2023/11/11 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」に影時さんが現れました。
影時 > 一仕事に二仕事も終えたとなれば、休みたくもなる。
働きっぱなしとはどれほど無駄なことか――とまではいかなくとも、気分転換が欲しくなる。

「……とは言え、並びっぱなしと云うのも此れは此れで骨が折れるもんだな……」

そんな言葉が漏れるのは日中、昼間の王都マグメールの浮遊地区の一角。
王立コクマー・ラジエル学院に近いこのエリアは、主に貴族や富裕層、またはその子女をターゲットにした店が並ぶ。
その中には飲食店の類も交じる。その中に流行りの喫茶店があるという。
薫り高い茶葉に加え、オリジナルも含めて幾つかのメニューを売りにした喫茶店の軒先に並ぶ列に、声の主が混じる。
裾や背に刺繡が施された白い羽織を始め、この地では珍しいと云える装束を着込んだ男だ。
人の列の中に同性が混じっていないわけではないが、どちらかと言えば若い女性や少女たちが多く目立つ。
胡乱な眼差しも時折投げ遣られる中、平静を装えるのは肚に据えた目的意識と連れてきた小動物のお陰だろうか。

「あー、おまへら。足元に降りるんじゃあねぇぞ。……気持ちは分からンでもねぇが、せめて大人しくしてろ」

列に並ぶ男の肩の上には、飼い主と近しい仕立ての小さな法被を着こんだ栗鼠とモモンガが乗っている。
待ち時間が退屈なのか。それともじっとしていられないのか。それとも、両方か。
飼い主が首に巻いた黒い襟巻に埋もれて寝こけたり、肩や頭の上に小走りに攀じ登って背伸びしたりと、暇潰しに忙しない。
いかにも人馴れしている様子が物珍しいのか、近くの待ち人からの好奇の眼差しを受けては苦笑を零し、虚空を仰ぐ。
今日済ませるべき予定は終えて正解だった、と。待ち時間の長さにはそう思わずにはいられない。
待つことには慣れているが、それも“何のために待つのか?”という内容、目的意識にもよる。

影時 > 横目にする喫茶店は建物の中にも席はあるが、オープンテラスの席も多く設けられている。
立地を考えると、少しでも席を多くして客入りを良くしたい考えなのだろう。
狙い処はきっと間違いではない。平民地区側ではなくとも、この店の位置は学院に近い。
学院のラウンジや食堂での食事に飽きた、偶々席がなく食事に在りつけそうにない、といった生徒の来訪も見込める。
小遣い稼ぎをして、ちょっとお高いお茶を楽しんでみたい、といった需要もあるのだろうか?
そんな見立ても出来る。その見立ての材料は前方の列に幾人も交じる少女の群れ、または男女の組み合わせだ。

(……まー、そんな奴らの噂を聞いたから来てみたンだがなぁ、俺も)

そして、そういったハナシは非常勤とは言え、学院で講師を務め、ラウンジや食堂で一息ついていれば、おのずと耳に入る。
冒険者たちの噂話やら時事の話題も軽視はできないが、美味しいネタは大人よりも子供がもっと敏感ではないだろうか?
常々そう思わずにはいられない。材料によっては重いものが多いが、甘い菓子類の印象は故郷よりもこの国の方が強い。

「おっと。ああ、外の席か。――お願いできるかね?」

腕組みつつ暫し待てば、漸く己の番が来る。人入りが多ければ、人の出もまた多い。
今のタイミングはどうやら、人入りよりも人の出が勝り、座席に余裕が少しずつ見えだしてくる。
売れ筋が掃けてそうだ、と内心で渋い顔を浮かべれば、列が進み、席の案内の順が回ってくる。
店の外の席であれば空いている、という旨を聞けば問題ないと頷く。その後、ウェイトレスに案内される先はオープンテラスの席だ。
程よく日差しのかかった席にのっそりと座せば、一息。
肩上や頭上で退屈を持て余していた小動物たちがテーブルまで降りて、わしゃわしゃと毛繕いや伸びをし始める始末だ。
それを横目に、置かれた品書きを手に取る。ぺらぺらと捲って。

「……――申し訳ない、良いだろうか?
 この“甘蜜たっぷりアップルパイ”と、この茶を。それと、角切りリンゴの皿を二つ、ナッツの盛り合わせを」
 
近くを通り過ぎるウェイターを呼び止め、品書きを指さしつつ注文を通す。
売れ筋の品らしい菓子の名を告げれば、どうやら品はまだあるらしい。すんなりと注文が通る。
続く品を告げれば怪訝な顔が見えるが、テーブルの上で思い思いに日向ぼっこをし始める小動物の姿に、ああ、と察したらしい。
かしこまりました、という言葉と共に一礼し、店の奥に向かう姿を眼で追おう。

影時 > 「あとはー、……待つか」

若い少女たちより人気があるらしい店だが、改めてみると成る程。男の来客も少なからずある。
腰を落ち着けられる椅子に座せば、一息ついたおかげで余裕も出てくる。
羽織の内側を漁り、読みかけの書物を引っ張り出しつつ、建物の内側やオープンテラス席の様子を眺める。
会話を弾ませ、甘味に舌鼓を打つ少女や男女の取り合わせや、年嵩の紳士と思しい風情の姿も見える。
平民風の装いの男が入り口近くの会計で待つのは、飲食の来客ではなく、茶葉を買いに行けと仰せ付かった下男であろうか?
テーブルに置かれたままの品書きを開き、その内容に目を落とせば、産地や特徴を紹介された茶葉の但し書きがある。

「俺も帰りに包んで貰っても良いかねぇ。焼き菓子もついでに、ン……どうしたね?」

持ち帰れるように小分けに包まれた茶葉は、自分で呑む以外にも土産にするのに丁度良さそうだ。
そう思っていれば、テーブルの上で思い思いに転がっていた二匹の齧歯類が飼い主たる男の手に寄ってくる。
遊べー、遊んでくだせぇと言わんばかりの眼差しを各々の黒い瞳をキラキラさせて向けてくると、仕方がないと取り出した本をテーブルの端に置く。
左手で逆の手で頬杖をつきつつ、右掌を二匹の方に出せば、五指をばたつかせたりくねらせる。その五指に二匹の動物がじゃれ始める。
運動不足ではない筈だが、こういうコミュニケーションやら遊びに興じたい気分だったのだろうか。

わーい、とばかりに尻尾を振り、思い思いにじゃれつく姿を眺め、目尻を下げていればやがて注文の品が運ばれてくる。
紅茶のポットと一緒に置かれた砂時計は、呑み時を測るものであるらしい。
ガラスの容器の中で落ちる砂として具象化された時の流れを見遣りつつ、その場で漂い出す香りに頷く。成る程、悪くない。