2023/11/25 のログ
アルマース > 「好きすぎて慌てちゃって……喋る機会を逃したの……。
 恋を知らないアドラーくんには、分からない心情かしらねえ?
 あなたはいつも期待通りよ。野の花を摘んでくるのも素敵だと思うわ」

緑が豊かって良いよねえと目を細めて笑う。
干し葡萄をカクテルで流し込むと、

「そもそもまともな貴族はわざわざ我々庶民に絡んでこないで、責務に忙しいのかもしれないね。
 ――いま魅力のかたまりって言った? 口がうまいわね、仕方ない、食べさせてあげる」

枝付レーズンの枝を外すのは難しかろう、という建前で愉快気にアドラーの分のおつまみの小皿に手を伸ばす。
そういえば借り物なんだった、汚してはいけない、としゅるっと右手のグローブだけ外して。

「とうとう恋する女の子に刺されたの?
 初心な子には口の上手さを半分くらい封印しておかないとだめじゃない」

アドラーが酒のグラスを置いたのを見計らって、
はいどうぞ、とむしった干し葡萄を摘んでアドラーの口元へ持っていく。

アドラー > 「憧れの人が目の前に居ると緊張してしまう気持ちはわかる。
 ま、今回が最後というわけでもないだろう。次回の機会を待とう。

 いや、何故恋の話になるんだ。…ふふ、お褒めの言葉、素直に受け取っておこう」

憧れの人を眼前にすると通常通りの自分を出せなくなるのは誰であっても同じだ。
そして急に恋の話題になり、ばつが悪そうに彼女の方に目をやるが次の言葉には笑顔を見せる。

「かもしれないな。
 君が魅力的だということは毎度言っているつもりだったが、伝わってなかったか。
 …別にこれくらいは自分で食べれるんだがな」

相変わらずの揶揄するような言動に目を細める。
急に自身の小皿に手を伸ばした場面を見て、酔いが回っているのかと思案しつつも
あえて止めるようなことはせずにその様子を見守る。

「恋する女の子にしては、やや耳が尖がってて肌が緑っぽかったが。
 あぁ、そうしようか。戦場でない場所で刺されて死ぬなんて、冒険者として死んでも笑い者にされそうだ。

 …ん」

ゴブリンに恋されて、攻撃されるなんてたまったものじゃないと苦い顔をしつつ
干し葡萄を差し出されれば、口を開きそれを食べようとする。
やや黒みを帯びた茶色の、繊細さが宿るしなやかな指に自身の唇が触れるだろうか。

アルマース > 「あなたにも憧れという感情はあるわけね。ふむふむ。
 自分の中に理想の相手の姿をつくってしまう、って意味では恋と同じようなものかなあって」

この手の話になると居心地悪そうになる青年が毎回面白くて、ついそういう話に引っ張ってしまう。

「断り文句と一緒の褒め言葉なんて褒め言葉のうちに入らないの。
 あと百回くらい聞いたらちゃんと聞こえてくるかなー」

機嫌が良いのは確かに酒の力もあるのかもしれない。
しかし動きは危うからず、ふらついたりもしていないけれど。

「……耳が尖って……? 肌が緑……? それ何て魔物?
 待って待って、ええと、つい昨日図鑑でお勉強したわ。……ゴブリン?」

絵に描かれた小鬼を思い出す。白黒の図鑑だから肌の色は文章で書かれていただけだけれど。
自分も旅をするとはいえ、戦いは避けて逃げて隠れてやり過ごすもの――魔物なんて『どれも怖いやつ』程度の認識であった。
よく聞きはする名前を、口に乗せたのすら初めてかもしれない。
問題を解き当てたみたいな、当たりでしょ、という笑顔が、
指に触れた唇の感触に少しの驚きに変わる。
自分からしておいて、思いのほか素直でびっくりしたのだ。

「…………」

干し葡萄を指先で押し込んだ後、青い目のそばの黒子をひと撫でし、微妙な沈黙を生んでしまった。
店主の磨くグラスがきゅっと鳴る音が聞こえるくらいの。

アドラー > 「最近はそう思う人物も居ないが、過去にな。
 そうか、恋か。…最近はそういう相手が居ないな…」

本気で憧れ、本気で恋し、がむしゃらに突っ走っていたのが懐かしい。
それゆえ多くの過ちを犯してきた。恋の話となると、まるで自身の過去の失態を掘り返されているようで苦手だ。 

