2025/01/06 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にエーディトさんが現れました。
■エーディト > ――生まれてこの方あんまり長くないが、舐められたらどうするかという話は、あれこれ見ていれば自ずと知れる。
詰まりは倍返し。徹底的に痛めつけてぐうの音も出ない位になればいい。
幸か不幸か、この躰は頑丈だ。本当の意味で生命を奪えるものとすれば、自分と同格かそれ以上の敵、または何らかの曰く付きの武器位だろう。
さて、周囲を見てみよう。まさに衆人環視の実例と言える酒場の中で、“竜殺し”なんてものを持っているものはどれ位か。
実のところ、意外と多いかもしれない。見た目重視の類ではない。
特定の生物を屠ることを因果付けられた呪いの武器の方が、効果としては悪辣だが、これもまた程度による。
「でー、何だって? 俺に何か言いたいならはっきり喋れよ。口ついてんだろ?ほら、何か言えよ」
そんな女の声が響くのは、夜を迎えた或る冒険者ギルド。その建物に隣接した酒場だ。
この手の酒場には悲喜こもごもが入り混じると相場が決まっている。今回起こっているのは、その前者だ。
何人かの冒険者で間に合わせの徒党を組み、一体ないし複数体の脅威と立ち向かい、報酬を得る。
そういう仕事で、成功と失敗は隣り合わせの隣人、カードの裏表だ。偶々その裏、失敗が出てしまった――だけと割り切れれば良かったが。
しかし、それを誰かひとりに押し付けよう、というのはどうなのだろう。
やれ、守りが甘かった。やれ、援護が遅れた。ねちねちした瑕疵の突き合いから、酒が入っていれば殴り合いに変わるのは珍しくない。
そうし合うのは男数人、そして女一人。だが腕っぷしだけで言えば、語気の荒い銀髪の女の方が強かったらしい。
腰の剣を抜いてしまえばもうご法度。だから、殴る。蹴る。さらに殴って蹴る。鍛えが足りない人間は弱い。
仕事を仕損じても、手間賃はもらえたのだから其れで良いではないか。
反省会と称して酒を呑んでいて、此れでは後々の有様が見て取れるよう。
最終的にオボエテロー、だの、ツキノナイヨルニハキヲツケロー、だのと。捨て台詞を残す男たちが酒場を出て、卓に残るは女一人。
「……ったく。騒がせちまって悪かったな。謝ったから良いだろ?え?」
憮然とした顔つきで女が荒く息を吐き出せば、周囲から刺さる目線が痛い。
くしゃくしゃと髪を掻き、一息して謝罪らしい言葉を述べ、卓上に残る皿達を前にジョッキを掴む。呷る酒の味は、いまいち。
舌打ちと共に、床を叩く音がする。女の尻から伸びた白い鱗に包まれた尾。それが為した音色だった。
■エーディト > 上背があるとはいえ、起伏の在る女の姿態となれば、角があろうが尻尾があろうが関係ないらしい。
目を向けるまでも無く、幾つか妙な視線を感じるのは、思い過ごしでもないだろう。
それも一応と云うまでも無く、実力の在る冒険者となれば、組みたい者はどれだけいることか。
(……まー、俺だって相手は選ぶけどな?)
感情に任せて、テーブルをひっくり返さなくて良かった。食い散らかした風情は強いが、お陰で注文した料理は幾つも残っている。
その内の一つの皿を膝を伸ばし、摘まみ寄せながら椅子に座り直す。冷えているものもあるが、ないよりはマシだろう。
喧嘩というひと時の大騒ぎが終わってしまえば、酒場は思い出したように喧噪を取り戻してゆく。
巻き込まれる側も慣れたものだ。殴り飛ばされたバカが外野の方に来れば、自分の杯と皿を持って回避するのも慣れたもの。
「おーい、酒ー。……エールで良いや。じゃんじゃん運んでーじゃんじゃん」
ぐい、ともう一回呷って空にしたジョッキを持ち上げ、ぶんぶかと振る。
ただ酒と言って、何を頼みたいのかが伝わらないと思えば、言い直す程度の理性は残り、脳髄も酒精に浸りきっていない。
今日の面倒と嫌な記憶を洗い直す位には、迷惑料がてら呑んで酒場に金を落としておきたい。
どうせなら、付き合ってくれる女の子でも居たらとは思うが、物好きと贅沢が過ぎる話だろうか。
■エーディト > 「……――あのな。じゃんじゃん持ってこいとは言ったが、今纏めて持ってくる奴があるか!?」
頼んで暫しすれば、一杯二杯三杯。さらにもっと。
乗っていたものが無くなった幾つかの皿と引き換えに、エールを満たされたジョッキが幾つも卓に並ぶ。
大雑把過ぎる注文をした奴は、こうなるのだ――という実例を見せつけたいのだろうか。
店の奥、カウンター席の向こうに見えるマスターらしい人影を思わず睨めば、そっと目を反らす素振りが見える。
わざとやったな、と。思いっきり舌打ちしてみながら、手近なジョッキを取る。
どれだけ呑んでも酔わない、とは言い過ぎでも、ここまで並べられると酒精の濃さより単純な量で辟易しかねない。
顔に手を当て、項垂れつつちらと横目に遣る。呑みたい者は他に居るだろうか? はてさて。
■エーディト > 「仕方ねぇ。……全部飲み干しちまうしかないか。全部小便になっちまいそう」
とか言っていると、ジョッキの中で揺蕩うエールの色がそれらしく見えてしまうのは――考えないでおこう。
腹に力を入れて、並べられた杯と向かい合う。
ぱたんぱたんと揺れていた尻尾が、やる気無さそうに垂れるのは、仕方がない。自分が悪い。
何は兎も角飲み干して、呑んで、食べて、飲み干して。追加で頼んだ分を支払い終えて店を出る。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からエーディトさんが去りました。