2023/08/25 のログ
セレンルーナ > 「………。」

レイピアに手をかけたまま、数歩下がって杖を向けてくる彼女をじっと見据える。
宮廷魔術師の一人である彼女が、この件に関わっている可能性は大いにあるだろう。
忍び込んだわけでなく、彼女の言葉通り偶然迷い込んだが故に聖騎士団の制服のままこの場にいるのは、少々分が悪い。
情報は今のところ、上層部のみで共有されており関わりのない部署や末端には秘密にされているであろう場所に踏み込んでいるわけなのだから。
スターチェンバーとしても、噂程度の情報は集まってはいるもののスターチェンバーの本来の職務は貴族の不正の取締であって、このような件は専門外だ。
聖騎士団員としても、スターチェンバーの職員としても、どちらの立場から見ても完全に部外者である。

「賊ではないかな。セナとでも呼んでくれたらいいかな。」

聖騎士団からたどれば、自分の素性などには簡単に行き着きそうではあるが、そのときはしらばっくれればいいと、偽名を名乗り。

「……あのような大量の魔力を、城塞都市に向けて放つなんて。」

まだあの都市には、逃げ遅れて虐げられる人々もいるというのに…。
と、計画を聞けば苦々しげに呟きを零していた。
そもそも、この魔術鉱石に貯められた魔力の量にしても、どれほどの犠牲の上に出来上がっているものかと、ちらりと魔術功績にグリーンブルーの瞳を向けて、レイピアから手を離した。

「心配しなくても、これでも王国に身を捧げた騎士の身。
 暁天騎士団に情報を渡したりなんてしないかな。」

納得のいかない事ではあるが、自分程度でどうにかできると思うほどに傲慢でもない。
自分で王国に身を捧げた騎士と言いながらも、矛盾を感じて拳をぎゅっと握りながら首を横に振って。

ミシェル > 聖騎士がレイピアから手を放すのを見れば、ミシェルもまた杖を下ろす。
例え彼女が居合切りの達人だったとしても、この距離であれば魔法の方が速い。
特に警戒は必要無いだろうか。

「おや、魔法は嫌いかい?それなら大量に大砲を用意して撃ち込むか…。
どの道やらなきゃあそこはいつまでも連中のものだ。その方が酷だと思うね」

呟きが聞こえたのか、ミシェルは語る。
王国としても魔族やらシェンヤン帝国やら、戦争の相手は沢山ある以上、
国内の賊徒相手にそう時間はかけていられない。

「それは立派な話だけど…どうだろうね。
魔術で口を割らせる方法なんていくらでもあるし」

いや、君を信用してないわけじゃないのだけどと付け加えつつも、
その言葉の通りでないことはミシェルの態度が示しているだろう。
そして更に、ミシェルは目の前の聖騎士に疑い深い目を向けた。

「それともう一つね…。僕の会ったことのある聖騎士は真っ先に家名を名乗るよ。
あそこは血統を重視しているらしいからね」

貴族騎士にとって真っ先に名乗るべきは個人名より家名だろう。
それぐらい、貴族同士の付き合いに疎いミシェルでも知っている。

セレンルーナ > 「魔法も大砲も、人にむけて打つのは嫌いかな。
 わかっているよ。武力を行使しなければどうしようもない事があることも、必要な犠牲があることも。
 言われるまでもなく、理解っている…。必要とあらば、手を下す覚悟だってあるかな。
 けれど、犠牲を思えば胸も痛む。」

タナールとハテグでは、終わりなき小競り合い程度から大規模なものまで、終わりなき戦乱が続いている。
人も物資も有限であり、多少強引にでも物事を前に進めなければならない。
その為に、『多少』の犠牲が出ることもやむを得ない事もある。
そう飲み込むものの、針を飲み込んだように胸が痛むのは仕方のない事だろう。

「二日酔いでサボれる場所を探してたら、たまたま此処に行き着いただけかな?
 そんな不真面目な騎士が、そんな重要な情報を持ってるなんて誰も思わないかな。」

後ほど、セレンルーナの素性を調べたとして、出てくるのは不真面目な勤務態度といった昼行灯な聖騎士団での様子だろう。
肩から力を一度抜いて、竦めると疑いの目を向ける彼女を見つめ。

「あそこは、一応平民でも入れる事にはなってるかな。もちろん、貴族階級が圧倒的多数なのは認めるけれど、私が平民あがりだったら家名を名乗りようもないかな。
 そもそも、貴族だったとしても不法侵入してるわけだから、家名を正直に名乗る方がおかしくないかな。」

偽名では納得してくれなかったか、と内心舌打ちをしつつもそんな言い訳を並べてみるけれど、納得はしないだろうなと思いつつ。
これが、変装した上での侵入であればもう少し誤魔化しも効くのだが、本当に偶然たどり着いてしまったのは不運としかいいようがないか。

ミシェル > 「犠牲ね…僕らだって犠牲を減らすためにやってるんだけどな。
強力な兵器が無ければその分死ぬのは兵士だ。戦いが長引けば住民も苦しむ。
それに、もしかしたら威力を見て連中も降伏してくれるかもしれない。
そうなれば万々歳さ」

