2023/10/29 のログ
リュシアス > 手柄を示すような笑顔を向けられたマスターは、女性を褒める言葉を投げ掛けてから、程無くして腸詰め肉の載った皿を男へと差し出して。
男の方は受け取ったそれをひとつ口に運んでから、良ければ半分どうぞと言わんばかりに自分と女性の間へと皿を置いて。

「成る程、それは災難だったな。
 残念ながらそれだけでとっ捕まえる、というのは少々難しいと思うが……まぁ、報告だけはしておくよ。
 アルマース嬢は、貴族の家に招かれて踊ったりもするのかい?」

てっきり、酒場や劇場などで踊ったりするものとばかり思っていたのだが――貴族の邸宅へと直々に招かれてとなると、男が思っていた以上に高給取りの、売れっ子の踊り子なのかも知れない。
そう、胸の内で密かに認識を改めながら、彼女の愚痴めいた言葉には苦笑いを返す。

アルマース > 「ふふふ。ありがとう、いただきまあす」

紅色の酒を一口飲んだ後、フォークを手に腸詰をいただく。
先ほどまでの仕事の話は、単なる愚痴とリュシアスの反応を見るためのものだったので、特に食い下がったりはしなかった。

「招かれて――そうねえ? ああ、別にご指名じゃないのよ。
 今日の現場は、仲良くしてる姐さんが誘ってくれて。
 普段は平民地区での仕事が一番多いかなあ……どこの仕事が良いかっていうのは難しいところね。
 お触り厳禁、って首からぶら下げておいても字の読めない子がたくさんいるみたいだし」

有名な踊り子、有名な一座を招いて、という仕事もあるけれど、名の知れた振付師や演出家が依頼に合わせて人数を集め、その時々で面子が異なるのもよくあること。
このあたりに流れてきたばかりの女は残念ながらまだその他大勢の一人なのだ。

リュシアス > 「嗚呼、そういう事だったか。
 差し支えなければ、普段よく踊っている場所を尋ねても?」

平民地区での仕事が一番多いと答えた女性。
今は肩に掛けたローブによって隠されてはいるが、先程垣間見た色鮮やかな衣装としなやかな体躯で踊りを披露する彼女の様を、一度見てみたいという純粋な好奇心から、そのような問い掛けを口にして。

「それと、自分などに言われるまでも無いかも知れないが。
 中には性質の悪い貴族も多い。気を付けて――と言葉だけでは何とでも言えるが、まぁ心の隅に留めておいた方が良い。」

実際、屋敷の中で尾け回されるだけで済んだのならばまだ幸運な方で、彼女のような若い女性が貴族の邸宅に招かれたのを最後に行方知れずとなった――などといった話は後を絶たない。
相手がなまじ権力や太い繋がりを持った貴族だと迂闊に手を出せないというのも厄介な処だ。
尤も、アルマース嬢がそうしたスリルを好んでいるのであれば無理に止めはしないがね―――と、最後に茶化すような軽口を付け足した。

アルマース > 「『踊る潮風亭』ってご存知? 入りやすそうなのはあそこかなあ……。
 こういう落ち着いた店の方が好きなら、コーエン地下劇場だけど、演出が毒々しいから好き嫌いが分かれるかも……ううーん」

もっとディープな店もあるが、わざわざ来てもらっておいて居心地の悪い思いをさせてもよろしくない。
カウンター奥のボトルの並んだ棚あたりに視線を彷徨わせながら、頭の中で店の選定をする。
小さなステージのあるレストラン――踊る潮風亭の方は、賑やかだけれど席を選べば落ち着いて食事や鑑賞もできるし、まあ騎士様を呼んでも差支えない範囲だろう。

「はあい。口も悪いし血の気が多いから、そのうちあたしの方が不敬罪でしょっ引かれちゃうかもしれないなあ……。
 その時はリュシアス様、口添えしてよね。
 『彼女は自分に正直なだけで、悪気があったわけではないんです』ーって」

