2025/03/30 のログ
エン > 風で水面が揺れる音、風で草葉でさざめき花が舞う音、広場の近くを通る靴音、通りで奏でられる酒場の喧騒。
近くで囀るものから遠くに響いてくる様々な音を聞きながらぼんやりと、
閉じている瞳を見えもしない星空に向けながら足を組んではのんびりと、
している折――
「あ……っ」と何がしか気を取られた女の声も聞き取った。

「?」

ひゅるふわ。といった具合の小さく柔らかな生地が風に揺れる音色が、たまたま、ブーツの上っ面に引っ掛かる。

(……ハンカチ? かな?)

サングラスと顔を向けて首を傾げていればこちらへと向かってくる女の静かな、静かすぎるぐらいの靴音と柔らかな声音。

「どうぞ、お嬢さん。……すまないね、この靴が汚していないと良いのだけれど……」

多分この辺り、違う、下。
掌を向ければ一度脛当たりに触れたがもうちょっと下あたりと手探りで見つけたハンカチをつまむ。
ぱん、ぱん、と右手で摘んで左手で払ってから汚れを落とす仕草も終えれば小さく畳み掌へと乗っけて差し出す。
音が僅かでもするなら、例えばハンカチが飛んできた事や彼女の方角もわかるのだが、如何せん手元に落ちて微動だにもしないものを見つけるのは不得意で色も汚れもわかりゃしない。その仕草や物言いで目が不自由、であることはわかるだろうか。

メアリ > ハンカチを手探りで見つける様子を見て、この男が目が不自由だということに気が付く。

「ありがとうございます。すみません、手間を取らせてしまって……。」

手のひらに乗っけて丁寧に差し出されたハンカチを受け取れば、礼を告げながらそれを懐にしまい込む。
お礼に何かないだろうかと思えば、先ほど食べようとしていたチョコレートを取り出そうとするも、見ず知らずの相手から
急に食べ物を差し出されたところで安心して食べることはできないだろうと思い、手を引っ込めて。

「こんな時間にお散歩ですか?最近は暖かくなってきましたけれど
この時間になると流石に少し肌寒いですね……。」

ぽつんと一人で佇んでいる様子からみて連れはいないのだろう。
酒の匂いはないことから自分のように酒場帰りでもないと推測できて、夜の散歩という答えに行き着いた訳だが
平民地区とはいえこんな夜更けに盲目の人間がひとりでいるのは心配になってしまって。
ついついおせっかいにも声をかけてしまったのは酔っぱらって気が大きくなってしまっているからだろうか。

エン > 「どういたしまして。なあに、困った時はお互い様というからお気になさらず」

ハンカチを受け渡した手ももう片方もするりと袖の中に突っ込んで組んでから足を下ろした。
手間という程でもないと首を横へと一度振っては肩を竦めて見せる。

(……律儀な人だねぇ……)

何かお礼できるものでもないかといったしきり鞄を漁るがさごそ音に感心しつつ、
まだ年若いと思われる声音が届いてくる高さへと綴じた瞳とサングラスを向ける。

「ご明察。目が駄目になっていてね、耳は少々良いがおかげで昼はうるさくて出掛けられなくてさ。
 ……日中と夜中で随分と気温差がある時節だ、気を付けているよ。お嬢さんも……あー……。
 お酒、かなり嗜まれているようだけれど大丈夫? 足元はしっかりしているようだけど……」

彼女の推理はぴたりと当て嵌まっているから首肯を一つ。
その際ずれたサングラスの向こうにはぴったりと綴じた瞼があり、この様でね、なんて盲を顕に明るく笑う。
態々心配してくれるような物言いに一層感心しつつもちょいと言葉に悩んだのは、
女性に対して匂いがどうのと言うのは流石に失礼だとは思ったからだが……
親切な人にはついお節介も焼きたくなるというもので酒精の濃さに言及した。

「このあたりは、まぁ外周よりは良いとは言えど夜に女性の独り歩きは心配にもなる。
 良ければ。盲とはいえ男だから多少の男避けにもなるかもしれないから近くまで送ろうか?」

