2023/11/24 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 バー」にアルマースさんが現れました。
アルマース > 日増しに寒くなる季節――
仕事を終えて夜となれば、暖かいベッドへ潜り込みたくなることが多いけれど。

時には、終わらせたくない夜があるもので。
物静かな店主が営む隠れ家のようなバーは、そんな夜の寄り道に最適だった。

「……――それでね、そのヴァイオリン弾きと話をさせてくれるって言われたの。
 でもさ、演奏中ずうっと泣きそうだったのに、話なんかしたらもう限界じゃない?
 向こうからしたら知らない女よ?
 ぼろ泣きで『ファンです』って言われたところでさ……
 喜ぶより引かれるんじゃないかと思っちゃって……
 ……。でもやっぱり挨拶くらいさせてもらえば良かったあ……あたしのばか……」

カウンターのスツールに腰掛け、言葉少ない店主へと語る女は、藍色のオペラグローブに包んだ両手で顔を覆う。
踝まで隠すロングドレスは、紫紺の裏地の上に、銀糸の細かな刺繍のシフォン生地が表布。
暗い色に乗った銀色が星空のような意匠のドレスはしかし、普段の踊り子の衣装としては上品過ぎるもの。
今夜は知人の伝手で忍び込んだ、とある貴族の館での演奏会帰りなのである。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 バー」にアドラーさんが現れました。
アドラー > 久しぶりの王都内での依頼。内容は貴族主催の晩餐会の護衛というもの。
中には高名な貴族も居る今宵の晩餐会は、それらを狙う暗殺者の出現が危惧されていた。
といっても、自分は保険の保険。貴族御付きの騎士や魔術師による警戒、結界の構築もあったため、そもそも敷地への無断侵入自体が困難。
暗殺者なんてもってのほかだった。

貴族とのコネクションなど興味はなく、暇で窮屈な時間を過ごした。
中には唯一の冒険者である自分に奇異な視線、あるいは侮蔑を込めた視線を送る者もおり、居心地はお世辞にもよくなかった。
やっと依頼が終わった頃には精神的疲労が肩に襲い掛かってきて。


今日は一杯やって帰ろう。


そんな中、足を踏み入れたバーのカウンター席に居たのは…

「…おや、私の良き友人じゃないか」

スツールに腰掛ける女性。
その褐色の肌、時折見える横顔に疲れた表情がやや明るくなる。
すすっとそちらの方へと向かっていき、声を掛けながらカウンターの隣の席に座る。

「今夜は、どこで公演をしていたのかな」

普段と比べ、一段と美麗絢爛な衣装にそのように声をかける。
きっと彼女も貴族相手に商売をしていたのだろう。
店主に自身の好みの酒を注文しながら、流し目で彼女に視線を送る。

アルマース > 「今度会えたら『いつか一緒にお仕事したいです』くらいスッと言える練習しとこ……」

はあ、と溜息をついたところで扉が開く気配。
客がいることの方が珍しい店なので、二人目の来客にはすぐ気づく。

そのままで終わらせたくない夜――
逆の意味でのそんな夜を過ごした男の姿に、黒い目がぱっちり丸くなる。
ちょいちょいと手招くうちに隣にやってきた青年をにっこり見上げた。

「――あら? ご機嫌よう、良き友アドラーくん。
 先日は色々お世話になったわね。
 今夜はあたし、仕事じゃなくてお客様だったのよ。
 大好きなヴァイオリン弾きがいてね、伝手で演奏会にこっそりもぐりこんできたの」

それでこの格好、とドレスの腰を摘んで見せる。

「とっても良かったからここで余韻を味わっていたわけ。
 ――あなたはなあに、疲れた顔しちゃって。
 貧乏くじでも引いてきた? んふふ、慰めてあげよっか」

この良き友を見ると、台詞が芝居がかるのと揶揄うのはセットである。
あたしもお代わり、と薄青い酒の入ったカクテルグラスを干してから店主へ伝えて。

アドラー > 「こちらこそ、この前は楽しかったよ。
 なるほど、演奏会か。支持しているヴァイオリニストの活躍を見れたなんて幸運だったな
 そのドレスもとてもよく似合っているよ」

星空のもと、焚火を囲んだ夜のことを思い出す。
そして客として参加したという彼女の言葉とドレスの方にしっかりと目をやると機能性よりも視覚的な美しさを重視した設計に
納得した様子で小さく手をたたく。

「あぁ、やはり貴族というのは苦手だと再認識してきた。
 ははは、君のような女性にそんなことを言われるなんて、私は幸せ者だな。
 それなら、ここ最近のことを語り合おうじゃないか。それが私にとっての一番の癒しだ」

先ほどまで感じていた疲れも、友人と話せば吹き飛ぶというもの。
揶揄うような口ぶりも振る舞いも嫌いではなく、こちらも冗談交じりに微笑みを向ける。

そして、自身の酒と彼女のカクテルが店主よって用意されると

「乾杯。」

彼女へグラスを差し向けて、小さく告げる。

アルマース > 「そう、むかあし別の街で、その人が巡業で来ていた時にたまたま聞いて以来追っかけてたからね。
 アドラーは冒険者なのにちゃんと女を褒められるのね。
 もしかしてイイトコのお坊ちゃんだったりして」

ドレスを褒められ、礼を言うより先に感心してしまう。
何せ普段庶民向けの酒場で踊る時、相手にする客から投げられるのは賛辞であれど野卑なものなので。
ここ富裕地区で会っても浮いた感じもないし、前々から感じてはいる冒険者で一括りにしきれない雰囲気に不思議そうな顔。

「貴族はあたしも苦手だからなあ。
 すぐ金と立場ちらつかせて、愛人にならんかって言ってくるんだもん。
 まともな貴族もいるのかもしれないけどねえ」

具体的な事情は知らないにしろ、大体の扱いを推測して共感してしまう。

「見返りも無く助けてくれるお人好しさんに、カミサマが報いなさいとあたしを遣って寄越したのよ。
 かんぱーい!
 …………で、その腕は? またどこかでお人好しを発揮してきたの?」

薄暗い店内ですぐには気づかなかった、彼の腕の動きの不自然さ。
さすがに隣にいれば目について、掲げたグラスに口をつけた後、一緒に出された干し葡萄を枝から千切って口に入れ、首を傾げた。

アドラー > 「そうか。それなら今回の巡り合わせは有意義だった…
 と、言いたいが、すべてが重畳というわけでもなさそうだな。

 ふふ、冒険者だからこそ、ある程度の口の上手さは必要でな。
 それと期待を裏切るようですまないが、私の生まれは裕福ではない。もしそうだったら、毎晩君に花を送っているさ」

店に入るときに聞こえてきた言葉とため息。
勘は鋭い方で、彼女のやや満足しきれなかった雰囲気や表情も相まって、何か心残りがあるのだろうと察する。
そして、自分を褒められると謙遜しつつも、またも冗談を並べて。

「アプローチ方法はともかくとして、君にはそれだけの魅力があるということだろ。
 まともな貴族…か。この街ではそういう手合いには会ったことないな。」

昔、こことは違う所では自身をよくしてくれた貴族がいたものだが…
少なくともこの街では、貴族からは先ほどの依頼の時のような扱いを受けるのが常だ。

「では神に感謝しないとな。…あぁ、これは。
 単なる油断さ。他人を助けるために負った傷ではない」

左手の袖を少しまくり、包帯を見せる。
取り繕っても不自然な動きはやはり拭えず、特に身体の動きに精通している彼女ならば看破は容易だったのだろう。
心配はいらないといった風にジェスチャーをしながら、酒を一口。