2024/08/25 のログ
イグナス > ――なんとかみられてない、よう。大人しくその日は、図書館を後にすることとして…。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からイグナスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 古書店」にラリーさんが現れました。
ラリー > 平民地区内のその小さな古書店は、わりと地区の中心の近くにありながらほとんど目立たず、立ち寄る者もそう多くない。
また古書店という性質上、商品の劣化を避けるために出入り口の向きなど日差しが殆ど入らない設計になっていて、店内は薄暗い。
そんな店の奥、接客カウンターの向こうで椅子に座って文庫本を読んでいる店番らしき少年の姿があった。

この店は少年の実家が経営しているもので、書類上は別の人間を立てているが実質的な店長は少年が務めている。
それ故、この店は少年にとって学院の図書館以上に自由のきくテリトリーである。
獲物となる対象が訪れれば、ほぼ確実に術中に囚われる羽目になるだろう。
もっとも、客足の少なさから獲物の出現は図書館以上に運任せではあるが…その時はその時、が少年のスタイル。
ただ静かに、読書に没頭しながら客の訪れを待ち続ける。

なお主な客層は通常の書店では見つからないような商品を求めるマニアックな本好きか、
遠方の客との本のやり取りの依頼を受けた冒険者あたりとなる。
少年の修理の腕はそれなりに定評があるため、そうした依頼もぼちぼちやってくる。

「…ん」

そうしていれば来客を告げるドアベルの音が響いて、少年はゆっくり本から顔を上げ客の姿を視界に入れた。
さてその客は少年の獲物になりうるような者なのか、それともなんでもない一般客か…。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 古書店」にレアルナさんが現れました。
レアルナ > 本業の占い師と副業の学院講師の間の自由時間にエルフの女は街に出歩いていた。
とはいうものの、去年に王都に移ってきてより人間観察のついでに街中を歩き回っている過程で大体の地理は把握できてきていた。
元は魔術師として冒険者をしていたこともあり時折魔導書目当てに古書店は覗くようにしている。
しかし、この古書店は普段のチェックから漏れていたようで初めて見る店だった。

「まだこんな店があったんですね…」

ここは入ってみるべきだろうか、それとも……?
顎の先に指を当てて少しだけ考えてみる。
少しだけ逡巡してから店のドアに手をかけた。
ドアベルの音とともに店内に入ると店番らしき少年に向かって微笑を浮かべて軽く会釈。
それから書棚に向き直ると収まった本のタイトルをチェックし始めた。

ラリー > 「…」

現れた女の姿を見て、少年は表情を変えないまま一度瞬きする。
笑顔で会釈をされれば応じるようにペコリと軽く頭を下げてから、
互いの視線が離れた時点で少し、近くで見なければ判らない程度に眉を寄せた。
端麗な容姿で、獲物としては申し分ないが…エルフという種族が少年にとっての懸念点だった。
少年の用いる催眠術は魔術なので、高い魔力を備えたエルフのような種族には通じない可能性がある。

こういう時、基本は無理をしないのが少年のスタンスだ。
だが、自身の魔術も適宜アップデートは繰り返している。多少の無理を試してみるのもアリではないか。
しばし逡巡した後、少年は開いていた本を閉じゆっくりと立ち上がる。
まずは標的の観察のため、ハタキを手に適度に離れた位置で棚に向かい、
視界の端に女の姿を入れながら埃を払ったり本の並びを整えたりなどの店員としての仕事をこなしてゆく。
何か向こうからの声掛けがあれば、応じる用意は心の中でしておきながら。

レアルナ > エルフの女は書棚に並んだ本の背表紙を見つめていた。
身にまとった黒い夏用ミニドレスはノースリーブ。
そこから伸びた白い腕はしなやかな曲線を描き書棚の本に触れない空間に指先を彷徨わせている。

