2023/10/15 のログ
アルマース > 「単発の仕事は日々入るから、何度でも祝えるなー。でも、休み……あるの?」

それなりの練習期間と公演期間のある中長期の仕事はともかく、明日どこの店で人が足りないらしい・どこどこのやんごとないお屋敷の催しで踊り子を集めているらしい――くらいの単発の仕事は祝うようなものでもないけれど、かこつけられるなら何だって良いのだろう。
それよりも、閉店時刻はあってないようなものだという以前の口ぶりを思い出して。
休みをまともに貰えない住み込みの職人だと思っている。

「受付かあ、作る方が楽しそうだなあ……でも、変な筋肉のつき方しそう……。
 作るところ見られるなら、仕事無いときに来ても良い?
 決まった時間に、とかだと難しいけど……お客の観察も面白そう」

金槌を振り続けたら、身体的に本業に支障が出る気がする。
ほいほい触らせてもらえるものでもなさそうだし、要らぬ杞憂かもしれない。

比較的健全なことが多い日中の仕事から、酔客相手になることの多い夕方から夜の仕事まで様々。
もともと踊り子の職の需要のないところでは、出来ることをやって流れ暮らしているものだから、特段他の仕事をすることに抵抗はない。
宿という場所で生まれ育って、いろんな国、いろんな仕事の客を見てきたものだから、未知の体験への好奇心がもともと強い。

踊り子と見るとついでに頼まれるのは大概いかがわしい仕事なので、むしろ楽しそうだなあ、と赤い唇の口角が上がる。

「レッドスピネル。覚えておこう~。
 母さんは宝石が好きなんだけどあたしはよくわから――え? 彫るの? あ、ありがとう」

金属は硬いので彫るのが大変そう、という素人考えで。
覗けるものなら覗いたろうけれど。黒髪をくるくる指に巻き付けてはほどき、ほんの少し待った末。
改めて入れられた銘を見れば、ついと眉を顰めた。

「やあっと名前を教えてくれるのかと思ったら、全然読めないんだけど」

イーヴィア > 「なーに、休みは自分で作るもんさ。
俺も鍛冶場が自分の部屋みたいな所はあるが、酒は外せねぇ。」

(其処を如何にか都合付けるのが自営業の良い処だ。
まぁ、実際空けようと思えば空けられる、が、仕事終わりになるのが精々のオチだろう
休みの日に飲むよりは、仕事終わりの酒精が楽しい派。

鍛冶場を指し示せば、其の入り口に掲示してある「立入禁止」の札
其の手前の作業場までなら、見学するのは許可出来る、が。)

「炉が在る鍛冶場は駄目だ。 と言うか、近くで見て居られる作業じゃないからな。
仕上げ作業やら、彫りの作業なんかは構いやしないけど
うっかり未来の踊り子に、火傷でもさせちまおう物なら大変だろ?」

(――興味を持って貰える事自体は有り難い事なのだ、が。
仕事場である以上、その線引きだけは、確りとさせて貰う
まぁ、実際女の細腕で鍛冶作業は正直、難しかろう
でも――金槌を振るうだけが鍛冶では無い、とも言える

細工や磨き、先刻見せた彫りもそうだ。 それに、従業員の中には目利き役も存在する
知識を得て、見分ける力を研ぎ澄ませば、其れもまた一芸。
そういった腕の活かし方も、世の中には存在するのだから。)

「――――……一介の鍛冶師、じゃあ気が済まないか?
……ヴァルケスだ。 銘になってんのは俺の家名。
名前はイーヴィア、ヴァルケス武器防具店の店長をやってる。
……まだ、ご不満かい?」

(そういえば、と、まだ名乗り忘れていた事を思い出した。
店先に掛かって居た看板にも、ヴァルケス、の名前は書かれて居たろう
己が店の責任者、かつヴァルケスの銘を持つ職人であると
改めて名乗りながら、ふ、と口端を笑みに吊り上げた)。

ご案内:「ヴァルケス武器防具店」からアルマースさんが去りました。
ご案内:「ヴァルケス武器防具店」からイーヴィアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」に夏虎さんが現れました。
夏虎 > 広場。暑さも抜けてきて、涼しい通り越して、肌寒くなってきた日頃だが、水飛沫を上げる噴水を据えた大広場はそれでも賑わいそこそこ。
井戸端会議をされてらっしゃる御婦人方に、犬の散歩の休憩中の老紳士に、昼休憩中の何処かの丁稚、
人もミレーも或いはどこかに魔族やその他も紛れているかもしれない各々があちらこちらで屯する中、
適当なベンチを見付けてバッグから手提げの紙袋からと手荷物多数をベンチに下ろして一息つく桃髪。

「大漁~。過ぎたわ……」

日中の多くは大通りで屋台を停めて、売行きよくない薬とよく売れる果実類を売る薬屋を開いている。
偶にはお休みとって日用品やら化粧品やら嗜好品やら買い物趣味に興じている日もあり……
あ、これ欲しかったんだー。とか。
お、これ安いじゃん買おー。とか。
調子乗って鞄はぎちぎちで両手も一杯になった。

