2023/11/01 のログ
■フィクシス > 二人が闖入者に気を取られている間に。
――ああ、突然すみません、今晩は、フィクシスと申します、と挨拶が遅れたことを女性の方へ詫びながら。
喧嘩です、と返って来た声に、吐息を洩らすようにして男は笑ったようだった。
路地裏で、どうやら襲われている様子であるのに、怯えるどころか血気に逸っているように思えたのだ。少なくとも言葉の上では。
「失礼、元気なお嬢さん。念のため、呼吸、止めておいてもらえますか。
目は、昨日今日のことではないので……」
変わらぬペースで会話をしながら、女性が一人で立てていることを確認すると、彼女の背中から手を離した。
己の上着の立襟の内側に指を差し込む。
瞬間的に首から赤い霧がぶわりとふくらみ、広がり、意志を持っているかのように、いきり立つ相手の男の頭部を包み込む。
――それで終いだった。
男は身を悶えさせながら壁へ激突し、叫ぶ口の中へ霧がもぐりこんでいく。
白目を剥いて昏倒するその顔に、熱に浮かされた、紛れもない歓びの表情を浮かべて。
「すぐに片づけますから、見苦しくなるのであまり見ない方が」
靴の先ですら触れたくない、というように男を踏まないように一歩立ち位置を変えた。
■ティアフェル > 転ぶのを止めてくれた男性が、マイペースに名乗るので釣られて、これはどうもこんばんはー。ティアフェルですー。と反射的に名乗りを返しては。
そんな場合ではないな……わたしは喧嘩中…とはっとして。
呼吸を止めるよう注意する不可解な言葉に疑問符を浮かべながらも、
「え!? なに呼吸っ!? って、フィクシスさん!危な――!」
悠長に言葉を交わしている間に殴りかかってくる男――、自立していることを確認して支えてくれていた手が離れて、代わりに内襟へと差し込まれたかと思えば、拳が届く前に男の頭部が真っ赤に染まったように見えた。
暗がりの中ではまるで血のように映る赤霧が頭部を包み込んで、何が起きているか訳も分からず目を見開いていると、煩悶しながら倒れてしまい。
云いつけ通り両手で口を覆って息を止め。その光景を声もなく見届けていたが。
早々に暴漢を片づける男性に、いつまでも息を止めていられる訳でもなく。もういい?息していい?と目で訴えつつ。
「っぷ、っは………、もぅ、だめ……っ」
返答をいただく前に息が持たずに口から手を離して大きく夜気を吸い込んで。
ぜー。はー。と貪るように息を吸い肩で息をした。
■フィクシス > 「ティアフェルさん。ヒトは肺呼吸以外もできるように……?
ああ、魔法の類です。――そちらは、体術の心得が?」
鰓呼吸……皮膚呼吸……と彼女がどのような呼吸をするのか様子を窺っていたが。
開かない目には表情が見えないのか、彼女に呼吸の許可を出すことは無かった。
大男と女性が、先ほどまでどのようにやり合っていたのか、と考えて。
そうは見えないがどうやら彼女は男に一方的に負けない程度に戦えるらしい、と推察する。
彼女が息を整える間、昏倒した男があらぬ声を上げ始める。
それはある意味喧嘩よりも夜に相応しい、興奮の――喧嘩沙汰ではなく色艶めいた方の――喘ぎである。
眉を顰めて、掌ほどの大きさの丸い鏡を上着の隠しから取り出すと、長い指の先がそこに見慣れぬ文字を描く。
「――先ほどはすまない、ワーニャ、僕だけど、君の餌が出来たから引き取りに来てくれないか。
見苦しいからなるべく早めに。後は好きにしてくれ」
鏡に話しかける男、という怪しげな振舞いをした後、鏡を戻して、女性の顔を見ているように顔を向ける。
「怪我は、されていませんか」
■ティアフェル > 息してよし、と号令がかからなかったので、その前に限界を迎えてはあはあと荒い呼吸をくり返しては。
そうだ、思わず目訴えてしまったが、相手は目が見えないようなのだ。
まるで見えているかのように動くので失念した。思い至ってはアイコンタクトの無駄さを遅れて自覚。
「ふ、っは、はあっ……いや……無理でしょ……わたし魚類じゃない……
……ま、魔法……って、なにしたの? きもっ……
い、いちお……冒険者、なので……喧嘩殺法程度だけど多少は……」
型に嵌ったそれではないので体術なんて上等な表現は妥当じゃないかも知れないが。
街のチンピラ程度ならなんとか相手取れる。
そして、魔法にかけられたらしい男があられもない声を上げているのを聴くとあからさまに顔をしかめて。うえ、と唸り。
その間にも手鏡のようなものを取り出して何やら魔術的操作をする指先。
どこかと通信する様子を小首を傾げて眺めていたが、それも終わり、こちらへと声をかけてくれるのに肯いて。
「うん、ありがとう……ちょっと殴られたけど、平気。自分で治せるわ。ヒーラーなの」
そう答えて殴打された側頭部へ掌を翳すと短く詠唱しては淡い暖色の光を生み出し傷口を覆って回復させ。
■フィクシス > 魚類じゃない、の言葉に、知っています、と真面目な顔で頷く。
「血の気が多いようなので。別の方向へ向かせました。
冒険者……ヒーラー?
