2023/09/18 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にルイスさんが現れました。
ルイス >  
「お足許、よろしいですか?
 それでは、失礼致します……どうか、道中お気をつけて」

千鳥足で馬車に乗り込む貴婦人に手を貸して、
白粉の上からでも知れる赤ら顔の彼女に、形ばかりは丁寧に礼をし、
扉を閉じて、恭しく首を垂れる。
御者が馬に鞭をくれる音、動き始める馬車。
その音がある程度遠ざかったところで、ようやく、下げていた頭を戻し。
夜更けの街路を走り去って行く黒塗りの馬車を眺めつつ、そっと溜め息を吐いた。

「……今の方で、お見送りは最後、かな。
 あとは殿方ばかりだし……大分過ごしていらしたようだから、
 皆様、泊って行かれるんだろう」

独り言ちて、背後に佇む屋敷を振り仰ぐ。
今宵、この屋敷で開かれた夜会も、そろそろお開きの頃合い。
門前まで見送りに出る仕事は、これが最後かと思われた。
あとは広間の片づけか、それとも。
何にしても、少しだけ息抜きがしたい気分だった。
ぐるり、屋敷の周りを散歩などしてきても許されるだろうか、
ぼんやりとそんな事を考えながら、足許の小石を軽く蹴飛ばしてみる。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にアティルさんが現れました。
アティル > ―――かーん、かんっ、かんっ。
日頃からの清掃が行き届いていた為にその蹴飛ばした小石は思いの外よく跳ねる。
小石が運悪く音を立ててしまった事。そしてその小石が伯爵の足元に転がっていったのが運の悪さを象徴している。
カツン、というステッキで転がってきた小石を捌く音。
ともすれば。来客に粗相を働いてしまったかもしれない、と言う事を音で知らしめていた。

もっともこの家は公爵家。爵位で言えば自分の方が下。
そこはわきまえた上で、声を荒立てたりはせず、穏やかに、石が転がってきた方向へ声をかける。

「――おっと、失礼。公爵家の庭の石を傷つけてしまいました。
そちらにどなたかいらっしゃいますかな?」

其処に佇んでいたのは伯爵でもやや変わり者。
宜しくない噂も囁かれる元清流派の爵位の持ち主。
現当主の噂――長兄にして家を傾かせるのはこの者になるだろうという手癖の悪さまでが噂に上る男だった。
まだ、男は彼女を認識していない。石が転がってきた方向へとあらぬ視線を向けるだけ。

ルイス >  
見送りに出た己の手には、小さなランタンがある。
屋敷の玄関には明々と灯火が焚かれているから、真の暗闇とは言えない。
しかし生憎、その人物の居た辺りは暗がりになっていたらしい。
転がる石が何か、硬いもので弾かれる音が聞こえ、反射的にそちらへ顔を向けて、
暗がりの中へ目を凝らした。

その声で直ぐ、誰だと判る程ではない。
だが、兎に角も相手は客人だと、投げかけられた声の調子から知れる。
かつりと靴の踵を鳴らし、すぐさま声の下方へ駆け寄って、
佇む人影が誰であるかを見定めるより先に、深々と頭を下げた。

「失礼致しました、旦那様……!
 お怪我は御座いませんでしたか?」

神妙な面持ちで、そう尋ねながら顔を上げる。
この顔、この、服装のセンス――――敢えて、コメントはすまい。
何しろ己は当家の使用人であり、相手は客人である。
個人的に知り合う機会も無い筈の相手なら、飽くまで使用人として、
失礼の無いように振る舞うだけだった。

アティル > 暗闇の中から現れたという事は――灯やランタンの当たらぬ場所。
公爵家の数少ない暗闇が得られるスポットを利用していたという話。
駆け寄って来るなりの謝罪。男性にも女性にも見えるその執事服の相手には鷹揚に手を挙げた。
寧ろ機嫌すら良さそうに見える。
神妙な面持ちを浮かべる相手はこの家の使用人。とはいえ、大本を辿れば公爵家に繋がる事になる。

「旦那様、など。
いやいや小石1つで怪我等しないとも。
と言いたいのですが、こちらの公爵家には如何せん不慣れなもので。
此方の部屋鍵が今宵の夜会後に宿泊室として貸し与えられているのだが、案内は頼めるだろうか?」