「……毎度の事だけど……つい買い過ぎちゃうんだよなあ……」

一人で三人分のベンチを占領するわけにもいかないので何とか寄せて一人分ぐらいのスペースは開けてから。
しまったなぁーなんてぼやきつつ露天で買ったカフェオレに口を付ける。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にイェンさんが現れました。
イェン > (秋も半ばを過ぎて日々肌寒さを増していく王都平民地区。それでも本日は暖かな日差しに恵まれた麗らかな午後の噴水広場で、不意に強い秋風が吹き抜けた。スカートを盛大に捲りあげられ悲鳴を上げる娘達と、露出する太腿やその付け根を飾る色とりどりの下着に思わず歓声を漏らす男達の中、微動だにしない細身が一つ。上品に落ち着いた黒を貴重とする服装は、王立学院の生徒である事を示す物。舞い上がるプリーツは靡くに任せ、仔馬結びにひっつめた黒の横髪が目元に入り込もうとするのを繊手でそっと留める仕草は実に落ち着いた物。分かっているのだ。この角度、この強さの風であればプリーツスカートは下着を晒すギリギリまでしか浮き上がらぬ事が。子供などの低い視線から見たならば一瞬ちらりと見ることも適おうが、それとて純白肌を薄黒く覆うストッキングのお陰でさして目立つことも無いという判断。悲鳴を漏らさぬのはもちろんの事、眉の一つすら動かさぬ可愛げのないポーカーフェイスはしかし、途轍もなく整っていた。そんな一流の人形師が魂を込めて作り上げた様な端整な顔立ちの中、特に目を引くだろう朱化粧で彩られた切れ長の双眸は、戦場を睥睨する武将の如き佇まいで広場を見回し)

「――――あれ、でしょうか……?」

(小さく呟きながら突風の影響をやり過ごし、浮き上がった黒布をゆっくりと降ろしていくスカートの細脚を踏み出した。真っ直ぐ、迷いのない最短距離で近付くのは、三人掛けのベンチに多量の荷と共に一人座す桃色髪の長躯の元。そうして彼の至近にまで近付いたなら、感情というものをまるで感じさせぬ淡々とした声音が、稚気を残した怜悧な美貌で問いかける。)

「ここ、よろしいですか?」

夏虎 > (突風。近くで、遠くで、帽子が飛び、紙袋が舞い上がり、スカートが捲れ上がり、あちらこちらで悲鳴が上がり一部では歓声まで上がっているのを目が追おうとして堪えた。正直見たい、正直凄く見たいが、堪えどころである、うら若き乙女の太腿やら下着やら見た日には口角が上がるのを堪える自信が無い。スカート捲れ上がって歓声上げる男共より何なら下世話な顔面を人前で晒すのはどうかと思う、そういう自制心にて下心をまたカフェオレの一口と一緒に飲み下した。)

「ぅん?」

(ほろ苦さとミルクのまろやかさの塩梅が絶妙なそれを嚥下してから溜息一つ零していると掛かる、切れ味さえ感じそうな高い声。そこでようやく目を動かしてみれば鋭利な声音の持ち主だろう、これまた触れれば切れるか凍るかという印象を抱かせる表情の……顔付きそのものはまだ年若い少女へ向いて。小首を傾げれば、カフェオレのカップを紙袋の空いたスペースに捩じ込んでから、ゆるりと緩い仕草で掌をベンチに向ける。)

「ああ。どうぞ? ごめんね、一人でこんな占領しちゃって」

(えらい別嬪さん。とは、口に出掛かったが、なんとか、喉元で堰き止めて。掌で席を勧めた後に、掌を顔の前へと持っていき、親指は畳むが四指は立てて謝罪を。顔付きも、髪色も、目の色も、格好も、全部王国人といった具合なのだが仕草は帝国式なので少々ちぐはぐ感があるかもしれない。)

イェン > (一見《らしくない》目立つ風貌の男を待ち合わせの相手だと判断したのは、あちこちで悲鳴と歓声の上がった先のアクシデントにこの男だけがピクリとも反応を見せなかったからだ。こちらの声掛けに対し、のんびりとした所作で掌を向けて席を勧めた後、親指を畳み四本指を立てた手を己が顔の前へと移動させるその動き。やはり彼が此度の相手で間違いあるまい。一見して帝国人らしからぬ顔立ちで、イェンも一度も見たことの無い相手であったがために迷いを覚えたが、今回こちらから本国に向けた願いに応えられるのは彼しか居なかったのだろう。)

「構いません。貧相なこの身なれば僅かばかりの隙間があれば潜り込む事に造作もありませんから」

(愛想の欠片も見当たらぬ声と表情で告げながら、プリーツの臀部をそっと抑えて長躯の傍らに腰を降ろした。黒色のストッキングに包まれた細くとも柔らかな曲線を描く脚線をぴたりと閉じて、その上に両手を重ねた一分の隙も伺えぬ座姿。ぴんと伸びた背筋の美貌を正面に向けたまま、紫水晶を思わせる瞳のみを走らせて傍らの男を密かに伺う。桃色の髪、耳元を飾るハート型のピアス。顔立ちは整っているけれど、何とも軽薄な印象を抱かせる男性だった。しかし、その長身がしなやかに引き締まっていることは着衣越しにも伺える。どれほど《使う》のかは掴めぬ物の、それでも愚鈍な印象は欠片もない。恐らくは本国が新たに植えた《草》の一本なのだろう。商会の判断によっては《蛇》である可能性もある。油断はすまい。)

「秋風は涼しく、日差しは柔らか。王都は良き日と成りましたね」

(男の姿を確認していた横目を正面に戻し、独り言めいて紡いだ仰々しい言葉は『状況に変化無し。大過なく日々を過ごし、任務は順調に進んでおります』という《符牒》。)

夏虎 > (周囲の些事に狼狽も動揺もない涼しい顔に。市政の者でございと言った格好しながらも隠し切れない贅肉が削ぎ落とされているだろうと判断できる体躯とすらりと長い手足に。一般人ですというには座った姿勢一つとっても体幹が確りしているのだろう風どころか女子一人ぶつかってきても余り動かないだろう佇まい。――此れがガチ一般人であるとは寧ろ見る目があるからこそ見抜けないのかもしれない。風で、少しばかり乱れた桃髪を手櫛で直して、買い物で歩いて、少し内側に捲れている首元を直して、手の動き指の動きとっても妙に滑らかである。)