彼女の塒の、傍までとはいわず近くまで。見ず知らずの他人に拠点も知られたくないだろうからと。

メアリ > 「そうなんですね。確かにこのあたりは昼間になると賑やかになりますものね。
……あっ、ごめんなさい。お酒臭かったですよね。酒場帰りなもので……。
足元がおぼつかなくなるほど飲んでいないから大丈夫ですよ。」

広場だけでなくここら一帯は昼間になれば活気の良い声で溢れるからこそ、耳の良い人間にとっては
うるさいと感じてしまうのは仕方がないだろうと思っていたさ中、酒精の香りを感じ取ったのか
自身の事を言及されると、恥ずかしそうに口元を抑えて、気まずそうに視線を横に泳がす。

「そんな、送ってもらうだなんて。
使っている宿はここから少し離れた場所にあるんです。
もし送ってもらったら帰るときに大変じゃないですか?」

自身に盲目の知り合いがいないからよくわからないものの、道が分からなくなってしまわないのだろうかと
もしそうなってしまったら申し訳ないと眉を八の字にしながら困ったようにつげる。

「それに私は大丈夫ですよ。普通の女性とは違うので。」

エン >  
「いいや、こちらこそ申し訳ない、こうして目が開かないと耳にしろ鼻にしろ過敏になってね。
 健啖な様子はむしろ好ましいぐらいさ。良く食べて良く飲んで。健康も元気も良さそうで何よりだ」

袖に突っ込んだ右手を引き抜けば、ズレたサングラスの弦を戻してから胸の前に手を立てて謝罪の手印。
気まずそうな声音やその位置が逸れた事から顔も逸らしているのだろう様子に向かって、
此方こそ女性の匂いに言及して……と手印だけではなく確り謝罪の言葉も添えた。

「ああ。ここから近くなら要らぬ心配だった、重ねて申し訳ない。
 うん? うん。大丈夫。俺の塒もここからさして遠くないし道も覚えている、耳も良いから王都内ではまぁ先ず……」

見えていないのに、彼女の顔に見えぬ目線は向いている、見えていないが、彼女の位置も把握出来ている。
秘訣はこれと右手を己の顔へと触れてから顎先を伝って耳に触れてふにふに摘んだり引っ張ったり。
頻りこちらを心配してくれる心地良いお節介に笑って頷いていたが、続く言葉に不可思議そうに片眉が上がる。

「滅多に見ない親切さんで、聞き心地のいいお可愛らしい声音、以外に普通じゃないところが?
 まあ確かに腕に覚えはありそうな足音もしてらっしゃるか……名うての冒険者さんとかかな、あ、お名前聞いても宜しいか。俺は、憂炎(ユウエン)という」
(まあ。何なら最初は女じゃなくて気配殺した虎でも近づいてきたのかと思ったしなぁ……)

大型の猫科な肉食動物。だなんて匂いに言及以上に失礼すぎるから言えなかったけれど足音が静か過ぎたから思い至る、冒険者、傭兵等の当たり。
前が名字で後が名前で。憂鬱の憂に火炎の、と北方由来の名前をゆらゆらと王国風の文字にして中空で指をなぞらせながら自己紹介。

メアリ > 「そう言ってもらえると助かります。
五感のうち一つが弱くなるとそれを補うように他が発達すると聞いたことがありましたが、
そういうことなのでしょうか?
でもすごいですね、こうして話していても違和感がないあたり本当は目が見えているかのようです。」

健康も元気も良さそう、と言われるとまだ恥じらいを尾を引きつつもにこりと笑みを向けて。
昔傭兵団にいた時に聞いた話を今思い出せば、男もまたそういうことなのだろうかと小首を傾げて。
そしてまるで目が見えているようだと言いながらサングラスの奥を無意味にじっと見つめた。