ヒーラーにしてはあなたも血の気が――……ああ……綺麗だな……
痕が残ったりしなければ良いんですが」
物体よりも、魔力などの力の方が感じ取りやすく。
己の瞼の裏にも、彼女の治癒の力の光が映り、それに触れるように手を伸ばした。
眩しそうな微笑みが浮かぶ。
「表の安全なあたりまででも、家まででもお送りします。
どちらにしても、ここにはいない方が……」
自分がこの場に留まって男の痴態を見ていたくない、という方が正しいが。
言葉の途中、ふと気づいたように。杖を身悶える男の頭のそばに突き。
「――それとも、この痴れ者に、相応の報いをご自分で受けさせますか。
僕が代わりに手を汚すのでも構いませんが」
■ティアフェル > 真顔で肯かれたので脱力気味に肩を落としながら、そう…と生返事をして。
「別の……方向……大分ヤな方向に向けましたね、またこれ……。
ヒーラーが殴っちゃいけないルールなんてないでしょ?
………見える……というか感じ取るのかしら……?
痕?大丈夫よ、大して重いパンチでもないわ。うちの弟の方が凶暴なくらいよ」
軽口めいてそんな風に表現しては、ふわと生まれた回復魔法の光。
それを視認したというか感知したかのように光へと触れる指先。光がほんのりとした温かさをその指に伝えたかも知れない。
微笑が浮かぶと、笑うと親しみやすく見えるなと感じながら口元を綻ばせ。
「送ってくれるの? 紳士ですなあ………嬉しい」
親切な言葉にほこほこと表情を和ませたが、響く聞くに堪えない嬌声が和んだ表情を、ひく、と強張らせ。
「え? あ、まあ、一応犯罪者だし、お仕置は必要かも、だけど……さっき、誰かに連絡してなかった?
ごめん、ちょっと聞こえたんだけど、餌とか? 察するに後で碌な目に遭わないのかなと思って。じゃあいっかなーって」
今や路傍で発情する変態と化しているチンピラを嫌な物を見る目をして見下ろしながら相応の仕置きは受けることになるのではと首を傾げ。
■フィクシス > 「そうですね……もう少し何か考えるべきでした。
あなたがまた襲われるまでに、もう少し良い方向を考えておきます。
まあ、知人が処理してくれるそうなので、少なくとも今後女性に逆らう気は無くなるでしょう。
ティアフェルさんが構わないなら、行きますか。
紳士が必要になるのは、こういう者がいる所為なので――そこの男が負わせた怪我の埋め合わせと、単に僕の役得です」
光が消えても微笑みはそのまま。
路地に横たわる男に興味を失い、杖を彼女の来た方向へ突いた。
目が腐るので、と彼女の視線を別の方向へ向けようと、軽く背を押して促す。
「長女の匂いがしますね。家族仲が良さそうだ」
道々、彼女の暮らしの話を聞きたがる。
家族や、冒険者としての生活や、彼女の髪の色や、目の色、好きな食べ物などの他愛の無いことを。
■ティアフェル > 「え……わたしまた襲われること前提……?
てゆうか、また助けてくれるの? 役割が王子だなー」
ありがたいが引っ掛かったような顔をして呻くが、それにしてもまた何かあれば助けてはくれるつもりらしい。そこに気づいて小さく笑って。
「その知人さんがどういう処理をするのかは……訊かないでおくわ……。
あ、ティア、でいいわ。フィクシスさんは愛称とかある?
