2025/01/12 のログ
■セオドラ > 不可視の気配を、魔力が伝えてくる。
ゴースト。魔物。魔族。妖魔。そういった手合いは王都においても散見される。
その由来も出自も様々な憶測や考察などがされているもの、はたまた新たに見つかるものも様々。
特に王城などは「由来」に事欠かない場所。だから、僅かに警戒し、いつでも逃げられるようにと、身構え――…。
「…寒くは、ないね」
目の前に姿を現していく神秘的にも見える姿は、王国に馴染みの少ない格好。
帝国風でもあり、どこかちがうようでもある。市井では時折見られる異国の出自の者の姿にも似ている。
まさか、妖しい存在にも、その恰好の者がいるとは思わなかったからか。
それともその美しい黒髪と、衣装と、顔を隠す薄絹と…無垢にも思えるようなシンプルな問いかけとに毒気抜かれたからか。
言葉少なに問いかけに応じては、はふりと一つ。緊張をわずかにだけ緩める吐息を零す。
ふたたび、白い息と共にくゆる紫煙。
「ここで、中空から出てくるものではないよ。見つかる相手によっては、問答無用でどうにかされてしまう」
相手があまりに敵意を思わせないからか、無聊を埋める手合いと見てか。
彼女を案ずるような言葉まで向ける。
色味の窺えない視線に、己の蒼を重ねようともしながら。
面積増やす灰を、とん、と煙草の先から落としては、そのままひゅるりと初歩の風を操る魔法で散らして。
■枢樹雨 > 妖怪として驚かせ、妖として害をなし、怪異として恐れ語った人の子達とは少々違う反応。
静かに、冷静に、此方へと目を向け答える貴方を、濡羽色に隠れた双眸が変わらずにじぃ…と見つめる。
しゃんと伸びた背筋。質の良い絹の着物は控えめな染め物で、ともすれば王城の夜会の場にいてもおかしくはない様相。
しかし纏う雰囲気は随分と異質か。
小首傾げると共にさらりと右のこめかみへ流れた長い前髪。
僅かに覗いた仄暗い蒼は、其処から注がれる視線は、吐息と共に空へと上る紫煙に攫われる。
降る雪に交じるように、闇に溶ける様に、消えていく紫煙。
初めて見る蝶を視線で追う幼子の様にぱちぱちと瞬いては、次いで発せられた貴方の声に視線が戻り。
「……売り飛ばされる?…そんなこともあると聞いていたけれど、そうならずにいたから忘れていた。」
反射的に持ち上げられた両手。それが薄布越しに頭の鬼角を隠せば、随分と今更過ぎる警戒を視線に乗せる。
しかし貴方の落とす灰が風に散らされる様を見てしまえば、あっさりと消え去る警戒。
僅かに見開かれた双眸は、好奇の色を乗せて貴方の蒼と重なる。
ベンチから立ち上がる妖怪。
カラコロと下駄を鳴らして貴方のすぐ傍らまで駆け寄れば、貴方の手にある煙草に触れようと左手を差し出す。
白い指先は貴方の手をすくい上げ、己の目線の高さまで煙草を持ち上げようとして。
「今、何かをした?もしかして、魔法というもの?それともこれは勝手に灰が払われる煙草?」
■セオドラ > 変わらず向けられる視線は、自分の吐く煙にとその向きを変えていく。
僅かな仕草に合わせて、応急からの明かりを映す場所を変えて見せる美しい黒。
己の物よりもいっそう艶めいて見えるのはそのどこか神秘的なたたずまいのせいか。
幼げな雰囲気も見せるような首の方向け具合や、真っすぐな物言い。
回りくどい貴族の言葉ばかり聞いていた身には新鮮にも響いてくる。
「その前に無礼討ちになっても不思議ではないよ。…まぁ、貴方なら、捕らえてと考えるものもいるか」
姿を隠した状態から、不意に現れる、なんて。害意の有無関係なく、斬られるなりされるかもしれない、と。
声色や雰囲気はどこか怖気を煽るような様相の美女でもあるから、捕まえてしまってと考えるものもいるだろう。
それをされても、目の前の相手はどうにかできそうな雰囲気もありはするが。
遅ればせながらという風に上がる両手には、ひらひらと、やらなくていい、と、示すように煙草を指に挟んだ手を振って。
