2023/10/08 のログ
セリアス > そこらの成人女性顔負けな体型をしておいて、表情は幼くもある。
彼女の信仰の話なども学院でも色々と話にも上るけれど、なにより容姿の噂の方が多い。
若い世代には、彼女のこの様子が良く効くのだろうなとは思いながら。

試薬を一瓶持てば、奥に、と着いてくる彼女を応接室兼、執務室へと案内して。
奥には執務机、ローテーブルと応接ソファのあるその部屋で、彼女にソファを勧める。
自分は反対側に腰掛け、テーブルに『あたまからあったまるくん』を、置いて。

「これは、身体を温めるポーションとして持ち込まれたものです。
 名前はその研究者のつけたもので、私や店の者のセンスではないので悪しからず。
 ……まぁ、やることといってもこれを飲んで、使用感などを教えていただくだけなのですが」

説明しながら、再度念押しするのは、効能も副作用もその研究者の報告だけで、
実際にセリアス自身では確認していないこと。
もちろんどんな予測していない効能が出ても、できるだけのケアはするとも補足して。

アレンシア > 「そう書いてありました……ちゃんと覚えてます。 ……こくん」

自分の魅力に無頓着なアレンシアは真面目に頷くと薬を飲み干した。どのような効果が出るのかはアレンシアには想像もつかないことではあった。

「先生のセンスも結構酷かったですよ?」

ぢとめで先生をからかって。先ほどのジョークはアレンシア的に弄ったほうが良いやつ、という程度の出来だった模様。そうこうしているうちに薬の効果が出るはずなのだが……?

セリアス > 彼女が試薬を飲む様子を見れば、一度執務机に向かって、筆記具と紙を用意する。
難無く飲み干す様子から、味やその口当たりなどに、
飲むときの障害になりそうな問題はなさそうだと書き入れながら。

「酷くて結構です。話術師でもないんですから。
 それより、どうです? 身体は温まってきましたか?」

触れ込み通りなら、風呂上りのようにぽかぽかとしてくるはず。
昼間はまだそういうものは不要かもしれないが、夜は気温もだいぶ下がってきた。
効能次第では、これからの冷え込む季節などでは便利かもしれない。
あるいは、遺跡の内部などでも。

あとは他に妙な副作用だの、研究者が悪戯に仕込んだ効能などなければというところ。

アレンシア > 「あ……暖まってきましたね……末端まで温まってる感じ……ですね。冷え性の方とかにもお勧めできるやも?」

そう説明するアレンシア。先生にとっては珍しく、なのかもしれない普通に効果があって副作用もない良いお薬。良いお薬なので普通に褒めた後にこの季節ですから女の子に売れそうですね。と締めくくった。

「これでお金貰うのも申し訳ないのですが……」

ぽかぽか。湯上りアレンシアみたいになりながらふへり。とゆるゆるの笑みを浮かべほんのりと頬染まってるアレンシアであった。

セリアス > 彼女の告げてくる効能を聞きながら、手元の紙にそれを書き込んでいく。
どうやら妙な効果もないのか、普通に体が温まっているだけの様子。
それなら、あと数人に試してもらって同様の効果なら普通に売り出せそうとも思いながら。

「なるほど、指先まで暖かくなるなら好いですね。
 寒い季節の書類仕事などもはかどりそうです。
 身体におかしな感じなどはないですかねぇ?」

緩んだ笑みは、身体が温まって心地よくなっているからか。
頬を染めて笑う彼女に、報酬は正当な物だから、と告げながら、
暖かくなる以外の作用はないか、暑くなり過ぎないかとも問うていき。

アレンシア > 「あ、大丈夫です。 ……へんな副作用とかは無いですね。私に合っているというだけの事かもしれないので他の方にも試して頂く必要はあるでしょうけれど」

ふにふに。と指先突っついてあったかー♪と幸せそうにつぶやくアレンシア。本当に大丈夫なようである、少なくともアレンシアは大丈夫なのであろう。

セリアス > 暫くの時間を置いて、彼女の様子を見ていても、
どうやら身体が温まる他の効能はなく、副作用もいまのところはなさそう。
効果が出るまでの時間なども記録しつつ、指先に触れさせてもらったりもしつつ。

