2023/09/04 のログ
セレンルーナ > 「マスター、お代わりを。」

カウンター席の何席か離れた席に、セレンルーナは座っていた。
後からやってきた新たな客には、ちらりと視線を向ける格好は聖騎士団の制服の上着を脱いで、隣のスツールにかけたラフなドレスシャツ姿。
新たに来た客は、この店の常連のようでマスターは注文も受けずに、客用の酒を先に作っていく。
カウンターに肘をつくようにして、グラスに入ったナッツを口に入れながらマスターの手元をぼんやりと見て。
こじんまりとした室内、お互い我関せずというように無言でいるのも違和感があるかと男性客の方を見て。

「こんばんは。少しだけ夜は涼しくなりましたね。」

お代わりの酒を待つ間、そんなとりとめのない会話を振って。

サタン > 知る人ぞ知る店ではあるが、当然このような落ち着いた雰囲気を、
好む客ならば、僅かに涼しくなった夜を愉しむ者も他には居る。

基本、客同士会話をするもしないも、雰囲気を壊さぬのなら自由。

男よりも先に居たらしい、先客のマスターへの注文の声。
そんな声も聴きながら、男はまた一口グラスを傾ける普段のルーティン。
だが、その声の主はこの静寂よりも、同じ隠れ家的なこの店を知る客同士の会話を選んだのだろう。

「――こんばんは。
そうですね、少しだけ夜も過ごしやすくはなりましたか。」

とりとめのない会話に応えながら、声の主へと視線を向ける。
涼しくなったとは言え、暑さはまだ残る。
スツールに掛けられた上着は、この国の騎士団の物であろうか。
此方の気配や魔力は限りなく人間に近いが
或いは――鋭い者であれば、僅かな違和感など抱くであろうか。

「――でもまさか、この店を知る方とお会いする機会があるとは。
普段はいつもマスターと、会話もあるかないかといった感じでしたので。」

男もまた、珍しくこの店を知る客の女性へと、おかわりの酒が用意されるまでの他愛のない会話を、相手へと伝えた。

セレンルーナ > 静寂の中、マスターがグラスやシェイカーを操る音だけが響く、そんな雰囲気もこの隠家的なバーの醍醐味でもあるが今日はなんとなく、無言の空間がほんの少しだけ居心地が悪く感じたのだ。
相手によっては、静かに酒を飲みたいと眉を顰められればその言葉だけで終わりにしようと思っていたが、相手もとりとめのない会話に応えてくれた。

「八月も終わったので、もう少し涼しくなってもいいと思うんですけどね。」

涼しくなったといっても、まだまだ残暑は厳しい故に今も制服の上着を脱いだラフな格好でくつろいでいた。
路地裏にひっそりとあるこの店は、知る人ぞ知る店であり客足も少ないため、落ち着いて酒が飲める店の一つだった。
いつも邂逅することのない客に会ったというのも、声をかけてしまった一つの理由だったかもしれない。
無意識に魔力を見てしまうグリーンブルーの瞳が、男性客の方へと向けられれば、体を巡る魔力は人間のものと変わりはない…。
けれど…、ん?と見慣れた人間のものとはなにが違うかと言えば、明確には言葉で言い表せられないが微かな違和感に軽く眉を持ち上げて。

「私も、他のお客さんにあったのは初めてかな。マスターあんまり商売っけがないのかなって思ってたので。」

カウンターに肘をついたままの女性騎士は、長いプラチナブロンドの髪をお団子ポニーテールにまとめて、タイトなパンツに包まれた長い足をスツールの上で組んでいく。
カウンター越しに、丁寧な動作でシェイカーに注文したスピリッツやリキュールを入れていく様を眺めて。

サタン > 場の空気を読めない客であれば、相手になどする必要も感じないが
少なくとも、言葉を交わしたこの女性はこの店の愉しみ方を知る側。
ならば、言葉を交わす事は男にとっては不快ではない。
マスターは、そんな客同士の会話にも立ち入ることなく慣れた手つきで
女性の注文を作り上げるようで。

