2024/06/07 のログ
ご案内:「王都マグメール ヴァルケス武器防具店」にイーヴィアさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール ヴァルケス武器防具店」にメイラ・ダンタリオさんが現れました。
イーヴィア > (店は本日営業終了。 ――なのだが、まだ明かりは点灯して居る。
既に従業員は帰った後、だと言うのに、店主がカウンターに居座って居るのは
営業外の客人が、この後訪れるからに他ならない

営業時間中には来れない客で在ったり、訳ありで在ったり
或いは、時間度外視で対応する必要がある相手だったり、理由は其の時で様々だが
今回の場合は、其の何れにも該当しそう、では在る。)

「―――――……そういや、裏口から入る様にって言い忘れたな…。
……まぁ、判るか。 もう何度も来てるしな。」

(一応、必要なやり取りは果たした。
時間外の来店時には、裏口から入る、と言う一種の御約束も、常連となれば省いている。
正確に何時訪れるかは判らぬ相手故に、待つ間、注文票の確認を進めながら
椅子の背凭れに、ゆったりと背を預けていた

準備は済ませてある。 例えどんな状況でも、対応は出来るだろう。
其れこそ――微塵も残らず消し飛んだ、とかでなければ、だが)。

メイラ・ダンタリオ >  
 夜の王都 平民地区
 この中を馬車が通るのは目立つだろう。
 かといって、一人事を済ませるには聊か面倒か。
 メイラは夏服姿の、ワインレッドのタイを摘まんで眺めながら目の前の席で佇む“荷”にチラリと目をやる。
 止める場所は、まるでお忍びのような裏路地 密会のような気分に、普段の行い素性からしてらしくない。
 蹄の音は静かに 富裕地区の様に全てが石を並べた路というわけではないものの
 鳴らす蹄 廻る車輪。 静かに止まったそれでその目の前に立つ建物の主は今回の要件が来たかと察するだろうか。

 目の前の荷である“黒鎧一式”は、中に木偶でも仕込んでいるのか両手を膝に揃え静かに座している。
 それを馬車の扉を開く御者に対し、鎧を抱き上げて軽々と歩む素振り。
 ノックを3度 裏口から慣れたように入店したメイラは、イーヴィアと愛刀の一件以来での再会を果たすだろうか。
 店内の裏口から入店したまま、黒鎧一式 黒兜を含めて目の前に佇ませると空いた両の手。


   「ごきげんようイーヴィア 真夜中の対応感謝致しますわ。」


 短パンニーソと組み合わせた臀部から横合いを覆うロングスリットスカートを持ち上げる御馴染のそれ。
 カーテシーで一礼し、いつものように挨拶をかわそうか。
 手土産はその真っ赤な髪色に合うような赤い古酒の琥珀酒。
 熟成させた分水気が少なくなり、度数が高まったそれはうっとりとする色合い
 透明な硝子の瓶と底を守るように革で包まれ、メイラの手首に掛かっている。
 人の頭部大ほどあるそれは、いったいどれほど旨いのか。
 安酒しか浴びれない冒険者の一端には見上げるだけの酒とわかる色。


   「これはダイラス土産ですわ。 タナールから帰還した際に立ち寄りましたのよ。」


 ルート的にわかりやすい補給か、一度団員らの息を抜かせる将の計らいか。
 此処に来ることはタナールの時点でわかっていた故のものだろうか。 
 

イーヴィア > (店の外に気配がした。
予想よりも物々しいのが気にはなったが、十中八九待ち人だろう
立ち上がり、裏口へと歩みを向ければ、扉の錠を解いて開く
向こう側、見知る顔が現れれば、挨拶――よりも先んじて
扉を大きく開き、店内へと案内するだろう。

後ろ手に扉を閉める。 商談机の前の空間辺りに、置かれた鎧を眺め見ながら。)