「あら、王都内なら迷うこともないってことですか?
んふふっ、それは良い耳をお持ちのようですね。」

秘訣と聞いて引っ張ったりつまんだりと耳を弄ぶ姿が少しおかしく感じてしまえば自ずと笑みが零れて。

「まぁ、足音だけで分かってしまうんですね。
……憂炎様ですね。私はメアリ、傭兵をしている者です。」

気配を殺した虎なんて言われたら声を上げて笑っていたに違いない。
足音だけで冒険者まで言い当てた男に驚きつつ、自己紹介をしながら合わせて自分の職業を明かそう。

「憂炎様はお名前も服装もこの辺の人のものとは違うような気がするのですが、
ご出身はどこか異国の方なのですか?」

エン > 「そういうことだろうね、これを何と呼ぶのか昔聞いたがもう忘れちゃったなあ……
 光を失って以来耳が良くなったし訓練もして、反響定位という、音で見る技も身に着けた」

音の反響を利用して物体の距離や方向・大きさなどを測る、反響定位(エコーロケーション)
蝙蝠や海豚ほど上手にはこなせないけれど、等と言いつつも……
人差し指を立てれば彼女の目線へと向けてから己の黒眼鏡を指し、
くつくつと喉を鳴らして悪戯っ気にも可笑しそうにも笑気を零す。

「そう、中々の良い耳だろう? あ。形にも自信がある、其れは耳だけじゃないけどね」

ぴん、と最後に耳たぶを弾いてから、聞こえてくる笑みに笑いながら頷く。
ナルシストの気があるものだから耳の形がどうの顔の形がどうのと冗談めかした物言いもちらほら。

「俺も、一昔前にはそれなりに腕が立ったものだったんだ、今じゃ腰痛持ちの盲だけど。
 よろしくメアリさん。……。うん。なんだかどこかで……」

彼女の名乗りに、両手のひらをゆらりと胸の前で合わせると頭を下げる異国式の礼。
どこかで聞き覚えがあるような気がする名前に、はて? と思い出を探るように眉根が訝しげに動いた。

「ああ。生まれも育ちも北方帝国(シェンヤン)さ。王国に渡ってからもう十年も近いから王国語もこの通り。
 だからこれぐらいの寒さは、と、そうだ寒さといえば冷えは大丈夫かな? 普通じゃないとは言うが、まあほら、心配は心配だよ」

生まれも育ちも北の帝国のさらに北だと明かせば王国の今の冷えぐらいはなんのその、と言ったあたりでふと思いつく今日の寒さ。
カイロなんてもの持ち合わせていないし何か暖かいものを探して懐をがさごそと探ったり、見えぬ目線が己の上着に落ちたり。

メアリ > 「エコーロケーション……って、それってすごい特技ではないですか。」

音で見る技、これがあれば場所は限られようとも索敵などで使えるのでは、と傭兵ならではの使い道
を考えて便利そうだと憧れたり。
それを無しにしたってすごい特技というのは変わらず、メアリはキラキラと瞳を輝かせながら男を見つめる。

「ふ、ふ……形もとっても素敵ですよ。それに素敵なのは耳だけではなく……。
暗い場所ではっきり伺えないのが勿体ないくらいです。」

冗談めかした言葉に冗談っぽく言葉を返すが、告げる言葉自体に嘘偽りはない。
酒も入っているせいか普段は言わないような口説き文句のような一言がぽろっと零れる。

「あら、そうなのですね。腰痛持ちとはお辛い……。
えぇ、よろしくお願いいたしますね。……どこかでお会いしたことありましたか?」

どこかで、なんて言われたら過去に会ったことがあっただろうかと首を傾げるも、今のところメアリに
覚えはなく、不思議そうに首を傾げてみせる。

「なるほど、シェンヤンのお方でしたか。
……私も寒さは平気ですよ。仕事で山にいることが多いので、これくらいは問題ありませんよ。
ご心配いただきありがとうございます。」

懐を漁る様子に優しい方だなと印象を抱きつつも、寒さについては強いから大丈夫と断りを入れて。

エン > 「まだまだ、まだまだまだ、修めるには程遠いけれど多少なり形にはなったかな。
 メアリさんも興味があるなら訓練してみては? まずは暗い自室で瞳を閉じてね」

称賛が面映ゆく、んふふふ……と照れ臭そうな含み笑いが溢れるし髪を撫でながら顔が反れた。
元来そういう構造・生態の生物ではないからその段階まで行くのは難しいにしろ、
訓練と資質次第では己と同じかそれ以上にだっていけるものだと頷きながら零す。

