2023/09/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/礼拝堂」にマーシュさんが現れました。
■マーシュ > 夜、おそらくは夜会などが開かれている広間などに比べると、そこは静かだった。
人の気配がないわけではないが、それでも昼間に比べると人も、照明も少なくなり、じんわりとした夜の藍に沈む。
季節の移ろいは、静かではあるが顕著。陽の入りは徐々に早くなり、夜が長くなってゆく。
自然、人の動きも変わってくる。
そんな中でも、日々の勤めはそう変わることは無く
祈りの灯火を見守る女のそれも常の如くに。
■マーシュ > 月守護の聖人の遺物が飾られた祭壇に、小さな燭台が並んでいる。
ゆらゆらと、思い思いに揺らぐそれは小さいが、量が多い。光が零れるような印象を見る者に与え。
燃え落ちた一つを引き寄せて、片付ける。あるいは灯の尽きたものを取り替える。
訪った人の数灯されているそれを、燃え落ちるまで見守り、途中で灯が途絶えそうなら火を足して。
祈りや願い───……そういったものを見届けながら、己の観想に努める時間でもある。
一通り片づけを終えると、祭壇の前に膝をつく。
定期的に正装の手の入れられているそこは塵一つない。
壁を、扉を隔てたその場所。外のわずかな物音程度を通すこともないため、ただ女の身一つが起こす衣擦れが響くのみ。
膝の上に詩歌集を置くと、わずかに頭を垂れた姿勢で、祝福の言葉を述べる。
いまさら何を見ずとも紡げるほどに諳んじた文言を、いつものように抑揚の淡い声音が追いかけてゆく。
ご案内:「王都マグメール 王城/礼拝堂」にロレンツォさんが現れました。
■ロレンツォ > 王城内の礼拝堂。
今正に夜会の最中であろう広間に続く華やいだ外界と、夜色と静謐さに包まれた内側を隔てる大扉が開かれると、一人の来訪者を迎え入れる。
その腕に大きな紙袋を抱えたカソック姿の来訪者の足はゆったりと、礼拝堂の奥へと歩みを進め――ややあって祭壇より数歩離れた場所で立ち止まる。
夜色に紛れるような修道服、されど傍らの祭壇に立ち並ぶ小さな燭台達が形作る明かりを受けて膝を付く修道女の姿を認めては、その祈りを妨げぬよう黙して待つ。
「―――……こんばんは。えぇと……今は貴女一人ですか?」
誰かを探すかの様に、礼拝堂の中を見回してからそう問い掛ける言葉を発したのは、修道女がその祈りの姿勢を解いた後だった。
■マーシュ > 「─────……。」
扉の開く気配。身じろぐものがない中では、彼の足音は響く。
訪いに祈りの手を止めようとしたが──こちらの祈りを待つように足を止めた様子に、残りの数節を歌い終え。
膝上の詩歌集を元のように修道服の隠しにしまい終えると立ち上がる。
振り返り、改めて認めた姿は見知らぬ人の──、けれど良く知った姿だ。
祭壇の前から少し身をずらすと、静かに首を垂れる。
「───ええ、今の時間は私が受け持っております、……兄弟」
同じ宗派とは限らないが、主教の元に道を修めている間柄には違いない。
名も知らぬ相手に対して、同じ宗教者に対してはそう呼びかける様に声をかけ。
ただ、その手に抱えられた紙袋には訝しそうに首を傾げた。
「申し訳ありません、そちらの荷物はいったいどなたの手配のものでしょうか。申し送りでは伺っておりませんが」
同じ王城内に所属していたとしても見たことのない顔。
それなりに入れ替えはあるから己が知らない人物がいてもおかしくはない。
それにあたりに視線をさまよわせる様子からしても、誰かを探しているようだと判断して問う。
■ロレンツォ > 抑揚の淡いながらも耳障りの良い修道女の声が福音の句を謡い、振り返ったその姿を深紅の双眸が暫し見詰め――。
兄弟、とこちらを呼ぶ声に対してにこやかな笑みで会釈を交わす。
同じ主教の聖職者とは言え身を置く場所の異なる者同士。面識が無いのは無理も無い。
「初めまして、シスター。私はロレンツォ=マグニ――ヤルダバオートの者です。」
そう名乗りを告げてからふと、腕に抱えた紙袋の存在を訝しげに見詰める藍色の双眸に気付く。
同時に、周囲を見渡した結果と修道女の言葉に、どうやら男の捜し人は今は此処に居ないらしい事を悟ると、
「こちらの荷物は……昼過ぎ頃に此処へお手伝いに寄った際に居合わせたシスターに頼まれまして。
なにぶん王都での買い出しは不慣れなもので少々遅くなってしまいましたが、只今戻りました。」
修道女の疑問に対する回答と共に、腕に抱えた紙袋の中身を相手にも見える位置まで持って行く。