「……なぁに、対応しなきゃならないってんなら、時間なんざ度外視さ。」

(他に、"其れ"をどうにかできる鍛冶屋なぞ、そうそう居ないだろう。
勿論世界は広い、鍛冶の上で勝るとも劣らぬ者は居るのだろう、が
其れが自らの作品ならば、対する理解度で及ぶ者など他には居ない自負がある

一介の鍛冶師に対して、貴族で在る相手が一礼を向けるなら
こちらもまた、其れに合わせた礼を向けよう。 とは言え、うやうやしく、何て今更ガラでは無い
畏まった場ならば兎も角――此処でならば。 ふ、と口元に弧を描き。)

「おっと、そいつは有難いね。 酒なんて幾らあっても嬉しいもんだ。
……にしても、相変わらず酒の選び方が良いな。」

(受け取る酒瓶。 酒好きなればこそ、其の価値は一目見て判る。
寝かせた年月が経てば経つほど、其の価値は上がって行く銘酒のひとつ
その色合いを、明かりに透かしながら暫し眺めれば、有難く受け取り、テーブルへと乗せるだろう

――だが、戦場帰りを祝して酒盛り、と言うには、少々早い。
改めて、鎧に視線を向ければ、くるりと其の周囲を、一周して見て回ろう。)

「……で、だ。 ……具体的な状況って奴は、教えて貰えるのかい?」

(――頼まれたのは、修繕だ。
この鎧を、改めて修繕する必要に迫られた、其の状況を知りたいと
言葉だけで、隣へと問いかける)。

メイラ・ダンタリオ >  
 再会の印に乾杯というわけにはいかない。
 互いには明確な手足を今動かした理由があり、メイラもまた頼んで預けて終わりとはいかない
 この自前を仕上げた当人であるイーヴィアにいつものように文を認め、機会を設けているのだから。
 酒自体は、本人が鎧を仕上げた後にでも傾ければいい話だ。
 古酒の大層な銘なんて必要ない その赤は無記名 もしくはラベルすら古びてインクの表面がもう食われたようだ。
 その色味が銘であり存在を齎す。
 本人も、時折渡される酒の中で好ましい分類であったらしい。
 赤を透かして眺め、それを映す瞳の形は趣味の合うものを見つけた笑みを浮かべている。


   「―――ええ、経緯をお話しましょうか。」


 愛刀二種を腰から下げた黒の一張羅
 手元の、両の手に黒鉄を手袋丈で覆った鋭い指手は刀の柄に肘から先を置くようにし
 その白い柄 縁頭は檮杌立身図を掌で包むようにしてギュッと握って見せた。
 表情はやや気に入らないと言った様子、とは違い これはこうなって当然の結末でったのかもしれない
 そうあり得た未来を受け入れているようだった。


   「わたくしは自他に認める“怪力令嬢”
    貴方の拵えた鎧の特性をどこまで引き出すかは実にまちまちでしたが。」


 ―――あの日 あのタナールで わたくしは鎧が引き出す興奮作用と微バフの恩恵に従い
    見事に“狂獣”の如きザマで駆け抜けましたわ。


 呟くメイラは鎧の性能をまともに、それこそ十全に利用して放ったと言えるあの一日
 言葉すら無くしたかのようにして飛び掛かり続けた際、その勢いを加味して放たれた一撃が孔を穿った。
 そう述べるのは黒真銀(ミスリル)に穴を開けられたという結果。
 ミスリルに穴を開けるというだけでも桁が違う。
 メイラ自体が五体満足に過ぎるのは鎧が受け止め切っていたのか。
 目の前の鎧の内、霞仕上げのような赤い瞳が見るのは胸と胎の間にある瘡蓋のように歪な再生痕が残る部位だった。

 この鎧 互いは作成する際覚えているだろうか イーヴィアがテーマを寄越せと言われ
 それに対し放った一言は当時の怪力令嬢らしい
 無駄な伝説を求めず華麗な結末を求めないメイラ
 一定以上の耐久性は準伝説以上になってしまうのを毛嫌いするように、再生でもしたら便利だと求めた。