スリルなんか、と肩を竦めて腸詰の最後の一口を口に放り込む。
何の後ろ盾も無い流れの踊り子など、雇い主さえ庇ってくれないこともある。

リュシアス > 「踊る潮風亭………評判は聞くが、実際に行ってみた事は無かったな。
 しかし、そちらの毒々しい演出というのも気にはなるな………。ありがとう。今度、足を運んでみるとするよ。」

視線を彷徨わせながら、選定し絞り出すように幾つかの店や劇場の名前を挙げてゆく女性。
口振りからして、恐らく踊る場所によっても演目や演出の内容が異なるのだろう。それが余計に男の興味を惹いたようで、彼女の挙げた名前をひとつずつ胸の内に留めておいて。

「ハハッ、生憎と自分も騎士としては不真面目な方でね。周囲の連中が自分の口添えなどに耳を貸すかは判らないが………。
 しかし折角の目麗しいご婦人の頼みだ。出来得る限りは期待に応えられるよう努力はするよ。」

女性との話が弾むにつれ、気が付けば既に何杯か酒のお代わりを注文していて。
軽口じみながらも気障ったらしい台詞を恥ずかしげも無く口に出来る程度には酔いが回ってきていたらしい。
何杯目かのグラスの中身を煽ったのを最後に、空になったグラスと二人の支払い分の硬貨をカウンターの上へと置いて、男はゆらりと席を立つ。

「さて、自分はそろそろ戻ろうかと思うが………君はどうする?
 夜も遅い時間帯だし、物騒な話をしてしまったばかりだ。自分のようなので良ければお送りするが。」

アルマース > 「ん~……首に縄とか掛けられても良ければ、コーエンの方でも良いかも……。
 不定期だからいつ出るとは言えないんだけど、会えたらサービスさせてもらうから」

どんな店と詳しく説明はせずに秘密めかした笑い方をする。

「不真面目な騎士様に送ってもらって、果たして無事に帰れるのかしら。
 ――なーんて、ありがとう、宿遠いから途中まで送ってもらおっかな。
 このへんの仕事、ギャラは良いけど帰りがいつも遅くなるのよねえ……」

女も残りの酒を飲み干すと、席を立つ。
支払いを済ませようとしてマスターに制され、あれ、と黒い目が瞬いてリュシアスを見る。
なるほどねーとすぐに表情が微笑みに変わると、観客へ向けるみたいに――腕を広げ膝を軽く曲げ、礼の仕草。

「ごちそうさま! マスター、おやすみなさーい。

 ねえ、騎士様随分手馴れてなあい? 口説きの常套手段なの? そうなの?
 それともキシドウセイシンなの?」

送ってもらう道々、からかっていたとか。

リュシアス > 首に縄。女性の口から吐いて出た単語についてはさしもの男にとっても予想外で、驚いた風に瞳を丸くする。
けれども、詳細をはぐらかしながら秘密めかして笑う彼女の物言いに、男の好奇心は刺激されるばかりで、一度足を運んでみよう――という決意はより強固なものとなるのだった。

「まぁ、それでもこの辺りは平民地区の外れや貧民地区に比べればまだ安全な方ではあるがね。
 ――――さて、そればかりはどうだろう。なにぶん、目麗しい女性に目の無い不真面目な騎士なものでね。」

そんな風に茶化しながら席を立った彼女の方を見遣れば、微笑みを浮かべながら優雅に膝を折って礼の仕草が見て取れて。それだけでも支払い分の元は取れたと、男は目を細めながら小さく笑う。

「ご馳走様。………また来るよ、マスター。
 それでは参りましょうか、お姫様?」

来た時と同様、カウンター奥のマスターへと小さく手を挙げて挨拶を告げてから、傍らの女性には騎士の作法に倣った礼をひとつ。
冗談めかしたようにそう言いながらも、騎士道精神かと尋ねられればまさか、と大仰に肩を竦めて見せて。
それから帰りの道中、揶揄い混じりの冗談めかした、他愛の無い会話を繰り広げながら彼女の泊まる宿への道のりを進んで行くのだった―――。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からリュシアスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からアルマースさんが去りました。