2023/08/15 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にマーシュさんが現れました。
■マーシュ > 富裕地区郊外にある墓地は、貴族やそれに連なる存在が永の眠りについている。
敷地内は庭園のように整えられ、整然とし。
訪う彼らのための施設も用意されている。
湿度を孕んだ風は、重く。装束の裳裾を揺らすのにかすかに目を細めた。
通常の務めでこちらに赴くこともあるが───今は少し趣を異にする。
とはいえ墓守の詰め所で許可をもらうのも、花の籠を手にしているのもあまり変わらない。
生もしも己にとっては等しく───。
穏やかな眠りを守る祈りを紡ぐ。
■マーシュ > 控えめな足音が、整えられた石畳の上を進んでゆく。
それぞれの墓碑に備えられた花、萎れたものを取り除き、新しいものに取り換えて。
つど、祈るために足を止め。
そうやって一つ一つを訪い。聖句を手向く中。
鈍色をした空のうねりが風となって渡ってゆくのに、揺れるウィンプルを静かに抑えた。
一度足を止めて空を仰ぎ。
「───雨にならないといいのですが」
それも時間の問題だというのは、風に混じる雨の匂いが徐々に強くなっていることもまた嗅ぎ取っているのだから、あくまで勝手な希望を言葉にしたに過ぎない。
さすがに俗世の喧騒の遠い場所。
訪れる人々も場所をわきまえているのか、その手には献花が携えられていることが多い。
時折向けられる挨拶に首を垂れ──そんな日常の。歯車めいた運びの中をわずかに女は逸脱する。
■マーシュ > 風が頬を撫でる。
雨を──嵐を運ぶソレは重く。軽やかとはいいがたいが、それでも風は渡ってゆく。
目立たないが、風通しの良い場所に配されている5つの墓碑。
刻印の刻まれたものと無銘のそれ。感情を排したような眼差しがそれを見つめ、ややあってから静かに伏せられた。
生も、死も、地続きだけれど。
伸ばした手指が丁寧にほこりを払い、墓碑一つ一つに花を手向けた。
常そうしているように、ほかのものと同じもの。
……眠る彼らには、きっとさほど意味がない。
そも、肉体すらそこには納められていないのだったか。
であればここは、残された者の為の場所。
己が花を手向くのもその為だ。
あるいはそれは、墓碑という存在そのものに対していえることなのかもしれない。
つかの間の別れを慈しみ、分かたれた道を進むために。
「────………」
さり、と無機質な墓碑を撫で、祈りの言葉を編んだ。
己が、己としてできるのはそれくらいだから。
それが終わったら唇を噤む。
薄く開いた眼差しがわずかに揺れた。逸脱した歯車の、小さな軋みを置いていくべきか否かを惑うように。
「────……。」
ぽつ、と頬に触れた雫が、雨の雫なのだと自覚しながらも暫し佇む。
降り出した雨を厭う風情はなく。ざらりと雨脚が勢いを増す中で、唇が動いた。
「──あの人に安寧が、訪れますように」
■マーシュ > すい、と身を離す。
雨のけぶる中を動じることもなく、歩調はそのまま。
勤めの仕上げに詰め所に顔を出して戻るのも、いつものように。
雨宿りを勧められたら意外そうな表情をして、けれどそのまま女は出て行った。
………本当は今日の勤めに、ここに訪れるものはなかったのだから。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からマーシュさんが去りました。