ場所。
兵士たちへの差し入れは欠かしたことがなく、彼らが差し出したそれを固辞したこともない。
しかし―――――

「ぁ、………こんにちは、騎士様、はじめまして……!」

彼等の上官と思しき人物が現れれば、話は別である。
その人物の風体から、すぐ、彼が騎士階級にある者だと気づき、
如才なく明るい声であいさつをしたが、内心、少しばかりひやりとしていた。
兵士たちより更に厳めしげな顔つき、押し出しの利いた体躯。
女の笑顔と冗談で、懐柔出来そうなタイプには見えなかった、ので。

けれど、女の予想は外れた。
賄賂同然の革袋は問題無く受け取られ、普段は文字通り門前払いだというのに、
奥へ、と促されたからだ。
大きく目を見開き、ぽかんと口を開けて、忙しなく何度か瞬いてから。
女はぱっと頬を染め、瞳を輝かせて、

「え、よろしいんですか……!?
 お仕事の邪魔じゃなければ、ええ、是非!」

男臭い空気の澱む場所であったとしても、その程度で怯む女ではない。
騎士の気が変わらないうちに、とやや早口で応じ、誘われるまま奥へと足を踏み入れることに―――――。

ヒューゴ > 何やら戸惑っている様子の相手。
其れを静かに見つめるのは騎士服を身に包むよく鍛えられた男。

普段であれば受け取るだけ受け取り追い返されていた相手の前にぶら下げられる一本の糸。
その糸の先に待つのは女の思い描く未来かはたまた─。

そんな未来を知らぬ相手は男の言葉に惑う様にぽかんと開いた口と、信じられないことに直面し瞬きを繰り返しその現実を飲み込もうとする相手。

呑み込めば頬を染め瞳を輝かせながら食い気味に男の提案に乗ってくる相手に肯定する様に小さく頷き。

「部下たちもいるので問題はない。 では、詳しい話は応接室で伺おう。 後についてくるように。」

女を背に従え、男くさい澱んだ場所を通り抜ければ、応接室へと続く分厚く重い木の扉を開く男。
相手が足を踏み込めば、落ち着いた無骨な応接室。
大きめのソファ二つと、テーブル。
そして、男くさい空気とは次元の異なる穏やかで控えめな甘い催淫性と判断力を僅かに削ぐ効果を持つ香り。

男は相手がその部屋に足を踏み入れてから、応接室の扉を軋んだ音を立てながら相手にソファーに座る様に促した。

リカ > とうとう一度も再会は叶わぬまま、祖父母は小さな壺の中のひとになった。
このままでは父とも、そうなってしまうのではないか。
いっそ諦めてしまえれば、とは思いつつ、どうしても諦め切れず、
頻繁に城へ足を運んでいた女にとって、それは到底抗えない誘惑だった。
多少無作法でも、図々しい女だと蔑まれても、飛びつかずにいられないほどに。

「あ、ありがとうございます……!」

もう、革袋を携えてこちらを何処か恨めし気に見つめる兵士たちのことなど、
女の眼中には無かった。
騎士の広い背を追い、早足に後をついて歩き、辿り着いた扉を男が開けて。
淑女にするように、先にどうぞと促され、恐縮しきりで頭を下げてから、
奥の部屋へ踏み込み―――――

「―――――…… ?」

意外なほど綺麗に整えられた部屋の様子にも、やや驚かされたけれど。
女の鼻腔を擽る甘い香りが、何よりも意外に感じられた。
通り抜けてきた通路に漂っていた、いかにも男たちしかいない場所、という匂いは名残も無く、
決して嫌な臭いではないけれど、ほんの微かな香りだけれど―――――しかし。

「ぁ、はい……じゃあ、失礼して」

目ざとく警鐘を鳴らそうとした本能に、なにかが蓋をする。
そんなことどうでもいいではないか、とにかくこの騎士様の機嫌を損ねてはいけない、
そんな気持ちが勝ったゆえの結論、というより。
恐らくは早くも、焚かれた香が女の意識に影響を及ぼした結果。
すとん、とソファのひとつへ腰を下ろし、揃えた膝の上に両手を重ね、
女は期待と不安に揺れ動く瞳で、騎士服の男を見上げる。

「それで、あの……あたし、―――――…」

何から話すべきか、何処まで打ち明けるべきか。
女が迷う間にも、香は室内へ充満し―――――。

ヒューゴ > 重く軋んだ音が響きガチャリとさらに重い金属音が響き部屋は閉じられた。
部屋の外の喧騒は中へ聞こえず、部屋の中の音も外へは届かない。

ご案内:「王都マグメール王城 門前」からヒューゴさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール王城 門前」からリカさんが去りました。