その手を口元に戻して香草煙を吸う折に重なる視線は、心なしか先ほどよりもはっきりと、御簾の向こうから見てくるようで。
たった今、注意したのに無警戒にと傍らにまで寄ってくる相手。
手を取られ、薄絹越しに煙草を覗き込むようにする仕草に、眉尻を下げて。
「魔法だよ。魔力に指向性を与えて扱うもので、色々呼び名もあるけど…貴方のほうが…」
体系やら流儀やらで魔術と呼ぶか魔法と呼ぶかなども変わるが、そう珍しいものでもないと思いながら。
目の前の相手のほうがよほど不可思議なことをしながら現れたのだけれど、と、近づいた相手の姿をまじまじと眺める。
■枢樹雨 > 其れは妖怪の運の強さだったのか、はたまた溢れる好奇心が他者の害意を妖怪にとって有意義なものに変えてしまったのか。
おざなりな警戒の原因は定かではないが、貴方の言葉に、仕草に、己の自由を奪う様子は見られない。
それに気が付く以前に己の好奇を誘うものを見つけてしまえば、もはや無礼打ちに恐れるという思考すらも除外されてしまう。
結果、一気に詰められる距離。
立ち上がってみれば、己よりも少し下の位置にある目線。
すくい上げた手は褐色で、真白の己とは対照的。それでいて染みひとつない様で同じであり、手入れされた爪先が美しい。
その爪先が、指先が扱う煙草。見たことはあれど、触れた経験のないそれ。
それ自体に何か特殊な魔法がかけられているのか、はたまた貴方の持つ力なのか。
問いかけてみれば返るのは丁寧な説明。
肉体を顕わにすれば自ずと必要となる呼吸。その中に貴方の煙草の香りを拾い乍らに耳を傾ければ、途切れる言葉に再び互いの蒼が交わる。
己の仄暗いそれとは違い、蒼穹思わせる色。
今度はその蒼が己を観察する様に見つめている。
すくいあげた貴方の片手を胸元まで降ろせば、再度首を傾げ。
「私の方が…、なに?私は魔法、使えないよ?この国に来て、初めて魔法と言うものを知った。」
妖怪にとって、消えたり、現れたり、浮かんでみたり。それは極々当たり前のこと。
人間が呼吸をし、食べ、飲み、嗅いで、触れる。それと同じこと。
だからこそ貴方の言葉の先を察すること叶わず、おもむろにすくい上げたままの貴方の片手に鼻先を寄せ、スンと匂いを嗅ぎ。
「草の焼けた香り。…あと、君の香り。」
■セオドラ > 僅かに上から覗き込んでくるような、そのくせ大部分隠された相手の視線を見返しながら。
流石に煙草に触るようなことはされないだろうと思い、好きにさせる。
警戒をしないのは女性相手であるから。命を狙うような輩なら、もう奪われているだろうから。
あとは唐突に王城テラスに身を現すような手合いから、どのように逃れようか、と…
考える前に、彼女の好奇心に、こちらの好奇心も擽られたからだろう。
色暗い青が見やってくる。指を囚われたまま、やや佇まいを整えるようにコートの前を引いて。
「…貴方のほうがよほど魔法のようなことをして、現れたのだけれどね」
何もないところから、唐突に姿を現すなんて。
それを指摘したところでおそらくは、常識の違う手合いなのだろう。
超常のものの存在は聞くが、こうも近くで見たのは初めて。
その恰好は彼女の出自によるものか。物言いはどこかたどたどしく。気ままな子供のように振る舞うふうで。
「香草を乾かして、そのあと整えたものだから。…私の香りは、そりゃ…するだろうね」
ミントベースで香料、香辛料なども混ぜ込まれたそれは、焦げる匂いの中にもすっと爽やかさがあり。
黒い衣装にはそれの匂いと、仄かな柑橘の爽やかな香りが纏わされていて。
彼女の仕草を、気障な男の口説き文句のように思えてしまえば、眉尻下げた困ったような表情のまま、口元だけを笑みに変えてくすりと僅かに口角を上げた。
■枢樹雨 > 此処がこの国を統べる存在の住居であることは知っていても、この国を統べる存在への正しい礼の尽くし方など妖怪は知りもしない。
ただ、一人佇む貴方の存在が目に留まったから。上る紫煙の香りに、興味を惹かれたから。だから此処にいる。