見せた部屋の鍵、と言うより別室・別邸の鍵だ。
公爵家の証と共に書かれている鍵の示す別室はここからは少し距離もある。
こう問うだけで通じるかは怪しい所だった。
まだ女性として見られていない為なのか、そのまなざしに欲望の色が混ざる事は無い。
――じっくり見れば男性としては美麗な顔立ち等に違和感を覚えるかもしれないが。

ルイス >  
今日の招待客の顔と名前は、勿論、あらかじめ頭に入れてある。
ランタンの灯りを不躾に向けずとも、この距離ならば相手の顔は見えるから、
瞬時に、相手の顔から名前を、爵位を、それから少しばかり、噂の断片も思い出したが。

「それは、宜しゅう御座いました、フィラスメンタ卿。
 ――――あぁ、これは、重ね重ね大変な失礼を…!」

示された鍵のタグを、わざわざ確認するまでもない。
泊り客の部屋割りについても、己は事前に把握している。
確かこの、若き伯爵の名は、敷地内にある別棟の一室であった筈。
空いている方の手を差し出し、鍵を受け取ろうとしながら、

「勿論で御座います、フィラスメンタ卿、どうぞ、此方へ。
 庭園を抜けた先で御座いますので、少し歩きますが……
 数年前に建てられたばかりですので、お部屋は快適に設えて御座います」

先に立って進む己の、ではなく、相手の足許をランタンで照らしつつ。
丹精込めて整えられた庭園を抜け、奥まった場所に建てられた別棟へと、
案内役をつとめることに。

アティル > 差し出された掌に信用している様に頷き、鍵を手渡す。
確りとした造りの歴史の積み重ねを感じさせる重量の金属製の鍵を渡すと慣れた所作で此方の足元を照らし先導してくる姿。
一つ一つの所作が優れているのは流石にランドール公爵家お抱えの存在。
感心したかのように溜息が漏れる。

「景観のみならず、使用人一人に至るまで。いや執事かな?
流石は公爵家でも筆頭格とまで噂されている。
歩く事も悪い事ではないさ、食事や酒の後動かずに寝ているだけでは太ってしまおうと言う物だ。
丁度良い夜の運動さ。風が変われば花の香も変わる。
良く手入れされた庭園で、気遣いの一つ一つも感じ取れる。」

足元に躓く事も無く案内を受ける。
ランドール公爵家の夜会。表向きは華やかながら、宜しくない噂のある伯爵が参加している以上後ろ暗い側面はある――。
幾つかの噂話を聞いて先程は暗がりで情報を集めていたのだ。
催眠作用のある魔法。フィラスメンタ家の秘宝を使って。
目の前の相手が普通の執事であればいいのだが――。
魔力に敏感だろうか。うすくうすく、フィラスメンタ家の至宝。
流体宝石が花の香りに紛れる様に自分の質問に答える様に、催眠を――意識のロックをゆっくり外そうとしていく。
反応を伺う。――後ろを歩きながら、特段過敏な反応を示せばすぐにその宝は力を失わせるつもりだった。

ルイス >  
手渡された鍵を片手に、ランタンをもう一方の手に。
この庭園は公爵ではなく、夫人の好みで整えられた自慢の庭だ。
何れの季節であっても、色とりどりの花が咲き乱れるよう、
贅を尽くされた庭園を夜風が吹き抜けるたび、甘い香りが鼻腔を擽る。
だから最初は、相手の整髪料の香りも、さほど気にはならなかったのだが。

「いえ、私など未だ若輩者ですので、……それに、
 卿を御一人で放り出すなど、あるまじき失態で御座います。
 後程、何か御詫びを……御酒は、もう充分楽しまれましたか。
 もし御嫌いでなければ、ショコラでもお持ち致しましょうか」

庭園を横切る石畳の歩道を辿りながら、訓練された気遣いの言葉をなぞるように。
鍵を握り込んだ方の手で、無意識に鼻先を、口許を覆う仕草を示したのは、
何やら、異な香りを嗅いだように感じたからだ。
ただの人間に過ぎないこの身ではあるが、決して、勘働きは悪くない。
何を探る心算かは知らないが、当家に関する秘密なら、
口を噤もうとする意志も、並々ならぬ頑強さではある。
其処までして探る程の秘密が、あるかどうかは兎も角として。