「君のような麗しい女性に口説かれるのは光栄だが、私よりいい相手が居るだろう。
 百回でも二百回でも言うが、他意はないぞ」

以前、誘いを断ったことをやや根に持っていると思われる発言に、弱みを握ったような気がして微笑む。
女性としての魅力に富んだ彼女に誉め言葉を連ねることは苦ではないが、それはあくまで友人としての言葉。
下心はないと釘を刺しておいて。

「あぁ、ゴブリンだ。君も旅をするなら気を付けて損はない。
 図鑑で勉強か。熱心だな」

本業が踊子の彼女にとっては、モンスターなどは日常の外の事なのかもしれない。
それでも勉強をし、危険に備えることについては感心したように目を開く。
当たりを引き当てた彼女を褒めるような言葉と優しい青い瞳を向けるが…。

「……美味しいな。君が食べさせてくれたお陰かな。ありがとう」

相手の驚きの表情も、自身の泣きぼくろに柔肌が触れた感覚も、全てを見て、感じる。
数秒の沈黙を破るかのように発せられた言葉は、彼女を揶揄うでも、不快感を露にすることでもなく
干し葡萄の感想と、彼女への感謝だった。

アルマース > アドラーの声が沈黙を破って、ようやく言葉を取り戻したものの。
何だか調子が狂ってしまって、グラスの細い脚を摘むと酒を呷る。
下心ありきの褒め言葉なぞ聞き慣れているが、本気で他意の無い言葉として素面で聞くには甘すぎるのだ。

「……他に夢中になれることがあるならそれで良いけど、
 心も体も、押し込めて歪ませると、時間が経つだけ拗れて面倒になるんだから。
 あたしを見習ってのびのび素直になりなさいな」

何笑ってるの、と微笑みを見逃さず、小さく睨む視線。

「いい相手ってマスターのこと? マスターは確かに良い男だけど……
 安心して飲めるお店は、良い男以上に貴重だからねえ。
 ……、他意は無いって、普通ならありがたいものなんだけど。
 誘った相手に限っちゃありがたくないの、分かってないわね?」

まったくもう、と怒った素振りで摘みやすいようにアドラーの小皿のレーズンを枝から全部外した後、ずいと押しやって。
自分の小皿のレーズンを口に放り込む。

「魔物からとれる素材とか、知っておけば仕事の役に立つっていうからさー。
 あ、仕事って踊りの方じゃなくて、鍛冶屋の方のね?
 暇なときに接客要員で働かせてもらってるんだー」

言ったっけ、言ってなかったような気がするな、と記憶を辿る。

「誘ってるなら満点よ。心配する必要なかったわね。
 ……そっちの手、貸して」

優しい目と素直すぎる感謝の言葉とは対照的に、腹立たしいと言いたげに尖らせた唇。
顎でアドラーの怪我をしている方の腕を示す。

アドラー > 酒を呷る様子にやや驚きつつも、彼女らしい一面を見れたことが嬉しく。
直後には笑顔になってその様子を眺める。

「のびのび素直に、か。
 そうだな。いつ死ぬかわからないんだ。言いたいことは言えるように努めるとしよう」

睨まれる視線にも飄々としながら、さらっと命の危険がある仕事であることを述べる。
今回も運悪く…いや、運良く左腕だけで済んだが、この運が続くわけじゃない。
彼女を見習って生きるよう努力しようか。

「そういうことではなく…君も一生踊手をやるわけではないだろう?
 人生を共にする伴侶という意味さ。確かにこういう店も貴重だけどな。
 ふふ、こう見えても勘は鋭い方さ。君のような女性を揶揄える経験は中々無いからな、楽しませてもらっているよ」

相手が自分に抱いている気持ちはなんとなく察している。そこまで鈍感じゃないが、相応しいのは自分ではないと思っていて。
レーズンを外してもらえば「ありがとう」と言いつつ、自分も一つをつまんでぱくっと口に含む。

