2024/05/04 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にメルリンディアさんが現れました。
メルリンディア > この位を父が授かってから纏うようになったドレスは、なかなか肌になじまない。
贅沢に飾られた馬車が止まると、父に手を引かれて馬車を降りると、白いドレスが夜風に揺れる。
屋敷に敷かれた絨毯を歩み、奥へ奥へと導かれれば大きな扉が二人を迎え、使用人がそっとそれを開く。
くぐもっていたクラシックが一気に鮮明に変わり、夜を照らす無数の明かりと共に談笑し、美酒美食に酔いしれる貴族達の光景。
父の仕事絡みや数少ない友人やらの前でカーテシーをしては、堅苦しい自己紹介を重ねる。
嗚呼、彼女が、ずいぶんと大きくなって、これは愛らしい等など、社交辞令にいつもより固い微笑み。
やっとそれらが終わると、お前も少しは楽しみなさいと自由を与えられるが……真っ先に向かったのはバルコニーだ。
ガラス戸を両手で押して開くと、猫毛のベージュの髪がふわりと広がっていき、後手で扉を閉ざす。
一歩前へと踏み出すと深い溜め息の中、身体が前へと傾き手すりへと寄りかかっていく。

「はぁ~……やっぱ慣れないよ」

自分なりに頑張って貴族らしい振る舞いは覚えてはいるが、どうにもあの肩肘張った雰囲気が馴染まない。
フィールドワークで野山を駆け回る方が性に合っている自身としては、美酒美食より心躍る冒険譚の方が好みだ。
深い溜め息を吐くと表情は更に曇り、未来を浮かべては瞳を閉ざす。
いつかはあの世界の誰かと結婚するのだろうか、そうしたらお転婆な己を殺して生きないといけないのか。
父に陳情しようかとも思うも、研究や権力争いに巻き込まれて疲弊していることの多いところに、我儘を言うのは気が引ける。
どうしようという言葉を脳裏で繰り返しながらも、開かれた瞳がぼんやりと眼下に広がる春の庭を眺めていく。
色とりどりの花々が青白く照らされては、薄っすらと濡れた花弁から雫がこぼれ落ちて煌めく世界。
やはりこういうのを見ている方が性に合うと思いつつ、表情を緩めながら遠い自然を眺めて癒やされるていた。

メルリンディア > 宴の方へと再び振り返れば、父は未だに忙しそうに伯爵に付き添っている。
暫くは一人の時間が続きそうだと思うと、いいやら悪いやらで何度目かのため息。
今日はここで時間を潰しておこうと思っていると、耳に届く物音。
どうやら庭の奥の方なのだが、薔薇の壁がその先を遮るように広がっており、目を凝らしても見えない。
啜り泣くような音にも感じると、不思議になって身を乗り出すようにしてそちらを睨む。
しかし、見えるわけもなくただ、気になるという思いだけがどんどん重なるばかりだ。

「……見てない、よね?」

ちらりと後ろを振り返り、こちらを見ている人がいないのを見やる。
地面の方を見やり、特に危なそうなものが転がっていないのを確認すると、ハイヒールを投げ出すように脱いでいく。
甲を走る革紐の部分を摘んで持ち上げると、2足分を束ねて口に加えていき、ストッキングの足でバルコニーを踏みしめる。
身体強化の魔法を自身に発動させると、トンッと静かに跳ね上がり、月夜に白のスカートが揺らめいた。
膝のクッションでしゃがみ込むようにして音を殺して、石畳の地面へと着地すると再度左右を確認、そして上も見る。
大丈夫そうだと思えば、靴を下ろして再度履くと、先程の音がした方へと向かう。
迷宮のように張り巡らされた薔薇の壁を通り抜けながら、中央の噴水へとたどり着くと再度周囲を見渡す。
飛沫の音とは別に、再度聞こえる声に交じる水音。
やっぱり何かいると思えば、そろりそろりと足音を立てぬように身を屈めつつ、気配も殺して庭の奥へと向かう。