律儀ねー……役得……になるのかな? わたしこそ素敵な人に親切にしてもらって得してるけどねー」
ふふ、と笑気を絡ませながらとても背が高くて真摯な男性に促されて歩き出し。
確かに発情状態のおっさんは非常にお見苦しく、精神衛生上最悪。目が腐るという科白には心底肯いた。
「っく……その通り……。長女臭するか……仲良い…かなぁ? 喧嘩ばっかりよ。弟なんか全員サルだし。今は実家出てるんだけど……
フィクシスさんはご家族は?」
送ってもらう道中、訊かれれば快く答えつつ、逆に彼のことも知りたがった。
魔法についてやそもそもどうして急にあんな所に現れたのか、王都は長いのかなどなど関心は尽きずぽんぽん質問して。
■フィクシス > 【次回継続】
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からフィクシスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「ヴァルケス武器防具店」にイーヴィアさんが現れました。
ご案内:「ヴァルケス武器防具店」にアルマースさんが現れました。
■イーヴィア > (店舗が、もうそろそろ終わる間際
店の方では、既に他の従業員が閉店準備を行って居る中で
店主たる己は、鍛冶場の整理を行いながら、軽く汗を拭った
まだ、熱気の籠る炉の傍、打ち終えた武具が並ぶ
納品を待つばかりの其れは、まだ、一晩此処で冷やし切る
引き渡す事に為るのは、もう少し先の話だ。)
「――――……さて…きりの良い所で閉めるか…。」
(まだ、人が来る予定は在る。 だが、もし閉店したとて
其の時は裏口から入って来れば良いだけの話だ
客でもあり、従業員でも在る故に、其の辺りは普通の客よりも気易かろう
鍛冶場から顔を出し、店内を覗き込めば、他に客が居ない事を確かめて。)
「おーい、閉めちまって良いぜ。」
(一声かける。 同時に、其れを聞き届けた従業員が外に出て
開店中の札を、閉店中、に差し変えようとするだろう)。
■アルマース > 空は晴天から星空へ変わっていた。
昼下がりの半端な時刻に踊り子の仕事のあった女は、一度宿に戻り着替えを済ませ、最近勤め始めたもうひとつの職場へ出向いていた。
ただし今日は働きに、ではなく、依頼したジャグリングナイフを引き取りに。
余裕を持って宿を出たはずが、元来気ままな性質ゆえに、覗いてみたかった衣装の店や、気になっていた小劇団の新作演目のチェック、広場で同郷のウード弾きに絡んで懐かしい曲を踊ったりしていたら、すっかり晩くなっている。
店頭に辿り着いたときには、札は閉店中に差し替えられた後だった。
「……ん。……ン~~~~…………これは」
そんなに遅い時刻でもない。裏に回れば開けてもらえるのは分かっている。
が、出てくるのは店主だろう。
気まずい。
自分から迫ったくせに自分の想像以上だった夜の記憶は、何日も経った今も完全に消えていないのに。
最終的に子どもみたいに泣いた挙句、うっすら避け続けているのである。
泣いて気まずいから避ける、は、あまりにも子どもじみている自覚はある。
だから変わらぬペースで店員として働きには来ていた。
店主のイーヴィアは大体鍛冶場にいるし――彼にしか出来ない仕事なのでそうあるべきだし――さほど顔を合わせずに済んでいたのだ。
当の店主は全く平常通りの様子だったから、救われた気持ち半分、腹立たしいのが半分。
ずっとこのままなわけにもいかないし、せっかく歩いて来たわけだし、と諦めて裏口の扉を叩いた。
「あーけーてー」
もしかしてもしかしたら店主以外の人間が顔を出すかなと淡い希望を抱き、遊びに来た子どものような声掛け。
■イーヴィア > (従業員が扉を閉めたのを見て、一度鍛冶場に戻った
此処からの作業は無いが、普段はすぐに上に戻らず
こうしてのんびりと、売り場に居座っている事が多い
元より、店の中が好きだというのも有るし、鍛冶場が落ち着くと言うのも有る
其れに、時々急な来客が訪ねて来る事も有るのだ
そういった類は、自分が対応するのが常で在る、残業は出来るだけさせない。
――だから、閉店から暫くしての声に
僅かに間をおいてから応えるのは、生憎ながら、他の従業員ではなく、店主本人であったろう。)