「美人さんが隙間に挟まってるとか何それ面白い」

(顔付きこそやや幼いながらに表情一つ声音一つ仕草一つ取ってさえ、『怜悧』、何て単語がいちいち浮かび上がりそうな彼女が。こう。建物と建物の猫が通れるのがやっとの隙間道に、ぎちっ! て、挟まってるのを想像してしまった。くはっ。と、カフェオレの飛沫……は、なんとか飛ばさずに済んだが笑気は飛ばしてしまって、中々謝罪に挙げた掌が下りれなかった。)

「ぅん? うん。この調子で涼しいままでいてくれると有り難い。
 冬の寒さは慣れちゃいるけど平気かっていうとまぁ……まぁ……」

(身形も顔付きも兎角生まれは間違いなく北の出故に寒さに慣れているが寒さが応える事に違いはない。ふと零されてきた“雑談”に一つ二つと頷いて、から。目線が彼女ではなく、彼女も含むが、右に、左に、右往左往。後、改めて、今度はしっかり首が傾げられる。何かこう、雑談というより、合言葉みたいな言葉の硬さ? 疑問が巡り、一泊後。)

「その。なんだ。多分人違いじゃないかなと思う、一般人だよ俺ぁ」

(只一言交わしただけで何となく察すから余計一般人離れしていると思われかねないが。帝国から王国に来るまで色々あったのだ。兎角、勘違いです、と、手がゆるりと否定の意味で左右に揺れた。)

イェン > 「――――っ!?」

(思わずぴくんっと細肩が跳ねた。普段やり取りをする使いは無駄口の一つも叩かず、淡々と必要な言葉だけを口にして、用が済めばさっさと席を立って雑踏に紛れ姿を消す。そんな相手とばかり関わっていただけに、この新顔の軽口と、飲料を吹き出さんばかりの反応には完全に虚を突かれてしまった。よもや、ただの街人に過ぎぬのか……なんて疑念が頭に浮かぶも)

「………ええ、全く。北方では早、雪のちらついている頃でしょうが、深く積もらぬ事を祈るばかりです。幸い、王都の今冬は比較的暖かい日が続くと聞き及んでおります」

(しかし、口調こそ緩くはあっても彼の口が発するのは符牒の流れに則った言葉の数々。それ故に、こちらも若干の緊張を滲ませながらもそれを感じさせぬポーカーフェイスと冷淡な声音のままに、現状報告を終えた。元々イェンに与えられた任務自体は相当に緩い物。《蛇》としての訓練は受けていたと言えども今は《華》に所属し、開花を待ちつつ王都にて商会の新たな《根》となる伝手を作るという物だ。余程のことでも無ければ退屈で代わり映えのない定例報告だけが行われるのが常の事。今回はそれとは別に頼んでいた商品を受け取る事になっていて、イェンにとってはこれこそが本題だった。物が用意出来なければそもそも相手は姿を現さぬ事となっていたので、不自然な大荷物を寄せてスペースを開けたベンチに座す男の姿を目にした時には内心で『よし!』と喜びの声を上げていた。無論、表層は完璧な無表情のままだったが。)

「―――――………それで。ここに貴方が居るという事は注文しておいた物が手に入ったという認識で良………、?」

(どきどきそわそわ。柔らかく膨らむブレザーの胸中で逸る気持ちを抑えつつ、先の雑談の続きめいたトーンで紡ぎ始めた本題を遮る様に、飄々と発せられる男の言葉。きょとん。それまで微動だにしなかった柳眉がほんの僅か持ち上げられ、台詞の途上にあった桜唇が半開きのまま動きを止めて、人形めいた無表情にこの時はじめて人間らしい色が覗いた。ぱちり、ぱちり。目尻を飾る朱化粧も鮮やかな双眸が数度瞬き)

「ち、違う……のですか……? 貴方は《薬屋》であると認識していたのですが……」

(美声を微かに震わせて、強張った冷顔が問いかける。)

夏虎 > 「薬屋には違いない、ふふ。うん。売れない、が前に付くけどね」
 
(“物”を用意できなかった“配達人”は此処には居らず、“物”を用意出来た“配達人”っぽいだけの一般人が、取引を始めましょうとばかりの雰囲気で話し始める。――大衆向けの喜劇の一コマにでも有り得そうな場面が劇場ならないところで再現されているとは、まさか、まさか。しかし、まさかなのであった。《蛇》に、《華》に、《根》、其れそのものは知らずとも其れらのきな臭い、あるいは血腥い諸事情にまったくもって知見がないわけではないのだが関わる事もない“それっぽいだけの一般人”が肩を一つ竦めて。)

「《夏天的药店》を大通りでやらせてもらってる露天商の、夏虎(シァ・フゥ)です。
 商品は、肩こりにー。腰痛にー。よく効く湿布……って、お嬢さんは若いしそんなんとは縁がないかなぁ」

(随分と自分ぽい誰かが居たものだ。感心半分、一種人形のようですらあった顔付きが呆気に取られた表情を浮かべるのが微笑ましくて口元の笑みはそのまま笑気もぽつりぽつりと零しながらに自己紹介と店の宣伝と。これ、めちゃ私物。と言外に伝える、荷物に向けられる人差し指。たとえば、化粧品、たとえば、お菓子、密偵が持つには家庭的なものがたっぷり詰まった帆布の鞄やら紙袋。)