「おや。見る目がある。うん。自慢の一品でね、ふふふ」

化粧をようく施せば演劇で女形もこなせるのでは? 何て印象も抱かせそうな面構えがまた嬉しそうに撓む。

「……。ああ。思い出した。今日が初めましては間違いないが古い友人から聞いた事があったんだ。
 やはり名うての人だったな。戦場ではかなりの活躍だと随分褒めてたよ」

曰く、素手で鉄をも引き千切る、曰く、鎧も盾も魔法防護も拳でぶち割る、曰く、挙句におっそろしく早い……云々。
昔のお前みてぇ。等と言われていた女人の傭兵がたしか“メアリ”。
同名の人違いかとも思ったがこの、聞く限りは一致する特徴からして恐らくそうだろうと踏んで一つ頷く。

「うん、なんだか、勝手な話だがどうにも、昔の俺みたいだと言われてる人だからこう、親近感というか後輩感というか?
 寒さは平気とはいうがこんなところに女性を立たせっぱなしというのも気が引ける事だし、ああ、顔もしっかり見せたい。
 どうだろうか? 酒、は、飲んだばかりだろうから暖かいものでも一杯奢らせてくれないかね、もう少し親睦深めたい」

よいしょ、と一声掛けながら立ち上がれば、もう遅い時間にしろ向こうの大通りにはまだまだ空いている店も幾つかあるから探るようにもサングラスや耳を巡らせながら、飲みに行かないか? なんて誘いを一つ首を傾げながらに投げる。

メアリ > 訓練と資質次第と聞けば単純にもちょっとやってみようかななどとそんな気になったり。
美麗な顔が嬉し気に笑みを浮かべると、つられてこちらも笑み。

「あら、お恥ずかしい。そう名前が知られているなんて……。」

傭兵としての自身の事を知られていたと聞き、さらに褒められていたとなれば、気恥ずかしそうに口元抑えて視線を逸らす。
その仕草はまるで乙女さながら、普通の一般人からみればこの女が素手で鉄を引きちぎったり拳で防御魔法をかち割ったり
する姿は想像できないに違いなく。

「昔の憂炎様みたい、ですか?それは興味がありますね。
私もぜひ憂炎様の昔のお話を聞いてみたいです。それにお顔もしっかり見せていただかなくては。
温かいものでも構いませんし、なんならまだお酒でもお付き合いできますよ。
確かここからすぐそこの酒場がまだ空いていた筈……」

そういって少し先の通りを指さすメアリ。
思わぬ出会いに喜々としながら、誘いに乗って向かった先は酒場か否か。
長い夜はまだまだ終わりそうになく――…。

エン > 「その腕ならばそれは名も広まる、さらに容姿端麗ともなると尚更さ」

ふんわりと柔らかい声音と物腰は、とても、気恥ずかしそうに悶える様子は、とても、
獅子奮迅の活躍ぶりを聞かされていた身からしても想像を難くするものではある。

「……ふふふっ。そのお顔は残念ながら見れないけれど……可愛らしい人だねぇ、メアリさん」

ついつい口端が緩くなる様子に口からはついナンパな台詞も出る。

「昔は“火花”などと呼ばれていたが今の時代にはもうすっかり忘れられているだろう名の傭兵だった。
 昔話で良ければ色々とあるから話させてもらおうか。
 ああ、それでは、そちらに向かおう。お手をどうぞ?」

まるで見えている様だと勘違いされるのも詮無しに、あるかないかの風切り音、彼女の細指が指した動きで顔が向く。
歩き出す直前に忘れ物に気付いた様子で声を上げれば差し出すのは、右手。
盲が手を引かれる、のではなく、盲が手を引く、なんておかしな話であるが男が女性をエスコートするのは当然とばかりの仕草。
これにまた笑みを浮かばせたか、手を取って貰ったか、ここから向かう先でどんな話と美味と美酒があったかは、さて、
どれだけ長い夜になったかも含めて二人の秘密になるだろう――……

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からメアリさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からエンさんが去りました。