2015/11/29 のログ
ご案内:「とあるダンジョン」にベリルさんが現れました。
ベリル > ゴトリ。

どこぞの……そう、どこぞのダンジョンの一つの部屋。
ランプの灯、それすらもなく暗闇の影の中からゆらりと。
小柄な人影があらわれた。
ブーツを履いた足音は、どこか遠く、薄い。
それに混じって何か、足を引きずっているかのような音も続く。

このダンジョンに来た目的は、金目の物を探すため。ロマンもリアルにおいては、ただの実用性の有無でしかない。
しかし、この部屋に来た目的は、また別であり――。

(あった)

血と、人の内容物が放つ臭気。
そこにあったのは、ただの魔物によって息絶えさせられたただの人だったものだった。

ベリル > 顔をしかめる。
その死体の状態は悪い。

腐敗が進んでいる、等ではなくむしろその逆で……つい先ほどまで彼が生きていたことを示すかのようにしゅうしゅうと少し冷えたこの部屋に湯気のようなものが、臭気と共に漂っていた。

左足をわずかに引きずるかのように死体に近づきながら眺める。
腹を大層な魔物の爪か何かで引き裂かれたのだろう。
大きく割かれ、中からは赤黒い何かがはみ出していた。

それでも逃げようとしたのか、這った痕や、血で汚れた涙が渇いた痕すら、凄惨さを表すかのようにある。

(うは。えっぐ)

自らの腰に手を伸ばす。何か小さな小瓶……ボトルのようなものをつる下げていたベルトから取り出した。
中には砂のような物が見える。栓を開けると、それを振りかけるようにその死体にばらまいた。

臭気が嘘のように薄れた。――ただのマジックアイテムだ。血の臭いを漂わせたまま作業すると、どうしてもリスクは高くなる。
その為には必須な品物と言っていい。

ベリル > 元より、自分もこの臭気をたどってきたのだ。
人には物理的に遠い物でも、魔物にとっては道しるべだろう。

そういう意味では、この死体は恵まれている。荒らされた痕がない。
息絶えた後、その姿を保っているようでもある。

顔は若い。自分と同じぐらいか……それともそれより若いか。
余り期待はできなさそうだ。駆け出しの冒険者然としている。

――なぜそんな彼がこんなところで、たった一人で死んでいるのか、なんてものは今は関係ない。あるとすれば、彼が金目の何かを持っているかの有無だけだ。

いつも通り作業を開始する。いや、仕事と言ってもいい。
誰に依頼されたわけでもなく、ただ生きるための。
言ってしまえば、ただの……死体漁り、だ。

ベリル > 漁り始めてそう時間もたたない頃。

胸元に、紐のような物で、ネックレス状にされた指輪を見つける。
金属製であり、どこか古びたそれ。

胸元から引きちぎるように手に取って眺める。
……鑑定眼は持ち合わせていない。これが値のあるものかどうかわからないが、他にめぼしいものがない以上、収穫だと言っていいだろう。

(いただきまっす)

自らの内にそれをしまい込んだ後、立ち上がって。
用済みとなったその屍から背を向けようとして――。

ふと、横目でまたそれを見た。

「…………」

……まだ、帰還するわけではない。
このダンジョン自体では、何も収穫がないのだ。これだけで済ますわけにもいかない。
その為に、態々何かをする理由もないのだが――。

彼の、その自分と似たような歳に何を感じたか。
境遇を想像したかどうかは分からない。
また、自らの腰元へ手を伸ばし、先程とは違う瓶を取り出した。
中に入っているのは、酒だ。
もちろん、使用用途は飲むための物ではないが。飲めないわけでもない。

栓を開け、その死体の衣服に染みこませるようにゆっくりと垂らした。
自らの胸元から、何か古ぼけた――先ほどの物とは別の――指輪を取り出す。
それを握り、人差し指でその死体を指さすと。

『――――』

何事か判別もつかない小声で、何かを詠唱する。
指先から小石ほどの大きさの火球が飛んで、その人でなくなった物へ当たると――。

今の作業からは考えられない程の勢いで、燃え上がった。
使ったばかりのその酒を、一口だけ口に含んで嚥下すると。

「…………おやすみ」

ベリル > 背を向けた。

向かう先は、まだこの部屋の奥だ。
左足を少し引きずるかのようにしながら。

ゴトリ。引きずる音。

炎によって明るくなった事によって、自分の赤黒い髪も、わずかばかりに照らされた。

もう一口酒を嚥下しながら。
酒は、まずかった。

ご案内:「とあるダンジョン」からベリルさんが去りました。