「そうですね。私共ならばコーデの仕方で多少は涼を求める事もできますが――失礼、お見掛けさせて頂くに、
騎士の方、といった所でしょうか。
であれば、公務であればは気楽な格好も難しいでしょうし、秋の訪れも願う所ですね。」

探りを入れるかのように、騎士という単語を混ぜながら何気ない会話を交わす。
巧妙に隠蔽、封印している男の素性。
探りを入れて来るのならば、対応を考える必要はあるかと思考する。
隠れ家過ぎて互いに初めて他の客と出会ったなんて話には、男も同意をするかのように、僅かに口許を緩めて笑みを浮かべ。

「それは確かに、私も思いました。
ただ、商売っ気が無さ過ぎて、店が無くなってしまうのも
困りものですが、かと言って、あまり知れ渡り過ぎては
落ち着いて飲めませんし、ある意味、マスターは商売上手かもしれませんよ?」

また一口グラスを傾けて、蒸留酒を愉しみながら、男もまた
女性のオーダーの作品が、グラスの中に注ぎ作られてゆく様を眺めつつ、他愛のない冗談も交えた言葉を紡いだ。

セレンルーナ > 「ええ、王城に勤めています。…夏服ではあるのですが、襟元も釦で留めないといけないし、風通しもあまりよくないので暑いですね。本当に、早く涼しい秋が来て欲しいかな。」

制服をスツールにおいているため、騎士だとはすぐに分かるだろうから否定せずに問いかけに頷きながら、苦笑を浮かべていく。
敬語を使いつつも、少しだけ砕けさせて空気を和ませるようにしながら、気づいた違和感を特に口に出すでもなく思考の中で相手の顔に見覚えがあったかと、記憶の引き出しを探る。
どこかで…見たことがあるような気がするので、情報としては知っているはずだが…すぐには思い出せなかった。
…ということは、スターチェンバー内でも要注意人物のランクは低かっただろうかと考え。

「確かに、周りを気にせず静かに飲める環境を失うのは痛いかな。長くお店を続けていらっしゃるし、確かに商売上手なのかもしれませんね。」

お店がなくなっても、客がわんさか押し寄せてきたとしても、客が求める隠れ家的なお店が失われるということだ。
ここではセレンルーナも、騎士団の目やスターチェンバーの役割を気にすることなく、羽を伸ばすことができるので失い難いと同意を示していくだろう。
マスターは、黙々とシェイカーに材料をいれると、縁に塩をつけたカクテルグラスにブルーのカクテルを注いでいく。
涼やかな色合いのカクテルの名はブルーマルゲリータ。
テキーラベースが、ブルーキュラソーの柑橘系の味がマッチして爽やかな味に仕上がっている。
コースターの上に置かれたカクテルグラスに、マスターにお礼を言って。

「私は子供の頃から王都住まいですけど、そちらも王都は長いんですか?」

記憶の引き出しを探るヒントがあるかと、そんな質問を投げかけていく。

サタン > 「――ふふ、確かに、拝見させて頂く分にも暑そうなのは分かります。
王城勤めでは暑いからと、風紀を乱すわけにもいきませんね。
まぁ、私も出来れば早く暑さも過ぎ去って、秋の穏やかさと味覚に巡り合いたいとは思います。」

王国騎士とまでは、察する事も出来るが
ただの騎士だとは楽観できぬ感覚が、男の内には常に。
故に、妙な探りは藪蛇となりえる可能性も考慮し、
意識を逸らすかの如く、願う秋の訪れに同意するように、
穏やかな季節巡り合える味覚などを言葉にし、気を逸らそうとでもするか。

「――趣味人なんだと思いますよ、きっと。
多分、こうして自分の理想の店を開いているのが愉しいのでしょう。」

男の勝手な推測の言葉に、マスターはゴホンと咳払いを一つ。
それが図星か否かを探る術は持たないが、少なくともこの店が変わらず、落ち着いた店として、潰れず、けど繁盛し過ぎずと勝手に願う。

