2024/02/28 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 冒険者ギルド」にニュアさんが現れました。
ニュア > 《 御希望に応じての調合各種 御依頼承ります。》

「ん。 これで───… いっかぁ。」

様々な依頼が貼り込まれた木板にて誂えられた掲示板の前。
手書きの一枚を貼り込んで、娘は頷いた。
こんなんでホントに依頼くるのかなァ、と疑わしくはあるも、背に腹はかえられぬ。
こちとら、乗り合い馬車にて現地まで出向く手筈だった商談がのっぴきならない拉致監禁で御破算になったが故、ジリ貧に輪を掛けて──金が無いのだから。

一見して少年とも少女ともつかぬ、華奢な細身。
冒険者と呼ぶには心許ない背格好ではあるし、娘自身冒険する気は其処迄無い。どちらかといえばゆくゆくは私腹を肥やして隠居希望だ。
が、それも元手があってのこと。娘のぬばたまの双眸は、つい──幾つも貼り出された依頼案件にも向いてしまう。

「“討伐”──…どぶオークの群れ…? うへぇ、無理。
 “採取”… ェ。ココ、エルフの禁足地じゃないの?ボコられるでしょ駄目でしょコレ…」

多少の心得はある。手っ取り早く稼ぐには、これらが打ってつけ。
が所詮は薬師である。本業以外の案件はノーリスクハイリターンでいきたいが故、どの依頼も迂闊に請け負うには気乗りしな過ぎた。
小綺麗な貌を顰め。眉根に皺寄せて眺めるに留め。

「金、降ってこないかなァ…………」

不埒なことを夢想するのである。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 冒険者ギルド」にリスさんが現れました。
リス > 冒険者ギルドに、一人の少女が入ってくる。
 金髪で空色の瞳、落ち着いたワンピース姿に、少しふくよかな少女は、リス・トゥルネソルという少女・
 トゥルネソル商会のマグメール店の店長だ。
 リスは、トゥルネソル商会のマグメール店の店長として、此処の国の色々な所で、商売を行っている。
 その中でも冒険者ギルドには仕事ではなく個人的に護衛をお願いする事もり、ギルドの酒場に食料や酒や、道具などを納品する事もある。
 店長が態々、と思う者もいるだろうが、リスは、自分では見て、自分で話をして、自分で付き合う。
 店の中は落ち着いても、店の外を疎かにする積りは無くて。
 そんな事で、人足(人化ドラゴン)と一緒に酒樽をもって、酒の納品を済ませた所。

「――――あら?」

 冒険者ギルドには、嫁とか、妹とか、娘とか、色々と所属している。
 付き合いがないわけでもないので、と少女は彼女らが居ないかな、と思ってギルドの冒険者のたまり場の方に目を向ける。
 其処に目に入るのは、掲示板と、其処に張られている一枚の用紙。
 とこ、とことこ、と少女は一直線に紙の方へ。

「お薬、かしら?」

 調合という文言、傷薬なのか、病気の類のそれだろうか。
 一応、商会でもポーションなどは取り扱いはあるけれど、どの程度の薬なのだろうか。
 風邪薬とかそう言った物も有れば、なおいいかな、と思っていた所。
 そんな所で見た一文、興味をひかれたので、空色の瞳で、まじまじと見てから。

「この書類の方は、いらっしゃいますか?」

 落ち着いた、ソプラノの声できょろきょろ、と、調合してくれる、という人が誰なのかを探す事に。

ニュア > とはいえ、思い耽ってばかりでは巡るものも巡らぬのは娘とて知るところ。
世の中そんなに都合の良いものではないのだから。
故にそろそろ拠点を変えるか、とも思う。得られる薬の原材料も変わってくるし。
もとより己の遣り方は行商だ。仕入れて仕立てて、売り捌く。
ひとところに落ち着いたって──あまりいいことは無い。経験則だ。

「ダイラスでも行くかなぁ───… いつ行っても景気良いしあそこ…。」

これからの季節、波も穏やかになり貿易船の出入りも増える。それは娘にとって願ってもない機会。闘技場があり血気盛んな人種が集う故か薬の需要も高い。
此処で下手な依頼を受けるよりもそっちの方がイイに違いない。きっと。

そんな風に思案を巡らせていた最中。
依頼書へと歩みくる少女が傍らへと現れるのだ。
別段──視線をチラと流すだけ。斯様な輩は度々現れるのだし興味の欠片すら無かったのだけども。
相手が「お薬」と発したものだから─…「ン?」となった。
まさか。貼ったばかりのそれに釣られる魚が目の前で発生するだとか。そんなこと微塵も思ってなかったもので。おぉ…とばかり思わず、双眸がぱちくりと瞬いて。

「─────────……」

無言に事の成り行きを見守っていれば。呼び掛けまで生じたものだから。

「ァ、 ハイ。 貼りました。たった今。」

自分です。思わぬ近場であろう傍らより声を発し。挙手。

リス > 声をかけてみた、冒険者ギルドというのはそれなりに騒がしく、声が全て通るとは思えないものだ。
 張った人はいないかもしれないし、その際は、ギルドの係員に聞けば教えて貰えるとも思っていた。
 居たのだけど、も。

 思った以上に、直ぐ近くから声がした。
 何と言うか、とても近くで、それこそ、目を向ければもう会話ができる程度。
 人は其れを隣、という。

「あら、まぁ。」

 東洋風の雰囲気を持っている人だ。
 男性とも、女性とも取れないのは、東洋の人は、雰囲気とかいろいろが独特で読みづらくある。
 中性とかいろいろと有るので、迂闊に言う事は出来なさそうだ。
 とは言え、とても綺麗な人だな、と可愛らしいな、と思う。

 相手も驚いていた様子で、目をぱちくりさせて頂いている様子、それがとても―――。
 と、今は、別の件での話するので、少女はピンク色の思考をぷるぷると吹き飛ばす。

(わたくし)リス・トゥルネソルと言います、トゥルネソル商会という商会の者で御座いますの。
 えっと、では、どのようなお薬を取り扱って居るのでしょうか?
 お値段とか……少し詳しくお話が聞きたくて。
 宜しければ、其処の酒場でお話を聞かせて頂いても?」

