2023/09/18 のログ
■サタン > ふわりと吹き注ぐ風が、煙草の穂先立ち昇る紫煙を揺らす。
男にしてみれば、なんてことはない只の風。
その風の悪戯に困らされる存在が、この場に居た事に気付く事も、
儚くも、何処か幻想的なようにも感じ取れた声音が、
男に声を掛ける許しを請う内容で、此方の鼓膜を震わせるまでは。
其の声の主へと、男の紅い双眸を向けたならば、
外套を纏い、間深くフードで顔を覆い隠した、
声質から女性と判断できるであろう、人物の姿が映り。
「―――構いませんよ。どうかされました……あぁ、此方こそ
レディの前で、御無礼を…。」
応じる様に紡ぐ言葉は、呼び止められた事を咎める様な意味を含まず、
寧ろ、気が付かなかったとは言え、女性の前で燻らせていた煙草の香りが、
相手にとって不快であったかを気にするかのように、
口許咥えていた煙草を、指先で摘まみ離せば、
掌の中で握り潰すようにして指を曲げて、その刹那に指先に灯した炎で灰へと還した。
その動作はまるで、素手で煙草を握り消したかのようにも見えようが、
男は其れを気にする事も無い様子で、眼前で腰を屈め頭を垂らす相手へと、良ければこちらへ。とでも言うかの如く、
男の腰掛けるベンチに十分一人分座るに空いている隣の場を、掌で勧めるような動きを見せた。
■カナリヤ > 遠目から近づき声を掛ける直前までは気づかなかった。
なんと美しい男性-ヒト-だろう。
光沢のある銀の髪も、闇夜に映える赤い瞳も、彫刻美のようにしなやかに伸びる体躯も、すべて。
此方を向いてくれたことにひとまずの安堵をしたが、ほんの数拍だけ見惚れるような空白を差し挟んでしまった。
再び我に返してくれたのは、ふわりと凪いだ強めの夜風だ。
女のフードを正面から煽り、それで乱れた前髪を恥じて何度か指で整える。
そうしながら、久しぶりに受けた礼節の言葉に、見すぼらしい井出達で声を掛けた自分に気後れを噛み締めて――紛らわせるように控えめにはにかんだ。
慌ててかぶりを振ったのは、此方を気遣って煙草の火を消してくれた配慮にだ。
魔族のありながら魔の術を持たない身であるから、手品のように消え失せてしまった葉巻の行く先に瞬きを翻し…。
此処でようやく、隣を勧められていると知った。
薄汚れた格好で唐突に声を掛けた非礼に、更に不敬を重ねてしまわないかという不安が胸に募る。
幾何か迷ったが、ローブ越しにスカートの裾をつまんで軽く膝を折って敬愛と感謝を込めた辞儀を成そう。
「 …旦那様のお心遣いに感謝いたします。
どうか、今宵が貴方様にとって素敵な夜でありますように。」
鈴ろな声音で彼の夜を祝福した。貴族が交わすような恙ない挨拶だ。
ではと、相手に失礼のない距離感を測りながら、人半分分のスペースを開けてその隣に腰を下ろそう。
肩から提げたカバンとランタンを膝の上に乗せ、軽く唇を噛んでから。
「 …恐れ多くも、旦那様。
――――どうかわたくしに、夜を凌ぐ火種を、分けてはもらえませんでしょうか。」
ランタンの持ち手を軽く握り、恥を噛み締めるかに目の下へささやかな赤を載せて男を見た。
フードの裾に覗く女の頬は、少しだけ煤汚れている。
■サタン > 幾分か夏の暑さも和らぎ、夜となれば時折吹き抜けてゆく風も、
心地良い感覚を味わえるのだが、今宵の風は少々悪戯も過ぎるのかも知れない。
フードを深く被る装いから、その素顔を窺う事は難しいけれど、
悪戯な風の戯れで乱れた前髪を、指先で整えて身なりを正すような振舞や、儚くも澄んだような美しい声音の持ち主であるならば、
何処かの令嬢辺りかと、勝手な想像位は、男であってもしてしまおうもの。
此方も素性を明かしていない以上、人間の身で煙草を掌の内で消してしまう行いは、聊かやり過ぎたかと刹那思うも、
魔術を行使する事自体は人間であっても、可能であるならば、一先ずは魔術で消した事とする算段として。
「――優しい祝福をありがとう――レディ。
願わくば、貴女にとっても良い夜である事を。」
カーテシーの作法を取り、貴族の間で交わすような挨拶の言葉や儀礼作法をごく自然体で振舞える様子から伺うに、
強ち予想は外れていないとの心算。
あまり過剰な応対ともなれば、その裏を探るような警戒心を持つ事もあるだろうが、ここは公共の場であれば、
人一人分は十分に空きのあるベンチを勧める位であれば、下手に警戒をされる可能性は低かろう。
そして女性を立たせたまま話をする、気遣いの出来ぬ男と思われる方が、男としてのダメージは大きいのだから。
此方の勧めに応じ、適度な距離感を選んでベンチへと腰を下ろし、カバンと、火の消えたランタンを膝の上へと置くのを、
紅い双眸は眺めつつも、意を決したかのように紡がれる言葉を耳で聴きとってゆき――。
「―――その程度の事、お安い御用ですよ。
寧ろ、その程度の事で構わないのですか?
