2024/12/11 のログ
■枢樹雨 > 身長の差以上に、体躯の差か。
硬質でなくとも頑丈な何かに前触れなくぶつかってしまえば、華奢な妖怪の体重は殊更軽いものと感じさせかねない。
転ぶ――と、まるで他人事のように思う視界で、鬼角を隠していた白絹がぶつかった勢いで宙に舞う様が見えて。
「っ―――、」
白絹を捉えていた視界が、次いで貴方のシャツの色合いへと染まる。
己を弾いた体躯に、今度は受け止められる形となれば、長い前髪の下の双眸をぱちぱちと数度瞬かせる。
貴方の視界からは、白絹の落ちた妖怪の頭がよく見下ろせることだろう。
途切れた思考の回復に要した時間は数秒。
ハッとした様子で貴方の胸元から顔を上げれば、前髪の隙間から仄暗い蒼を覗かせ。
「……いや、私もよそ見をしていて、…ごめんなさい。
…怪我は、していないと思う。どこも痛くない。」
人とぶつかったのだと、貴方の言葉で認識する。
驚きの余韻を残した声音は淡々と抑揚なく、しかし謝罪となれば小さく頭を下げて見せる。
そうして己の足を見下ろし、右、左と順に持ち上げてみては、其処に痛みがないことを確認し。
「君は、……怪我はしていないよね。」
心配を貰ったから同じものを返す。
そうしようとしたものの、改めて見遣った貴方の身体のがっしりと逞しい事。
じぃ……と、首周りから胸元、己の二の腕を引き寄せた腕などを見つめれば、向けようとした問いがあまりに無意味だと気が付いて。
■ラッツィオ > ふわりと彼女の頭から浮かんだ白衣を、腕を掴んでいない反対の手で掴む。
浮かんだ拍子に頭の様子が見えてしまったが、隠す目的で被っていたのは明白だ。
抱きとめた上で、頭の上にそっと白衣を戻す。
「俺が? 怪我?
面白いことを言うお姐ちゃんだな。
そんなヤワに見られちまったか」
気分を害したといった風ではなく、背丈はさておき体格では随分と差のある相手にされる心配がおかしくて。
未だ人通りの多い往来の中央で話し込んでは邪魔になりそうであり。
二の腕をまだ掴んだままであるのをいいことに、道の脇へと彼女を引っ張っていく。
「しかし、なんだ。
なんか痛みがないことを確認するまで、随分時間がかかったっつゥか……
もしかして見かけ以上に相当強かったりするのかい、お姐ちゃん」
華奢な細腕の女が、無双の豪傑であることも珍しくはない。
見たところは丸腰、少なくとも目立つ武器の類は身につけていないように見えるが。
彼女に興味を抱いた様子を隠そうとせず。
■枢樹雨 > 接触による思考停止の合間ではあった。
けれど白絹が頭上へと戻り、端が目許にチラつけば、誰かが宙に舞ったそれを元に戻してくれたは明白。
そして今それが可能であるのは貴方であること、鈍い己であっても気が付いており。
「逞しい身体と、思ったよ。…でも、…角が刺さったかも、しれない。」
額と、そして鼻先とに残る貴方の胸元の感触。
其れを辿るように白い指先で己の鼻に触れれば、その指は頭上へと移り、白絹越しに左の角へと触れる。
貴方が隠し直してくれたそれ、見たよね?…と問うように、前髪の隙間から貴方を見上げながら。
しかし人々の往来から離れる様に腕引かれれば、カラコロと下駄を鳴らしながら其れに素直に従い、視線は自ずと貴方の後頭部、そして背を見遣るに至り。
「つよ、…い? ………強い可能性も、あるかもしれない。」
"強い"。それは妖怪にとってあまり聞き馴染みのない単語であった。
意味こそ知っていても己に向けられる事は過去どれほどあっただろうか。
虚を突かれた様子で数度瞬くと、おもむろに首を傾げ、新たな発見でも得たかのように貴方を見上げる。
足を動かしてみたら気が付かぬ痛みもあるかもしれない。
そう思ったが故の回答のラグだったが、おもむろに掴まれていない左手を持ち上げ、貴方の胸をぺちりと叩いてみる。
強い可能性を信じて。
ただ残念ながら、蚊は殺せても蝿は辛うじて生存しそうな程の平手で。
■ラッツィオ > 「……角。角かァ。
確かにブッ刺さったら相当痛そうだったが、ちィと無理があるんじゃねえか?