 一寸矢継ぎ早かしら、と首を傾げつつも、取りあえず、軽く自己紹介。
 トゥルネソル商会は、ダイラスに本拠のある商会であり、マグメール、バフート、ヤルダバオートに支店がある。
 平民地区と富裕地区の境目の一等地に店舗を構えているので、軽く通ったことがあるという人は多いだろう。
 彼女が知るかどうかは、また別だが、それなりの規模と。高品質低価格の品物の数々。

 あと、ドラゴン急便という、竜を使った配送、輸送、移動サービスが有名だろうか。

 そんな―――カモがネギしょってやってきた系のドラゴン娘が此処に居た。
 にっこり、にこにこ、と柔らかな笑みで、如何?と、問いかける。

ニュア > 貴族か商家か。
華美ではないけども、少女の纏うワンピースが酷く仕立ての良いものだとは娘の目に知れた。
厚みがあり、織りが滑らかで、襟口や釦ひとつのあしらいに品を感じられ、質が好ましい。
娘の審美眼が告げる。それは───上物(カネヅル)と呼ぶべきものだと。

「本当にたった今貼ったんだよ。だからまだ、此処にいる。」

ので、少々吃驚したのだ、と。視線の意味を知らせるように肩を竦め。
冒険者ギルドには若干不釣り合いな、蜂蜜色の髪をした愛らしい淑女へと。

そして相手より向けられた丁寧な名乗りには、──流石に瞠目。

「 ぅわ。 めちゃ大手じゃん。」

思わず忌憚ない反応が声に出てしまった。
王都で──否。周辺地域で商売をするものなら誰だって知るだろう。
マグメールだけではなく、周辺都市にも支店を持つ、一流商会なのだから。
そう思えば、少女の背後にも後光が射して見えようというものだ。

「俺は、ニュアっていう───… 薬師だよ。
 動物とか、植物原料の生薬を取り扱ってる。お話なんて、そりゃあもちろん───喜んで。」

名乗りには普段添えない笑顔すら、にこやかに添えられて告げられた。
涼しく薄いくちびるの口角を閃かせ。胸元に片手をあてて、慇懃に。
 
「トゥルネソルの名を出されて、断る商人なんていると思う?」

まずいないよね、と──貼ったばかりの貼り紙を、ぴりっと小気味好く剥がして、
名刺代わりに目の前の彼女に捧げようか。

リス > 「偶然―――縁というのは、不思議なもの、ですね。」

 たった今貼った、という言葉に、肩を竦める様子に、くつくつ、と喉の奥で軽く笑って見せる。
 偶然で、良い縁というのは、捨てがたいものと思う。
 この思想は、確か目の前の方―――か定かではないが、東洋のモノ、だっただろうか。

「皆様のご愛顧のお陰ですわ。」

 それに、リスは、支店長、本店の店長は、未だ元気な父親なのだ。
 まだまだ、七光りなのです、と少しはにかんで言葉を放つ。
 ほんのり頬が、染まってしまう物で。

「丁寧なごあいさつ、痛み入りますわ。
 あと(わたくし)は貴族ではないので、気楽にお願いしますわ?
 商売に置いて立場は対等なのですから。」

 彼女の丁寧な、真心籠った例に、有難う御座います、と此方も、礼をしっかりと返す。
 それでも、此処からは、商売の話になる。
 だから、お互い対等に、と。

「いいえ、ちゃんといらっしゃいますわ。
 トゥルネソルと言えど、ね。
 お金を目的にしていない人、自分の信念がしっかりしている人。
 それは、それで仕方のないこと、という事なのですから。
 なので、私との商談、不満があれば、幾らでもお伝えいただきたく思いますわ。」

 彼女の言葉に、楽しげに笑う。
 一定数居るのだ、ただ、それは商売の上で、相手の利益と、此方の利益の折り合いがつかない事もある。
 彼らの信念により、付き合えないという事もある。
 だからこそ、商売は難しいものですわ、と少女は目を伏せる。
 そう言いながらでも、少女は彼女が差し出してくれた張り紙を、有難う御座います、と受け止める。

 とは言え、それのままに居る積りもなく。
 それでは、とこちらへどうぞ、と自分が誘ったので、とニュアを案内する様に、先に歩き始める。
 比較的静かな席、ボックス席へと彼女を案内して、メニューを開く。

「ミルクティと……ニュア様は?
 私が、お誘いしましたので、此方は全て、持ちますから。」

 ご飯食べます?私、お腹減っちゃってますの、と。
 彼女に茶目っ気たっぷりに、ぱちりとウインク。

ニュア > 「本当にね。幾ら釣り針を垂らして高価な餌を引っ掛けても釣れないときはもう全く!
 今日はパンの包装紙と安いインクでトゥルネソルが掛かるんだから───…っと、失礼。」

思わぬ大物が掛かったからか、唇は些か饒舌に動き──過ぎたのでおっといけないとばかりに途中で自重。
幾ら慇懃に口上を告げようと、もとより口の宜しい方では無い。故に──気楽に、と言われれば言葉はすんなりと砕けた。
その語りは口笛でも鳴らしそうな軽やかさを孕む。

「イイ仕事してるよね。出店先への媚び方が絶妙に巧いなァって。…あ。コレ悪い意味じゃあなくて──俺は好きって話。」

支店毎に、誂えられた舌を巻く品揃え。
商会の色で雁字搦めになるでもなく、時に都市の醸す悪徳にも染まり。
そのラインナップは柔軟で時風を読み。──それでいて、気風も感じられ。
つまりは見事だと思っている。ぶっちゃけ、自分が店を構えるなら同じ街に居て欲しくない。
つらりとそんな讃辞を唇に滑らせれば、促される儘にボックス席へ。彼女の対面へと座すだろう。
少女の、何とも少女らしいウィンクに返すだろうは

「ン? じゃあ遠慮無く。 ───林檎酒とー…、揚げシュリンプにベイクドポテトのバスケット、あとは黒パンでも貰おうかな。」

遠慮無く、と言われたなら遠慮はしない。自ずから店員へと片手あげ呼び寄せて、つらつらと注文を連ね。
「ソッチは?」と小頚傾ぎ愛想良く問うも。──他人の金である。

リス > 「釣り……あぁ、確かにそれに似たような感じ、有りますわね。
 どんなに準備などをしても、釣り針に掛からないという事もありますし、それを待つ為の気長い視点や気構え必要ですわね。
 あらあら、(わたくし)リーズナブル。
 お得感満載ですわね?」