どの道、城壁を破壊しても城塞内での凄惨な白兵戦が待っているだろう。
アスピダ側も怪しい連中を投入しているという話も伝え聞く。
犠牲無く全てが解決するわけはないが、それでもやらないよりはマシだ。

「そんなものでここにたどり着くだろうかな…二日酔いという割にはどうにもしゃきっとしているし。
そこまで不真面目そうには思えないな」

剣に手をかけてこちらを見る目は、酔いどれには見えなかった。
家名を名乗らない理由も、怪しい話だ。
平民でも名乗る家名はあるだろうし、むしろ名乗りたがる。
貴族でないのに騎士になれたということは、本人の確かな実力を証明するのだから。
だが、ミシェルはため息をつくと首を振り。

「はぁ…まぁいいや。僕も暇じゃないし。
じゃあ最後に、君が具体的にどこからどこを通ってここに来たのか案内してくれ」

二度とこんなことが無いように塞ぐからと。
しかし、その経路上にはスターチェンバーの隠し通路があるはずだ。
教えれば部外者たるミシェルがそこに行きついてしまうだろう。

セレンルーナ > 「そういう事もわかってるかな。実際私だって、戦場に駆り出されればその兵士側なわけだし。
 けれど、だからといってほかの『犠牲』を『消費』するようなやり方には、あまり賛同できないかな。」

と、いいつつ極大魔術鉱石に視線を向ける。
その魔力の源が何かに気づいているように、魔術鉱石を見つめたあとミシェルへと視線を移して。

「そりゃあ、サボることにかけては努力を惜しまないかな。
 それに、こんなものを見せられてこんな強い魔力を浴びたら二日酔いも消し飛んでしまうかな。」

彼女の言う一つ一つに理由をつけては返していく。
平民であれば、姓を持たないという家もまた多い。
…というところで納得してほしいところだが。

「暇じゃないのに時間をとらせて悪かったかな。
 大丈夫、私以降道に迷い込むような人がいないようにちゃんと通路は隠しておくから、お構いなく。」

とりあえずは、見逃してもらえそうだと思ったのも束の間。
ここまで来た経路を考えれば、それは教えられなかった。
下手をすれば、スターチェンバーの隠し通路が隠し通路でなくなってしまう。
寧ろそのリスクが高すぎる。
一難去ってまた一難か、と思いつつ正規の出入り口はどこかとちらりと視線を地下へと落として

ミシェル > 聖騎士につられ魔術鉱石に目線を向けるミシェルだが、
彼女の顔に視線を戻すと首を傾げる。
彼女の言わんとすることが分からなかったわけではなく、
むしろ分かったからこそ不思議がっていた。

「んー…?別にこれを搾り取る過程で死人は殆ど出てないけどな…。
死んでるのも捕虜の魔族とかだし…」

ミレー族は奴隷であり、王国の労働力。
国家予算を投じて商人から買い集めた資産である。
彼らに関しては死なないように注意を払っている。
捕虜の魔族も使っているが、彼らに関してはそもそも王国に攻め込んできた連中だ。
死んでも自業自得だろう。

「そういうものかな…うーん。まぁそういうことにしておくか…」

彼女の言うことは疑わしいが、否定するような証拠も無い。
追及し続けてものらりくらりはぐらかされるだけだろうか。
しかし、一点だけは譲れない。

「いや、僕も宮廷魔術師として王城に変な通路があるのは看過できない。
責任もって僕自身が調査して報告して塞ぐ必要がある。
それにまぁ…ここで見た物を覚えたまま帰られても困るし、
王国の為だと思って案内してくれないかい?」

記憶消去をちらつかせつつ、ミシェルは言う。
王城の保全も彼女らの仕事のうち。特にここは機密倉庫だ。
変な入口があってはいけないし、それを知る者もいてはならないのだ。

セレンルーナ > 「こちらにも、色々と事情があってね。悪いんだけど教えられないかな。」

苦笑を浮かべると、退路を確認後腰のポーチから魔法薬の練りこまれた煙玉を素早く取り出して、ミシェルの足元へと放り投げていく。
一気に煙が広がれば、一瞬でもその視界を遮ることはできるだろう。
仕込まれた魔法薬には、認識阻害の成分が含まれており多少なりとも記憶の中の認識も薄れるはずで。
煙に紛れると、セレンルーナは駆け出して見つけた出入り口へと滑り込んで逃げ去っていくだろう。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】地下」からセレンルーナさんが去りました。
ミシェル > 「わっ!?くそっ…!」

怪しい聖騎士がこっそり取り出し投げた玉から、猛烈な煙が吹き出る。
咄嗟に杖を向けるも、時すでに遅し。
聖騎士の姿はどこかへと去って行き…。

「……困ったなぁ」

煙が晴れれば、その姿は跡形もなく。
ミシェルはどうしようかと思い悩むのであった。

ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】地下」からミシェルさんが去りました。