「ふむ……ん、あとは、また後日どのくらいで効果が薄れたかと、
 一応は明日も妙な作用が無かったかは気を付けておいてくださいね。
 ありがとうございます、アレンシアさん」

礼を告げれば、記録用紙を執務机の方に置いて。
そろそろ素材の査定などもできているころだろうと、
紳士然と、彼女に手を差し出しては応接室から出て店の方にと案内しようと。

アレンシア > 「こちらこそ!アルバイトの紹介有難うございました!!」

ぺこっ!っと勢い良く頭を下げたアレンシア。そろそろ銀行とか考えたほうが良いですかね?とお金を貰いながら先生に相談して。

もっとも冒険者家業、お金を奪われる=死。だったりするので深く考えなくてもいいのかなぁ。等と緩いアレンシア。そんな感じで少しお話させて頂いた後学院に帰ったのだとか。

セリアス > 試薬試験の報酬と、素材買取の代金と。
それから彼女が買ったものの代金を差し引いた分の支払いは、相応の金額になって。

「お金の管理なら、冒険者ギルドや商業ギルドでも扱っているところはありますよ。
 手数料はそれぞれでしょうが、大金を自分で管理するよりは良いでしょうね」

宵越しの金を持たないような冒険者も多いが、中にはしっかり貯めている者もいる。
とはいえその金もまた、より危険であったり、準備が要る冒険の為に使われることも多いけれど。
そういった知識もまた、学院で教えてくれる授業もあるだろうと、
冒険者が講師をしている授業なども紹介しながら、彼女を見送った。

ご案内:「王都 平民地区/雑貨商店」からアレンシアさんが去りました。
ご案内:「王都 平民地区/雑貨商店」からセリアスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/広場」にオウルさんが現れました。
オウル > 空を見上げれば快晴……ならよかったが少々怪しい薄曇。
ちょっとでも空が不機嫌になれば、小雨降りそうなギリギリ天気である。

そんな天気だからか人気が疎らな広場のベンチを一人で占有して寝転がって本を読んでいる少年が一人。

口には何時も舐めてる棒付きの飴。
極々普通の棒つきの飴であり、味はミント味。
腰につけたショルダーバックの中には普通の飴から微々たる量の怪しい飴から、完全にアウトの飴まで幅広く入っている。
――けども、配布用の依存症を引き起こすような危険なモノは入っていない。

「………肌寒くなってきたんで、服を買いになって思ったけども、センスなんてそんなもん無かったわ……。」

そう、当初の目的は平民地区に服を買いに来たのだ。
けれどもどんな服がいいか何て何店まわってもサッパリで、どれを買っていいかわからない、全く持って不明で結局諦めて今に至る。

少しでも文字を読み書き出来るように。
少しでも言葉達者になるように。
暇があれば小説を読むようにしている。

つまりは服を買うのも諦めて、紙一重で飴の振りそうな天候の中、ベンチに横たわって飴を食べながら読書中だった。

暫くはのんびりとしていたが、顔にぽつぽつと当り始めた雨に大きな溜息をつくと、身体を起こし本を閉じて、宿の方へと歩き出すのであった。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/広場」からオウルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にアルマースさんが現れました。
アルマース > 平民地区、異国の民族舞踊が毎夜見られることを売りにしているとあるレストラン。

ステージは床と些細な段差をつけただけというものだけれど、コース料理とともに最前列でショーを楽しめるテーブル席から、ワンドリンクで壁際で立ち見も可能という使い勝手の良さで平日も賑わいの絶えない人気店である。

大人数でなければ飛び込みでも席を見つけられることが多い。
財布に余裕のある者はテーブル席へ。次にカウンター席が埋まる。
休みの日なので、壁際の立ち見席はぎゅうぎゅうだった。

夕食時から三回ほど、定刻で始まるショーの最後の回が始まろうとしている。
店内の明かりが僅かに落ちて、歓談の声が途切れたのが合図。
ぽぽん! と軽快な太鼓がリズムを刻みだす――繊細な意匠の施された太鼓を膝に乗せて叩いている壮年の男は店のオーナーだ。
本格的なステージを持つ劇場は別として、この手の小さなレストランのほとんどがそうであるように、オーナーの趣味と実益を兼ねた店なのである。