「……応用……
 理論魔術……と…」

濃い色のルージュを刷いた唇を僅かに開いて口の中で本のタイトルを呟いている。
大きな翠色の瞳は本選びに集中しているのか自分の指先だけを追っていた。
並んだ書棚を移動するときにヒールが僅かに音を立てる。
パチパチと瞬きを繰り返しながら動いていた指先が一点で止まった。

「……あ、イグの黙示録の写本……」

白い指先が古びた魔導書の背表紙に引っかかると慎重に本を書棚から取り出した。
ハタキを持った少年に観察されているのにまったく気づいた様子もない。
口元を少しだけほころばせながら本を開いた。
黒いパンプスを履いた脚を揃えスラリとした身体を真っ直ぐにして読み始める。
知らずのうちに唇が小刻みに動いて一心不乱に本の世界へと没入しているのが見ているだけで分かるだろう。
本に集中するあまりエルフの女の身体はまったく隙だらけだった。

ラリー > 「……」

黙々と作業と観察を続けながら徐々に近くまで寄っていってみるが、どうやら女は
本探しに集中していてこちらには一切気が向いていないことが伺えた。
とうとう真後ろまでやってきて、魅力的な曲線を描く女の肢体を背後から遠慮なく眺めながら、少年は思案する。
読んでいる本の内容や、その口から小さく漏れ聞こえる内容から、女は十中八九魔術師だろう。
余計に懸念点が増えたため、やはりやめておくべきか…という考えも過ったが…。
真後ろの存在にも気づかないほどの集中ぶりに隙があると考え、少年は肚を決めた。

その場を離れ、女の視界からも姿を消す。そのことにも勿論、彼女は気づいていないのだろうが。
そしてしばらく後…女が開いている本の文字の一つ一つがチラホラと赤い光を放ち始める。
一見不規則に見えるその発光現象が、何かしらの魔術式を構成しようとしていることには気付けるかもしれない。
しかしそれに気づく頃には、強めの魔術干渉が彼女の精神に襲いかかり…
成功していれば彼女の意識は剥奪され、人形のごとくその場に棒立ちにさせられてしまうことだろう。

レアルナ > 少年の思惑などまったく知らないエルフの女は魔導書の内容に夢中になっていた。
何十年間探していた魔導書の写本がこんな偶然に見つかるとは思っても見なかった。
唇が緩んで満足そうな吐息をつく。

少年が背後に近寄ったのにも気づかなければ背後から消えたのにも気づいていなかった。
ピンク色のマニキュアで彩られた指先が一枚また一枚と魔導書のページを繰る。
女は気づいていなかった。
魔導書の文字の一つ一つに赤い光が混じっていることに。
つい先日も学院の図書館で別のトラップに引っかかりかけたにも関わらず知識欲には勝てなかった。
不規則な赤い発光が翠色の瞳に吸い込まれていく。
緩んだ唇がもっと緩んできた。
瞬きの間隔が短くなっていく。

「……ぁ……」

小さい呟きが漏れた。
魔導書を読み進める脳から気持ちの良い汁が溢れてくる気がする。
もっと読みたい。
読み進めたい。
女の白い手がページを一枚ずつ捲っていく。
書物の内容は女の脳内にはもう入ってきていなかった。
その代わりに入ってきたのは少年が仕掛けた魔術式。
脳内に赤い文字て人形化の魔術式が描き出されていく。
既に女の身体は女の意思とは関わりなく動いていた。
脳内の魔術式を完成させるために書に仕掛けられた催眠術によって動かされる女。

「……ぁ……ぁぁ……」

喉の奥から漏れてくるのは気持ち良さげな唸り。
大きく開いていた瞼がピクピクと痙攣しながら下りてくる。
静かで規則正しい呼吸は女が催眠状態に入っていることを示す証拠。
そして少年が仕掛けた魔術式が女の脳内で完成したとき、女は目を閉じて言葉を発した。

「──レアルナは催眠人形になりました」

目を閉じ脚を揃え、腕で魔導書を支えてまっすぐに立ったまま女は棒立ちの人形と化した。