「ああ。心配しなくても良いよ? 騒いだり商業組合にチクッたりしやしない。
 というか若い身空でご苦労さんですよ本当に。今度店に来てくれたら何かおまけしちゃう」

(弱みを握ろうと思えば、握れそう。弱みにつけ込んであれやこれやと要求しようと思えば、通りそう。彼女の後ろにある組織か、彼女そのものか、何かにつけて何か出来そうな絶好の機会ではある、が。興味無い。背もたれに背を預けて足も伸ばして、何もする気ありませんと態度でも仕草でも出しながらに、相変わらず気楽に飄々とした顔と声音で軽々と笑ってみせた。果物とか好き? だなんて普通に雑談までし始める始末である。)

イェン > 「………っ!、………っ、………ッっ」

(無表情のまま困惑に囚われた女学生の傍ら、朗々たる声音で飄然と自己紹介を行う露天商。一体どのような偶然なのか、彼もまた薬剤を扱う商人ではあったようだが、少なくともイェンと本日約束していたはずの《薬屋》で無いことは確かなようだった。絶望が制服姿の肢体に重く圧し掛かる。手に入ると思ったのに。今日、この場で、目的の物が手に入ると思っていたのに……。直前までそのつもりで豊乳を弾ませていただけに、そのショックは大きかった。幸いにして詳細こそ知られなかっただろうが、それでも一般人に疑念を持たれてしまったという最大の問題を忘れる程のショックだった。)

「――――あ、はい……お気遣い、ありがとうございます……」

(石畳に落としたまま持ち上がらぬ紫瞳と、力なく項垂れたその風情は先程までの凛然たる佇まいが佇まいであったがために余計悄然として見えようか。そうしてしばし、無言の時が過ぎ―――)

「貴方の気遣いと聡明なる判断に感謝を。もし貴方が後先を考えぬ愚物であったならば、非常に面倒なことになる所でした」

(復活した。僅かばかりの時で完全に思考を切り替えたその様子は、成人して間もない年齢にはそぐわぬ物。再びぴんと背筋を伸ばし、今度はきちんと彼にポニーテイルの美貌を向けて、淀みのない美声を紡ぐ。)

「イェンと申します。現在はコクマー・ラジエル学院に通う北方帝国からの留学生です」

(長躯の赤瞳を身長差による下方からじっと見上げながら簡潔な自己紹介を向けたのは、彼がどの様な経歴の持ち主かは分からぬも山のものとも海のものともつかぬ利を目当てに軽々しい探りを入れる様なタイプには見えないという判断と、致命的な事態に陥る前にこちらの勘違いを正してくれた事への感謝故。「はい、果物は好きです」と真顔で雑談に応える様子は先程までと全く変わらぬ可愛げのない物ではあったが。)

夏虎 > (本日の彼女の任務は余程重要なものであったのだろうか? 状況が状況とはいえ、偶然に偶然が重なったとはいえ、一般人とそうでない者との見分けを誤って取引始めてしまったショックもあるのかもしれない。随分と気落ちしてしまった様子にどう慰めたものかと思案を巡らせたが、幸い、考えあぐねている間に復活してくれたので内心安堵するし吐息も漏れる。)

「裏と()って得なんてないしねぇ、面倒なだけよ」

(裏側と事を構えて得するなら、兎角。裏事情に少々明るいぐらいで今までも此れからも表側で生きていく心算の身の上にはそんな事態はない。いかにも、興味ありません、何て態度は引き続きそのまま、彼女曰く“非常に面倒な事”にも肩を震わせて喉を震わせて笑い飛ばすだけだ。紙袋に突っ込んどいたカフェオレを手に取ればストロー加えて啜ってまた一息ついてから、名乗りに一つ頷いて、)

「イェンさん。よろしく。裏に関わるつもりはないけど宜しくはやれるでしょ。
 是非うちの売り上げに貢献して頂きたいね、薬の他にも果物扱っててさ?
 今時分だと林檎。林檎は特にお勧めよ、知人の農園から仕入れていて……」

(裏事情に関わらないことと裏稼業の人間と付き合わない事は話が別である。彼女の見立通りでもある、彼女の背景も彼女に繋がる組織にも探りらしいこと言及せずに、自分の店のの営業まで始めている。蜜がたっぷり、酸っぱさもあり、歯応えは結構あって、云々、最近仕入れた林檎についてあれこれと語っていて。取っ付きにくさもある鉄面皮に、身形もあってか口調も軽いせいで余計飄々とした語り口と笑顔で喋っている。途中、ふと――)

「仲良くなったら特別に仕入れも承りまーす。今日も何かお探しの様子だ。
 俺が仕入れられるものはあんま多くないし。俺が仕入れるまでに目的のもの手に入れてるかもしらんけどね」

(探りというわけでもなんでもなく単純に親切心だ。本日彼女が人知れず豊胸をときめかせてながらに探していたもの。……豊胸をときめかせているのは解らなかったが。何か探しているらしい事は分かったので。良ければお取り寄せ、と。)

イェン > 「ええ、その通りです。労力、リスク、それに対して得られる利は余りに少ない。貴方の考えに私も同意します」

(本当に面倒臭そうな物言いに、イェンもまた安堵を強める。ただの街人と断ずるには色々とノイズの感じられる青年なので、この一連のやり取りが演技である可能性も無いではないが、少なくとも少女の目から見た彼に嘘は感じられなかった。一応、此度の失態は次の報告に含める事となるだろうが、商会から探りを入れたとて早々に白という判断が下るだろう。)

