2025/03/13 のログ
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ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」にアマーリエさんが現れました。
アマーリエ > ――敗戦の将への風当たりは厳しい。

否、あれは負けではない。想定した限りの必須要件は満たしたではないか。
否、あれは名誉の負傷である。命を失ってはいないではないか。
否、否。まかりなりにも王国の兵を束ね、預かるものが斯様な無様を晒すとは度し難い。

よくあることだ。思うに古今東西、どこの国でも誹りの類は絶えまい。
何処の国だったろうか。王は完全無欠でなければならぬ。よって片端の身は玉体足りえぬ等々の騒動があったのは。
そうした記録を思い返す位に、ここ最近は面倒を極めていた。そう思いつつ――。

――会議室を出て、執務室に寄り、幾つかの仕事をこなし、終えて。

「……あー……つっ、かれたー……」

月明りが落ちる王城のテラスで独り、ぼやく姿がある。
仕立ての良い白い騎士服に紋章を描かれたマント、腰に一振りの刀を吊るす姿は騎士であり将である。
師団のひとつを預かるものだ。
長い髪を夜風に靡かせる姿はじっとしていれば、凛として見えよう。見えうる――筈だ。
そんな姿が如何にも草臥れた風情でテラスの手摺に寄りかかり、よれよれな表情で息を絞り出す。
戦いを終えた後は、華やかにとはいかない。どんな規模であれ、事後処理が待っている。

「よくもよくもまぁ、痛いところばかり突いてくれるわねどいつもこいつも。
 ……負けてないってのに。まあ私も慢心してなかったと言ったら噓になるけど、ねー……」
 
今回は其れが否定し難い一点を以て、片付けるにあたって面倒さが何倍増しになった、だろうか。
テラスの手摺に寄りかかる以前に、のしっとばかりに大きく乗っかるような重みを自覚する。
目元を下ろせば嫌でも見える。
肩も凝る以上にあからさまに目につくのは、騎士服とマントの胸元を大きく張り出させる巨大な膨らみ。
タナール砦での戦いにおいて不覚を取り、敵将から蒙った呪いの具現。
淫魔にありがちの能力行使の産物は、思いつく限りの浄化、解呪を試みても解除し切れなかった。

それはそれはもう、負けただろうが、と突っ込まれても――唸るしかあるまい。まさに体現しているのだから。

アマーリエ > ただ、マシではあろう。死んでいないよりはマシであり、囚われているよりももっとマシだ。
そう思うことにする。王国騎士を束ねる者として、矢面に立つこと誉れ――というのは、こういうことだろうか?

「……なんか違わない?」

ふと思った言い訳じみた思考に、セルフツッコミを入れつつ身を伸ばす。
兎に角重いものである。こうなる前もそれなりに重かったが、一回り膨れるだけで余計に重くなってしまうとは。
採寸して拵えた衣装の大半が着れなくなったのは、非常に痛い。
一部の貴族や騎士で流行っていた、異邦趣味に触発されて幾つか手に入れた服で当座を凌いだが、否、凌いだ、と言えるのかどうか。
事後処理に副長含め、腹心に任せていたが、貴族たちの集まりに召喚されての査問と叱責とは、つくづく面倒なもの。
小さな瑕疵を堤防に穿たれた蟻の穴よろしく膨らませ、地位を取り上げどうこう――なぞという目論見も、有り得たことだろう。

「次やらかしたらー……どうかしらねぇ。ふふ、吊るし首で済む方が慈悲たっぷりみたいで怖いわぁ」

早々に引退した方が身のためでは?という指摘も全く、否定し難い。
それも考えなくもない手立てだが、生憎としてそれに足るものが、納得できる者がまだ居ない。
当座任せで権限を託せるものは居ても、矢面と書いてイケニエと読め、みたいな有様に耐えられるものが、まだ居ない。
否、タマゴは幾つかあっても育ちきれない。
何故なら、その卵から孵る雛は最終的に誰にも負けぬ程に強くなくては、戦場で真っ先に死ぬからだ。

昼の気温は漸く冬の気配を抜けてきたが、夜となればまだまだ肌寒い。
皮肉げに嘯きつつ、身を起こして躰を翻す。刀の柄を押さえながら、手摺に腰尻を預けて空を仰ぐ。
寒々しくも煌々と輝く月が、空にある。飛びながら見れば、もっと奇麗に見えるだろうか。