2023/12/12 のログ
影時 > 貴族や金持ちの子女の扱い、考え方について――男も色々と見てきた。
武術指南役として己を雇っている家がかなり特殊な例であることを、よくよく認識できる程度に。
一人戦う力を持たない子女には、たいていは護衛や従者を付けるものである。
古今東西の貴人の家でも、それが一般的と言える価値観であろう。
それは勿論、飾りではない。誰かを襲うにあたり、獲物の傍に誰かが立っていれば身構えもする。

だが、仮に今回の獲物がそうではないと仮定したら、どうなのだろう。
見目はよくとも護衛をつけるだけの財力も何も無い貧乏貴族の家の子を攫い、拐してどうするのか?
それは知ろうと思うなら、尋ねる方が手っ取り早い。指の一本ないし十本も折れば囀ってくれるだろう。

「よっ、と」

そう思考を巡らせる男は一連の軽業師のような所作を行って見せながら、何事もなかったように息を吐く。
この路地に娘を引き込んだ者にとって不幸だったのは、主人を急かした二匹の毛玉の主が忍びであったことだ。
夜闇に潜み、魔物の如く馳せる身のこなしは街着としている羽織袴の姿であっても、変わりはしない。
そして、忍びの恐ろしさとは身体能力ばかりではない。目的のためには手管を選ばない精神性こそにある。

「――いよぅ、お嬢様。奇遇だなァ?こんなトコで何してんだね」

少し弛んだ体躯の男の背後にぴたりとつき、左手でその口元を万力の如く抑える男がそう嘯く。
飼い主の身のこなしに必死にしがみつきつつ、目を回していた二匹が慌てて女学生の頭や肩に飛び移る。
どうやら、この二匹は主を引き連れて女学生の住処に向かっていたらしい。
そんな中、相手の窮状をいわば第六感めいた感覚で捉えた二匹が心配げに身を擦り付けに掛かるのを見つつ、右手を振る。

「さて。」

羽織の内側から滑り出るのは、一本の刃。苦無と呼ばれる類の鋭器とは誰が知るか。
その研ぎ澄まされた刃でつんつんと抑えた男の首筋を突く。娘を離せ、という無言の促しだ。

リセ >  平民より、甘やかされた環境に置かれた富裕地区の住民は往々にして弱い……ことが多い。
 訓練など受けていない場合は確実に。
 そんな最弱な上に財力もなかったものだから、こんな事態に巻き込まれたら詰む。
 詰んだ、筈だった。

 けれどぎりぎりで運が味方してくれたらしいし、持つべきものは小さな友たちだった。幸運の小さな友達。
 遊んでくれる、時には遊びに来てくれる、それだけで十分でそれ以上は望んだこともないのに、それ以上を齎してくれる。

 見知らぬ男に路地に引きずり込まれたところにまで駆けつけてくれるなんて予想だにしなかったけれど。
 まるで重力を操るような軽い身のこなし。疾風より早い動き。それに太刀打ちする手だけなど持ち合わせている訳のない、締まりのない体型の暴漢は、突如受けた襲撃に動く暇さえなく。
 気づけば口元を押さえつけられていた。抵抗など無駄な程な力で。

「っ……」

 そうかと思えばいつの間にかぴょん、ぴょん、と頭、肩に感じる親しみのある小さな重み。
 男の体勢がそのままだったので、口を塞がれたまま、お嬢様、と相変わらず苦手な呼称で呼びかけられるそれにも声が出せないままに。しかし物言いたげな表情で泪をいっぱいに溜めた目で視線を彼らに向けては、そのまま心配を体現するかのように擦りつけられる柔らかな小さい身体にさらに涙量が増して。
 ぽろぽろと双眸から落涙させ。

「……っ、っは、ぁ……せ、んせ、ぃ……ヒ…テン…ちゃん……スクナ、ちゃん……」

 ようやく声が出せたのは刃物で脅された男がようやく手を放してからだった。
 捕らえ込まれていた腕から解放されると、その場でふらっと膝をついてしまいながら、安堵からか嬉さからか泣きじゃくり始め。