 冷静に考えれば黒真銀を用いて自己修復できる鎧金属など、準伝説のように見えるかもしれない
 だが、二人の間ではアダマンやオリハルコンのようなものは端から目を向けていないし求めていない。
 己の腕でそれに近しくどこまでいけるかのほうが、よほど信頼性があった。

 そう、この鎧にはこうなる結末が用意すらされていた。
 そしてそれを立て直す未来も。
 鎧が瘡蓋か火傷痕が未だ強く残るかのように、一部位が滑らかさを戻せないように痕が残るのは
 メイラが着ていないせいか まだ時間がかかっているのか。
 他の部位も疲労が残り、繋ぎ目であるベルトなどもそろそろ相談しようと思っていたところだった。


   「そうそう、黒い母()を用いてその時、頭突きで胸骨を壁で挟んで砕いて見せましたのよ
    あの時の頭蓋竜のような一撃、見せて差し上げたかったですわ。」


 クスクスと、頭突き一つで体を利かせて砕いたとまで言う。
 兜自体は大丈夫な様子だ。

 以上が、メイラの話とこの鎧がこうなった理由であった。

   

イーヴィア > (―――ミスリルとは、限りなく万能の金属だ。
だが、万能では在れど、決して無敵では無い。 破壊し得る素材なのだ。
故に、傷を負い、或いは破損する可能性を加味して施したのが
ゴーレム核を移植する事による、自己修復機能なのだ
その機能自体は正常に働き、鎧に空いた穴を修復している

元より戦場において、多少の破損を無視して戦闘を継続させられる、と言う利点が主だ
其の元来の目指した所から考えれば、寧ろ何ら問題は無い
何より使用者である、この怪物を生かし、そして此処に舞い戻らせたと言う点において
正しく鎧は、其の役割を果たしたと言う事になる。

――耳にする当時の状況。 精細な描写を自らの脳裏で映像に変え
其の破損個所と照らし合わせて、何が起き、何が原因で、貫通されたのかを推測する
ただ、怪力なだけの相手では、こうはなるまい。 正しく武器を振るい、正しく力を乗せ。
されど、其れだけでも足りぬ筈だ。 其の暴虐全てを開放し、暴れ狂ったであろう怪力令嬢
其の、人の枠を超えた勢いの突進と言う相乗効果こそが、鎧の耐久力を凌駕した要因なのだ。)

「…………。 ……、…、……化け物二人の大仕事っつー感じだな。
しかしまぁ、見事に綺麗に穴が開いたもんだ。 ……まぁ、元に戻せってだけなら、何の問題も無ぇが。」

(それ自体は可能だ。 勿論やっつけ仕事と言う訳には行かないし、相応の手間は掛けさせて貰うが
基本構造に問題は無いし、ゴーレム核も無事であるなら、難しくは無い。
問題は――其れで相手が、良しとするか、と言う所だ。

鎧に触れれば、大穴以外にも細かな摩耗と傷が読み取れる
寧ろ、この鎧で無かったなら、戦場を駆け抜け、共に帰って来る事は出来なかったであろう
……だが、鍛冶師が現状に満足したら、其処で進歩は止まって仕舞う
考えうるは、此処から鎧を、どうやって一段鍛え直すか、だ。)

「……兜の方はよ、鎧より後に作って見せたから、より精度が高いのかも知れねぇ。
その活躍ってのを間近で見れねぇのは、店持ち鍛冶屋の難儀なトコだが…。
……なぁに、戻って来たこいつらを診りゃあ、ありありと想像出来るさ。」

(鉄と作品とに向き合い続けてきた人生だ。 現場に居なくとも、その映像の断片は、鎧其の物が語ってくれる。
相手から語られた言葉は、其の肉付けを手伝ってくれるのだから