 元々は、海運業、父親も釣りなども沢山していたので、少女もまた、釣りには理解が少しある。
 なので、彼女の釣りに関する話に理解を示して、返答を。
 釣り針である少女の目を引いたあの張り紙は、パンの包紙だったらしい。
 紙の質感ではなく、内容に引き寄せられたのだから、餌が優秀だったのだ、と。
 彼女の失礼には、冗談を返して見せる。ちろ、と、紅い舌を出して、もう一度、笑って見せる。

「必要とされるものは、それこそ、場所によって違いますから、ね。
 ふふ、有難う御座います。
 その中に、ニュア様のお薬も、取り扱えたら、と。」

 必要なものを、必要なだけ取り揃え、それを届ける。
 商売の基本と言う物は、そう言うモノなのだ、と思っている。
 その街、その街の、店を出すところの風土や求められる物を提供する。
 悪徳さえ、売りものなのだ、とは言え、悪徳を是としているわけでは無いし、線はしっかり引いている。
 それが、今のトゥルネソル、という事だ。

 自分の体面に座るニュアを眺めて、その注文ににっこりと微笑む。

「では、私は、白パンと、お勧めステーキと、シチューを。」

 返答代わりに注文するのは、凄くがっつりしている。
 ドラゴンだから、燃費は悪くて、たっぷり食事を摂るのである、引かれないかしら?と。

「と、さて、註文したものが、来るまでの間に、と。
 ――ニュア様のお薬、というのは、風邪薬、とか、傷薬、とかそう言った物、でしょうか?
 後、どの様な料金と、量産体制、をお聞きしたく、ね。」

 これからが本番とばかりに、静かに目の前の『彼』に目を向ける。
 此処からは、商売だし、『彼』の出来る事、やれることを聞きたい。
 善き商売のパートナーになるだろうか、静かに、それでも、しっかりと見極める積り。

ニュア > 「そうそう。お得感満載。こぉゆうのってなんて謂うんだっけ。───砂蚯蚓(サンドワーム)で、海龍(シーサペント)を釣る?」

深く思い煩うでもなく、どうでもいいことのように喩えを捏造してみせる。
目の前の少女は、華やかで、茶目っ気に満ちていた。
どうにも捻くれた気質の己にすら、──上客という色眼鏡はあるにしろ、愛らしいと思える程に。
こうやって商談相手を饒舌にさせ、懐に忍び入る才覚こそ、商家の娘たる所以なのだろう。
己のような卯建の上がらぬ一介の薬師にも、商機を見出すそんなところも。

「さすがは一流商会だなァ、て思うよ。真似する気も無いけど真似できないやつ。
 ……まっ。トゥルネソルの御眼鏡に適うモノがあればイイよね。──コッチだって握手のひとつもせずに帰る気ないけどさ。」

少女の注文内容は、少しばかり意外だった。
随分とガッツリだと思わず、一見にして草食系な可憐な貌を眺めてしまったけど
よくよく考えればその血筋は竜にまつわるものであるようだし、そんなものだろうかと思う。

───で、そう。商談だ。
料理が届く前に、或る程度進めてしまおうか。
とん、たんっ、じゃら。
腰の皮袋から、取り出す木箱と紙包の粉薬。薄紙に分包された丸薬の類。
娘の細い繊手が、商談相手の目の前にそれらを軽快に並べ。

「今はちょっと生憎、見せられるモノが少ないけど──。
 御希望とあればなんでも作るよ。
 冒険者御用達だと傷薬だとか、麻酔薬や毒消し…あとは、呪除けなんかも。
 そりゃあもう、妖精の泉のニンフみたいな玉のお肌になる美容薬だとかは、今でも富福地区のセレブな奥方に取引があるよ。
 あとは─────… ちょっとイケナイ薬もね。」

ただ。 と──言葉を切る。
肘をつき、両手を軽く組み合わせ。片眉を軽く跳ね上げて。

「悪いけど、量産はできないかな。あと、金額もぶっちゃけ安くはないよ。
 ちょっと原料の一部が“特殊”でさ。だから、───…」

娘は、双眸を細めた。相手の反応を窺うように。
それはきっと、一介の薬師の提案にしては図々しい願いであろうこと。

「トゥルネソルには、思いきり客にふっかけて、希少価値をウリに売って欲しいかなって」

リス > 「ふふ、うちの子達、そんなもの食べないって、言いそ………物珍しさから、食べるかも。
 今度食べた子が居たら、味を聞いてみましょう。」

 『彼』の喩え、否定しようとして、一瞬止まる。竜は肉食だし、物珍しいものを食べる事は嫌いではない。
 そもそも、母親だって、海竜(リヴァイアサン)なのだ、性的に父親を食べてるし、ゲテモノと思っても食べるかも、と。
 なので――、面白い事の情報は共有しましょう、必要あります?なんて、首をことんと傾げて問いかける。
 『彼』の実力は、まだわからない、少女は商人であり、薬師ではないから。
 だからこそ、まずは会話し、その薬を見て、調べて、と。
 その為の交渉は、にこやかであれども全力で、行くつもりだ。

「真似してくださっても、良いのですわ?
 だって、普通(スタンダート)になれば、私共が原点と名を上げる事が出来ますし。
 同じようなお店が多くなれば、強力だって、しやすくなれますもの。

 それは、薬品をみてから、ですわ。」

 まつわる、というか、母親が竜なので人竜―――二代目だ、がっつりドラゴン成分満載。
 それに、噂を知るなら、リスという娘が多情だということだって、知っていても可笑しくはない。
 ちゃんと、オンオフは、心得ている。

「――成程。」

 木箱が取り出されて、その中にある様々な包装用紙に、丸薬。
 くん、と鼻を引くつかせて、薬品の匂いをかぎ取って。
 手慣れた手つきでテーブルの上に広げられていく薬品を、少女の空色の竜眼がじ、と見つめる。
 竜の目で見ても、それは、真実、本物、というべきものだ。
 こう、闇医者が副作用を強くし過ぎて作ったような物でもなく、偽薬と言う物でもない。
 一流の薬師による、本当と、言って良い、最高級の薬なのだ、という事が判る。
 ただ、リスは、薬品の知識がないから、本物かどうか、それまでしか判らない。
 細かな薬効は、『彼』に聞くしかないのだ。
 若しくは、薬学をしている娘、か。