 男は、口汚くお前が離せ、だとか、どこそこの家の者だ、とか、こんなことをしてただじゃ置かない、だとか加害者の分際で喚いて藻掻いて見苦しい。

影時 > 富裕地区に住んでいるから弱い、鍛えていない――と考えるのは此れは余りに早計だ。
個々によるという事例を己は知る。金持ちでありながら極限まで鍛えている例もあれば、その真逆もある。
戒めるべきは強さの真逆に居るものに付け込もうとする悪辣さ、愚かしさか。
此れも物の見方としては極端ではあるが、こうはなりたくないな、と思わずにはいられない。
口元を押さえ、万力よろしくホールドしながら思う。その相手が美姫の類でもない、鍛えていなさそうな男であれば猶更で。

(……あンまり鍛えちゃいなさそうだな、こいつ)

値踏みする様に観察しつつ、暴漢の口元を押さえこむ力は緩めない。寧ろ、足掻けば足掻く程に強めてゆく。
うーむと考える。今のこの場合において殺してしまっては、流石にまずいだろう。
殺せば口封じが出来るが、死骸の処理が面倒だ。だが、仮に万一何処ぞのお貴族様のボンボンとかだったら、どうしようか。

「おっと、お嬢様。俺の名前は呼ばわらないでくれよ? こういう時は名乗る程ではない者で居たくてね」

如何にも分かり易い刃による促しをもって、漸く暴漢は娘を離す。
その場で膝をつき、泣きじゃくり始める姿に眉を下げつつ、その肩や頭の上に乗った二匹がてしてしと前足で触れるさまを見遣る。
彼らが鳴くことは滅多にないが、つぶらな瞳をうるうるさせながら身を寄せるのは心配してのことだろう。
物語やら絵にもなりそうな光景に目を細めつつ、努めて抑えた声音でそう促す。身分のヒントは知れても名は知れぬ方がいい。

「よく聞こえねえなァ? まぁ、お嬢様を暗がりに引っ張り込んでるくせに、ああだこうだと云ってそうだが。
 さて、失敬。極力殺さないでおきたいが、何処のどちら様かだけは知っておこうか」

娘の知った相手だったら、その時はその時か。
指に摘まんだ刃を唇で咥え、空いた右手で暴漢の服のポケットや懐を漁ろう。何か身分や地位を示すものがないか?と。
無ければ、凶事に及ばぬ範囲で“念押し”などして放り出すか、或いはふん縛って衛兵にでも捧げるか。

リセ >  甘やかされた環境筆頭にあるのだろう、そのまったく鍛えていない残念な暴漢。
 そんなことだからターゲッドがさらに弱い女学生に限られるのだろう。
 貧民地区の犯罪者ならばもうちょっとマシな筈。少なくとも喧嘩程度慣れたものだろうけれど。
 抑え込むのも大して苦労しない程度の虚しい足掻きでは、暴れるほど締め上げられて苦悶を洩らしていた。
 まさか反撃される以上、骸の処理まで考慮されているとは思いもよらず。

「ぁっ……」

 当人の名は呼ばなかったが、そのお供の二匹の名前は口にしてしまった。
 失言にはっとして今度は自分で自分の口を抑えて、こくこく、とそれ以上余計なことを云わないように無言で肯いた。
 暴漢から解放されれば、慰めるように小さな計四つの前足が触れてくれる。
 いつもいつも、優しい小さな友達のつぶらな瞳が潤んでいるのを察すると、泪声ながら「大丈夫……」と囁いて頬を摺り寄せるようにして。
 
 追いつめられた形の暴漢はと云うと自分が高貴な身分であることや、後で報復してやるとか、そんなことを云いたいようだったが。
 肝心の身分証の類は所持しておらず。事実の確認はできない状態。捕まっても逃げることが出来ればとぼけるつもりだったか。

「ぁ……ぁ、の……わ、わたし、は大丈夫、なの、で……も、もぅ、いい、です……」

 もしも本当に高貴な身分とやらだとしたら、取り逃がしておいた方が面倒がない……本当に報復行為に出られてしまったら。権力――多分親の――に物を云わせて止めに入ってくれた教師にまで迷惑が掛かれば、と危惧して。
 震える手で小さな二匹の温かみに縋ろうとするように肩と頭にいた彼らを胸にそっと抱え込むように抱こうとし。
 生粋の虐められっ子は日和って不問に付すように願い出ていた。