「―――――………お、来たな。 仕事は終わったのか?」
(仕舞って居たカーテンを開き、鍵を開ける。
何時もと変わらない態度、何時もと変わらぬ言葉
扉を開け、中に入る様にと促しながら、きっと目が合う事だろう
――久方ぶりに言葉を交わしたと、女は印象を抱くだろうか
嗚呼、其れでも。 たった其れだけで或いは
記憶が鮮明に、蘇るような心地すら、与える事に為るやも知れぬ、が。)
「二本目が出来たってのに、中々取りに来ないからよ。
何かに散財しちまってんのかと思ったぜ?」
■アルマース > 扉が開いて。
暗い通りから、逆光になる人影を目を細めて見上げた。
どんな顔をしているのか見えなかったけれど、きっといつもと変わらないのだろう。
声を聞けば耳の中がざわついて、疼きを思い出した身体を無意識に守るように片腕を自分の腹に回す。
「……ん。今日は昼間だけだったからー。
そっちこそ、まあだいたの。休むこと覚えなよね」
中に入って売り場の方へ歩きながら、浪費家疑惑に、そんな使ってるかなあ、と最近の出費を思い出す。
「評判のアップルパイと、良い雰囲気のバーと、そんくらいだよねえ。
あんまり待たせるのもあれだし、ハイブラゼールでぱーっと一発当ててこようかな。
カジノのステージの仕事があるっぽいんだよねー」
ご案内:「ヴァルケス武器防具店」にアルマースさんが現れました。
■イーヴィア > 「休んでるさ、作業はしてないからな。
これからまた、酒でも飲みながらのんびりしようと、な。」
(酒瓶が、自室に備蓄して在るのは、女も知って居るだろう
普段勤務して居れば、特段用事が無ければ、自室に上がるのは
もう少し遅くなってから、と言うのが何時もだと言う事も
店の中へと歩き出した女を尻目に、表扉へと鍵を掛ける
其の背を追いかけるようにして歩きながら、カウンターへと向かえば
其の奥、足元の棚へと置かれていた小箱を取り出した
中に入って居るのは約束の品、二本目のナイフ
一本目と形状、重さ、手触り、他に全く遜色のない代物だ。)
「……日々の一寸した贅沢には良いじゃねーか。
クク、止めときな。 そういうのは大抵、素寒貧になって終わりさ。
ま、そういう場所でのお仕事ってんなら良いんだろうけどよ。」
(賭け事に関して――余り、強そうに思えない、勝手な印象
最終的に払って貰えれば文句こそないとは言え
愉しむ程度に留めて置きな、何て)。
■アルマース > 「店の中が落ち着くのは何となく分かる」
長い睫毛の下で、故郷のお気に入りだった店を思い出し、重ねる眼差し。
道具としての価値を無くし、懐古趣味の人間にしか需要のない動かなくなった古道具の店。
どれもこれも、パーツが欠けていたり、錆びている代物ばかり。
しかし道具も店内も丁寧に掃除がされて、空気が静かに輝くようだった場所のこと。
店主にとっては自分でつくった店だからという単純な話かもしれないけれど。
思い出に耽りそうになり、出された小箱にはっとしてカウンターにお代を載せた。
「んふふ。何度見ても良い出来~」
自慢げに、にっと笑って握りしめるナイフ。
自分が作ったかのような顔である。
ありがと、と言って、もう投げ心地を確かめることもない。
いそいそとナイフを革の巻物にしまう。
「だあから贅沢なんて――そもそもバーは奢ってもらったから出費してないし。
日々のご飯と仕事用のモノくらいよ、ほんとほんと。
心配だからって言えば可愛げあるのになー。
酒が入ったら今夜こそ口説いてくれるわけ?」
口では景気の良いことを言うものの、賭け事など身内の遊び程度にしかやったことがない。
カジノの雰囲気くらいは味わってみたいが、卓に着けばタダ酒飲み放題になる場所もある。
賭けの勝ち負けより主にそっちを目当てにすることだろう。小市民的楽しみ方である。
■イーヴィア > (これで二本目、一本では大道芸の道具としての格好は付かないだろうが
二本揃えば、最低限は扱えるようにもなるだろうか
既に、其の完成度については信頼されているのか
女が投げ心地を確かめる事も無ければ、喜ぶ顔に、ふ、と笑みを向け
其れから、渡された代金を、金庫の中へと仕舞った。)
「節制してるんなら偉いじゃねーか。