――手元に、羊皮紙を一枚用意して、ペンを執る
細かな破損個所と、修繕、交換すべき部位を調べ、記し、僅かの妥協も許さずに)。

メイラ・ダンタリオ >  
 メイラの状況は簡潔でわかりやすい。
 鎧の特性と己の特性 二つが合わさり目の前の魔とぶつかり合った結果
 それもタナールに攻め入る中でも一撃を与えてきた魔と。
 故に答えも簡潔に 化け物二人の大仕事 それが正しいのだろう。
 メイラは白い精巧に閉じられたトラバサミのようなギザギザ歯を閉じて笑みを向け


   「然り こうなった結末は受け入れますわ。」


 表すように、片手を開き、片手を拳に造り、互いを叩く。
 次に、拳を造り、拳を握り 互いが硬質的な音を立てて互いの拳を噛み合わせた殴りつけ。
 最も、今の話を聞けば毎回こうなる危険性があるのではないか?
 引き出したものと向こうからの一定以上の矛では、また同じ事案が発生するのではないか?
 そんな先を想像しているのか、この出来がイーヴィアの中で間違いなく
 メイラ自身が頼んでいないのもあるやもしれないが、武器ではなくこの黒鎧こそがイーヴィアの中で
 大業物に匹敵するものであるのならば、貌を難しくさせているのもメイラは理解している。
 刀の柄に腕を置き直し鎧の点検 穿たれた穴の塞がれた歪な痕
 歪み 繋ぎ目の取り換えなど、必要個所を書き込んでいくのを黙って眺めている。


   「これ以上となるとまた勝手が違いますもの。
    自由金属のように厚みが適度に変わるなどは神肉に等しいと思いますし
    わたくし自身、技量を上げて滑らせるとか、体の向きをずらすとかのほうになるでしょう。」


 真っ向勝負の結末 なら体を僅かにずらすだけでその一点を穿つ一撃はおそらく爪痕で済ませたかもしれない。
 無論仕留め切れたかと言われればわからないものの、流す行為とて武人には必要だ。


   「どこかの重ね張りした革盾のようにボリュームを増すのもあれですし…、…。」


 メイラもまた、いろいろな武具を握る身 顎に指先 その鋭い黒鉄を添えて考える素振り。


   「んー。」


 強化、改訂案というよりも、と考え。


   「“衝撃を分散させる構造”でもいれようものならわたくし更に暴れちゃいますわよ。
    いや、そうなるとタックルも腑抜けになってしまいますわね。」


 やはり鎧を身に付ける以上 鎧術もまた必要かと。

イーヴィア > (――補修個所は多いが、それ自体は製作からの期間を考えれば、想定内
例えば、部品の接合に細かな調整を掛けるだけでも、着心地は変化するだろう
年月が経てば、使用者にも変化は生じる物。 戦士であれば筋量の増加、体形の変化
そう言った物が、微細なバランスの狂いを生じさせている事も在ろう
常に装着して居ると、使用者の感覚は慣れに傾き、存外判らない物なのだ

其れ以上、を求めると。 今度は当初の目的を超えて、神器に踏み入る。
手段を問わなければ、"性能の良い"物へと作り変える事は可能だろう
だが、其れでは"風情"が無い。 己が注ぐべきは高価な材料では無く
何よりも、自らの発想と技術で在るべきなのだから。)

「………技量如何こうってのは、御前さんの目標になって来るからな。
勿論、腕を上げてくれりゃあ、此方としても万々歳な訳だが。
……成程、構造…。 ……構造、か。 ……衝撃に強く、崩れない構造…。
其れで居て、衝撃其の物は必要以上に殺さない…。」

(――大方の記入を終え、羊皮紙をテーブルの上に乗せた後。
鎧をじっと見つめながら、改修の方策を只管に立案する
ぶつぶつと、独り言のように呟きが漏れるのは、脳裏で様々にアイデアを回して居るが故に
女の言葉を取り入れているから、聞いて居ない、と言う訳では無いのだろう、が