影時 > (殺して土遁で埋めンのは容易いが、はてさて)

体質でなければ、恐らくは飽食できる位に裕福な産まれ――とでも言うことなのだろうか。
ただ、趣味嗜好がこの手の所業に偏っていると仮定した場合、親の顔を拝んでおきたい気はしなくもない。
荒事に慣れた身として、死骸の処理には慣れている。
埋めるも解体して下水に流す、といった類も含め、算段ばかりは幾つも出来る。
それは子分たる小動物の目ばかりではなく、被害に遭った女学生の目が無ければ、という前提だ。
どれだけ暴れても、もがいても左手はがっちりと暴漢の口元を押さえたまま。顎が外れ、骨が折れてもその時はその時か。

「――やれやれ。だ、そうだ?
 ああ、余分なコトは云わなくて良い。“次に見たら、俺はお前さんを殺す。惨たらしく殺す”。……覚えたな?」
 
手が動ける、動かせる範囲で暴漢の衣類を漁ったが、身分証の類は出ない。家紋を描いた様な物品も恐らくは同様か。
詰まりはどこそこの家のものかを特定し云々というのが、今すぐは難しいということだ。
丁寧に尋問し、身体に聞いて情報を吐かせるのも、まるで良心よろしく被害に遭った少女が云うのだから仕方がない。
震える手が抱こうとすれば、二匹の毛玉はぴょいとその腕の中に飛び込み、両腕にしがみつきながら親分を見る。

仕方がない、是非もない、と。

肩を竦めつつ、暴漢の顔を掴む左手を動かす。己が眼を見るように相手の首の位置を動かす。
じぃと氣を高め、紅い光を宿した双眸で男の目を強迫観念を植え付けるように見竦め、了承の反応が見えれば、ぱ、と手を離そうか。

リセ >  始末する方向に滑らかに思念が向いていることを知らないのは、暴漢とその被害者なのか。
 成す術もなく手も足も出せず抑え込まれている、立場や力の弱い者しか相手にできない情けない暴漢は、暴れれば暴れただけ痛みが増すし、そもそも体力もないらしく早々と無駄な抵抗を諦めていたが。
 憎悪と憤怒に塗れた燃え滾った目をしていたものの。
 生に直結した口だけではない脅しに寒風の中冷たい汗を流していた。

「………え……」

 目を瞠ったのは暴漢だけではなくその場で聞いていた女学生だって同じことで。
 ただの脅し、ですよね…?と泣き濡れた双眸が窺うように易々と暴漢を抑え込んで脅迫している教師を見上げた。
 学院で教職に就いている姿しか知らない。裏の貌……むしろそちらが本当の貌、に当たる本業については存じ上げないので物騒な台詞が有言実行されることなど夢にも思わず。
 きゅ…と締め上げたりはしないが腕にしがみついている二匹を少し力を込めて抱き締め。

 冗談でもただの脅しでも済まない、と暴漢は気魄を込められた双眸に本能的に察知したのか戦意も憎悪も失せた青白い貌になり。ほとんど無意識のような動きで首を縦に振っていた。
 そして、解放されるや否や妙に甲高い悲鳴のような奇声を発して路地の向こうへ逃げ出していくのだった。

影時 > 手ぬるい――とはいえ、やり過ぎてもいけない。せめて教訓が残る位でなくてはならない。
人間、痛みが無ければ覚えない。その痛みが肉体的、或いは精神的な違いがあれ、だ。
次は無いと刻み込む場合、一番手っ取り早いのは恐怖である。
仮に暴漢が、武門の出であった場合はより一層想起できてしまうことだろう。

居るところには居るものだ。

必要だから、という唯其れだけのことで、容易く人を殺せるものが。
そして、即時実行に移さないのは事に及んだ場合の対処の厄介さと、何より流石に止めるだろうなあ、という女学生の心理から。
位置は変わって、一人と二匹の眼差しを感じつつ内心でそっと息を吐く。
二匹については、飼い主にして親分の在り方、スタンスは多少は知っているだろう。或いは感じているだろう。
だが、一人はそうではない。脅しというには、余りに手慣れたくらいに淡々とも見える態度は恐らく初めて見るはずで。