女性のおかわりのカクテルが注がれてゆくのを、男も眺めては
続く問いには、「あぁ」と、思い返したように、グラスを手にし。

「えぇ、私も幼少から王都住まいです。
申し遅れましたが、私、貿易商を営んでおります、イブリースと申します。」

男の表の身分自体は、怪しい所は無いし
経営する店自体も、王侯貴族とのパイプも幾つかは保有しているが
その商い内容自体も清廉潔白を前面に出している。
探りを入れてきた相手が、どこまで此方を知るかは怪しい所であるが
一先ず、名を名乗りて、相手の出方を窺うというところか。

セレンルーナ > 「少しでも服装に乱れがあれば、厳しい上司からのお小言があるので肩も凝りますしね。秋晴れに、秋の風…馬に乗って遠乗りなんかも心地よさそうですよね。…ま、行く暇があればですけど。」

この暑さから開放されて、高い空の下風きって馬で走れば心地いいだろうなと、想像を膨らませるようにグリーンブルーの瞳は少し上を見上げるが…現実問題、遠乗りしているほどの暇がないことを思い出せば、スンと表情が失われていく。
もし、男性に相手の精神や魂の一部が見通せる力があれば、女性騎士の違和感に気づくかも知れない。
そこにいるのに、一瞬の瞬乾の間に消えてもおかしくないくらいに時折気配は薄くなり、けれどそこに確かに存在する。
女性騎士自身は、そんなことを自覚している素振りもなく秋の味覚というのに、栗や梨…果物も美味しい季節で気を付けないと太ってしまいますね。
なんて、呑気に返していただろう。

「なるほど。お蔭でこうやって、私達にとっても理想のお店に訪れることができるから、とてもありがたいかな。」

ゴホンと咳払いをするマスターの様子に、くすりと小さく笑って。

「イブリース…イブリース…。あぁ、もしかして貿易商のお家ですか?あちらには、実家のほうもお世話になってます。」

名乗られた名前に、聞き覚えがあって記憶の引き出しの中を探る。
聞き覚えがあったのは、プライベートな方でありスターチェンバーの情報網の方では貿易商に怪しい所はないという結論が出ていたはずと思い出す。

「随分と昔の話ですけど、母がそちらから購入するドレスなどを好んで着ていたように記憶しています。家の事は兄が取り仕切っているので、お恥ずかしながらお付き合いが続いているのかちょっと分からないのですけど、カイエスタン家のセレンルーナと申します。」

名を名乗られると、ああといった様子で何やら思い至ったように見えただろう。
無意識に見た魔力の違和感を気にしていたが、その表情は消えて代替わりしているであろう貿易商の記憶を口にしていくだろう。
カイエスタン家といえば、特にこれといって目立った家ではないが歴史は古くエルフを妻に迎えた先代の話は有名なところ。
コースターに置かれたカクテルグラスに手を伸ばすと、塩と一緒に中身を少し口に入れて喉を潤わせていく。
甘い柑橘系の味と、ぴりっとしたテキーラの辛味を塩が引き締めていくのに、満足そうに瞳を細めて。

サタン > 女性が言うように、騎士ならば遠乗りで感じる穏やかな空の下、
流れゆく秋風に身を委ね駆け行くのは、想像するに楽しき休暇だろうと。
そして、それが中々叶わぬような責務を負っているのか、失われた表情には、苦笑を浮かべながら、「叶うと良いですね。」と、
労いの言葉で応じる。
だが、同時に此方も負の感情と魂の蒐集を行う魔王。
刹那に感じた違和感。正しく説明は出来ぬ存在感。
――貴方は、そこに居ますか 言葉とするならばそんな虚ろな気配。
ただ、常識的には説明が付かない疑問を探るとなると、相手の警戒は
高まるかもしれないだろうか。
リスクに見合うかを、算出するには情報不足である以上、
今は、この違和感についての調査を行うべきではないと、男は判断し。
山の幸だけでなく、海の幸もありますよ。等と、貿易商の立場から
この先、訪れる美味の季節の想像をもう少し煽る程度に戯れ。