事、集中すると周りが見えなくなって居そうな雰囲気が有る物だから。)

「………脱皮の様な多層、常時再生構造…。 それか、耐衝撃性のある多面構造…。
……いや、いっそ表面に潤滑加工を施して、刃を滑らせ易くする…?」

(――呟きは、女にも聞こえるだろう。 もし、其の中で琴線に触れる物が在れば
声を掛ければきっと、方向性はより絞られる事になろうが
何れにしても、元の形に修繕して、はい終わり、とする心算だけは無いのだろう

――考えながら、ふと、客人に対して椅子も用意して居なかったことに気付き
一脚引っ張ってきて、女の前に置けば、必要あらば、座れるように)。

メイラ・ダンタリオ >  
 ぶつぶつとつぶやき、ミスリルという物質からなにか構造に変化を与えられないか
 それを意識し始めるイーヴィアを見ながら、やはり人ではなくドワーフの手によるせいか
 その発想力と実現力は赤い瞳がクルリとイーヴィアを見やる。
 しかし、ミスリルをふんだんに、いや、全てミスリルで構成されたようなこれを前に
 さらに手を加えるのを良しとしなかった。

 ただでさえ軽く丈夫な金属と打たれたそれに別の事を齎すのは
 くどい ミスリルへの否定的概念 などを感じるせいか
 ミスリルを弱くするように思えて心にストンと落ちるものがなかった。


   「イーヴィアならできるかもしれないことでも、なぜか必然とは思えませんわ。
    そう ―――あの男をぶち殺すと未だ王に誓って成しえていないこの愚図の身を以ってしても。」


 後乗せで言えばコーティング系 一撃のみ皮膜化された鎧の外側がパリッと衝撃を包んで砕けるような
 そんなものがおそらく一番手っ取り速いのだろう
 複雑化しすぎればそれは再生力への疑念など色々と納得がいかないのだ。


   「充二分すぎる出来なのですから、気にせず整えてくださればいいですわ。
    ただ、繋ぎ目のベルトへの強化案のみなにかあれば、ですわね。
    引きちぎって鎧の一部が落ちるような真似はしたくありませんわ。」


 メイラはそれができるような気が または鎧の効果がそうさせてしまわないかと。
 柄頭を揉むように未だ真改を弄りながらそう呟いた。
 今回の暴れっぷりは、そちらへのほうが負荷に対して想うことがあった様子でメイラは呟く。


   「―――あ、でも一定の複雑ではない彫りによるラインを決定づけることで稲妻のような分岐を齎せば
   表面上なら……、ミスリルの概念を崩さず且つ衝撃分散が施されて いや、しかし。」


 メイラも用意された椅子にポンと腰を下ろすと、なにか受け入れられそうなことをもう少しで掴めそうな気がしてしまう。
 ふと、刀 愛刀を見ながらゆっくり真改を抜いて、その抜き身を眺めながら。


   「鎧達にも刀のような二重構造による包ませがあれば粘り強さとか出そうですわよね。」


 手間を考えれば実現不可の負荷ながら、おほほ、とメイラは軽口で述べた。
 

イーヴィア > (――ふ、と。 隣から響いた女の声に、一寸思考を止める。
技術論で、何処までも深く掘り下げようとする自らを、一旦冷静に引き留める声は
一息つかせるには、有難い声で在ったろう。

――出来る、出来ないではない。 製作者は己でも、所有者は女だ。
女の感覚が否を唱えるのであれば、恐らくは、其れ以上に正しい物は無いだろう
戦の、いの字も知らぬ様な青二才とは違う、戦争其の物のような相手なのだから。)

「――――――……何か、良い案があるとしても。
今この場で焦って決める様な事でも無いか。 ……判った、先ずは基礎から見直そう。
鎧自体は、普通に修繕を掛ける。 摩耗した所も補強を掛けて、最初の完全体に戻してやるさ。
ベルトに関しては、形状を変えてみよう。 今まで使ってた部品と、新しい部品の両方を用意して
こっちで修理しながら、具合を試して見る。」

