2021/12/20 のログ
メイラ・ダンタリオ > ガワだけの、何もない場所
ある意味で廃墟マニアとやらにはウケが良さそうな広い空間。
人の出入りがほとんどないのだろう

冷たい匂い 風で運ばれた土粉の匂い 枯葉の音

その中で、メイラはギザ歯から白い吐息を零しながら足首をゆっくりと廻し
戦の関係でなら多く見ているものの 小国を崩すような機会はこの国の周りにはない
砦や何かとは違う 廃墟の趣を昼の曇り空 透かしてあるだけの生半可な明かりが幾つも大きく差し込んでいる空間

「ふむ」

王都の中で、こんなふうにしているのは新鮮なものだった
見回りでもなければ 王城でもない 街中での娼婦遊びでもない
唯々 唯々 悪い気持ちでここに居る。

「人の気も一目もない場所は王都では稀有ですわね。
 良いことですわ。

             ―――ね?」

振り返り様、猫のようにひたりと足音を控えていた浮浪者の振り下ろし
ショートソードを右の手が片手抜きで受け止める衝撃音

硬い ヂィンッ という音がショートソードから鳴りながら 触れ合う刃と刃
カリカリとお互いを掻き合う音と共に、紅い瞳は目を細めて 口元は弓張を描く。

裏路地住まい? どちらの見分けもつきにくい まだ着ている衣の垢は浅い
手には切り落とされた枝の根本を先端に見立てた物や、スったのかわかりもしない剣身が数本
メイラは旨く釣れた様子に、悪い笑みを浮かべた。

「相手が幼かろうとも 剣を持てば 騎士は騎士」

殺しの文句の一つ 子は殺すななどという言葉はきれいごとであり
向かってくる気持ちと 手元に武器があれば 十二分に躊躇いを無くす教え込み

浮浪者も同じく 武器を持てば 見逃すか否かは 相手に掛かっている。

「歓迎しますわ。 カツアゲ? の皆様方。」

そう言って、メイラは防ぐ剣を強引に上に上げ
剣を持つ下腹に蹴りを押し込む

砕く蹴りではなく 押し込む蹴りは間合いを伸ばすだけが目的のようなそれで
控えていた数人と激突して踏鞴を踏ませれば

メイラは コツ コツ コツ とこの大廃墟の入り口
壁は今だ残り 骨組みもまだ残り 屋根もまだ残る
小さな窓辺は逃げることはかなわず それは孤児院の名残りか

入口 そこから逃げるには メイラがいる。

「王都でこんな悪いこと するなら悪い者とがいいでしょう?」

そう言って、右手の片手剣の切っ先を向けて 貧民は察する
釣られて 塞がれて 逃げれない の3拍子が効いたこの空間を。

メイラ・ダンタリオ > 手加減よりも 使い心地
手に携える片手剣も 肩に担ぐ特大の黒剣も 全てはやっと握れた剣

確かめて 馴染ませて 何度も 振るって 振るって モノにする。

手短な武具らなら傭兵も騎士も経験していても こんな場違いな 王都では携えないような武器
手にしたまま入り口を陣取るメイラの思考は 試し振り 一択 である

赤い瞳は 嘗めていない 蔑みもしない 喜びだけを見せて
鋭利に並ぶギザ歯から出る白い吐息は より白くなる
臓腑が熱を帯びて 血流を加速させ 自身を狙ってくるという 数数多な場所を除けば 滅多にないこの場所に

高まっている。

「逃げられませんわよ?」

窓辺も 屋根も確かめて 上り下りすることすらできやしない
メイラが先ほど 廃墟眺め を楽しんで確認している
だからこそ この入り口に立っているという行為は 有意義な時間 である

誰も彼もが 覚悟と諦めをキメて 誰も彼も犠牲にして生き延びようとする その目になるまで
この立ち尽くす時間は 有意義な時間。



―――そして始まった時間は唐突だった

踏み込みと袈裟

片手剣で水平に受け止める傍ら、もう一人の突きの姿勢に対し
強引な力押しで剣を巻き込んで、右の手の甲をひっくり返す
空いた空間に対し、肩に担いで控えていた特大の剣
その剣身を、まるで斧のように片手持ちで振り下ろしにしてみせると
切っ先がチクリと服に感じながら、グシャリと潰れた肉と骨の“つくね”が出来上がる。

鼻や目の隙間から先に血流が破裂し、ピシリとメイラの頬に掛かる熱い血
淀んだ 不健康な 水気も普通よりも薄い
その血と共に、剣を抑えていた片割れを横目で見やる笑み

血で彩った飛沫と頬 笑みを浮かべる三日月

離れれば潰され このままでも片手剣
左側の身を乗り出したままのメイラが、剣を抑えたままショルダータックル
剣を纏わせたままのそれで転ばせたなら 瞳をこちらへ向ける頃には

             グチャッ

また一つ 振り下ろしで出来上がった肉塊が其処に出来上がる。

「……鉄は悪くありませんわね。
 それにしてもひどい表面ですこと。」

これでも振るえる程度に剥がされているというのに 濃い黒錆が残っている特大剣
それを切っ先天井に向けたままシゲシゲと眺めるのなら

残る数名を キロリ と眺め。


「次は」

特大剣を担ぎ直し、右手の片手剣を抜身のまま 切っ先を下に向けて近づく
それでも、入り口から離れすぎない 二歩しか前に進めていない。


「どなたが? ……こちらにいらして?」

言葉遣いとは裏腹に、逃げの姿勢を少しでも見せると
メイラは二歩下がる 諦めさせる 覚悟を絶対に決めさせる。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区 大廃墟」からメイラ・ダンタリオさんが去りました。