「あぁ、踊りの小道具として使うために知識を付けているのかと思ったが違ったか。
 しかし、鍛冶屋の接客もやっているんだな。どこの鍛冶屋で働いているんだ?アルマ」

そういえば自分も最近はとある鍛冶屋で武器の依頼など世話になっていることを思い出す。
まさかとは思うが、一応鍛冶屋の名前なんかを聞いておこうか。

「…?」

唇を尖らせる姿を愉快そうに眺めていたら、手を貸せといわれて
やや硬い動きながら、左手を彼女の方へと差し出す。

アルマース > 「――じんせいをともにする……。
 ……そうねえ。冒険者じゃなくたって、いつ死ぬか分かんないし。
 子どもができたりしない限りは、旅暮らしやめるつもりないから。
 一生の伴侶、なんて考えてなかったなー。
 ずっと一緒にいたいと思ってた子は今や人様のものだし。
 ……あの子も、ハイグウシャは要らないの?なんて、お堅い言い方してたな……。
 そういうところ、やっぱりなあんか似てるんだよねえ」

頬杖をついてアドラーの横顔を眺めては、懐かしそうにゆるやかに瞬く。
すぐに、辛気臭くなっちゃった、と肩を竦めては、明るい声に切り替えて。

「違いまあす。アルマさんは、ある時はヴァルケス武器防具店の店員なのよ。
 ご贔屓にどうぞ~!
 値引きはできないけど、笑顔は無料でいくらでも」

サービスする、なんて勝手に言ったら、店主に叱られるか呆れられるか給料から引かれるか――
なので、自分の顔の横にパーの両手を持ってきて、とっておきの笑顔だけ先に振る舞っておく。

しかして後、アドラーと反対隣のスツールの上に乗せてあった小さなバッグから口紅を取り出して。
悠々と塗り直し、身を屈めて包帯の上につける色鮮やかなキスマーク。
どの程度の怪我かも分からないし、まさか痛めつける気は無いので、手には感触さえ伝わらないくらいの軽さで。

「んふふ。これで今夜は誰も誘えまい」

アドラー > 「引く手あまたな君にとってはまだ早い話だろうが…その様子だと、運命の相手にはまだ会っていないみたいだな。
 あの子…あぁ、初恋の。私と彼はそんなに似てるのか?」

いつか聞いた初恋の相手。言葉の節々から聞こえる単語にその人のことだと納得する
が、似ていると言われ、自分はそんなにお堅いだろうか?と右手を顎に添えて考える。

「……!これは、なるほど。これも、巡り合わせか。
 そうだな。甘味、美味しかったぞ」

頭に浮かべていた言葉を聞くと、今日一番驚いたように目を見開く。
懐から小瓶を取り出し、それを振って中に残っている砂糖菓子をからからと音を立てながら示す。
多くは語らず、それでも相手に伝わるよう、既に来店していることを教える。

「ふふ、あぁ、そうみたいだな。
 今夜の私は君だけの物のようだ」

治すでも、傷つけるでもなく、包帯の上にされたのは接吻。
そして残るのは色鮮やかな彼女の唇の形。それを見て、微笑みを浮かべながら
今夜限り、何があっても青い瞳の男の所有者は彼女であることを、キスマークが証明するだろう。

アルマース > 「運命の相手、っていうのが存在する、って思ってるとこが似てるかな。
 誰が良いかなんて、自分で決めるものだと思うけどなー。タイミングや運も含めた上で、だけど」

そのタイミングや運を運命と言うのかしら、と首を傾げる。

「ン? ……あれ、ご来店済みだった?
 あ、甘いのだ。店長があの顔でそれ作ってると思うときゅんとしちゃうよね~。
 勤務開始日に、おやつ休憩無いの?って言ったら、おやつまで作ってくれたの、優しくない?」

あつかましい新人店員は、良いお店だったでしょ、とにこにこと語る。

「あたしのものだったら持ち帰って抱き枕にしてる。
 誰のモノでもない、が正しいんじゃないかしら」

おかげさまで一人寝だわ、と、嫌がらせが全然嫌がらせにならなくてぼやく。
元より一夜の相手を求めていたら、滅多に客の来ないこの店を選ぶわけもないから、半分はアドラーに聞かせるための愚痴でしかないが。
ともかくおまけの嫌がらせをすることにして、二人分の代金をカウンターへのせる。