「丸薬系の傷薬は、冒険者に、需要はありそうですわね。
 ポーションと違って、瓶に入れなくていいから零さないですし。

 ―――風邪薬、とかそう言った薬にしても、丸薬は手軽で良いですわ。

 美容は、確かにそうですわね。
 イケナイ薬は―――、ふふ。」

 お値段交渉の方面にも、静かに聞いて。
 量産が出来ないという所も、成程、成程、と。

「そうなりますと。
 そうですわね―――、(わたくし)としては、風邪薬等、一般の方に使える薬があればいいなとは思いました。
 量産が難しいとなると、それは見込めませんわね。
 とは言え、このような、素晴らしいお薬があるというのなら。」

 『彼』の言葉を聞きながら、ふむ、と。

「ええ、高級品として。
 ニュア様のお名前を乗せた上で、特別販売棚作り、其処に薬を置く、ですわね。
 こちらに納品を頂き、一定期間ごとに、売り上げをニュア様にお渡し。
 薬売値は、ニュア様の希望の通りに、ニュア様のご希望の金額に、トゥルネソルの利益を少し足して。
 それで如何でしょう?」

 そうするならば、彼は売り歩くだけではなく、商会で売れた分の利益を回収に来る。
 それがウインウインではないだろうか、と。
 トゥルネソルは。基本は安く抑える。使って貰うために、買ってもらうための方策。
 しかし『彼』のような特殊な薬品で、量産が聞かないなら、高く売る事もする。
 そもそも、適正な価格を付けて、必要以上に値引かない、それがトゥルネソルだ。
 時折、顧客獲得のために、安売りはするが、それは日常では無いし、今回の契約は、それの対象外とする。
 まずは、その位だろう、と。

ニュア > 何の気なしに放った言葉にまさか。少女からこんなにもウイットに富んだ切り返しがくるとは予想外だった。
思わずまた、丸まった双眸は。数度瞬いて──ふ、は。破顔する。

「あは。 成る程ね。身内ってヤツ! 聞いたら教えてよ。そんなの気になりすぎるから。」

そも、竜の生態に己は明るくない。書物や一般的な冒険知識の範疇でしか、彼女らを知り得ないのだ。
目の前の少女とて竜の特徴を色濃く持っているけども、果たして何を好むのか。
その華奢な愛らしさに反して肉々しいステーキがお好みだということを、今さっき知った程度であり。

「真似なんてする気もないよ。細く長く商売するのが性に合ってるし、店は持つ気ないし。」

軽く肩を竦めた。其処に関してはにべもない。
定住し、馴れ合いを厭うから、──売り歩きが丁度好い。
勿論、商談に斯様な私情は不要。故にさらりと流すに留め。

「御要望なら、“普通”の安価なやつも卸してもいいよ。
 ただ、薄利多売は趣味じゃないんだよね。 ───…ニュアの薬は、とても効くから。」

確かに、“まぜもの”をしないのなら、幾らだって作れる。
でも、それでは「価値」が無い。高価であるが故の「価値」を付加するのだと。
問題は───相手が其処を見極められるか、なのだけど。
少女の、商談相手としては稚くも見える容貌を見遣って待つ。
この大商談が御破算なら──…うーん、そのまま旅立つかなァ、なんて思いなから。

そして。少女は提案をしてきた。
こっちが願ってもない素晴らしい売り方を。
娘の少年容貌が、───心得たとばかりに口元を閃かせ。

「最高!」

ニヤリと笑い、頷いた。頷いて──…ふと。考える。

「──…そう。ただ、トゥルネソルに薬を試してもいただけてない内に商談成立、はそれもね?
品質も疑わしい怪しげな薬に特別棚なんてのはコッチも不本意なんだよね。
 だから、これ預けるよ。リスが使ってみてくれればいい。で、お気に召していただけたなら──…総ては大顧客様の仰せの儘に。」

先程少女が見せた愛らしいウィンクには遠く及ばないけども。
軽薄で涼やかく少しばかりの愛嬌を含めたウィンクを、彼女に捧げよう。
検分に使用した薬を、相手へと押し遣りながら。

リス > 「お任せあれ。」

 『彼』の破顔は、とてもかわいらしい。男性でも、女性でも、好みに思える、清々しい笑い方。
 その前の、きょとんとした表情もまた、とても、可愛らしいわ、と思いつつ言わないのは―――どちらか判らないから。
 『彼』がどちらなのか、そして、自分の容姿をどう思うか、それが知り得ない間には、言うのは控えておこうと思う。
 だから、『彼』の興味に答えるという約束にとどめるのだった。

「あら残念、お仲間増えると思いましたのに。」

 『彼』の返答に、気を悪くした様子もない、『彼』のスタンスに対して、リス自身が言うべきことは無いのだ。
 『彼』に踏み込み過ぎない、軽い雑談程度の会話でしかない、という事だ。

「いえいえ、ニュア様のこだわりを否定するつもりはありませんわ。
 無理にお願いしたものを、常時置けるわけではありません、お互いの信頼、信用に悖りますから。
 正しいものを、正しい価値で、それが、商売と言う物でしょう?」

 ね?と、同意を求める様に、にっこり。
 その辺りは、少し考えが違うのだろう、量産も価値なのだと。
 一人でも多くにわたるという価値、詰まり、安くても買える人が増えれば、それが利益になる、と。
 ただ、それを押し付ける積りも無いし『彼』とは対等なのだから、『彼』の意を曲げてまでお願いする物ではない。
 それなら、別を探すだけの話なのだ。

「わぁ。やめてくださいまし。
 そんな、良い顔ですと、悪い所だしちゃいますから。

 と―――それは其れとして。
 このお薬は、何の?」

『彼』の言う通りだ、薬なのだから、確り効果のあるものではないといけない。
 売りに出すものを知らないは、通らない。
 なので、まず渡された薬に、視線を向ける。
 何の薬なのか、と、使うにしろ―――知らなければならない。

 因みに、悪い所というのは―――、口説いてしまいそう、とそれほどに、魅力的だった。
 『彼』が男だったとしても、口説くぐらいに魅惑的だったのだ、と。

「後、私からは、これを。」

 と、代わりに差し出すのは紅い竜の鱗。

(わたくし)の鱗ですわ。これを見せれば、店でも、私の家でも、取り次いでもらえますから。
 ちゃんと約束をした証、呼び出してもらうとか、商談をするにしても、ね?」

 門前払いは、ないからね、と、『彼』の白い手に、そっと包み込ませよう。

「お薬の材料には、しないで、下さいね?
 材料としてほしい時は、相談には乗りますけど、ね?」

 竜の鱗、竜の血、それは、『彼』も知っている筈だ、薬にすると、とてもいい素材だから。
 その辺りも、こそっと、教えておこう。

ニュア > 切り返しが早く、引き際を心得る柔軟さがあり──冗句を添える含蓄がある。
そう、あくまで商談相手としてではあるけれども。───娘は多分、相手の事が結構好きだ。
だからこそ。