「えぇ、先代から引き継いで代表をしております。
おや、それは御贔屓頂き有難うございます。

――私も先代から其方の御家の御名前は聞いたことがあります。
確か、まだ当方とは、御縁結ば差せて頂いていたかとは思いますよ。
以前も其方の現御当主様が確か……。」

と、言いよどむようにして言葉を途切れさせたのは、
会話を交わすこの女性が一向に身を固める気配が無いといった愚痴の記憶だったから。とは勿論その真実言える訳も無い。
とはいえ、途切れさせたままも不自然であれば、丁度おかわりのグラスも、相手の前届いた様子であればと、話題を逸らすかのように。

「――まぁ、こうして趣味人のマスターの御蔭で、
セレンルーナ様と、この雰囲気を愉しめる御縁は得れましたし
もし宜しければ、店の方もお越しください。」

先方は、既に届いたカクテルを堪能している様子に、此方もまた
グラスを傾けて、残り少なくなった蒸留酒を飲み干し。

「――さて、私はそろそろこの辺りで今宵は失礼させて頂こうかと。
また、機会があればご一緒させて頂ければと思います。」

そう告げて、男はグラスをコースターの上に静かに置いて、席から立って、カウンターの上、男が飲んだ分よりも多く硬貨を置いた。
其れは相手の分も含むに十分な額で。
男は胸元に右手を添えて、会釈し、礼を相手へと向ければ
其れを解いた後、振り向き、店の扉を開けてまた夜の街へと消えていった――

セレンルーナ > グラスに入ったナッツを口に入れて、こりっと硬い音とともに咀嚼する女性騎士は、魂や精神が欠けている事に違和感や不自由を感じている様子もなく、そのことに気づいてすらいないといった様子だろう。
不意にロウソクが風に吹かれて消えてしまいそうになるかのように、気配が希薄になったかと思えば瞬乾した瞬間、そこに確かにセレンルーナは存在していた。

「海の幸!お魚も美味しい季節かぁ…ダイラスあたりだと、新鮮なお魚も食べられるかな…。」

想像を煽られれば、瞳ははるか向こうの港町へと投じられ活きのいい魚を想像するも、やはりその港町まで遊びに行く時間がないと思い直せば、またも表情はスンと消えていくだろう。

「あまり私は、実家の取引先なんかとは関わっていないので…よくわかっていなくてお恥ずかしい。母もまだ元気なので、ドレスは買っているだろうなとは思うのですが。」

セレンルーナが母、というのは噂通りのエルフの美女である。
夫が寿命でこの世を去った後も、未亡人として領地に引っ込んではいるものの、美しさも行動もまだまだ現役である。
もしかしたら、気に入ったドレスを領地から取り寄せたりもしているかもしれない。

「……ん?…?」

言いよどむような間に、にこりと笑顔を浮かべながら首をかしげていく。
まさか兄が出入りの貿易商の相手にまで、自身の行き遅れの相談をしているとも思わずにいて。
それを口に出されていたら、さすがに居た堪れない思いをすることになっただろうが、相手の気遣いのお蔭で恥はかかずにすんだ。

「ええ、時間があればまたお店に伺わせていただきますね。」

一つ、言葉に頷いていく。
様々な商品を取り扱っている貿易商である。
目新しいアイテムの発見や、珍しいものにも出会えるだろうと来店を約束して。
その間に、彼はグラスに残った酒を飲み干していく。

「はい、お話し相手になってくださり、ありがとうございました。では、また…。」

会釈をする男性へと、こちらも会釈を返せば男性の背中を見送っていくだろう。

「…あの魔力、人間にしてはちょっと違和感があったような……うーん……。」

男性が退店したあと、カクテルグラスに唇を濡らしながらぽそりと呟いていく。
まあ、自分が感じた言葉にできない違和感よりも、スターチェンバーの情報管理のほうが確実だろうと、深くは考えずにカクテルをいっぱい飲み終えて。
支払いの段になって、店主からもう済んでいる旨を伝えられると入口を振り返っていた。
当然、男性はとうの昔に帰ってしまっており

「今度お店にいったときに、お礼言わないとかな。」

スムーズすぎて気付かなかったと、あちゃーと額を軽く押さえながらそんな風につぶやきながら女性騎士も店をあとにしていった。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からサタンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からセレンルーナさんが去りました。