「林檎ですか。確かに今が時期ですね。今回の詫びという訳ではありませんが、いくらか購入させて頂こうと思います」

(彼が他でもない林檎を商材として勧めたのは、傍らにちょこんと腰を降ろした女学生の身体から仄かに漂う甘やかな香りが影響していたのかもしれない。香水めいて人工的な不自然さの存在しない青林檎めいて甘酸っぱく清涼な体臭は、中々に物珍しい物だから。そんなフレグランスを漂わせる女学生は相も変わらずにこりともしない無表情のままなれど、続く言葉にはぴくりと細身を反応させた。一旦傍らへと泳いだ紫瞳が幾許かの迷いを見せた後、再び長躯の赤目を見上げる。鮮烈な朱で切れ長の目尻を飾る紫紺の双眸が、その透き通った色彩の奥に僅かばかりの熱情を覗かせながら)

「フゥ様、お言葉に甘えお聞かせ下さい。貴方の扱う薬剤の中で、翔風華の花弁を乾燥させた物と、偃月草の種の粉末を混ぜた、その………」

(淡々と紡がれていた声音が不意に言い淀み、何かを口に仕掛けては唇を紡ぐ仕草がじんわりと白皙の頬に薄桃の色彩を滲ませていく。腿上に乗せた白指できゅぅっとプリーツを握りしめ、無表情の眉根に僅かばかりの力を込めて)

「――――ふ、……ぅ……ぁり化のお薬など、有りませんか……?」

(変わらぬ無表情が稚気を残した美少女顔を真っ赤に染め上げ問うた商品名。酷く聞き取りづらく掠れた小声の発した《ふたなり化のお薬》という文言は、果たして正しく彼の耳に届いたかどうか。)

夏虎 > 「ありがたい。秘密を知ったからには……! なーんて来られたらどうしようかと思ったよ」

(帝国のど田舎生まれで。帝国人にしては奇抜な桃髪と赤眼のせいで村では苦労しただの、商売を始めたものの鳴かず飛ばずで王国に流れたの、背景を洗ってみると流民にありがちでしかないものが並ぶぐらいだ。腕っぷしは商人にしては立つらしい話ぐらいは出るが帝国でも王国でも比較的真っ当にやっている一商人一市民でしかない。もし、彼女が物騒な真似したら……と、区切ったが、そんときゃ逃げるね!! なんて無駄に爽やかな笑顔で言いきった。)

「毎度あり。買って良かったって思わせられるぐらいの味は保証させてもらおうか。」

(風向きで偶に香る青林檎の匂い、香料で仕立てたにしては柔らい匂い、嗅覚を刺激するそれに釣られた部分もある林檎の宣伝はお詫びであれ何であれ功を成したので一先ずは良し。お値段はお勉強させて貰うとして一個これぐらい、と、算盤はないが指を一つ二つ立てて値段を提示していたものだが。良く熟れた林檎のように、只でさえ真白い肌色なものだから赤みが差すと結構な目立ち具合になるのに赤々とそれはもう真っ赤になってしまった顔色に、ぅふふ、何て笑気がまた。)

「ああ。いや。ごめん、誂ってるわけじゃなくてさ、うん、恥ずかしがらなくていいよ。
 “そーゆーの”求められるお客さんも偶にいらっしゃるから変になんて思わないさ」

(今までにないほど熱意のある眼差しで。今までにないほど分かりやすい顔色で。一体どんな難題が飛び出るかと思えば性魔法具だったので拍子抜けした、が、半分、余りの可愛らしさに、半分、割合半々でどうにも笑みが溢れてしまったものの謝意を告げてから。ちょいと失礼、とは、一言断りを入れると上体を屈めて顔を近づける、掌を持ち上げては口元を隠しつつも彼女の耳元傍に立てて、ひそひそ話の体だ。あまり、人に聞かれたくないものみたいなので、ひそひそ話だ。)

「ございますよ、そのお薬。
 ……どんなのがいい? 精液出せれるのもあるし。形だけそれっぽくできるのもあるよ」

(種類は様々。ご要望に応じてご調合、と、ひそひそひそ。)

イェン > (並べる言葉が示すような不安などまるで感じさせない脳天気な声音が語る男の正体。それを耳にする少女は出会った直後と変わらぬ無表情のままなれど、氷の刃を思わせる硬く鋭い雰囲気はいくらか和らいで感じられたかも知れない。この後、彼に予定がないのなら購入を約した林檎はこの足で彼の店へと二人で向かい、早速購入して帰るのも良いかも知れない。アップルパイ、パウンドケーキ、マフィンにタルト、頭の中にいくつものレシピが浮かび、年頃の少女の例に漏れず甘い物を好む留学生の美貌がますますの柔らかさを滲ませた。到底笑顔とは呼べぬ仏頂面ではあったが。そんな少女が精一杯の思い切りで発した問いに返されたのは、忍び笑い。白貌の炎熱を一層強く広げて俯くも、それに続いて彼の口にした言葉には双肩の力みもふにゃりと緩んだ。)

「ぁ、ありがとう、ございます。その……何分斯様な買い物は初めてで……」

(周囲に聞かれていないかと赤面の無表情が紫瞳を左右にそわそわ走らせて、積まれた荷物を押しのける様にして近付いて来た桃色髪の頭部には若干の緊張を滲ませながらも白くて小さく可愛らしい耳朶を向ける。近付いた事ではっきりと感じられる様になる青林檎の体臭で青年の鼻孔を擽りながら)

「―――――本当ですかッ!?」

(思わずの大声が勢いよく立ち上がり、長躯に掴みかからんばかりに美貌を寄せた。互いの鼻先が触れ合わんばかりの至近距離。爛々と輝く紫瞳が)

「せ、精液が出せる物が良いですっ! きちんと生殖能力のある、それから、それから、おちんちんの形はっ、大きさや形は自分で決める事は出来るのでしょうかっ!? 勃起の持続時間はっ? 射精の回数はいかほどで――――、はう…ッ!?」