馴染みの客は勝手知ったるもので、わいわいと踊り子の名前を叫ぶ。
呼ばれた女が店の中央へ進み。透けるショールを広げてゆったりと一礼する。

――最初はゆるやかに、腹と腕をくねらせるだけの動きが、目が眩むような途切れない舞いへと転じて、そこへ一人、二人、とステージの左右から踊り子が現れ彩りを増やしていく。

色とりどりの衣装を纏った踊り子は皆、一様に透けるショールを波打たせはためかせ、最前の客と、馴染みの客にも間近に絡みに行く。
六人の踊り子の一人――紫紺の衣装の女にとって、踊るより難儀なのは、こっちにも、と口々に叫ぶ酔っ払いの相手である。
無視すると物を投げ始めるような猿もいるし、近づきすぎるとショールを引っ張ったりスカートの裾を掴んだりするものもいる。

絶妙な距離感を保つことに神経を使いつつ――視線と笑顔をくれて、猫をからかうようにショールを揺らし、席の間を練り歩く。
一番最初に姿を見せた、この店が長い踊り子は慣れたものだが、最近来たばかりの自分にとっては客のあしらいが一番の難関なのだ。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にオウルさんが現れました。
オウル > ――結局防寒用の衣服を買う事はできず、宿に戻ったところでする事もなく、あの後は夜の活動に向けて仮眠をして過ごし、目覚めたらすっかりと外暗く、欠伸を噛み締めながら身支度を整えて外へと。

ふとそんな寝ぼけ眼で思い出したのはある日であった踊り子の名前で、アルマさんだったっけか、名前と共に脳裏に浮かんだとんでもない出会い、学院の図書館での遭遇、諸々…。

――…と、平民地区の通りを運動がてら小走りで移動中、途中で見かけるのは1件のレストランで、看板の名前とお店の雰囲気を事前に聞いていたので、深呼吸を一つした後にお店へと宿の店主曰くお薦めのお店であると。

そこは大賑わいであった。
平民地区で幾つか酒場があったり飲食店があるのも知ってるし、短期で仕事をした事があるので知っていたが、その中でも煌びやかに輝いている……方かと思う。

だから踏み込んでまず最初に「へぇ……。」と感嘆の吐息を零し、一先ず何はともあれ空席を探そうと、お店の中を歩きながら、ぐるりと辺りを見渡して偶然見つけた立見席からも店の中央からも遠い席に足を向けると椅子を引いて席に着くのだった。

「……エキゾチックっての?あんまり触れた事がない感じなのだけど、あと……踊り子さんでも踊ってる?」

喧騒から離れてはいない、聞こえる声には踊り子のことを囃し立てたり、逆に踊りを褒める声も聞こえてくるし、何かが起きている事は想像に容易いし、人並みが微妙に避けたり何なりしている事で、踊り子が客席を練り歩いているのも解る。

貧民地区だともう少し品のないサービスやらが行われているのが常であるが此処は平民地区である。

郷に入れば郷に従えってわけではないけども、一先ず何が起きているかは置いておいて、踊り子さんが来たら面白いなーとか思いながらレストランのメニューを開くのだった。

アルマース > フリーダンス中はできるだけたくさんの客と絡むこと。
それがお店の意向だったので、太鼓に加わった弦楽器に合わせ腰をくねらせ、立ち見席の近くへも行く途中。

帽子を目深にかぶった客の一人と目があって、何だか嫌な予感がした。そろそろソロパートが始まるしステージへ戻ろう、と顔を背けた瞬間。
伸びてきた足が視界の隅に入った。

蹴りつける。
ヒールで踏み抜く。
よろけたふりで全体重で足の骨を折る。

物騒な選択肢をいくつか考えるくらいの余裕はあった。
足が触れた、と思った瞬間には先に床に片手をついて、爪先で弧を描き、逆立ち――腰布が膝から腹へ滑り落ち、晒された褐色の脚がまっすぐ天井を向く。一拍置いて、ゆるゆると軟体動物のように背骨を一本ずつ折り曲げて前へと、ほとんど位置を変えずに着地する。ダンスというよりアクションだ。