当然敵意も無ければ危害を加える理由もなく、そもそもにおいて貴方の立場も知りはしない。
ともすれば無知で無遠慮な輩。でありながらも、ひとつひとつの動作は丁寧で、そして幼さが伴う。
伸びた背筋。小走りに駆け寄るとなれば着物の合わせを片手で押さえ、小股に。貴方の褐色の手に触れるならば、指先から淡雪をすくい上げるように。
ただ、匂いを嗅ぐ仕草だけは、どこか猫じみていたかもしれず。
「私のは、私が出来る事、だから。何も学んでいないし、誰の力も借りていない。
魔法は学びが必要だったり、人ならざる者の力を借りると、書物で読んだよ。君は学んだの?」
貴方の察する通り、常識が違う。
生まれ方も、生き方も、そして生まれた場所も違う貴方と己。
だからこそ好奇を寄せ、何故が生まれ、問いが重ねられていく。
鼻腔擽る香りから視線を持ち上げると、元来下がり気味の己とは違った意味で眉下げる貴方の表情を見遣り。
「どちらも、好きな香り。乾燥させた香草を焼く魔除けを聞いたことがあるけれど、あれはまた別の香りかもしれない。」
くどい甘ったるさもなく、清涼感のある香りに細められる双眸。
元あった場所に置いて来るように、そっと貴方の手を離せば、妖怪は思い出したように周囲へと視線を馳せる。
此処がどのような場所であるのか、ゆるりと360度見渡し、最後に夜会催す場内へと視線を止め。
「…あそこに行くの?」
■セオドラ > 言葉や仕草がどこかちぐはぐにも思えるような目の前の相手。
それも、最初にそのような存在だと見込んだとおりだと思うなら、格別に不思議がることもない。
そういう存在なのだ、と、目星をつけてしまうから。
不可思議の存在には人のまねをする者も居ると聞く。彼女もそういう手合いなのだろう。
鼻先をひくつかせる仕草は人より別のもののようでもあるから、微笑ましくすら思ってしまいながら。
「そうだね、学んだよ。とはいえ学んだ全てを活用するほどに器用ではないけれどね」
知識は浅く広く。そのように努めて覚えたのは、貴族の女として特出しないような振る舞いを求められたのもあって、だ。
だから、器用貧乏ともいえるような行使ばかりになりがち。
自嘲じみた物言いにますます眉尻ゆがめながらも、すぐにそれを戻す。
癖になったような、苦みを滲ませるような笑み。それがわずかに和らいだのは、香りを好ましいと目の前の相手が言うから。
「私も気に入りのものだよ。魔除けは…もっと強い香りかな。物によってはそれこそ、煙に交じって周囲に散る薬品も混ぜる」
好奇心あふれる子供のような視線。それを受けてはついつい、何か説明するような物言いをしてしまいながら。
離された手が、どこか冷えるような気がして。口元に運び、煙を吸いながら吐息で暖める。
「…貴方は、捕まらないうちに立ち去ったほうが良いよ。
美しく神秘的な美人さんだなんて、部屋に連れ込まれて酷いことをされてしまう」
彼女が視線を向ける先、思い出したかのように自分も視線を向けて。
戻るかどうかは、それを考えることすら、目の前の不可思議な存在を相手にして忘れていたから。
問いには答えずに彼女にだけ、そうやって促す。
いつでも逃げられるからなのか、警戒心も薄い様子に、フゥ、と、細く息と紫煙を吹き。
改めてその美しい佇まいと、珍しい衣装。侍女ででも会場に居れば、自分も声をかけたかもなんて。
そこまで無聊を持て余すものか、と、益体もない想像もしては、片眉を思い切りゆがめてしまいながら。
■枢樹雨 > ハの字を描いていた眉が、僅かに歪む。
その表情の意味を、妖怪は知らない。けれど、知っているものもある。
人の子の悪意。恐怖。嫉妬心。そして劣等感。怨念へと繋がり己の様なものを生み出す源。
だからこそ、不意に貴方から目を離せなくなる。
初めにそうしたように、じぃ…と、貴方を見つめて。
「…学ぶことが、楽しいのに。活用できるかどうかなんて、それほど重要?」
それは、妖怪の価値観。
長くを生きる中、初めて得た肉体で体験するすべてが愉快で好ましい妖怪の、率直な言葉。