「正直に言うとさぁ、…商談以外で披露する愛想、残ってないんだよね。」

店なんて無理無理、と片手をひらひら揺らしつに、本音ともつかぬ軽口を交える。
絶望的に商人には向かない、と自分は思う。
こんなにも軽妙に、円滑に。見知らぬ相手の気分を害さずに商談を進めるのは己には到底無理だ。
況してや、こんなに融通の利かない薬師の戯言に、付き合うだなんて。

「ありがと。 思ったとおり──トゥルネソルは悪くない。」

そして、此方の言い分を承諾する笑顔に、ああ、間違いなく遣り手だ、と敬服する。
きっと、だからこそ垣間見えた娘の破顔であり、笑いであったろう。
眸を薄く細めて睫毛を霞ませ。賭けか企みかが成功したかの如き。
尤も、此方の言い分を通させるだけで終えるなんてことはしない。
天下の大商会に薬の価値を認められた時にこそ、──喝采するべき瞬間であろうから。

なので、相手の言う「悪い所」に若干疑問符が飛んだけど、
…まあいいや。今は割愛。
 
「色々あるよ。丸薬が痛み止め。この大きいのはー…魔術効果を補って安定させる。
 コッチの粉薬は… 体内浄化。解毒薬と思ってもらっていいかも。
 で、………ぁあ、 コレ。“イケナイ”薬。」

それだけ回収するのもアレなので、それも込みで気が向いたら使ってよ、と其の儘渡す。
そろそろ食事も届くだろうかと、一通りを終えた気持ちでいたら、──。

「ぇ。 ウワ。 ──────……え ッ!?!?」

“それ”が何かなんて一瞬で解った。この娘にしては随分と──テンション振り切れた、驚愕。
生薬材料としても特級品。竜鱗だ。受け取って、ウワア。ウワァァァ、と子供のように喚いて喜んで、
卓に置かれた獣脂灯る皿の光に翳し、疵ひとつ無い品質を見る。
自力で手に入れたことなんて、大枚叩いて傷だらけでボロボロの、砂粒くらいの剥離片くらいであるのだから。
それが───“通行証”であると、聞いたうえで。
控え目な、懇願の上目が少女へと向くのである。ソワソワと、頬の紅潮すら宿らせて…未練がましく。

「ぇ。 あの。 ちょっと、端っこだけ削ったりしても………… ダメ?」

リス > 「ふふ、それも、ニュア様という事なのでしょう。
 そして、その手伝いをするのが、私達、商人、なのですわ?」

 『彼』は、薬師だ、商売を本業ではなく、薬を作るほうが優先なのだろう、つまりは、職人なのだと認識する。
 そして、職人は、その腕を磨くためのこだわりや思い、誇りがあり、それゆえに、愛想等は二の次になると理解している。
 リスの知っているドワーフの鍛冶師にも、そう言ったのが多い、悪い事ではないと思う、ただ、商売するには、と。
 それでも良いという相手が見つかるなら……、其処を仲介するのが、リスのような、商人、だ。
 だから、お任せあれ、と胸を叩けばぽよりと揺れる。胸板ではないので締まらなかった。

「じゃあ、もう一度以上、☆最☆高☆の高評価を頂き続けられるよう、精進いたしますわ。」

 先程の、提案に対する返答を、もう一度持ち出して、ふふふ、とにやりん、と口角上げて悪い笑み。
 こう、妖しい会合を思わせるような、二人の笑いをして見せよう。
 お主も悪よのぅ、いえいえ御代官様こそ、的なそんな雰囲気。

「判りましたわ、それでは、失礼しますわ?
 これだけは―――余り気乗りは致しませんが。」

 痛いのは嫌だ、でも、傷薬は自分で使わなければ分からない。
 自分の手、自分の爪をじ、と見つめる。シャキンと、伸びる爪。
 本当に気乗りはしないけれど、腕の辺りに爪を立てる、そして、一息に。
 目に涙をためて、歯を食いしばり。己の鱗も、己の爪ならば、だから、傷をつけて。
 痛いと涙をこぼしながら、傷薬を。安定剤も一緒に。
 そして、水で飲んで干してから、少し見やる。
 人よりは回復力は強いけれども、その所為もあり、更に、早く、傷が治っていく。
 うん、うん、と自分の体内に入っての効果を、自分で理解していく、分析していく。

「体内浄化は―――、ええ、後で、魔法などで、鑑定しますわ、流石に毒を飲んで、は難しいですし。

 イケナイ薬は……後で使いますわ。」

 渡されて、悩んで、それでも使い道は沢山あるので、イケナイ薬はそのまま懐へ。
 それよりも。
 『彼』のテンションの上がりっぷりに、あらまぁ、と。
 判ってはいたものの『彼』の質問に対して。

「私の信頼を、トゥルネソルとの、商売のチャンスを、削るのです……か?」

 ぷぅ、と頬を膨らませて『彼』を見やる。
 睨んでいるのだけども、小動物並みに迫力がない、竜でこんなに迫力や圧迫感無いのはある意味才能か。
 子犬の方が未だ、とも言えるレベルだった。

「落ち着いてくださいまし、材料としてほしいなら、相談に乗りますわ、とお話しましたわ?
 それを削るのではなく、まずは、相談―――若しくは、商談、如何でしょう?」

 大きな商談はこれで終わり。
 食事をしながら、此方は如何でしょうか、と再度提案を。

ニュア > 「うん。まぁそゆこと。」

薬師は薬師、商人は商人。
顧客ではあるが要は金蔓。煩わしさを甘んじてまで相容れる必要も感じなかったけども。
少しくらいはその認識を改めてもいいのかも、と思わせる度量が相手にはあった。
胸を叩いた時に、ぽよんと弾み揺れる福与かさだとか。
明晰さに漂う御嬢様らしい暢気さだとか。
何処となく締まらないところもなんかお仕着せが無くて好ましくさえ思え。