足を出してきた客が背後でどんな顔をしていたのか知る由もないが、「ころす……」と呟いたのは、着地後目の前にいた少年の耳にしか届かないくらいの声量だった。

流れるような腕の動きは止めぬまま、殺意を笑顔に変えて顔を上げたとき。
オウルの顔を真正面から見て、釣り目がちの化粧を施した黒い瞳が、ぱちんと瞬いた。

しゅるん――。

メニューを開く少年の首にショールを巻き付けた音は殺意が霧散した音でもあったかもしれない。

「いらっしゃあい、不良くん」

言葉を交わすことのできる間はほんの一瞬だったから、それだけ告げてショールを解いて手繰り寄せ、ステージの群舞の輪に入りにいく。
一人ずつ踊り子が中央へ集まるなかで、あーあ、後で怒られるのかなあと完璧な笑顔の裏で思う。

悲しいことに他の踊り子のソロパート中の出来事だった。
唐突に目立つことをして後から怒られるかもしれないけれど、転ばされた挙句に客と喧嘩をして出入り禁止を食らうよりは良いのではないかと思う。
自分の実家のショーに出るのとは違うのだから、若気の至りは通じない。
笑顔と殺意の妥協の結果のアクションだった。

オウル > 雰囲気は嫌いじゃない、料理は……後々だろう。
お酒は飲めないので果実水か何かあると嬉しいのだけど、とメニューをペラペラと指先で捲り、予算と気分との折り合いをつけている最中に耳に聞こえる『嫌な音』。

実際の音ではなくて、空気という奴だ。
誰かがケンカをする前、誰かが誰かに悪意を向ける前、そういったモノを含めて『嫌な音』と表現しているのだが、少し本当に少し空気も張り詰めた気がする、――けどもレストランでお酒があって踊り子がいればそうもなるか。

うん、普通にアウト。
貧民地区では良くあること。
平民地区でも良くあることなのか、とは思わないけど『嫌な音』以前に明確なる悪意ある言葉が聞こえて、思わず捲っているメニューをパタンと閉じて、メニューの文字から声のする方へと視線を向けようとしたところで、首にくすぐったく柔らかな布が。

顔を見上げれば眼帯の左眼と裸眼の右眼に映るのは知った顔、知った顔というほど付き合いは長くないし、ただただインパクトのある出会いをした相手の顔だった。

つまり、その殺意ある言葉を呟いた主の顔であった。

「これって後で二人っきりで特別なサービスがあるって合図?」

何はともあれ踊り古参に軽く笑って冗談を返す。
口元は緩いそんな笑みと、流れからして先ほどの言葉の対照っぽい顔見知りの踊り子さんにひとつ目配せだ大丈夫?何て視線を送るが通じるかはわからない。

首に触れた柔らかな布の触感が消える事には踊り子さんは喧騒の輪の中へ――その後姿を見送る事しかできないけども。

さて、落ち着いて考えればコレ、目立つ事しすぎてない?
あれ?下手すると自分巻き込まれるパターンでは?
といつの間にかテーブルに置かれた生ぬるい水の入ったコップを傾けながら、ふと思う。

踊り子さんの仕事の終わりもわからない。
が、踊り子さんにわいた興味が戻ってきたのはある。
なので、タイミングを見て踊りを見れる場所まで行ってみようと思うのだった。

アルマース > 常連客は気づいたろうし、そうでもない客も振付ではないことにうっすら気づいたかもしれない。
しかしソロパートが始まると、気に入りの踊り子へ喝采を送るのに忙しく、その場でそれ以上の騒ぎにはならなかった。
ちょっかいをかけてきた客の方へはもう視線もやらず、順繰りにステージに色が踊る。

残念ながら客席を練り歩くサービスタイムは一度きりで、その後アクシンデントも無くショータイムは終わりを迎え、薄暗かった店内の明かりが戻る。
ぴうぴうぱちぱち口笛と拍手の音を背に、踊り子たちはステージ裏へ捌けていく。

そしてまた馴染みの客へ挨拶をしに衣装のまま出てくる者もいる。
その中に紫紺の衣装は見えない代わり、鮮やかな空色の衣装の娘がオウルの頬をつつく。

『弟くん、アルマが呼んでるよお。そっちの扉から裏に入って~』

注文をする間もなく――ショーの合間は暫く注文が止まる――オウルが示されたのはステージ裏とも別にある、店の隅のスタッフオンリーの看板がかかった扉。

オウル > ――…咽た、本格的に盛大に咽た。
傾けたコップに注がれていた水が温かったからではない。
何なら今口にしたのがコップに入っていた最後の一口で、飲んでからメニューから料理を注文しようかと考えていたところに、頬を突かれたから……でもない。

