2024/01/22 のログ
ご案内:「王都マグメール 風俗店通り」にメルリンディアさんが現れました。
■メルリンディア > 夜になれば街に集うその日暮らし達が集まる場所。
王都にはそんな場所は幾らでもありそうだが、ここはその一つに過ぎない。
甘ったるく男を誘惑する香水の香りも無数の香りが重なり合い、アルコールと混じれば独特な匂いへと変わる。
人々の吐き出す呼気に熱せられた欲望の空気は、例え寒風が吹き抜けても消えることはなかった。
人の壁、店の壁、それらが大通りの空気循環を悪くさせているのだから。
そんな場末の一つでは、日夜小競り合いが起きることもしばしば。
肩がぶつかった、酒を引っ掛けられた、その女は俺が先に目をつけた等など、枚挙に暇がない。
それらすべてを税金で働く衛兵が解決するわけもなく、とはいえ放置すれば殴り合いになるのは目に見えていた。
タコ殴りにされたならず者が路地裏で伸びるならいいが、ダガーで腹を刺されたりでもすればより面倒。
そんな事もあり、この通りでは各店舗が金を出し合い、大通りの治安維持の人員を雇っているのだ。
等と説明を受けたのは数時間前。
そうなんだと目が点になりながら、他人事の様に答えたものの、それが今日の自分の仕事。
酔っ払い相手でちょっと注意するだけ、なんて軽い気持ちで受けたのはまずかった。
「お、落ち着いてっ!? ねっ、落ち着いて落ち着いて……!!」
夕暮れから保安員として働き出したが、それはもう目まぐるしい。
今も他の保安員と一緒に、ベア・ナックルバトル勃発の最中に飛び込み、両者を羽交い締めにして引き剥がしているところだ。
向かいのベテラン保安員は流石抑え方が手慣れており、抑え込まれた酔いどれは両腕を肘から先で暴れさせるぐらいしか出来ない。
こちらはと言えば背の小ささもあり、体を前へ丸め込んで振り払おうとする酔っ払いへ必死に羽交い締めを掛けているところだ。
このままだと振り払われそうだと、目を白黒させながら子供の様にしがみついていると、ベテラン保安員が首をくいっと傾ける。
仕方ない、気絶させてしまえの合図。
きゅっと唇を噛み締めながら、必死に何度か頷くと、両足を酔っ払いの腰に絡めて四肢でしがみつく。
素早く両手を肩から首へと回せば、ギュリッ!! と男の皮膚が捩れる音を響かせながら首を締め上げていく。
一気に酸欠になった酔っ払いはたまらず腕をタップして、やっと大人しくなると、そっと拘束を解いた。
後は任せろとベテラン保安員が二人の首をひっつかみ、厳重注意に詰め所へと連行していくのを小さく手を降って見送る。
「ふぅ……皆血の気多すぎだよ、これで4件目だよ」
殴られるかもしれないし、酒でリミッターの外れた戦闘職の輩を抑えるのはかなりの重労働。
挙げ句、最悪顔面に拳を打ち込まれるかもしれないともなれば、人の入れ替わりが多いのも納得だった。
道理で臨時保安員の依頼料が高かったわけだと、納得しながらげんなりとした顔で肩を落とす。
そんな考えは半分しかあっておらず、もう半分は各店舗の思惑の中に黒い考えが入り混じっていた。
自分達の娼婦や従業員が手籠めにされて潰されるより、保安員役が乱暴されたほうが被害が少ない。
臨時の保安員にはそんな裏の役割があてがわれているとは知る由もない。
疲れると呟きながらも、仕事はまだまだ続くのだ。
気合を入れねばと思い直し、表情を引き締めながら顔を上げると、ぺちっと両手で頬を挟むように叩く。
むんと鼻息を鳴らし、きりりとした顔をしてみせるも、この顔では迫力はない。
当人は気づくこともなく、再び大通りを見渡しながら歩き回る。
周囲では客引きの娼婦が多く、しなだれながら甘い声を掛ける光景が広がっていた。
皆さん大変だなんて、思いながらもとある一角だけは避けて歩いていく。
バフート程ではないが奴隷を売り払う一角があり、流石にそこには近づきがたく、そこ以外を中心に見て回っていた。
■メルリンディア > 遠目に見える奴隷市場の一部、襤褸切れ同然の服を着せられ、うつむくミレーの少女の表情は死んでいる。
それを見ると胸が締め付けられる痛みを覚え、瞳を伏せながらただ通り過ぎることしか出来ない。
同じ人なのにと思うが、この国の常識からすれば違うのは良く知ったこと。
おいそれと己の思いを吐き出せぬまま逃げるように遠ざかると、ふと耳に届く物音、話し声。
それが何かは分からないものの、随分と遠い位置で重なり合って聞こえた。
そちらの方向へと振り返りと、宿と宿の合間に出来た僅かな隙間が目に飛び込む。
道というにはかなり狭く、明かりも届かないそこは、奥に何があるか見通せないほど。
目交の合間に皺を寄せるようにして目を凝らすも、見えるはずもない。
何か怪しい取引でもしてたら止めるなり、報告するようにという指示もある。
キョロキョロと周囲を見渡した後、少し身をかがめながらコソコソとその細道へと身を滑り込ませた。
「……」
萎びた雑草を踏みつけないように足元に注意しつつ、更に奥へと進んでいく。
次第に明かりが奥からこぼれだし、そこから顔を半分だけ覗かせるようにすれば開けた空間が広がっていた。
積み重なる木箱や建物の裏口から溢れる明かり、店によってはここから食材やら酒やら搬入するのだろうか。
そんな事を考えながらも声の主を探して目だけを動かして、周囲を探る。