「それには、コッチも“最高”を貰わなきゃあねー。あげてばかりじゃ癪だし。」

そう。此方の本領は薬の効果の程だ。
それを見て貰わぬことには──…とは言ったけど。
突如としてシャキンと伸びた爪が、自身の腕を傷付けだした時には、「マジか…」なんて
真顔のツッコミが及んだ。
まさか此の場で涙すら零しながらに即実践で試すとは思わなかったから。
思わずにまじまじとそのアグレッシブな光景を眺めた後に───… ぷ、はっ。また笑う。

「別に今じゃなくてよかったのに…。そっか、竜にも効くんだなニュアの薬…。」

凄いなーなんてしみじみと頷いていたら。
──…ふわんと漂うは料理の香り。
届いた熱々の品々がテーブルに並べられ、その超貴重品な竜鱗は懐に大事に仕舞われる。
ぷぅと林檎色の頬をまぁるくさせる、竜の威厳の欠片も無く御立腹のお嬢様を宥めつに、ちゃかりと。

「うそうそ!削らないってば! 商売には信頼第一、リスと俺の信頼の証、でしょ?」

ね?? すかさず、シュリンプの尻尾をひょいと摘まみ。
少女の膨れ窄んだ少女の可愛いくちびるに、むにゅ、と分け与えよう。
そして与えられる次なる商談の誘いは───… これまた、願ってもないもので。
娘は、蝦の尾を掴んだ指先を、赤く薄い舌で舐め拭ってから、にんまりとまた笑みを刷き。

「そういうことなら喜んで。
 じゃあ、──先ずはこの素晴らしい出逢いに乾杯でも?」

そんな言葉を告げるだろう。出逢いに乾杯。此の他人を厭う娘が、言う文句じゃない。
ひょっとしたら初めてやも。だって、金貨と竜燐が、じゃらじゃらしゃらしゃら鳴るを想起する機会なんて──もう二度と無いかもだし。

有意義な商談は、斯くして再開となる。
高らかに打ち鳴らされるは林檎酒とミルクティ。胸躍り、更なる“最高”の上乗せを願って幕引き迄はまだ暫く───。

リス > 「ふふ、『本物』という事は、判ってますから。ね。」

 其処は間違いはない、最高の効果は、間違いは無いのだろう、『彼』の傷薬、で、今付けた傷はもうない。
 涙目ながらに、噴き出す『彼』に、口角上げて、大丈夫ですモーンと、傷の無くなった腕を見せつける。
 効果は、ちゃんとあったようだ、安心して使う事は出来る。

「あと、これは、お薬の代金、ですわ。」

 先程、聞いていた代金、安くはないというのなら、材料の値段もある。
 作るには金が必要で、彼は依頼を出していたという事を考えれば、お金はあって困る事はないだろう。
 適正なお値段、ちゃんと渡して置こう。
 革袋を、押し付けて。

「あむ、あむあむ。」

 口に入ったシュリンプは、ピンク色の唇がパクリ、と器用に挟んで、口の中に、もっもっもっと吸い込まれる。
 ぷしゅー。と膨らんだ頬は戻っていくのだ。
 ちゃんと、商談する積りは有るのだし。

「それでは、ニュア様との出会いに、乾杯。」

 林檎酒(シードル)も、紅茶も、流石にグラスを当てる事は出来ないが、持ち上げて。
 楽しく食事を行った後。

 竜燐の取り扱いなどについて、商談を行うだろう。
 その結果は―――『彼』の、帰り際のテンションで、判るのだろう。
 ただ、この出会いは、悪いものではない筈だ。

 家路に戻りつつ、リスは、そう信じていた―――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 冒険者ギルド」からニュアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 冒険者ギルド」からリスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区:奴隷市場」にオウルさんが現れました。
オウル > 「……見回りかー……。」

ここは平民地区にある奴隷市場。
貧民地区よりもマシで、富裕地区よりもマシな場所である。
前者は治安なんてあったものではないし、後者は目をつけられたら最悪の結果になるし、と、それらと比べて此処はマシなのだ。

今も冒険者ギルドの仲介の仕事で奴隷市場の見回り中。
夜気交じりの冷たい空気に白い吐息を吐きながら、両手をこすり合わせて僅かでも暖を取り、取り合えず依頼通りに『間違って奴隷市場に入り込んでしまった一般人』や『逃げ出そうとする奴隷』あるいは『何かやらかしそうな人物』が居たらその場で捕まえるか、同様の依頼を受けている仲間に報告するかするだけの簡単なお仕事だ。

「見回りだよなー……。」

冒険者ギルド以外の『ギルド』の依頼で少しお高めの奴隷の身支度を整える仕事も経験があることから、誰かが売られて、誰かが買われる、その光景に嫌悪することはないが、あまり面白いものではなく、さっさと交代要員が来ないかなーと、思いながらも奴隷市場の通りを辺りに気を配りながら歩いているのだが……。
愚痴は2回目。

ご案内:「王都マグメール 平民地区:奴隷市場」にジャックさんが現れました。
ジャック >  
奴隷市場を歩きながらちょうどいい奴隷を探す。
健康な奴隷はあまり興味がない。
不健康な奴隷が良い。
珍しい病気や呪い持ちだとなおいい。
奴隷としての能力には興味がなく、「患者」として優秀かどうかが大事なのだ。
この間まで飼っていた「患者」が完治したのでそれを売りに来た帰り、次の患者をどれにしようかと物色している。

「今日は健康な奴隷ばかりだな」

しかし今日はどうも当たりが少ない。
まぁ平民地区の奴隷市場ならこんなものだろう。
貧民地区ならもっといい患者が多いのだけれど。
並べられた奴隷を眺めながら歩き、警護をしている少年とすれ違って、

「――うん、ちょっと君」

呼び止める。
彼が振り返れば、至近距離にこちらの顔があるだろう。
前髪が触れ合う様な距離で、包帯越しの彼の左目をじい、と覗き込む様に。

オウル > 油断、していなかったと言えば嘘になる。
なにせ奴隷の逃亡も迷子も良くある出来事などではなく、見回りを行っているのはあくまでも形だけであり、本当に厄介ごとが頻繁に起こるなら、自分のような初心者と中級者を行き来するような冒険者ではなく、事情に詳しい荒事が得意な冒険者が派遣されているはず――…という油断があって、不意に話しかけられる何て思ってもおらず、声を掛けられてからの反応が鈍いうえに……。