弟呼ばわりされたからだ。
なんと、自分は、アルマさんの弟だったらしい。
……マジかー………という気分ではあるが、裏手がどうなっているかも大変きになるし、アルマさんが何故呼んだかも気になるところではあるし、またメニューをパタッと閉じると、空色の衣装の踊り子さんに人懐っこそうな笑顔を作り浮かべて、懐から硬貨を取り出すと、その胸元にすっと刺し込んでから立ち上がる。

つい、貧民地区での踊り古参へのチップの渡し方をしたが、それを反省するよりも、……周囲の視線が悪意と羨望に満ちる前に移動する事にする。

「ありがとうございます。
 姉さんを今後ともよろしくおねがいします。」

挨拶としてはあっているだろうか。
空色衣装の踊り子さんに軽く頭を下げた後に席より立ち上がり、走らず、慌てず、少し早めの歩き方で店内を歩いて『スタッフオンリー』と書かれた扉に向かう。

「……すいません、アルマ姉さんの弟なのですが、姉さんに呼ばれたんだけど、何か御用でしょうか?また姉さんが何かやらかしましたか?」

弟呼ばわりの軽い反撃のジャブをしておこう。
姉…ではなくてアルマさんが何時も何かやらかしていると言わんばかりの言葉をかけながら、スタッフオンリーの扉を手の甲でノックして、それからドアノブを捻り扉の向こう側へ。

廊下かもしれない、直ぐに部屋かもしれない。
どちらにせよ選択肢としては行くしかない。

――まさか流石に控え室という名の更衣室はないよな?

アルマース > 狭い部屋に食糧や備品の備蓄が詰まれたバックヤード。
背もたれすらない小さな椅子に座り、これも小さなデスクに向かっている裏方のスタッフらしき男は、ろくにオウルの顔も見ずに、ン、と奥の扉を示したが、オウルがドアノブに手を掛けるより、声を聞きつけてその扉が内から開く方が早い。

「来た来た。こっちこっち。ごめんね来てくれたのにゆっくりもしてもらえないでさ――」

軽く悪口を言われていたことなど知らないので迎える顔は笑顔だ。化粧を落としていたところらしく、顔面からけばけばしさが半減している。
その先は楽屋である。控室でもあり更衣室でもある。
入れば煌びやかな衣装のかかったクローゼット、いくつかの大きな鏡に化粧台、どれも化粧道具や装飾品で乱雑に散らかっていた。
鏡の前の丸椅子に座り直し、女は小さな布に小瓶から液体をつけて目元を拭う。

「さっきの客と揉めそうだから、あたしは今夜は挨拶回りで表出なくて良いって言われてさ。
 今夜のチップはゼロだよ……。オウルは大丈夫だった?

 あ、そこのお菓子食べていいよ。お水とお茶はそっち」

花の飾られた丸テーブルに水差しが二つ。ご自由にどうぞといった感じで箱のまま置かれたクッキーは手がつけられた様子がない。
鏡越しにそれらを指さして、

「いつからいたの? ちっさいから全然気づかなかった」

からかう風でもなく、単純に不思議そうな声色。

オウル > 廊下ではなく文字通りのスタッフルームがあった。
辺りに視線を向けて好奇心を満たす前に、ああ、裏方らしき男に促されて、更に奥の扉へ向かう前に――扉が開いた。

「うんにゃ、別にいいさ。
 元々約束をしていたわけでもないし、此処に来たのは偶然だしさ……。」

扉を開けてくれた主は件の踊り子さん。
ラジエル学院の図書館で出会い、行き成り踊り子衣装の少し過激な姿を見せてくれた忘れようにも忘れられないアルマと名乗った踊り子さんである、姉らしいが。

失礼になるかもしれないが、思わずマジマジと眼帯で隠れた左眼と裸眼の右眼でアルマの顔をじっと眺めた後に、一言、どっちもいいな、と小さく呟きながら、あまり縁がない事もない楽屋へとお邪魔をする。

