2023/08/23 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/練兵場」にマーシュさんが現れました。
マーシュ > 昨今の情勢の変化で、城の中は少々騒がしい。
権謀術数の舞台ともなればある意味当然なのかもしれないが。

王城内の少しだけひりつく空気を知ってか知らずか、女はいつものように勤めをこなすだけではあるのだ、が。

「────ん」

通りがかった練兵場、見慣れた背中に一度足を止める。
通常は声をかける必要は、ない。

「……………」

僅かの煩悶を挟んでから、ゆるりと歩を向ける。
そういえば先日の礼もまだだったとか、そういうことを思い返して。
──余計なことまで思い出して首を横に振る。
とりあえず記憶は散らしてから───。

「こんにちは、今日の訓練はもう終わりなのですか?」

人がまばらだ。
訓練中の緊張感もさほどなく、どちらかといえば弛緩した雰囲気に無難な言葉をかけた。

ヴァン > ふと、空気が変わったことに気付く。武器を手にとらない者が紛れ込んだ時の違和感。
振り返った時、微かに首を横に振っていたようで不思議そうな顔をした。

「……やぁ、マーシュ」

存在に気付くと立ち上がり、軽く手を振ってみせる。
練兵場での普段の振る舞いとはかけ離れた行動に、ヴァンとマーシュを交互に眺める者達の数が両手を僅かに上回った。
男もそんな空気を感じたのか、周囲を見渡す。蜘蛛の子を散らすように人が離れていく。

「……あぁ、定期的に顔を出しておこうと思ってさ。そこまで本格的に稽古をするわけじゃない」

マーシュ > 「…………」

不思議そうな視線を向けられると、なんでもないですよ、と言いたげに笑みでごまかした。

こちらに向ける相手の仕草や表情は欲見知ったものなのだが──練兵場に詰める彼らにとっては珍しいものらしい。
………結局散らされて行った彼らを見送るように視線を流してから。

「そうでしたか、……以前お見かけした時は、もっとたくさん人がいたように思いましたから」

あの時は、彼がここで指導する立場になって間もないころだったか。
そんなことを思い出すように目を細めて、小さく頷く。
こちらも相手を呼び止めてなにがしかの用件があるわけではなかったからそれはそれでよかったのかもしれない。

「姿をお見かけしたので……挨拶に、と」

ヴァン > 以前、と問われて思い出した。己が教官をやっていた時のことだろう。

「あぁ、あれはここに詰めてる神殿騎士団に訓練をしていたんだ。
月に1回ここに来る時は彼等とはやらずに、その場にいる人達と一緒に訓練をしている」

その一環として賭け試合をやっている、ということは黙っておく。どんな目で見られるか、だいたい予想がつく。

「あの時は団長から頼まれて、各地の部隊の訓練を受け持ってたんだ。
王都内だけならともかく、他の都市まで行くのは大変だったな……」

その出張絡みでやけ酒をした記憶が思い起こされた。彼女もその姿を見ているので少し気恥ずかしい。
挨拶と言われ、回廊をみやる。少し距離はあるがこの季節に黒づくめというのも珍しいからわかったのだろうか。
ただ顔をあわせるだけ、というのも勿体ない。手に持っていた打刀を腰に差す。

「そうか。――丁度いい、俺も帰るとするか。
礼拝堂まで戻るんだろう?そこまで一緒に行こう」

王城の構造からすると神殿図書館、あるいは男の住まう宿屋へ向かうには少し遠回りになるのだが、気にした風もない。

マーシュ > 「………そういえば。………あの時とは一緒の方の制服が違いました」

こちらに用向きがあったとして、さほど関りがあるわけではない。
重要な打ち合わせは上役が行うし、己がするのはもっと些末な雑事が多い。
できることも、かかわる人員も限られている。

だから彼がごまかした言葉の本意を知ることはなく。
───知れば、まあ予想通りの反応を示したとは思う。

「────あの時はずいぶんと……」

荒れていた、というべきか、よれよれだったと評するべきか。
酷く思いつめた顔で酒を煽っていた時もあったけれど──それに言及するのはよしておいた。

「……ぁ、……はい。お邪魔でないなら、ですが」

訓練相手か誰かを待っていた様子にも見えていたのだが。
向けられた言葉に一瞬迷って、頷いた。
さすがに出向期間も長くなってくると城の構造も己が活動する範囲くらいは把握できる。
間違いなく彼にとっては遠回りなのに気づいたけれど───、気遣いを酌む様に素直に連れ立って歩きだす。

「──先日はありがとうございました。ああいったことは初めてだったんですが…、楽しかったです」

道すがら、訥々と先日の謝辞と、感想を紡ぐ。
紆余曲折有れども、感情はそこに落ち着いたから。

ヴァン > 思った通り当時のことに言及されてしまったので、穏やかに微笑んでみせた。誤魔化すともいう。

「今日は実家の方の仕事だから、時間は自由なんだ。他の家との交渉が主でね。
気分転換も兼ねての練兵場だけど、これくらい陽が落ちないと身体に堪える」

冗談めかして言うが、昼間からの訓練で体調を崩す兵士は多い。
彼等を指揮する者達いわく、戦場で戦える時間を選べるなんてことはない、とのことだが――。
歩き出してから言われた感謝の言葉に、少し嬉しそうに笑った。

「そうだな。俺も泳ぐのは久しぶりだった。
夏は図書館にこもって過ごすのが一番だと思っていたが、あぁいうのも楽しいものだ。
――次はあんまり、大人げないことはしないよ」