(興奮にかんばせを染めながら、思春期真っ只中の熱量をそのままぶつける様に美声を響かせていた女学生は、ふと周囲から向けられている凝視とくすくす笑いにぴたりと動きを止めた。かぁぁぁぁぁあ……ッと小さな頭部を爆熱させて、ちょこんとベンチの端で大人しくなる。俯いたポニーテイルから覗く白耳の先は完全に紅葉していた。ちなみに少女が先程口にした素材は希少価値も高く、当然それによって作られた薬の値段もまた相応に高くつく。その分麻薬めいて深刻な副作用も存在せず、絶頂の際に放つ精は確率こそ低くとも実際に相手を孕ませる事の出来る本物同様の物。形成される肉棒も使用者の資質に左右される所はあれど大方が逞しく、1度や2度の射精で萎える事のない絶倫ぶりを発揮する。そんな貴族御用達の物を望んだのは、ただ単に性知識に乏しい所のある生娘が唯一耳にする事の出来た薬の情報が、それらの素材を用いた高級品だったというだけの事。)

夏虎 > (小柄な体躯と小さなお顔にぴったり合った小さな、真っ赤な、耳。其処に薄い仕立てに薄桃色を載せた形のいい唇が近づいて、ひそひそひそ。吐息が少し掛かる、距離を詰めると彼女のような生成りのものではなく香料ものではあるが金木犀の香りがふわりと漂う。そよ風程度で散るがベンチは今林檎と金木犀がふわりふわりと良い香りが漂った。……ほんっと良い匂いするなこの娘……と、鼻を鳴らさないよう注意しながらも感心していたら、)

「っぅ、わ。ちょ、ちょっと、イェンさん……!?」

(我が夏天的药店の品揃えに大変に食指が動かれたご様子である。のは、いいにして、こちらがその気ならこのまま唇でも奪えてしまいそうなぐらいの距離の詰めっぷりには赤い瞳がまんまる開いて口もぱくぱく開いて吃り気味。ちょっと離れて!? と悲鳴を上げる間もなく、出るわ出るわ凄まじい熱意のご要望……!)

「お、落ち着いた? うん、よし、落ち着いたね。。
 大丈夫。したら、そうさね、その内容なら、うん、作れるとは思う。
 形迄、となると追加素材も要るしちょっと詰めようか。ぁー。他のところで」

(何とか止めてあげられればよかったが何とも出来ずに広場中にすら響き渡る勢いで行われた、赤裸々大告白。……先程の落ち込みっぷりより尚小さ~く小柄な体躯を縮めている彼女にもう掛ける言葉も無い、下手に慰めても寧ろ追い打ちにしかならない現状故。ここは一つ何事も無かったかのように商談続行だ、いや何も恥ずかしい事御座いませんよ? なんて言わんばかりに動揺していた面を表情筋酷使して平素の軽い笑みに戻し。たしか翔風華に偃月草とこの組み合わせなら、と話を進め、さらにその先は『あんな形が良い』『こんな要素も』という話になるなら長くなるので、と、買い過ぎて多くなりすぎた鞄や荷物のハンドルを引っ掴む。)

「もうちょっと落ち着ける所に行こうか? ぁ、大丈夫、個室とかじゃあほらやっぱり俺も男だ、安心出来ないだろうし。適当な喫茶にでも」

(人目のあるところでは話しにくいが。此処ではもうかなり話しにくい。人目を避けた場所、というのも、初対面で男と共に個室というのは色々落ち着かないだろう。ということで適当にお茶でも頼める場所へ、なんて適当に決めて立ち上がれば、どっさり持った荷物のせいで動かしにくい手指で大通りへ向けてから歩き出し。改め、其処での商談でも一騒動あったかもしれないが、後日にはきっと彼女のご要望通りのものがきちんと届く。そんな実りのある商談には成った事だろう――)

イェン > (見るからに遊び人といった軽薄な外見とは裏腹に、彼は性モラルの乱れも甚だしい王都では希少な程の誠実で初心な性質の持ち主だったらしい。手に入るかと期待して、けれどもそれはイェンの勘違いでしかなく、本日の入手は諦めながらも何かしら手がかりでも掴めればと藁にも縋る想いで向けた問いが望外の結果を産んだ。そんな感情の乱高下に振り回されて常の落ち着きが嘘の様に青年商人に掴みかかってしまったイェンは、大いに驚く青年の反応もあって自分が公共の場で何を叫んだのか理解して真っ赤な縮こまった。それでも、目的の物の入手がいよいよ現実味を帯びてこれば)

「は、はい。興奮してしまい、失礼しました。そ、そうですね……もっと落ち着ける場所で、お値段の交渉なども含めて、是非……!」

(恥じらいの残滓を大いに引きずりながらも、目的の薬剤を求める熱量は些かも冷めてはいないらしい。羞恥の紅潮を残す美少女顔は、青年の提案に目弾きの紫眼を強く輝かせて頷いた。早速場所を帰るべく青年が長身を立ち上がらせたなら、頼み事をした側として当然の様に彼の荷物のいくつかをブレザージャケットに着痩せする豊乳で抱え込む。立ち上がり、隣り合えば30cm近い身長差は女学生の華奢な印象を一層強める事だろう。)