袋の口から垣間見えるのは蝋燭やインク、果ては食材といった日常的な買い出しの品々。
相応の重量がありそうな其れらを目の前の修道女に押し付ける訳にも行かず、「何処に運べば良いでしょうか?」と困った風な笑みを浮かべて尋ねかけん。
■マーシュ > こちらに向けられる眼差し。モノクルごしの赤が己に何を認めたのかは知る由はない。
ただ静かに挨拶を交わした結果───わずかに藍色の双眸が瞠られる。
姿を知らなくとも、位階によっては名を耳にする機会は当然ある。今回はそれが当てはまった、のは
「…………マグニ司祭でいらっしゃいましたか」
司教が迎えた養子といえど、その優秀さから彼の死後、司祭へと引き上げられたと名を聞き及んだ覚えはある。
己もまた聖都より王都へと出向している身ではあるが、その立場は全く違う。
軽々に兄弟と呼んだことを詫びる言葉を紡いで、それから。
「────買い出し、ですか」
王城内であるから王城御用達の商人の訪れはあるし、そもそもが自給自足を旨とするため違和感を覚えつつも、そういうこともあるのだろうと。
────困惑の表情を浮かべるのは、一体どのような心臓の持ち主が司祭にお使いを頼んだのだろうという疑問。
とはいえその風情から付き合いの良い方の様だと判断すると。荷物をそのままにするわけにも、己が受け取るわけにもいかない。
となれば、と祭壇の見守りのできる範囲の手ごろな場所に荷物を置いてもらうように願う。
「交代の時間が参りましたら、誰か参りますので──」
それが件の修道女であるかどうかは己も図りかねるが
■ロレンツォ > 瞠られた藍色の双眸。男の姓を呼ぶ声と、詫びる言葉にくすりと笑みを零す。
「確かに司祭の位を賜ってはおりますが、今はまだ司教であった養父の威光を継いだばかりの若輩者に過ぎません。
ですから、その様に畏まる必要などありませんよ、シスター。」
それから、続く修道女の問い掛けには首を縦に振って肯定すると。困惑の表情を浮かべる彼女の心中を何となく察してか否か、可笑しそうにくすくすと笑う。
「私も手伝いに来たついででしたから、買い出しくらいはお安い御用です。
それに、何でも急遽必要になったとの事で……おっと、いいえ何でもありません。」
急遽口を噤んだのは、何かに思い至った様子。
―――恐らく、袋の口から覗く日用品はカモフラージュの為だ。
その奥に仕舞われたちょっとした嗜好品――恐らく、王城の修道女が手に入れるには色々な意味で苦労するであろう其れらを、目の前の修道女の目には入らぬよう紙袋を抱えなおしてから、指し示られた場所へとそっと其れを降ろしてゆこう。
出来れば、彼女の言う"誰か"が件の修道女である事を願いつつ。
「――――さて、それでは改めて。他に何かお手伝い出来る事はありますか?シスター。」
困惑の表情、その胸中を知りながら。まるで揶揄うかのように男はそう尋ねかける。
■マーシュ > 「……………いえ。─────……失礼いたしました。私はマーシュと申します」
相手の名を聞いて、少々驚いたせいかこちらの名を告げるのを失念していた。そも、名を聞かれるほどのものではないと自認するからか己から名を口にすることもあまりなく。
謝罪の言葉を挟んでから己の名を告げる。
寛容な言葉にはただ頷いて謝意を伝えたが。───可笑しそうに笑う彼の様子に訝しむのは至極当然か。
両手に抱えなければならなないほどの荷物をお使いしているのだし。その依頼した当人がいないとなっては──感情が波立っても致し方ないというのに。
「……そうおっしゃっていただければ、姉妹も安堵することでしょう……」
そもそも司祭とわかっていて頼みごとをしたのか、していないのかそれはわからないことだけれど。
いったい何を頼まれたのかは女にとって知るよしのないなぞのまま。
荷物をおろしてもらったら───。
揶揄うような声音に対して首を横に振る。この勤めはいつものことだし、時刻も遅め。特に何があるわけでもない。
「特別何かしていただくようなことはございません。…普段聖都にいらっしゃるのであれば、王都ではご不便されたのでは?」
街並みがまず違う。その構造の意味も。
出向当初は己もよく道に迷ったことを思い出して目を細める。何か手伝うこと、というのであれば、どうか休息を、と言葉を返した。
■ロレンツォ > 「…………シスター・マーシュ?では、貴女がヤルダバオートからの。」
告げられた修道女の名乗りに、今度は男が深紅の双眸を瞠る番となった。