貧民地区の仕事で踊り子さんや娼婦のメンテナンス、つまりは髪を梳いたり整えたり、化粧を落とす手伝いや汗を拭う世話役の仕事を何度かしているのでこういう部屋に入るのは初めてではない。

が、ちょっと部屋が部屋に散らばる荷物は乱雑ではないかな?と思うところはあれど口にせずに、少しだけ苦い感じで笑ってしまう。

「……殺意バリバリの言葉を吐いてたもんなー……。
 オレ?オレは全然?誰かさんの弟!?とか羨ましいなーとか、一緒に風呂入ったりしてるの?見たいな視線をバリバリに感じたけど、まあ妬みの視線はなれたもんだわ。」

両肩を竦めてから今度は苦味のない比較的素に近い笑みをにんまりと浮かべてから、首を左右に振ることで、大丈夫だったと言葉以外にも鏡越しに伝えながら、歩いていく先は鏡台の前に座りなおしたアルマの背後へと。

「ちっさいとは失礼な、まあ小さいけどさ!
 来たのはアルマさんが殺意ある言葉を吐く数分前かな?
 借りている宿のおっさんにいい店があると聞いて立ち寄ったら、今に至るってわけだ。」

言葉の終わりに、「髪でも梳こうか?それとも肌のメンテ用にオイルでも塗ってマッサージでも?」とその行為を特別な意味を含めもせず、行為に手馴れていると言わんばかりにスルリと口に出して伝えると、またニコーッと笑うのだった。

ショルダーバックには仕事用として一式入っているので、アルマ次第で本当にそれくらいはするつもりである。

アルマース > 青の頭をぽんぽんやって、「何か言った?」と首を傾げるだけ。
もともと少年より上背があるのに加え、ハイヒールだと更に差が際立つ。

「アイツ、足引っ掛けてくるんだもの、怒鳴らなかっただけ偉いと思わない? 五年前なら喧嘩になってたわ」

背を向けて化粧を落としながらぼやくけれど、オウルの出現で気が逸れたのか、言葉から殺意は消えている。
踊り子は皆、挨拶およびチップ集めのために客前に出ているらしく、楽屋には壁越しに店の喧噪が微かに聞こえるばかり。
散らかりようを気にすることもなく――オウルが口に出していたら、綺麗な方じゃない?、という認識だったことが知れただろうが――目元のきらきらを拭い去る。

「部外者立ち入り禁止だからさ、ハラチガイノオトウトってことにしたから……そんな感じでお願い。
 この年で弟と一緒に風呂なんか入るのかなあ……男ってばかねえ」

釣り目がちなメイクが取れると年相応の顔になる。口紅も拭い、眉も顔も拭い素顔になると、別人でも通りそうだ。
ヘアブラシを肩越しに差し出して。

「ええ~変なところ気が利くわね。本当に姉がいるの?
 着替え終わったら、別の店で姉さんが奢ってあげる。髪、やってくれる?」

さっき食べ損ねたよねえ、と言う自分もお腹が空いている。

「宿……? って、下宿してるの? 寮とか実家住まいじゃないんだ」

学院には寮があるという情報で、そう思い込んでいた。

オウル > 頭をポンポンとされる事は慣れていない。
けれど拒むほどの相手でもなく、まあアルマさんならばと受け入れて、聞き流された分は合えて聞き流す事にして。

「……あーそりゃ最悪だわ。
 踊り子の足は商売道具なのにねぇ。
 あっお触りありならチップあげるけど。」

楽屋の外から聞こえてくる喧騒に耳を傾けるよりも、思ったよりアルマさんの言葉だけに意識が向いてしまって、それも何だかおかしくなって笑ってしまう前に――冗談を一つ送ってから、アルマよりヘアブラシを受け取ると手馴れた手付きで波打つ艶やかな黒髪をヘアブラシで梳き始める。