其の調子で是非、支払いを詰まらせないように、だな?」
(くつくつと、戯言交じりの調子ではあるが
踊り子と言う、稼いで居る者は可也羽振りの良い職に対して
思う程の贅沢な日々と言う訳でも無いらしければ、素直に褒めて遣る
金庫を戻し、カウンターを挟んで女の方に視線向ければ
向けられた後半の言葉に、僅か片眉跳ね上げてから。)
「――――よく言うぜ。
口説いたら、暫くは飛んで逃げそうな顔してた癖によう。」
(まったく、だなんて、そんな言葉を口にしながら。
カウンターから歩いて離れ、女と同じ所に戻って来るだろう
手には、何かを持っている。 それを、女の唇に、ひょいと指先で押し当てる。
口紛らわしの、砂糖菓子だ)。
■アルマース > 「このへん、剣舞とかワザ系の演目よりお色気系のお仕事ばっかりだからなー。
腕鈍らないように練習しなきゃ……
支払いは、怪我しない限り大丈夫かなー。頑張りまあす。
…………、何なの、親なの?」
比較的殊勝な返事をした後に、大して年も変わらないくせに、と扱いに腑に落ちない表情。
イーヴィアがいつもの調子なので、こちらもいつもの調子で強気な言葉が脊髄反射で出てきてしまったけれど。
飛んで逃げそう、と言われるまでもなく、醜態痴態を晒したことがはたと思い出され、ぐっと言葉に詰まった。
一体全体どの口で――とは自分でだってわかっている。
忘れかけていた気まずさを思い出して、誤魔化すようにカウンターに後ろ手をつくと、軽く跳んで尻を乗せて座る。
「…………イーヴィアが、悪いんでしょ……
普段鉄やら鋼やら相手にしてる男があんな、……あんな触り方できると思わないわ……ん」
所在なく足をぶらつかせ、言い訳しながら俯きがちになっていくものだから、唇に持ってこられた何か、に気づくのが遅れた。
ふにっと柔らかく潰された唇が開く。あむ、と何か分かっていないまま口にして。
ぺろ、とイーヴィアの指に残った砂糖の欠片も舐めとって、黒い目が瞬く。
突然目の前に指を突き出されて疑問だらけの真顔になる猫のよう。
「甘い……?」
■イーヴィア > 「まぁ、要求されてる層がなぁ。
娼婦街みたいな所で踊るってなったら、まぁ、そうもなるだろうさ。
何だ、つい構い方が妹分みたいになっちまってよ。」
(多分、性分だ、と
年下ではあり、何ならその雰囲気から、構い倒すスタンスになりがちと言う
何処か不満そうな顔には、くつくつと喉奥で笑いを響かせつつに、其の唇へと押し込んだ甘味。
舌の上で溶ける其れは、決して高級菓子、何て言えるような物では無いが。)
「――――鉄も鋼も、力任せに叩いてる様に見えるだろうが、扱いってのは繊細だ。
おんなじ指で、細工なんかもこなすんだぜ? 不思議でも何でも無いな。」
(――素朴な味。 店屋物とは異なる、手作りの味。
其れが、女の口に合うかは分からないが。
女の舌先に、軽く指先で触れる悪戯をしながら
カウンターに腰を乗せた、女へと静かに、身を寄せながら、其の目を覗き込み。)
「――――……どうだ? ……茶請けにはなると思ってな。」
(もう片方の掌が、するりと。 女の腰裏に柔く、触れた)。
■アルマース > 客層かあ、でも貴族相手はそれはそれで面倒だし……と自分の先行きを考える顔。
「一人っ子なんだけど。兄ってどんなもんなのかしら……」
舌に触れる指に、ああ、また頭が溶けてきちゃうなあ――と思考が働かなくなっていくのを感じる。
指を入れられているせいで咀嚼もうまくできなくて、砂糖菓子が舌の上で溶けていく。
「……鍛冶場、入れてくれないから、知らあいよ……」
不明瞭な言葉。味もわからなくなる。
視線を外さないのだって表現の練習のうちだから、覗き込まれることなど慣れっこなのに。
紫色の双眸に、怪しい術でも掛けられたみたいに、頷いて。
せめてもの反撃に、がぶ、と噛みついてから指を解放すると、両腕を男の首に掛けて顔を引き寄せる。
「お茶と一緒なら、あり……、んっ……イーヴィア、」
腰に触れる感触だけで、は、と乱れた吐息。
この間の夜の熾火がずっと身体に残っている。
真っ赤になっていた炭に炎が立つのは一瞬。
懇願するように名前を呼んで、手から逃げるように――あるいは正面の男へ身体を押し付けるように腰が反る。