直接の面識や携わる機会は無かったが、神聖都市から王城への出向という形で送り出した修道女の中に、そのような名の人物が居た事は朧気ながら記憶にあった。
「ええ、とても明るくて気持ちの良いシスターでしたよ。
生憎名前を聞きそびれてしまいましたが、彼女にもどうぞよろしくお伝えください。」
今男の目の前に居る修道女とは正反対な程に、一切の遠慮も躊躇いも見せず買い出しのメモを押し付けながら朗らかな笑顔と共に買い出しへと見送った件の修道女――。
抱えた袋を降ろしながらその経緯を愉しそうに語って聞かせながら、気遣わしげな彼女の問い掛けには対しては矢張り首肯をひとつ。
「そうですね……王都の教会や関連の施設へ勤めで赴く事は多いですが、買い出しとなるとまた勝手が違いましたね。
お陰で、とても貴重な経験をさせてもらいました。」
皮肉や嫌味では無い、心からの感想。
手伝いの代わりに休息を勧める修道女の言葉には、御礼の言葉だけを伝えてから。
「お気持ちは嬉しいのですが、まだ済ませねばならない用事が残っているので今日の所はこれで失礼しますね。
シスター・マーシュ、次に来た時は貴女のお話も聞かせてください。」
そう告げて、踵を返した男の足の向く先は元来た方向――礼拝堂と外界を隔てる大扉へとその手を掛けん。
■マーシュ > 「はい」
こちらが相手を知っていることはあってもその逆はないと思っていたのだけれど。
どうやらその見込みは違ったよう。向けられた言葉には素直に応じたが。
「───かしこまりました」
あげられる美点は確かに己とは真逆のそれだ。
当てはまる人物がないこともない、のは面白いところだけれど。現場を目撃していたら頭痛を覚えていたのかもしれない。あるいは胃痛か。
とはいえ、仮にそれが先輩格であったり、違う宗派の修道女であればまた違う気もする。
楽しげな様子で言葉を重ねてくれるのはせめてもの救いというか、気遣いにおもわなくもない。
「何か……司祭様にとって良い出来事があれば、せめてもの幸いかと思います」
本当に。
けれど俗世と関わることが少ない身の上にとっては、そういった経験は確かに得難くて貴重なのだというのは近頃身をもって知りつつある事実でもある。
否定することなく朗らかに応じる言葉にこちらも幽かに笑みを浮かべて、頷いた。
「お忙しいところ、ありがとうございました。荷物は、引継ぎのものと相談させていただきます」
僅かの時間語らい、それから辞去する相手へと見送りの言葉を手向ける。
扉に手をかける相手を見送るように姿勢を正して、最初のように首を垂れ。彼がその扉の向こうへと姿を消すまでそうしているのだろう。
扉が閉ざされた内側ではまた、元の静寂が戻るはずで──。
■ロレンツォ > 数刻前の記憶の中の修道女とは裏腹に、丁寧な態度で受け答えを返す目の前の修道女の姿を片眼鏡越しに改めて見遣る。
どちらの方がより好ましい、とは思わない。彼女達の普段の関係性は部外者の男には判らないが、どちらも修道女として必要とされ得る人物だ、というのが率直な感想。
「 ………今日は彼女の頼み事を聞きましたから、次は貴女の頼み事を聞かせてもらいますからね。それでは、また。」
最後の最後に冗談めいた、揶揄うようなその言葉を残して大扉に掛けた手に力を込めれば、修道女に見送られるままに束の間の来訪者の姿はその扉の向こう側へと消えてゆき――訪れるのは元の静寂。
彼が残した紙袋の底に隠された"秘密のお使いの品"は無事に件の修道女の手に渡ったのか、或いは明るみとなってシスター・マーシュの胃を痛める結果となったのか。それはまた別の話で―――。
ご案内:「王都マグメール 王城/礼拝堂」からロレンツォさんが去りました。
■マーシュ > 「───私の?………、そのようなことをしていただくわけにはまいりませんが…ええ、またお会い出来ればと思います」
冗談めいた言葉に少し瞬いて、困った様に頷いた。
そうして扉が閉ざされ、元のような静けさと、ゆらゆらと光が零れる空間が戻ってくる。
思わぬ出来事はあったが───……残された荷物を見るにどうにも夢などではないようだ。
引継ぎの際にやってきた修道女が件の彼女だったのかは、いそいそとその荷物を回収していったことからも知れるのかもしれない。
どちらにせよ──司祭様をお使いにする豪胆さとその悪びれのなさは、彼女の長所ともいえるのだろう。
そんな日常を、祈りの灯火がゆらゆら揺れながら見守っていた。
ご案内:「王都マグメール 王城/礼拝堂」からマーシュさんが去りました。