まぁ、見ず知らずの男があまり過剰に施すと申し出たら
貴女を困惑させてしまうかも知れませんが。」
フードの裾から伺えた女性の表情に浮かぶ朱の色。
誰かに請うという行為を恥じてでもいるのだろうか。
そして、これだけ令嬢としての資質を持った人物が、
汚れた身なりで素性を隠し街を彷徨い、ランタンの火種だけを頼りに
夜を陵ごうとしているのかという疑問が浮かぶところだが。
「――それでは一先ず、ランタンの方をお借りしても構いませんか?」
そっと、男は片手を差し出して、火の消えたランタンへと炎を燈すべく、隣に座る女性へと、言葉を紡ぎ伝えようか。
■カナリヤ > 女もまた、此処が富裕地区であることや、洗練された身なりで礼節を返す男の挙措から、この町の有力者や貴族なのだろうと想像した。
彼の考える通り、魔法に精通した人々も一定数存在すると思えば、忽ち姿を消した煙草のからくりを妙に疑う必要はないのだろう。
優しい祝福の返礼に小首を傾げて微笑みながら、気恥ずかし気に被りを振って。
「 わたくしが――…旦那様に火を求めたのです。
仮にあなたが多くを与えてくださっても、その施しに困るはずがありませんわ。」
よもやそれ以上を与えてもらう心算が無かった女だから、彼の申し出はウィットを効かせた単なる冗談と受け取った。
其れよりも何よりも、見ず知らずの分際で、しかも夜半の宵時に声を掛ける方が相手を困惑させるのではないか。
こんなフードまで間深く被って―――、と、其処まで巡らせて漸く、自分が外套の被り物を鼻先ほどまで被り込んでいた事に気づいた。
こんな不審な井出達で人へ何かを乞おうとは――不躾て厚かましく、何と恥ずかしい女だろう。
ランタンを差し出しかけた手を止めて、ほんの少し迷う仕草を見せてフードの端を掴み、取り払った。
相手が人間だと信じて疑わぬから、自分の素性が暴かれる心配もない筈だ。
もとより、北の魔族の国に居た頃でさえ、加護の鳥で殆ど社交の場に出なかった。自分を知る者なんて数えるほどしかいないだろう。
そんな思慮を捨て置き、色白の肌に白金の髪を靡かせ、淡い青の眼差しで先ほどよりも開けた視界に移る男の姿を見つめた。
聊か申し訳なさそうに眉尻を落とし、憐憫と慈愛に揺らめく双眸を注ぎ続けるのである。
ランタンを再び握る手にやや力を篭め、おずと相手へ差し出しながら。
「 …―――旦那様の火があれば、今夜も暖かく眠れます。
今は何も持たぬ身ですが、いつかご恩を返させてくださいませ。」
はやる気持ちを抑えきれず、まだ火を分け与えられていないにも関わらず礼を歌った。
嘘やこびへつらいではない。純粋な心根で、恩を返したいと願う声だ。
■カナリヤ > 程なくして火を分け与えられた女は、できうる限りの礼句を尽くして男へと感謝の意を伝えた。
いずれ必ず恩を返すと、そして、これ以上の恩恵は身に余るものとして受け取らず、別れの辞儀を捧げただろう。
今宵は酷く心が温かい。
分け与えられたランタンの火を愛おしそうに抱えながら、広場のどこかにある気に入りの”寝床へ去るのだった。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/広場」からカナリヤさんが去りました。
■サタン > 多くを施したとしても、それは困りはせぬだろうが
此方にすれば、返す必要は無い物であれど、この女性はきっと律儀にも返そうとしてしまうだろうと、判断し。
差し出されたランタンに、魔王たる男は魔力の籠った火を灯す。
それは、今宵一夜に限り、悪戯な風が吹いたとしても消える事のない灯火。
それすらも律儀に礼句を尽くして謝意を伝える相手へと、気にする必要は無いと、軽く手を振りて去ってゆく姿を見送る。
そして、男もまた今宵は自らの屋敷へと脚先を向け、足音を刻みながら、住宅街の方へと消えてゆくのだった―――。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/広場」からサタンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にゴットフリートさんが現れました。