「――――い、いえっ。フゥ様の事は信頼しております。是非、邪魔の入らぬ個室にて!」

(目弾きの朱化粧も苛烈な紫瞳が有無を言わさぬ力強さで紳士的な提案を叩き斬る。喫茶店などで再び先程の様な醜態を晒してはたまらない。という想いが再びじわりと滲んだ頬の赤みが示していた。ここまでのやり取りで見目とは真逆の誠実な人柄も感じられたし、この行商人ならば二人きりになった途端豹変する様な事はあるまい。と、生娘ならではの牡に対する警戒心の薄さを発揮する世間知らず。そうして密室で行われた商談は、凛然たる趣の美少女が豊乳の内に秘めた生々しい欲望の片鱗を赤裸々に覗かせる実に熱の籠もった物となっただろう。表情変化に乏しい美少女顔をうっとりと赤らめ、桜色の可憐な唇からはぁはぁと甘く乱れた吐息を漏らし、嫋やかな双手で理想の肉棒の形を熱っぽく伝える様は、誠実なる青年商人の忍耐を著しく削ったりもしただろうが、その数日後、少女は目的の物を手に入れる事となるのだった―――。)

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からイェンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」から夏虎さんが去りました。
ご案内:「ヴァルケス武器防具店」にイーヴィアさんが現れました。
ご案内:「ヴァルケス武器防具店」にアルマースさんが現れました。
アルマース > 鍛冶場は危ないと言われても、見たいものは見たいので「わかった」とは言わない。
甲冑着ればいけるんじゃない? ってそのうち言ってみよう~と内心思っていたりは、する。が、今日ではない。

「火傷は困るなあ。
 ま、いいや。冒険者とか傭兵とか、客も面白そうだし。そのうちよろしくお願いしま――」

冗談のような考えの途中。
イーヴィアの名乗りの口上にすっと表情が消える。
思考が止まるくらい腹が立つと無意識にそうなってしまうのは。
すぐキレて手を出すのは、たぶんやめた方がいいんだよねえ……と、周囲からもあれこれ言われた末に自制というものを覚えた年の頃から。

五年も前なら腹が立ったと自覚した瞬間には手が出ていたかもしれないけれど。
そもそも彼の言葉が腹を立てるべき内容だったのかどうかもよく分からない。吟味してみないことには。
ふうん……とゆっくり一呼吸の間を置いて。
すぐに答えを出そうとするのをやめて、ぱっと何か手放すように両手を広げた。降参のポーズみたいにも見える。

「一介の鍛冶師――で覚えてほしいなら、それで良いよ。
 ……。……ああ、何だ、兄さんの店だったの。店を持つにゃ若そうだから、店主は別にいるのかと思ってた」

不満かと聞かれれば。首を傾げて自分で問うてみた後、素直に頷いた。
頭が真っ白になった一瞬が過ぎ去り、声色に感情が戻る。

「半分くらいね。でも、今日のところは良いや。
 勤務開始前から店長と揉めるなんて、史上最速で伝説になっちゃいそうだし……。
 それはそれとして、差し入れあーげる」

鞄の中から出てくる酒の小瓶が二本。
折よく仕事が終わりそうなら一緒に一杯やるつもりで持ってきたものを机の上へ。
いまいち正当性の定かでない自分の怒りから距離を置く方が良さそうだから、飲もう、とは言わない。

代わりに革の布を広げると、その内側のポケットにナイフを収めた。
何度見ても気に入ったから、その出来栄えで少し心和む。

イーヴィア > (多分、恐らく、駄目な物は駄目と言う事になりそうだが
もし、女が鍛冶屋として弟子入りする、と言う話にでもなれば又変わるだろう
其れは其れとして――表情を読む事位は出来る
己が名乗り口上が、如何やら一瞬で相手の琴線に触れたらしいと分かれば
一寸僅かに片眉跳ね上げ、此方も此方で両手を掲げて見せる

降参、と言うよりは、悪気その物は何も無かった、と言う。)

「鉄が溶けるんだ、甲冑なんて着てたら逆に火傷しちまうよ。
……待て、待て。 言い方が悪かったかも知れねぇのは謝る。
別に御前さんを馬鹿にするとか、そう言う心算は無かった。」

(――不満げ、と言うのが本当に不満げであるからこその、謝罪。
あくまで、言葉遊びでしか無かった心算だったと、軽く頬を掻きながら伝えれば
机の上に出された酒瓶と、相手の顔と交互に見下ろした
二本、一人で飲むには中途半端だ。)

「……有難いね。 暫く棚に置かせて貰うさ。
何かを切る訳じゃあないだろうし、よっぽど潮風に放っといたりしなけりゃ
其処まで手入れは必要無いだろうけど、もし傷だのが気になったら持って来な。
暫くは、無料で見てやる。」

(一緒に飲むか、とは言えない。 だが、一人で飲むとも言わない。
出来上がったナイフを眺めるその表情だけは少なくとも、満足が見えるから
其処だけは、手放しで良かったと言えた所か)。

アルマース > 黒い目が瞬きもせずイーヴィアを穴の開くほど観察し、悪気は無かったらしいと結論付けた。
首を振って。

「あたしに名乗るのがそんなに嫌なのかと思った。
 いいよ、この辺の風習よくわかんないし。ブンカノチガイなんだなって思っておく。
 ……こっちこそキレやすくてごめんね。
 ええと――お店じゃあキレないようにする……ね……?」

それ以前に受付で使ってくれるという話が没になってもおかしくないので、片手を自分の頬にあて、可愛い子ぶった仕草で誤魔化し笑いをしておく。

見てやる、というのには頷いて、そろそろお暇するか、と忘れ物が無いか軽く確認し。
ふと思い出したことがあって、カウンターの上に肘をつき、指を組んでその上に顎を乗せた。
イーヴィアを見上げて隙の無い笑い方をする。