「……うっわっ!?」

と、声をかけられた事への無意識の反応で振り向いた結果、反省点と汚点とする程の情けない声をあげるハメになる程に至近距離に知らぬ顔があった……あったというか居たが正しいか。

夜風が吹けば、吹かずとも、前髪同士が触れ合うような至近距離と吐息が混じり合いそうな、そんな距離に知らぬ顔があれば驚いて当然だろう、当然なのだ。

――…それも左目を覗き込むような視線、好ましくない眼差し、何者だと警戒心が遅まき湧いてくるが、一先ず。

「っとーはい?何の御用でしょうか?
 あっ迷子ですか?迷子なら外までご案内しますが?
 それともお店をお探しで?あるいは……よもや個人的に御用で?」

温和に人懐っこく年相応のそれを前面に。
『ギルド』で培ったあくまでも表で上手に活きるための笑顔を満面に浮かべてから、それっぽく小首をかしげて見せる。
それから振り返るだけではなく、声をかけてきた見ず知らずの誰かと仕事絡みの話かもしれないと、ちゃんと向き合うように身体の向きを変えるのだった。

ジャック >  
「ふむ、ふむ」

問いにはすぐに答えず、正面から横――彼から見て左側へと回る。
距離は離さず、視線はやはり彼の左目。
そのまま後ろを回って右側へ回り、今度は右目を観察。

「いや、君、面白い症状を飼っているな、と思ってね」

顔から視線を外し、今度は首、そのまま肩、腕と下って右手へと視線が移動。
しゃがみ込み、その右手首を凝視。
やはり右手に前髪が触れるような至近距離だ。

「左目に飼っているのかと思ったが。首と手首――ふむ、足もか? この感じならもうあと一ヵ所ぐらいはありそうだね。妥当なところでは下腹部、いや胸かな? なんにせよ胴体のどこかには違いあるまい」

じろじろと相手の都合もお構いなしに彼の全身を看る。
触れることこそしないが、眼鏡越しに目をかっぴらいたまま、においも嗅いでいるのではないか、と言うぐらい近い。
ぶつぶつ独り言をつぶやきつつ、ぐるぐる、ぐるぐると彼の周囲を何周も。

オウル > ……お、おう?

眼帯を切り替え中で現在包帯で代用して隠している左眼。
右眼と変わらず今は蒼いが爬虫類を想像させる瞳孔をしている眼、同時に身体を蝕み続ける呪いの源の一つ、そこを指摘するような言葉に正直呆気にとられた。

確かに今まで左目を探ろうとする者は腐るほどいた。
見せてくれ!とか呪具にするからクレ!とか理由は諸々。
だが、今宵奴隷市場で遭遇した見知らぬ誰かはそれ以上。
何かぶつぶつ言っている言葉を聞く限り、興味深々という奴なのだろう、行き成り何だ見物料取るよ?と言いたく成った。

包帯も一応ただの布切れではなく、呪いの放出を幾分か抑える特注品だから、パっと見ただけでは呪力を感じる事は出来ない事になっているが、こう自分の周囲をグルグルとジロジロとされてしまうと、そんな呪いよりも羞恥が先にあふれそうになる。

眼鏡越しの知的好奇心あふれると思しき眼差し。
手や指で触れないだけで視線で触れてきていると錯覚しそう、そんな距離で動き続ける相手に――…正直どうしていいか判らない。

「……症状、症状ねぇ……。」

精一杯返せてコレだけだった。
人懐っこい温和ともいえる笑顔はスンッと真顔に。
何もできないのでなされるがまま、見られるがまま。
脳天に手刀を落としたくなる衝動と羞恥を抑えこみながら、開けられぬ埒を抉じ開けるために言葉を続ける。

「失礼、いや失礼なのはアンタの方だと思うが、それは今はおいておくとして、何か御用ですかー……えー……ドクター?好奇心は時に猫を殺すといいますけども、人の視線がある場所で、そんな視線を向けられると猫ではなく俺が死んでしまいますが。」

よし、言えた。
一息でパパパッと思っている事を口にすると、そこで初めて一歩だけ後ずさりをして少々相手との距離をあける。
睨みつけはしないがジィーっと相手を観察するような眼差しを包帯したの左目と裸眼の右目で向けるのだった。

医者、見た目でそうだろうと思って適当にそう判断した。
服装、女性的な服装であるが、女性と言い切るには左目に宿る呪力が雑音に近しい、そうと言い切れないとざわめく。

しかしその医師の言葉は的確。
呪いが発露しやすい箇所をあててきやがる。

ジャック >  
「おっと、それもそうだね、これは失礼」

好奇心のままに観察していたら距離を取られた。
腰を曲げていた姿勢を戻し――ついでにデカい胸がゆさりと揺れる――、今度は適切な距離を保つ。
両手を白衣のポケットに突っ込み、片手を抜いて煙草を取り出す。
口に咥え、指先から灯した火――魔法とかではなく、指の先がそのままシームレスに火へと形を変えている――で着火。

「貧民街で医者をやっているジャックと言う者だ。さっきも言った通り、君が飼っている症状がなかなか面白くてね、つい看てしまった」

指を振れば指先の火は元に戻る。
煙草を咥えたまま煙を吸い込み、その指で挟んで煙を吐き出す。

「君のような症状を抱えた奴隷を探しに来たんだけどね。今日はそう言うのが出ていないと思っていたら、君を見つけて嬉しくなってしまって」

貧民地区ならば健康状態が劣悪な奴隷もいるだろう。
富裕地区ならば珍しい呪い持ちの奴隷は高く売れる。
しかし平民地区はそうはいかない。
三つの地区の中では一番マシと言うか、至って健全な奴隷市場だろう。
煙草の煙をもう一度吸い込み、

「用事は何かと言えば、君の飼っている症例を診せて欲しいと言うことになるのかな。事と次第によっては継続して診察させて貰いたい。無論タダでなんてケチなことは言わないよ。報酬も出すし君が望むなら大抵のことは力になろう。その症状を治したいのならば、うん、すぐに治るかどうかは診てみないとわからないが努力はしよう。どうだろう?」

長いセリフをほぼ一息で。
その後に、さっき吸い込んだ煙を吐き出した。
煙を吸って、それを少しも漏らさず喋った後に、である。

オウル > 普段なら十中八九か99%か間違いなく重々しく揺れる其処に異形と人の両方の視線が吸い寄せられるのだが、今はそれどころではない、何せ相手の行動が読めない――…左眼を含む身体を蝕み続けている呪力に興味があるのは判るのだが。