暖を取るように口元へと運ばれた片手を、今度は攫う様に両手で包んで己の胸元まで引き寄せようとすれば、その手にある煙草は足許へと落ちてしまうか。
もしそうだとしても気に留めることはなく、不思議そうに首を傾ぐだけ。
そして尚も、貴方を見つめるままに。
「私は今、好ましいと思ったこの香りの出所を知りたい。学びたい。知れたらきっと楽しい。そしてまた嗅いでみたい。
そのために必要なら、部屋に連れ込まれるもやぶさかではないね。」
先まで己が見つめていた、王城の中。
温かそうなその室内を見つめる貴方の横顔を見つめ、相も変わらず淡々と抑揚のない声音で語る。
再び歪む整えられた眉に、ゆっくりと数度、瞬きを繰り返し。
「君の傍にいると、私の中のナニカが、騒がしい。…きっと、君の方が危険だよ。暗い、昏い、闇に、…引きずり込まれてしまう。」
半歩、貴方へと近づく。
ほんの少し身を屈め、耳元へと唇を寄せる。
元より冷え込む空気。其処に重なる、背筋凍らせるような冷気。それを、貴方は感じるだろうか。
妖怪の中に数多存在する妖怪、妖、怪異の類。それらが顔を覗かせる瞬間。
燻る紫煙が、一陣の風に遠く吹き攫われて。
■セオドラ > 見つめ来る視線と、問うてくる言葉と。どちらにも、僅かに辟易したかのように蒼を引き絞る。
学ぶことは楽しかっただろうか。そう思える目の前の相手とは、とことん価値観が違うのだろう。
存在そのものとしても。生き方、在り方としても。
そんなふうに思考を巡らせかけていれば、再度取られる手。
煙草はその拍子に指から落ちて――…ひゅる、と、中空で姿を消す。
影と闇を操る術でそれを手早く仕舞う仕草は慣れたものなのか、唐突に手を取られていながら酷く冷静で。
「情熱的だね。ずいぶんと寒気を纏うかのようなのに」
連れ込まれる、ということの示す意味合いを、この妖しい相手は解っているのだろうか。
香りを知りたいと告げ来るのも。耳元にと口唇を寄せて囁きかけてくるのも、まるで芝居じみた口説き文句だ。
だから、眉根はゆがめたまま。睫毛が蒼を隠すほどに瞳を細めて、くすくすと笑う。
腕を捉えたままに体を寄せ来る相手がどんな手合いなのか分からないが、持て余す暇をどうにかするには十二分に過ぎる。
「暗いのも、闇も。私はとても相性が良いから、そのせいかもしれないね。…お部屋でもう少し、お話するかい?」
異国の衣装は相手の体つきが解りにくい。だから、男か女かも定かでないから、戯れに誘うには不安もあり。
その表情もヴェールに包まれていて、細部は覗けないし、長い前髪が目元もほとんど隠している。
けれども相手の物言いやらに自分のほうも興味を覚えてしまったから。
掴まった手でそおっと相手の手を握り返しながら、誘ってみる。
話だけで終わるかどうかは、わからないけれど。
■枢樹雨 > 「初めて、言われた。情熱的。」
貴方の手を攫った白い両手は、ひんやりと冷たい。
暖を取るには、温めるには、随分と不向きな手。
ただ、温まればと、その意思だけはあるのだろう。
掌で擦るように、胸元に寄せた貴方の褐色の手を撫でる。
そうしていれば、空気震わす貴方の笑う声。
近づいた半歩を戻すことなく、しかし少し上肢を引いて貴方の表情を確認できる位置まで下がれば、その視線は雪降る空へと向けられて。
「温かい場所、行きたいけれど、今日は駄目。
また、貴方の闇を、覗きに来るよ。きっと、美味しい。」
気が付けば丑三つ時も過ぎ去り、朝へと向かい始める時刻。
眠気はない。そもそも霊体となれば眠る必要もない。
けれど今宵は駄目と、首を横に振る。
名残惜しそうに、離した貴方の手。
同時に妖怪の肉体は透け始め、現れた時の様に消えていく。
どこか甘く、それでいて清潔感のある、蝋梅のような香りを残して―――…。
ご案内:「王都マグメール 王城テラス」から枢樹雨さんが去りました。
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