ともあれ、別棟はもう、すぐ其処に佇んでいる。
窓明かりがちらほらと灯っているところを見ると、
今宵、此方に泊まるのは相手だけでない事も知れるだろう。

アティル > 甘い整髪料の香りには媚薬等は混ざっていない。
夜会に参加する以上、ずっと流し続けるには些か無体なモノだろう。
だが彼女の勘の為せる業か、口元を覆う仕草を見せた相手を気遣う様に。
自分の髪の毛の部分に指を示すと眉を少し困ったような、それでも穏やかそうに見える笑みを浮かべて相手を気遣うのだった。
探る事は多い。公爵家の秘密1つがどれ程の高値が付くか。
夜会にしてもそう。自分の様に有害な者を招く度量か、それとも利を計算したものなのか。
先程暗がりにいたのは顔見知りの貴族との情報交換をしていた事が本当の話だった。

「失礼、やはりあのような美しき華の庭園には似つかわしくない香、でしたかな。
良いですな。ショコラに茶請けでも一つ貰えれば幸い。
後は眠るまで軽くトランプでも如何かな?
眠気が訪れるまでポーカー等の簡単な戯れで相手をしてもらえるなら助かる。ふふ、流石に一人で夜眠くなるまでじっとすると言うのも苦痛でね。」

今宵他の部屋でも誰かしらは宿泊する。
それは判る。その内のほんの一握りしか自分は知らず、下手を働けば冗談を抜きに【首が飛ぶ】
慎重を期して、且つ自分の髪の毛を摘まみその甘い整髪料の香りを苦笑いして確認する様子を見せつつ――屋敷の中に。
どれほどの客人がいるかは定かではない。

無茶をする条件としては――最低限自分の部屋の近辺に宿泊客がいない。またはその宿泊客が穢れた身分。腐敗した貴族の客である事だが――望みは薄いだろう。

ルイス >  
貴族の中には、身に纏うコロンは勿論、整髪料に凝る者も多い。
相手が申し訳無さそうに髪に触れてそう告げれば、成る程、
この香りは整髪料のものであったか、と納得はする。
それ以外に何か仕掛けが施されつつあった等と、気づく由も無く。

「いえ、私こそ失礼致しました。
 高貴な方のご趣味に、あまり造詣が深くないものですから…、
 不調法で、申し訳次第も御座いません。」

そっと頭を下げて、ランタンの照らす薄灯りの下、微かに儀礼的な微笑を浮かべる。
別棟のポーチへ辿り着くと、明かりは玄関へ数段続く階段を照らす為に掲げ、

「どうぞ、お足許にご注意下さいませ。
 ……そうですね、ではショコラに、軽い焼き菓子でもご用意させましょう。
 私に、卿のカードのお相手が務まりますかどうか…、」

緩く頭を振りながら、玄関扉を開き、それを押さえて相手を招じ入れようと。
扉の音に気づいて、奥から別の使用人がちらほらと現れる。
己と同じ執事服に身を包んだ若い男と、少女のようなメイドが一人。
彼らの方へ、目顔で合図を送りつつ、

「フィラスメンタ卿のご到着だ、お部屋へ、ショコラと焼き菓子を。
 ご案内は、私がこのまま……」

其処まで告げたところで、同僚の男がそっと近づいてくる。
囁き落とされた言葉に、僅か、眉を寄せてみせたが、己は大人しく、預かってきた鍵を彼の手に渡した。

「――――失礼、主が私を呼んでいるようです。
 此処から先のご案内は、この者が致しますので」

振り返って、客人の男に丁寧に頭を下げる。
呼び出しは事実だが、呼びつけている相手は公爵ではなく、その一人娘。
彼女の我儘以上に重大な案件など、己には存在しないのだ。
何しろ放っておけば、恐ろしい癇癪を起こす娘でもある。
詫びを告げたあとには、急ぎ足で本邸へ戻って行く事になる。

かくして、危険はあらゆる意味で回避される。
己にとって幸いだったのか、相手にとっても幸いであったのか。
執事の男は案内役の身を果たして引き上げる、面白みの無い男だったが、
ショコラを運んできた少女は、客人の容貌に逆上せ気味の顔をして現れた。
彼女とどのように夜を楽しもうと、それは、客人のお好み次第であろうから―――――。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からルイスさんが去りました。
アティル > 「ははは、高貴だなどと!
と、それは失礼。では――」

相手の礼儀が整っていればこそ回避も出来る危機
自らも助かったのは事実。予想以上に多くの人員が配置されている様子だった。
一つ疑問に思ったのは主、と言う表現をしていた事。
その疑問は僅かな時間で流れ去り夜会は幕を下ろした――。
少女は無事に、何事も無くポーカーの相手を務め期間を果たしたことだろう。表向きは。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からアティルさんが去りました。