プライベートプールでのことなのか、何度もウォータースライダーで遊んだことなのかはわからない。
悪戯っぽい笑みがそこまでではないことから察するに、おそらくは後者なのだろう。
斜に構えることが多い男がアトラクションに対して意外とエンジョイする姿は、普段彼女に見せなかった一面だろう。

マーシュ > 「ご実家とは問題ないようで良かったです」

以前行き違いがあった時とは違う、やり取りを感じさせる言葉にはほんの少し嬉しそうな色が表情に乗る。

訓練については女は門外漢ではあるが。
………野良作業もあまり日の高いうちには始めない。朝の涼しい時間や、陽の翳りだした時間帯から行うのが負担が少ない、というのは経験則として知っている。
それに通じるものかな、と相槌を返す。

「………、…………あ、はい」

大人げないってどれのことだろう、と余計な記憶がよみがえってきた女は若干視線をそらし気味に頷いた。
軽い語感からは、おそらく午後からのことだろうと思うのだが。

……其方も未知だった女にとっては大変衝撃的だったのは確かだ。
最初は固まったままだった記憶が引き出されて、目を伏せた。

それはそれとして───普段と違う姿を目にすることができた、という意味では有意義ではあったのだ。おそらくは互いに。

「…いえ、ああいうヴァン様も……新鮮?で面白かったですよ」

ヴァン > 「問題……」

嫌なことを思い出したのか、少し苦い顔をした。やりとりが再開したからこそ発生するしがらみと言うべきか。

「母親が夏風邪で体調を崩してな。数日寝て安静にしてたら治ったらしいんだが。
『家の恩人の声を聞かないと治らない』とか言い出したらしくてな……」

恩人、と言いながらマーシュを指で示す。男の母親は茶目っ気のある人物のようだ。
額に手をあてて頭を振った。男が父親と対立していたのなら、母親にはさぞ気苦労がかかっていただろう。
声を聞く、という言葉と共に聖印を軽く触ったことから、二人の間で行えることを実家の誰かともやっているようだった。
新鮮、という言葉には頷いてみせる。互いのことを知っているようで、知らないことがどんどん増えてくる。

「……そうだ。次の休みの日、前日に泊まりにくるといい。面白いものを見せるよ。
あぁ、あと。マーシュは犬と猫、どっちが好き?俺は実家で飼ってたこともあって猫が好きなんだけど」

にこりとした笑いは、その『見せたいもの』に自信がある様子を感じさせた。新しい本でも仕入れたのだろうか。
――一方で、唐突感のある質問。こちらはあまり良くない意図を察するかもしれない。

マーシュ > 「う、ん、ん?」

指で示されて、面食らったように首を傾ける。
そんな大したことはしてないと思うのだが───、と眉尻を下げる。
互いに歩み寄る気持ちがあったから、部外者の言葉で動いただけでしょうに、と思うのだけれど。

芝居がかった仕草と、己の知っている仕草に対してああ、と頷いたが。

「………声くらいでよければそのうちに」

如何届けるのかも、会話についてもさっぱり思い浮かばなかったが、病み上がりの女性に無理をさせるのもよくないし、と受け入れた。

そうやって、言葉を交わして。互いの知らないことが増えてゆくのはまた楽しくもある。

「……面白いもの?ですか………外泊届を申請しておきますね。
どちらも好きですが──、猫の方がどちらかといえば好きです」

向けられた笑みに、わずかに目を細める。
何だろう、特に否はないのだけれど───、唐突な言葉に胡乱な眼差しを向けることになったかもしれない。
それでも真面目に申請はする旨を伝えた。………上役に根掘り葉掘り聞かれる時間がまた追加された気はするが、それはあきらめる。

ヴァン > 「あぁ、マーシュならそう言ってくれると思ってた」

彼女自身の自己評価は低いが、辺境伯にとっては長年の懸念が解決したのだ。大げさな反応とは言い切れない。
男が素直に受け入れる言葉を発した部外者の存在は男の家族の関心の的だった。
どこか浮かない表情なのは、おそらく母親が彼女に根掘り葉掘り聞くことが容易に想像できるからだろう。

「あぁ。ま、楽しみにしててくれ。猫か。うん、わかった」

うんうんと頷く。ウィンプルの上――頭頂部のあたりだろうか?――を見たり、首筋を見たり。
そんな話をしているうちに、礼拝堂が近づいていた。時間が経つのはあっという間だ。

「それじゃ、また。何かあったら教えて」

聖印での連絡を言っているのだろう。そう言うと緩くハグをした後、城門へと向かっていった。

マーシュ > 「それくらいであれば大したことはないかと思いますから」

やたら深刻に受け入れる相手方が、むしろ女にとっては不思議というか。
それは彼らの関係性を知らないからこそともいえるのだが。
その齟齬が埋まる日が訪れるかどうかは、わかりはしない。

「───?ええ、楽しみにしておきます」

向けられる視線が、変なところに留まるのに対してはやや困惑はするのだが。
それでも休日をともに、という言葉には素直に喜びがある。

そうやって会話を交わしていたら、己の詰める礼拝堂はもうすぐそこだ。
それでも、そうやって言葉を交わせたのは己にとっては貴重な時間だったが。

「う」

返事を返す前に、ゆるく抱きしめられたのにはわずかに固まる。
その後離れた相手が城門に向かうのを見届けてから────後ろの方でにこにこしている先輩のもとに向かう足取りはやや重かった。

ご案内:「王都マグメール 王城/練兵場」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城/練兵場」からマーシュさんが去りました。