2024/04/22 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城・第七師団執務室」にサロメさんが現れました。
サロメ >  
──王城内にいくつか存在する、王国軍の師団長に充てがわれた執務室。
第七師団のものはそれほど広く豪華とは言い難いものだが、最低限の機能は備えている。

黒い外套を背もたれに掛け、腰を下ろしているのは灰色の髪の女。
王国軍第七師団の長である女は己の顔を隠すように伸びた髪の隙間から金色の眼を覗かせ、机上の書類を見下ろしていた。

タナールへの派兵の増員について。
昨今その姿を見なくなった魔王クラスの強力な魔族。
戦線投入される優秀な人材は無論、他国との小競り合いへとその戦場を移してゆく。
王国軍全てに影響する事柄ではあろうが、特に大きな影響を受けたのは第七師団だ。
先の将軍から師団を引継ぎ、僅かな生き残りと共に再建に奮闘し、漸くまともに機能するようになったというところ。
気づけば、先の第七師団とは随分毛色の変わったものとして、王国軍の中の鼻つまみものなどでもなくなっていた。

それは一重に、前将軍ではありえなかった、王国貴族との良好なやりとりや、不遇な扱いや不義理に対しての過剰反応を非とする姿勢が生んだものだった。

だった、が……。

「──ふ…」

背中を背もたれに預け、天井を仰ぎ…一息を零す様子は、何処か憂いを帯びているようにも見える。

「…もういい。もう、良かっただろう。頃合だ」

誰に話しかけるでもなくそう零す。
あるいは、かつてこの部屋を使っていた誰かに対しての言葉だったのか。

サロメ >  
王国軍からの増兵がないのを理由に、冒険者や傭兵からなる兵士を増やした。
十分に活動できる数を確保さえできれば、練兵の基準や戦場での行動規範、あらゆるものを前将軍による姿勢へと塗り戻した。
新しい将軍を貴族育ちの女と見て無理難題をふっかけ、それに真摯に答えていた女を見て北叟笑んでいた連中はどうんな顔をすることか。
女という立場が不遇であるならば、その事実も使う。武器としてもそれを迷いなく使う。
連中が第七師団が、連中にとってまともな王国軍になった…将軍すらも手の内であると思ってくれたのは実に都合も良かった。

「…手段を選ばなければ、簡単なことだったな」

前髪から覗く金の瞳を細め、ゆっくりと姿勢を戻し机の深い引き出しを開ける。

そこには年代ものの酒、男好みしそうな度の強い色とりどりの酒瓶がずらりと並んでいた。

「──こんな日はどれがいい。これか、それともこれか。
 …こいつは、私が副官だった頃から一度も開けていなかったな…?」

これがいい。
そう小さく零し、古いラベルの酒瓶を取り出し、机の上へと静かに置く。

サロメ >  
同じく引き出しから取り出され、机の上に並べられたグラスは二人分。
それはどちらも古ぼけていて、片方は僅かに縁が欠けている。

手に取った酒瓶の蓋を、一瞬の迷いの後に引き絞り開栓させ…赤茶けた色の水をグラスに注いでゆく。
最初は手前のグラスに、そして続いて置くのグラスに。

「随分と時間がかかったが、取り戻したぞ」

「お前の王国軍第七師団だ。───美味い酒が呑めるだろう」

手前のグラスを手に取り、グラス同士を小さく合わせる。
小気味良い音は自分しかいない執務室にはよく響く。
その反響音は、女が語りかけているだろう男の声とは程遠いものだったが。

グラスを呷れば、高いアルコール度数が喉を焼く。
以前の自分ならば噎せていただろうそれをなんなく飲み干し、空になったグラスを机の上へと戻す。

「今なら、酒でも張り合えたかもな…?」

サロメ >  
立ち上がり、酒の横に置かれた書類を掴み上げ──その場でバラバラに引き裂いた。
紙屑となったそれを机の脇の屑籠に叩き込めば、椅子にかけられた己の黒い外套を羽織り、翻す。

「さて……仕事だ。
 文句を云われる筋合いはないな?
 お前だって戦場に赴く前に飲んでいたこともあった」

独り言はそんな言葉で締め括り、壁にかけてあった長大な剣を手にする。
以前に使っていた剣と比べれば厚みも刃幅も刃渡りも違う。
その等身に相応しい重みは、自身が背負った覚悟の重さのようにすら感じる。
──しかしそれを軽々と手に取り、携えて、女は執務室を後にした。

残されたのは机の上の、酒の入った欠けたグラス一つ。

『魔族は皆殺しにする』
かつて在った将軍の言葉通り、王国軍第七師団の理念は再び戦場に掲げられることとなる。、

ご案内:「王都マグメール 王城・第七師団執務室」からサロメさんが去りました。