髪を整えて、髪を愛でる、――貧民地区の踊り子さんや娼婦さん達で慣れているので、手付きはまずまずの筈である。

「ハイハイ、アルマさんの弟デス、ってそりゃそうか。
 男ってバカではなくて、男はみんな例外なくスケベだからね、これはもう否定できないわ。」

すぃ、すぃ、すぃ、と丁寧に丁寧に手で触れながらヘアブラシで何度もアルマの波打つ黒髪を梳き、梳きながらも鏡越しに笑みよりも微笑に近い淡い笑みを浮かべて返し、化粧が落ちたもう一人のアルマの顔も悪くないと、矢張り思ってしまうのだ。

「アルマは化粧をすれば綺麗だけど、落とすと可愛いって感じがして好きだなー……あ、姉何ていないよ。
 この辺のスキルは娼婦や踊り子さんの髪や肌を整える仕事をする事があったからかな。」

と、王都にある平民地区とは違う治安の悪い貧民地区で生活し仕事をしているのだと、仕事相手は娼婦や踊り子である事も隠しもせず言葉にする――当然奴隷を高く売れるように整えたり、身の回りの世話をする事もある。

「……実家はないし、寮は、ちょっと事情があってね。
 代わりに稼いだお金で安い宿を借りてるのが基本かな。
 あっ食事の誘いは大歓迎だし、どこかで食事を買って姉さんの家で食事でもいいよ?お酒の相手だってするし?」

なんだろうか、ついつい自分の事を喋り過ぎている気がする。
当然『ギルド』の話は伏せているけども、珍しく口が軽くなっている。
 

アルマース > 「たちの悪い客だっていうのはお店も知ってたから、怒られなかったのは助かったけど。
 ……年下からチップをもぎ取るのはよろしくないと思うの。
 学校卒業して大成してくれたら遠慮なく搾り取りに行こうかな」

笑って、髪を梳かれながら腰布を外し、胸元やお腹や脚を拭いてしまう。

「男がそういうものなのは仕方ないとして、がっつかない方がもてるんじゃないの。
 あなた、学校の女の子にもその調子なんじゃあないでしょうねえ」

オウルが学校で女の子からどんな扱いをされているのか心配になってくる。

「垂れ目だと客にナメられるから、あたしは釣り目に生まれたかったけどなあ…………――ふうん」

仕事、というのが本当なのだろうと、オウルの手つきでわかるけれど、実家が無い、がどういう境遇なのかうまく想像できなかった。
十五で仕事をしているのは珍しくはないだろうけれど、実家に養われるだけの同い年だって多いはずだ。

「お酒の相手ってねえ、させるわけないでしょ。明日も学校でしょ」

学生らしからぬ姿ばかり見せるので、つい口うるさくなってしまう。

「宿、遠いんだよねえ。昨日は帰りに馬車拾えなくて三十分徒歩よ。オウルの宿は近いの?」

そっちで良くない?という口ぶりで。
身体を拭き終えると、もういいよ、と髪を梳くのに言って、着替えるべく立ち上がる。

オウル > 着替えるために立ち上がるのを邪魔しないようにヘアブラシで髪を梳くのを止めて、腕を伸ばして鏡台の上にヘアブラシを置くと、一度軽く笑ってから流石に着替えを覗かないようにする為にくるりとアルマに背を向けて――まあ外でまっててといわれたら勿論そうするつもりではあるけども。

「えぇー此処を案内してくれた踊り子さんにはチップ払ってしまったんですが?」と冗談を重ねて、いや冗談ではなく払ったわけで、まあ、それはそれとして……チラッと着替えを見たい衝動を抑えるので大変だ。

「残念がら明日は休みなので、大丈夫ですが?
 まあお酌くらいは出来るんで、と思ったけなんだけど。
 宿は徒歩で10分くらい何で近いけど、……来る?」

ダメってわけではない。
男の部屋にあがりこむ、って程警戒されてないのかもしれない、それはそれでラッキーとも思うのだが、一先ず、来るのか尋ねながら振り返りもせずに首を傾げて返答を待つ。

もしYESなら此処で料理を見繕って持ち帰りもいいし、逆に途中にある幾つかのお店で立ち寄りも悪くないし、等とちょっと楽しくなっていて、背中を向けた状態では見られていないと思うが、ちょっとニヤニヤしてしまうだった。

借りている宿は連れ込み宿ではないが、客を招くくらいは怒られないし、部屋にはシャワーもあるし、安宿にしては比較的に綺麗な部屋である、なのでアルマを招いても恥ずかしくない。