「あーあ、情けねェや。襲うならばその逆もあり得ることの想像が足りて無ぇと見える」

さて、分かってもらえたのだろう。
首を縦に振った暴漢を解放すれば、奇声を挙げて路地の向こうに逃げ出す姿のありように腹の底から息を吐く。
鍛えもそうだが、覚悟も何もかも足りていない。ひらひらと左手を振り、首を振れば改めて地面の方に目を遣る。
頭を掻きつつしゃがみ込み、見上げる姿に視線を合わせながら右手を伸べよう。

「やぁ、妙なトコで会ったな。
 急にこいつらが走り出したのを追ったら、ここに来ちまった。……リセの家に行きたかったのか?お前ら」

大丈夫か?と声をかけつつ、掻い摘んでこの路地に至った経緯を声に出す。
親分の問いには、こくこく、と。二匹が頷く仕草を見せる。
御飯に在りつきたかったのか、それとも近くを通ったから挨拶をしたかったのだろうか。そのどちらもかもしれないが。

リセ >  とてもへたれた暴漢だったから、精度の高い殺意を含んだ脅しは効いたようだけれど。
 その分おつむも残念だから、その内忘れて酒にでも酔ったら懲りずに似たようなことを始めるかも知れないが、その時の制御になるかも知れない。
 ならなかった場合は本当に堕ちるところまで堕ちて終わるのだろう。

 ことの次第を間近で見ていて、その暴漢が怯えたように逃げ去った後も、まだ信じられていない。
 本当に実行される脅しだったなんてことは。
 悠然と暴漢の不甲斐ない背中に感想を零して手を振っている様子をどこか茫然と現実感のないもののように眺め。
 それから差し出された手と普段と変わらないような声かけに我に返ったように焦点を合わせ。

「ぇ、あ。あ……ぁの、ほ、本当に、すみません……っ……お世話ばかりお掛けしてしまって……あ、ありがとう……ございました……
 え…と、また……ヒテンちゃんと、スクナちゃんが……助けてくれ、たの……?」

 最初からずっと、窮地に真っ先に気づいてくれるのは彼らだった。いつもいつも頼りになる小さな友達。
 助けられてばかりだ、と自嘲気味な心地も抱きながらも、教師から語られた経緯に肯いて。
「ありがとう……」と、大事そうに愛おしそうに二匹をそっと胸に抱き囁いて。
 大丈夫です、少しお尻が冷えてだけで。と少し不器用ながら笑みを浮かべて返しては、片手に二匹を抱えたまま手を借りて立ち上がり。
 
「ぁ、憶えてないかも、ですけど……前に云っていたフード付きのマント、できたんです。ヒテンちゃんとスクナちゃん、遊びに来てくれるなら差し上げてもいい、ですか……?
 あ、あの……よろしければ、カゲ先生も一緒に……お夕食……せめてお茶だけでも……」

 おずおずと窺うように。
 もうさすがにこれ以上おかしな輩には出くわさないだろうが、それでも大事な二匹を連れるならより安全な方がいい。できれば家まで一緒に来て欲しい、という願いを遠慮がちに伝えてはお時間があるかどうかなど確認して。
 何よりもお礼がしたいと一番に考えながらも、断られる、むしろ迷惑、きっと面倒くさいに違いない、と勝手に相手の心理を邪推もしてしまうので、声は小さくなってしまいつつ。

影時 > 一先ず、顔は見覚えた。この辺りも一応は行動範囲の圏内でもある。
故に念入りに探せば、先刻までの暴漢を見つけることもできるかもしれない。見つければ住処までも探せるだろう。
脅しをよく覚えていれば、少なくとも今しばらくは変なことには及ぶまい。
だが、一歩ボタンの掛け違いのよろしく変なことになった場合の備えは、と考えると聊か気が重くなる。
この手の事例のあれこれは、この国に限らず故郷でもよく見かけた事項でもある。
念には念を入れ出すと、つくづく面倒だよなぁと、思い返すと嫌でも遠い眼をしてしまいながら。