「可哀想な怪我人のアドラーくんに、今日はあたしが奢ってあげる。
 腕が治ってぱーっと稼いだら次はあなたの奢りだかんね」

先日世話になったこともあるので単純にお礼としても良いところ、
再会を願って貸しとする。
貸し借りには律儀そうな相手と見込んで、にこーっと性質のよろしくない微笑みを浮かべて。

アドラー > 「存在するさ。私は一度出会った」

首を傾げる彼女に、少し本気の声色で述べる。
数秒、顔もやや陰が差しながらも真剣な表情であったが、酒を飲むためにグラスが一瞬顔を覆うといつもの柔和な表情へと戻る。

「てっきり、店主の奥さんか娘さんが作ったものかと思ってたが、本人が作ってたのか。
 確かにブラックスミスは手先が器用と相場が決まっているが、お菓子作りの方にも余念がないなんてな…意外だ
 …というか、そこでものらりくらりとやっているんだな、アルマ」

顎に手を添えて、一つの疑問が解決したようで驚きつつ納得する。
確かに、あの強面の赤髪、筋骨隆々の男性が甘い菓子を作るというギャップは
ある一定の層からのウケは良さそうだ。本人はそのような評価は邪魔だと思うだろうが。

そして、踊子とは違った環境でも自由気まま、猫のように活動する彼女にややあきれ顔で目を細める。

「はは、君ほどの美人を温められるなら、喜んで枕の代わりになろう。その時はベッドの上で寝る前の冒険譚を語ろうかな。
 せっかくここで出会ったんだ。今夜だけは君の物にしても私は構わないんだがな」

ぼやく彼女の手に、自分の怪我をしている左腕の手を重ねる。
細くも力強い手指で相手の褐色の手の甲を触りながら
冗談なのか、本心なのかわからないように、いつもの調子で笑顔を見せる。

直後、彼女が代金をカウンターへのせる仕草をすれば、手をぱっと離す。

「これ以上君のプライドを傷つけるわけにはいかないからな。素直に奢られようか。
 …そうだな。何か欲しいものはあるか?」

ここで奢るのを断ると、相手の価値を下げてしまうような行為に繋がってしまう可能性もある。
そして自信満々といった笑顔を浮かべる彼女に、こちらも受けて立つといった具合に笑顔を見せ、ほしいものを問いかける。

アルマース > 「……、冒険譚の代わりにそれを語ってくれても良いけど、まあだ古傷にはなりきらないみたいね?」

生傷を弄るほど鬼じゃないなあ――と、声はほんのり柔らかくなる。

「奥さんはいないんじゃない……?
 のらりくらりってどういう意味……? あたしはどこでもまじめ~に働いてるのに」

失礼しちゃう、と肩を竦めた。
重なる手と、アドラーの顔を往復する視線。
ひっくり返そうとした時には離れた手に、あたしは揶揄う方なんだけど、と不満げな色。

「――――良き友人から、良き枕、ね」

真意など分からないし、気にしもしない。
彼の言うよう、職業柄もあって嬉しくもない引く手数多の女にとって、
貴重なのは自分を運命の相手として見てくれる男より、
寝物語を聞かせてくれる話し手の方だから。

そこにどのくらいの触れ合いがあるか、あるいは無いか、は重要ではなく。
安心できる相手の声を聞きながら眠ることができればそれで良い。

――という今のところの気持ちは、まあ、気ままに生きる女ゆえ、
ベッドの上でころっと情熱的な方へ転がるのかもしれないし、その前に逃げられるのかもしれないけれど。

「あたしが寝相良くて良かったわね。悪化しないで済むよ。
 欲しいものはねえ。たくさんあるなあ――……」

考えとく、と言いながらグローブに腕を通し、鞄を小脇に挟む。
これもまた借り物の毛皮のコートを着ると、いこ、と無事な方のアドラーの腕を絡め取る。

ごちそうさま! と明るい声をマスターに残して夜の街へ出たら、
どちらの宿へ向かうか決めることにしよう。おそらく、たぶん。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 バー」からアルマースさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 バー」からアドラーさんが去りました。