「……もうひとつ忘れてることがあるんだけど、知ってる?
 正解すると良いことがあるよ」

イーヴィア > 「……いんや、そんな事は無い。
冗談の心算だったんだが、気に障ったなら謝る、悪かったな。
文化の違いってか、単純に俺の口が悪かっただけさ。」

(――普段、荒くれ者ばかりを相手にしているせいで、言葉が雑なのもある
が、そんなのは相手には関係の無い事だ。 改めて、自分の非を認めつつ
何処か業とらしい仕草を見せる相手の様子に、微苦笑を浮かべた

机の上に出して居た見本の石を、再び棚へと仕舞いながら
ふと、その顔が己を見上げるなら、忘れ物との言葉に一寸、考え込み。)

「―――――……嗚呼。 忘れちゃいないさ、アルマース。
こっちで働き始めるまでには、名札作って置いてやるからな。」

(――これが、正解か否かは、女の判定次第な訳だが。
他の従業員に身に着けていて、己だけは付けていない金属製の名札
黒染めと彫りで、少し洒落て作られている其れを
ちゃんと、用意しておく、と。

告げて、是非を問うように女へと、軽く首を傾けて見せた)。

アルマース > 「んー……」

時間差で何となく。過剰に反応してしまった理由が自覚できてきて。
きちんと謝られて若干居心地悪そうにカフタンの胸元の房飾りを弄る。

「そんな言うほどじゃなかったというかあ――……
 ……私が繊細に……? 過敏に……? なってたって言うかあ……
 ……、ふふ」

意外そうに――当てられなかったら何か無理を言って困らせてやろうと思っていたので――拍子抜けした顔で瞬いた。
呼ばれた名に、蕩けるように微笑んだ。

「あらら、ざあんねん。正解でした。
 当たると思ってなかったから当たりの賞品考えておいて。

 あたし、でも良かったけど、店長が店で女を囲っちゃ外聞悪いよねえ。
 あーあ、せっかく良い男見つけたと思ったのに寝らんなくなっちゃった」

あはは、とあっけらかんと笑う。
泣いた鴉がもう笑った――ではないけれど、さっきまでの不機嫌が嘘のよう。
しかし外聞を気にしているとは思えない普通の声量。
閉店作業中の周囲の者の耳に届いていたらぎょっとされるかもしれない。

「じゃあね、店長。次、働きに来るか支払いに来るかわかんないけど」

鞄にナイフを入れると、身を起こしてカウンターから離れた。

イーヴィア > 「人によって、何を気にするかは変わるもんさ。
細かい事は気にしない連中相手が多くて、気が回んなかったらしい。」

(過敏に、と言っても。 曲りなりに客商売な以上、非は己に在る物だ。
だからせめて、忘れっぽい訳でも、悪意が在った訳でも無い証明に
ちゃんと、覚えていることは覚えている、と、呼んだ女の名

当たりだった事の方が意外そうな顔されれば、おいおい、と肩を落として見せるが
相手の表情が多少なりと元に戻れば、其れは其れで良しとしよう。)

「お誘いなら歓迎するぜ、っても、外聞が悪いのは間違いねぇな。
別に急がせるつもりも無いからよ、小遣い稼ぎにでも、遊びに来るでもすりゃあ良い。」

(勿論、きっちり支払って貰える分には有り難い事だが。
其の辺りは、女の仕事状況も有るだろうから。
カウンターから離れた相手を、此方は動かぬ儘に見送れば

――ふと、女の背へと、声を掛ければ。)

「――――……仕事でも、支払いでも無いなら、次は店が閉まった後に来な。
……口説くんなら、商売なんざ絡まない方が良い…だろ?」

(もうすぐ、閉店となる店。
其の後に。 ――別に、今夜である必要は無いけれど、戸を叩けば良い。
女が言ったもう一つの言葉も、ちゃんと覚えていると。 主張しながら)。

アルマース > 「んーでも、……あのー、……んー、……もう!」

何か言いかけて、頭の中で相手を入れ替えてみたり立場を反対にしてみたり、色々な思考実験を経て、説明するのが難しくなってしまった。
説明できなくはないけど、自分が大変恥ずかしい目に遭うことになりそうで、しまいに、もういいの!と話をぶった切る。
もともと、考えるより勘で乗り切ってきたタイプなのだ。こういうのは向かない。
痒いような面映ゆいような心地でむずむずしたが、イーヴィアが肩を落とすのには何となく胸が空いた。

「はあい、またね。

 ……ふふ、そっちも忘れてるのかと思った」

覚えていて店内で口説かれても困るが――困るのは周囲の店員で自分ではないが――
ぐちゃぐちゃ考えるのが面倒になって、また酒を持って、今度は遊びに来る自分がすでに見えてしまっている。

おやすみ、と最後には柔らかな声を残して夜の街に紛れる。

ご案内:「ヴァルケス武器防具店」からアルマースさんが去りました。
イーヴィア > (忘れちゃいないさ、と、最後に返しながら其の背を見送る
店の扉が開き、其の向こうに姿が消えて行けば
机の上に広がった儘の木箱を片付け始める

新しい店員候補を確保出来たのは良い、とはいえ
いつから仕事に入ってくれるかは、向こう次第だろう
多少反省もあったが、ともあれ一本目を無事に引き渡せたのは良し
ぱたん、と蓋を閉じた木箱をまた、鍛冶場へと持ち込みながら。)

「…………さて…最後にひと作業するか。」

(手にした名札、無地の物。
其処に名前を彫ること自体は、別に難しい事ではない。 ――己なら。
既に閉店間近となった店内、従業員には残業させないが
こういうのは、いざと言う時に手をかけてしまうものだ――)。

ご案内:「ヴァルケス武器防具店」からイーヴィアさんが去りました。