(より、現実的な案として。 先ずは基本からの見直しを。
修繕が、余り長期にわたっては空いても困って仕舞うであろう
其れ以上を考えるのは、其の後の話で良い。 使い勝手をあげる、と言う一点で在れば
もっと、改善出来る所も多かろう。

―――……ただ、其の上で。 最も"魔改造"をせず、効果的な方策、として
女の言葉をヒントに、脳裏に過った案を、口に吐く。)

「……表面に、微細な溝加工を施せば…、……返り血なんかを吸わせて、相手の刃を滑らせる事が出来るかもな。
加工する範囲と、其れに伴う"滑り"の対処は必要だろうが…。 ……まぁ、一案だ。」

(其の案で在れば、一度修繕を掛けた後、後追いで施す事も出来よう。
あくまで、口にしてみただけの案では在る。 今はともあれば、羊皮紙に方針を書き足して
大まかな費用の概算を出した後で、女に渡すだろう。)

「もし、直ぐに必要になるって話なら、なるべく優先して仕上げる様にする。
御前さんの場合、戦場に出るってなったら、状況が状況だからな。」

(何せ其の存在が、戦場にて、大きく人命に関わるのだから)。

メイラ・ダンタリオ >  
 このままでいいと思うのは十分すぎるせいか。
 必要以上に求めるのはアスピダへの踏破という飢えのみ。
 鎧自体は使いこなすという意味ではメイラに非がある言い方なになるが、それを是としている。
 イーヴィア自体も、ミスリルという金属に対してその瞳は、思考が深くいってしまうところから上がって来たらしい。
 むしろ、真摯に取り組んではいるのだろう 嫌いではなかった。
 ただ、二人で交互に投げ合っていたうちの言葉 いくつか拾い上げていく中で浮かんだミスリルの表面への
 溝を彫るということで得られる単純明快な恩恵。
 ミスリルの強度と共に、メイラの戦法だからこそ得られる物理的な付与の一種に、メイラは一瞬それらを脳内で纏め上げる。


   「―――嗚呼、ミスリルを否定せず溝加工で血吸いを行うことで得られる恩恵ですの?」


 単純な足し算構造ではある ミスリルを否定せずミスリルに対しての恩恵が二人の間で出て来る。


   「魔族魔物人間の血液の吸い上げて起こる衝撃が伝わりきるまでの打点ずらし。」

   『吸い上げで兜の形状変化も率が高まるだろうな。』

   「初手ならばともかく激戦になればなるほど恩恵は得られますわね。」

   『表面加工になるからミスリルの強度も下がらないようにできる。』

   「無機物には効果が得られませんわね。」

   『そこは核を用いた再生だけで粘ればいい。
    血吸いが魔からくるものなら再生速度も増す。』

   「殴る蹴るに関してはこちらも不利になるのでは?」

   『血溜まりよりも浴びる方だろうお前さん。四肢の先には付けずに済む。』

   「あら? これってテーマである強度対策纏まってませんこと?」


 二人で顔を見合わせる。
 そのイーヴィアの目はこの大業物を血に飢えた何かに変えることになんら淀みは無いらしい。


   「…、…補修修繕がこれで……加工による代金と……尾刃は無加工にしてしまえば…、…。」


 手間からして代金は跳ね上がるものの メイラは貴族
 なんのことはない。


   「酷い男 わたくしに血化粧を求めるなどと。」


 その笑みは、互いにすっきりとまとまっている。
 例の頭突きですら、血を背中からもろに浴びていたのだ。


   「―――受け取りはいつごろになりそうですの?」


 二人の夜は終わらない。
 この続きは、メイラが再び戦場に出向く前に始まるだろう。

ご案内:「王都マグメール ヴァルケス武器防具店」からメイラ・ダンタリオさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール ヴァルケス武器防具店」からイーヴィアさんが去りました。