今まで刺さったこと、ねェだろ」
例えば一角獣のように長く鋭く額から突き出ていれば、刺突することも容易だろう。
しかし彼女の角の場合、頭頂部を標的に向けて突進でもしなければ刺さるまい。
下から突き上げようにも、頭部の中心から逸れた位置に生えているのだから修練が必要そうだ。
頼り投げな返答から、事故でも刺さったことはないだろうと決めつけた。
往来は賑やかなれど、脇によれば行き交う人と接触する心配もなく、落ち着いて会話ができる。
掴んでいた彼女の二の腕は離して。
「――…………」
「……………………ン?」
不意に胸を打たれると面食らった顔になったが。
あくまで、何の予兆もなく叩かれたせいで面食らっただけであり。
痛みが残るということもなく、触れられた感覚だけが尾を引いている。
そこを自分の手で擦り、何度か擦り、変色もせず何も異常がなさそうであることを確かめて。
「数時間後に突然効いて死んじまうヤベぇ毒を流し込まれた、とかじゃねェよな」
掴みどころのない凄腕の暗殺者であるという可能性を探った。
■枢樹雨 > 「………ないね。」
貴方の言うことはまさにその通り。
この肉体を得てじき1年。その中で己の角が他者に刺さった事実は現状ひとつとして存在しない。
刺したいわけでもないが、見透かしたように言いきられてしまえば、心なしか不満気な沈黙が数秒。
それでも素直に答えれば、前髪の隙間から覗き込むようにして貴方の顔を見上げる。
角を見たことは間違いなさそうではあるが、だからどうという様子もない。
隠す必要にない相手なのかと、伺うような視線を隠しもせず、貴方の金の瞳をじぃ…と見つめて。
「………?」
叩いた胸は、身体は、ぶつかった時と同じくビクともしない。
やはり自分に強いという単語は相応しくないのではないか。
そう自問する最中、貴方もまた不思議そうにしているのだから、叩いた手を引き乍らに再び首を傾ぐこととなる。
更には思わぬ問いが続くのだから、己の掌と、貴方の顔とを交互に見遣り。
「……そういった力は、生憎身に覚えがない、かな。
…君、そんなに命を狙われるような事をしているの?人の恨みをその身に抱えているの?」
己自身の事を、まだすべて解っていない。
その事は判っているからこそ、どうしても曖昧になってしまう回答。
けれど貴方という存在に興味が向けば、心なしか紡ぐ言葉のテンポが上がり。
■ラッツィオ > 「自分が強いかどうか確かめたかっただけか、なァるほど」
叩いてきた手を不思議そうに眺めている彼女の仕草に、合点のいくところがあった。
まだ知り合ったばかりだというのに、不思議と意思の通じ合うものを感じる時がある。
万一の心配は完全に無用だったようで、胸元を擦っていた手を止めた。
勘違いさせておくのも一興と頭を過ったが、妙に純朴そうな彼女の雰囲気に気圧されて。
「稼業で人の恨みを買ってないわけじゃァねえが……
無害を装った暗殺者に人目のある場所で襲われるほど、ヤベぇ相手に睨まれたことはないな。
いきなり叩いてくるもんだから変に勘繰ったのと、後は冗談だ、冗談」
これが逞しい男や、いかつい女なら、肩をバシバシ強めに叩いて流すところだが。
そういう手荒い作法に馴染みのない相手であることは分かっており。
ぽんと軽く肩に手を乗せて、もう片方の手で背後にある酒場を示す。
「立ち話も何だ、少し付き合わねェか。
酒が飲めなくたって構わねェよ、なにか飲み食いできるものはあるだろ」
■枢樹雨 > 「強いかどうか、でもあるし、…誰かがそうと言えば、そう在る可能性も、…確かめてみたかった、かな」
言葉足らずな妖怪の奇行を、読み解いてくれた貴方に頷きをひとつ。
けれどそれだけではなくてと、少しの曖昧さを語尾に残して語る。
自らの胸元を擦る貴方の手をちらりと見遣っては、再び己の左手を見て後、その手を降ろして。
「稼業?それは私が聞いても良いもの?」
貴方へと傾いた興味を素直に示す妖怪。
己を形成する妖、怪異の類のどれかは毒のひとつも扱えそうではあるが、今の己はそれを知らない。
この男の胸に毒を流し込んでいたのならどうなったのか。
そんな詮無い事を想像するは、妖怪の好奇心が故。
しかし貴方の手が肩に乗れば、その想像はぷつりと途切れ。
「酒、飲めるよ。飲むよ。飲んで良いのなら何でも飲むよ。」
酒…と、貴方が言った途端、パッと顔を上げるわかり易い反応。
飲んだことのある酒なら美味しいと感じたものを、飲んだことのない酒ならそのすべてを、飲みたがるのは貴方と共に酒場の席についてから。
促す言葉にすぐさま答える妖怪は、それでも少し、通りの方へと視線を流す。
貴方と出会うまで探していた"何か"を、思い出せないだろうかと。
けれど"何か"は"何か"のまま、明確になりはしないから意識は誘われた酒場へと傾いていく。
食事の席で、「何かを探しているけれど何か思い出せない」と語るのは、何をしていたのかと貴方に問われたなら。
そうでないのなら他愛のない言葉交わし、うっかり名を名乗ることも忘れて美味しい食事と酒とを満足気に味わうのだろう。
所持金はゼロであること、堂々と告げて―――…。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」から枢樹雨さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からラッツィオさんが去りました。