「気にすンな、と云っても……――難しいかもしれねェか。ともあれ、気にするな、とだけは重ねて言っとくぞ。
 どういたしまして、だ。結果としてはそうゆうコトになるんだろうなぁ」
 
野生のカン、というのか、それとも己にも知らぬ虫の知らせ等、色々と諸々あるのか。
この二匹については、自身さえも知らないコトも色々あるのかもしれない。そんな気がする。
そうっと抱きつつ囁かれれば、二匹はお互いの顔を見合わせ、照れ臭そうな仕草で身じろぐ。
ったく、と息を吐きつつ、手を引いて立ち上がる。男も膝を伸ばして身を起こせば、羽織の裾を叩いて頷こう。大丈夫ならば其れで良い。

「お、出来たのか。――忘れるモンかね。こいつらも行きたそうにしてたし、勿論だとも。
 俺もついでで差し支えなけりゃ、ご馳走になろうか」
 
先程響いた奇声が気になる。巡回も怠慢な者ばかりではあるまい。その逆が世の中では普通だ。
場所も場所と思えば、長居は正しい選択ではないだろう。
そう思いつつ、女学生の腕の中の二匹を見遣る。きらきらしたつぶらな眼差しが何を言いたげなのは、考えるまでもない。
この状況に於いて行かない、という選択は出来ない。
か細くなってしまう声の主に近づき、ぽん、と肩を叩いて、行こうかと促そう。歩き出すならば護衛も兼ねるために後ろに沿おうか。

リセ >  その後、暴漢がどうなったかは追及する気もなかったので、知ることはなかった。
 ただ、通学路では遭遇することにはもうならなくなったし、変質者が出没する、などの不穏な噂も減ったようで。
 
 何度も手を差し伸べてもらうことになってありがたいやら申し訳ないやらで恐縮しきりではあり。
 気にするな、との声に少し悩むような曖昧な笑みで首を傾げ。

「……いわゆる借りが増えていく、という気は、してます……本当に負債になるとしたらわたしは借金まみれです。
 すごいんですねえ……ヒテンちゃんスクナちゃん……どうして分かったの…?」

 大声を出す前に口を塞がれてしまったから、普通の人間の感性や聴力では何があったか分からなかっただろう。
 動物の鋭さ故なのかと思うも、何にせよ嬉しいヒーローの登場だったには変わりなく。
 腕の中で照れたような所作を見せるのに、かわいい…、とまたしても胸を擽られ目を細めて見つめ。
 生まれ変わったら自分も栗鼠かモモンガになろう…と大分拗れた夢さえ見始めていた。

「憶えて…いてくださってたんですね……遅くなりました、直しがないか最後に確認しようと思ってたんですけどすごくグッドタイミングでした。
 あ、い、いえ、ついでじゃありません……っ。よろしいのでしたらぜひいらしてください……歓迎します」

 ついでだなんて滅相もないと首を振り、そして、今日は大事なお客様がたくさん、と思うと嬉しくなってほこほこと笑顔になり。
 小さな友人たちと移動の際は肩に乗ってもらうことも多いけれど今日は抱っこで。多分無意識に縋っているのだろうが。
 肩を叩かれて促す声にはいっ、と大きく肯いて後ろだとお話がしづらいのでできれば隣に、とお願いしながらも屋敷へとお客様をお連れして帰宅するのだった。
 夕食を一人分多く作ってもらって親に事情を話すと、放蕩者の父親はいなかったが常識人な母親が丁寧に礼をしてお迎えしたはずで。
 食事の後にはマントを試着してもらい、手直しなどがなければそのままお渡しすることで。
 栗鼠にはフードにモモンガの耳がついて柄の入ったもの、モモンガにはフードに栗鼠の耳ついて柄の入ったもの、とわざとトレードさせたデザインで縫い上げた小さな毛織素材のマント。前は紐で結べるようになっているが、首が絞まることがあってはいけないのでいざという時は解けるように硬く結び過ぎない素材にしてあり。
 店で販売している者に比べて手作り感はあるが、これからの時期に温かく着れるような素材で仕立てたそれは心だけは籠っていた。愛情たっぷり。
 受け取ってもらえば心底嬉しそうにして、その日は過ごしたことで――

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からリセさんが去りました。
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