■ゴットフリート >
富裕地区の公園。
夜会の帰りの貴族や、あるいは仕事をサボった使用人や衛兵。
他には、これから貴族や商人の館に赴く娼婦などが
ひと時の憩いを味わうのにちょうど良い場所。
ライトアップされた噴水が、煌めく水音を立てて
まだ暑気の残る空気に、涼やかな彩を齎してくれている――。
夕刻ともなれば、恋人同士が赴くのにも似合う場所だ。
「そろそろ、収穫期も近いというのに。
なんとも呑気な連中だったな――。」
そのベンチに腰を下ろすのは巨大な体躯の初老の男。
宴の帰り、と見えるアルコールの色に僅かに染まった頬。
顎髭を、大きな掌で撫でながら言及するのは――先程の宴で一緒だった貴族達。
やれ、どこそこの誰かを口説いただの、珍しい美術品を得ただの。
何十年変わっても、語る者だけが変わって、変わり映えしない話。
尤も、場の空気に合わせて、話を合わせているだけ――という者も何人かはいたが。
それでも、興味がわかず、早々に退散してきた次第。
権謀を弄し、術策を弄び、陥れ、陥れられる。
まるで穢れた犬同士の喰い合いのような陰謀の世界――。
油断はしていない、喉笛に喰らいつく輩の喉を噛み千切る準備はできているが…。
「儂も、老いたか……?」
自虐ではなく、ただの言葉として零れる声音。
否、退屈しているのだろう。そう結論付ける。
より深く、より楽しい何かを――求めることこそが生きることだと
そう、心得ているのだから。
だから、老いた男はこんな場所で、憩っている。
何が起こるのか、何か起こるのか――灰色の目はアルコールに濁っていても
夜の中を見据えていて。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にセレンルーナさんが現れました。
■セレンルーナ > ライトアップされた噴水。光が強い分、闇が濃くなる部分も存在する。
その暗がりに、黒い外套のフードを被って木陰に身を潜めれば、その身は暗闇に溶け込みやすい。
フードを目深に被って、ベンチに腰掛ける大きな体をした壮年の男をフードの影からグリーンブルーの瞳が注視する。
夜会は夜会の方で、潜入していたスターチェンバー職員が彼の行動を観察し、夜会を辞した彼をセレンルーナが引き継ぐという流れ。
(もうそろそろ、人員補充なんとかならないかな…。)
万年人手不足の状態であり、案件の掛け持ちは当たり前。
お互いがお互いをフォローしあってなんとか持ちこたえているものの確実に疲労は蓄積する。
とはいえ、王の権威によって貴族を裁くという性質上、次の王が決まらぬことには色んなものが滞っているのが現状である。
どうにも最近、体調がわるいとかそういう訳では全くないが、今までの自分の実力を発揮できていないようなそんな感覚があった。
とはいえ、そんな事は言っていられない。
とりあえずは、本日は対象の動き、夜会後に対象に接触する者がいないかを確認できればそれでいい。
比較的容易な仕事であり、気合を入れ直すように深呼吸をしつつ男の動向を窺っていた。
■ゴットフリート >
女の緑青の視線に映るのは、ベンチで憩う大柄な体躯。
ただ、休んでいるだけのようにも、思案を巡らせているようにも見える。
少なくとも、ぼやきにも似た声音は隠せはしなかっただろう。
ただ、見ているだけならば酩酊した初老の貴族。
彼女の腕を以ってすれば、尾行も容易かろう――
腐敗したこの国に似付かわしい、腐り切って肥えた貴族の一人。
その、灰色の視線がゆっくりと周囲を巡る。
長く、息を吐き出す――酔った人間特有の仕草。
「ところで――」
唐突に、言葉が響いた。
明瞭な低い声。屍を貪る汚らわしい死肉喰らいの獣。
それが罠にはまった獲物に向けるなら――こんな声を出す。
そういう風に聞こえる声。
そして、視線が正確に、女を、セレンルーナのいる闇へと向いた。
「――狗の匂いがするな。」
彼女が、もし十全な技量と実力を持っていれば
“それ”に気付くことが叶ったかどうか。
響く太い声、他者を踏み躙ることに、嘲ることに慣れたそれに。
――キリ――…キリ―――……ッ!!