白衣のポケットから煙草を抜く仕草が妙に艶っぽいが、その感想を口にせずに、その指先に火が灯る様子が既知の魔法とは違った気がしたが、それも指摘しない、気にはなるが。

で、――名前を名乗られた、ジャック、記憶にはない。
こんな事態でもこんな状況でも名乗られたなら名乗り返そうか、さてとどっちの名前で。

「ジャック先生でいいかい?俺は……オウルでいいよ。」

脱兎のオウルと二つ名は隠しておく。
バレたところで何かあるわけではないが、警戒しない理由も今のところはなく、シンプルに名前だけを名乗った後に、人懐っこいモノも愛嬌の欠片もない、へらっと軽薄そうな笑みを浮かべ。

「で、此奴に興味を持っていただけるのは大変光栄だけど。
 コイツは勝手にこいつが馴染んでるだけで、好きで飼ってるわけでもないし、何なら診て面白いもんでもねぇですし?」

と、ひとつ警告ではないが、好奇心で触れていい可愛げのあるものではないとだけ、軽薄そうな笑みを消さぬまま、寒さで白い吐息を交えながら言葉を返して、両肩を軽くすくめて見せる。

やはりジャックの相手の意図が読めない。
いや素直に聞くのであれば――…うーん……。
善意とか悪意とか抜きにして本当に好奇心なのだろう。
診察、結果としての治療、と中々甘い飴を並べてくれる。
加えて性的好奇心の強い呪力がノイズを走らせるのが気になるが、少なくとも美人の部類の女医とかロマンを感じずにはいられない。

と、普段なら重そうに揺れるあれと同じだけ、飛びつきたくなる好条件だが、思わず異形と人の両方の双眸を細めて、紫煙を揺らす相手に値踏みするような視線を隠しもせずに向け、足先から煙草を咥える唇までもぬらっと眺めて。
ジャックと名乗る医者が紫煙を吐くように。
外気と熱で白く立ち上る煙のような息を吐きだした。

「答えはイエスともノーとも言い辛い。
 診察は構わないし、報酬が出るなら断る理由もない。
 治療にも意思を向けてもらえるのは悪くない。
 けど、何だ……好条件過ぎて、頷き難い。」

正直な言葉を並べるだけ相手に好意に似たものはあるのだ。
だが、見るからに見目麗しき白衣姿の美人であるのに、どうしても左眼はノイズを感じる――…純粋な女性ではなく、また別種の性の持ち主なのだろうか、と考えれば呪力に関してはジャックと名乗る医者と関わる事でメリットはあるが、と飛びつくに飛びつけない。

何事も性欲で動くだけのアレのつもりはないが、如何せん呪力がそちらの方にも疼きがするので、判断も踏ん切りもつかないのが正直なところで。

ジャック >  
「ふむ、まぁそうだろうね」

確かにあちらに有利過ぎる。
普通の人間ならば、警戒して当然だろう。
むしろ普通程度の人間では警戒もしないかもしれない。

「こちらとしては診せてもらえるだけで先ほどの条件と釣り合うほどのメリットなのだよ。私は種族としては半サキュバスなのだが、それはそれとして色々と取り込んでいてね。まだ得ていないモノはとりあえず集めたいと言うのが一つだ」

左手をポケットから取り出す。
その爪が長く伸びたり、手首から先が触手になったり、元に戻ったかと思えば指の数が倍に増えたり、表面が柔軟さを保ったままの岩になったり。

「そして何かしらの症状に苦しんでいる者がいるのなら、それを何とかする手伝いをしたいと言うのも一つ。なんせこの通り医者なものでね」

元に戻した左手で白衣を持ち上げてみせて。
モグリではあるが医者なのだから、患者が望むのならば治療をしたいと思うのは当然だ、と。

「あとはまぁ、好奇心だよ。未知の症例を解析したいと言う、まぁ趣味みたいなものだ。他に聞きたいことはあるかな? それで君が身体を預けてくれると言うのなら安いものだ、なんでも答えよう」

両手を広げて見せ、なんでも聞きたまえと言うように肩をすくめる。
その動きでばるんと揺れる。

オウル > 更に正直に言えばジャックという女医に対して好奇心すらそそられ始めている――…例えばあまりに柔軟すぎる手品か何かにすら思えるその指先や手なんて、一体どうなっているんだ?と年齢相応の好奇心にあふれる眼差しすら向けかける。

――うん、ばるんっと揺れるふくらみにすらも…だ。
何と魅惑の仕草だろうか、飛び込んでしまいたくなる衝動を堪えながら、三度へらりと軽薄な笑みを口元へと浮かべる。
聞きたいこと、聞きたいこと、色々とあるが。

「聞きたい事が有り過ぎて、有り過ぎて……と。
 残念だけど時間切れかな?見回り交代の時間らしい。
 じゃあ後でとも言いたけど、冒険者ギルドに報告があるから……。」

――時間切れ。
気が付けば見回りの時間は過ぎていて、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえると、両手を広げて肩をすくめるジャックとは違った意味で両肩を竦めると、それからちゃんと頭を下げる。

「また何れ、次に会えたら、沢山質問をさせて頂くよ。
 答え如何に寄っては、そうさねー……診察くらいなら?」

少々冗談めかした言い方をして、ジャックに背を向けると小走りで名前を呼ぶ交代要員の冒険者の方へかけていく。
もう少し話をしてみたかったと思うと共に、次また会えた時にでも話せばいいかと、そう思うことにして少年は足早に立ち去るのだった。

ご案内:「王都マグメール 平民地区:奴隷市場」からオウルさんが去りました。
ジャック >  
「ふゥん、それは残念だ」

時間切れだと答える彼に肩をすくめてみせる。
残念だが仕事中の彼を捕まえていたのだ、無理に引き留めることはしない。

「興味があるなら貧民街の霧崎医院と言う診療所に来たまえ。いる時ならば大抵いるよ」

走っていく彼の背中にそう声をかけ、見送る。
さて、果たして彼は来てくれるだろうか、とその背中を嬉しそうに眺め、見えなくなったら歩き出す。

「――おっといい奴隷がいるじゃないか。済まないがこの奴隷が欲しいんだが――」

帰ろうとした時にちょうどいい奴隷を見付けた。
そのまま店主に値段交渉を始めて――

ご案内:「王都マグメール 平民地区:奴隷市場」からジャックさんが去りました。