歯車が軋みをあげる音が応えるように響く。
背後を振り返れば、まるで夜の闇が蠢いたように感じるだろう。
特殊な塗装なより、完全に光を歪め、不可視化したそれ。
風を切る、音だけが響く。
その爪先に仕込んだ、強力な麻痺毒――そのまま獲物が二度と目覚めなくてもいいという代物。
それを、密偵の首筋に打ち込むために、見えない五指が踊る。
■セレンルーナ > 男は明らかに酒に酔っている様子。
アルコールが抜けるまでの休息か、先ほどの夜会での邂逅を思い出しての思案か、はたまた誰かとの待ち合わせか。
無防備にも見える酩酊した様子を観察しつつ、周囲へと視線を巡らせる。
男に近づいてくるものはないか、尾行するセレンルーナに気づいているものはないか。
しかし――
「――っ」
低い声が響く。
そして、視線がセレンルーナの方へと向けば一瞬暗闇の中で、男を見据えるセレンルーナの瞳とこちらを向いた男の瞳とが合う。
気づかれている!そう認識したのとほぼ同時に歯車が軋むような音がすぐ背後で響いた。
ぞわりと、悪寒が走り振り向きざまにレイピアを抜こうとするが、その速度は本来のものよりも遅い。
闇が闇の中で蠢いて、認識できない。
けれど、気配だけはそこにあり風を切る音とともに何かがセレンルーナへと迫ってきているのは感じられた。
「――くぅっ」
レイピアを抜いて応対するのが間に合わない。
一瞬の出来事であった。咄嗟に身を躱して迫り来るものから避けようと試みるがビッと首筋が何か鋭いものに傷つけられて痛みが走る。
身をかわしたまま、地面へと転がれば噴水の明かりが届く範囲に黒い外套のフードを被ったまま、セレンルーナの体が転がり出る事になっただろう。
さらりと、今の動きに乱れたプラチナブロンドの髪がフードの合間からひと房こぼれ落ちて噴水の明かりに煌めいていく。
「……っ…。」
攻撃を受けた首筋に触れると、そこには薄らと血が滲んでいて、突き刺そうとしてきた動きから何らかの毒、或いはそれに準ずる薬物が塗られていた可能性が高い。
不可視の何かと、貴族の男、両方に意識を向けながら逃げなければと足を踏み出した瞬間だった。
「――ぁっ……っ」
かくんと、踏み出した足からは力が抜けておりそのまま体重を支えられずに地面へと崩れ落ちていく体。
どさりと受身も取れずに倒れ込んだ体は、ピクピクと小刻みに震え痙攣を繰り返していく。
喉までも震えて、息ができない。かはっ、かひゅっと喉が震える音を出しながら呼吸を乱して、次第に意識が遠のいていく。
最後にセレンルーナがみた光景は、男が近づいてきている事だっただろうか、闇が近づいてきている事だっただろうか。
どちらにしろ、グリーンブルーの瞳からは力が失せてくたりと地面に顔を伏す事となっただろう。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からセレンルーナさんが去りました。
■ゴットフリート >
自分自身を餌にしての、不可視の伏兵による急襲。
老貴族が、己を狙うものを返り討ちにしてきた常套手段。
けれど、密偵はそれに反応してみせた。
「ほう――見事見事。
良い腕をしているな……狗にしては。」
賞賛の声も、きっともう届かない。
もし、彼女に本来の実力が備わっていれば――。
結果はきっと違っていたことだろう。
けれど――そんな仮定には意味が無い。
地面に倒れ伏した細い躰を、不可視の何かが持ち上げる。
そして、黒い馬車が訪れる。
入念に目張りのされた、どこのものとも知れない馬車が。
あとは、それに乗って運ばれていくだけ――。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からゴットフリートさんが去りました。