2023/06/24 のログ
サウロ > (日々を生きていく中で、不安に思うことも、恐れることもないわけがない。
 サウロは只の人間だ。特別メンタルが強いわけでもなければ、身体が女になるから何だと開き直れるタチでもない。
 職業柄長生きできるものでもない。戦いに身を投じれば、些細な傷一つで簡単に命を落としかける。
 そんな弱くも脆い、ただの人間という種族だ。
 だからこそ安寧を愛し、平和を望み、それを乱す悪しき者たちから弱きを守る為に、力を振るいたいと。
 ただひたすらに真っすぐな信念を胸に、強くありたいと願っている。
 その決意が、願いが、生真面目すぎるほどの想いが、少女になってしまうと歪まされていくように感じる。
 性欲という、サウロが最も律しておきたい欲求の一つが、それを引き起こすのだから、
 頭の固い青年にとっては自身の在り方を歪め、心を苛む原因にもなっていただろう。
 誰に相談することも出来ず沈澱するように折り重なった不安と恐怖が、やがて泥濘のように心を鈍らせる。
 そうなる前に、彼女が明かりを灯したのだ。
 眠れぬ子の部屋に蝋燭を一本灯すかのように、優しい魔女が紡ぐ言葉は子守唄のように。
 魔導具の香りも相俟って、サウロの精神を穏やかにしていくものだった。)

「……────」

(彼女が捲っていく、サウロに寄せられた三枚のカードを見下ろす。
 一つは花。毒草であると分かったのは、野営が多い故に学んだ知識の一つ。
 毒を喰らうことも受け入れてしまえば、耐性が出来るということだろうか。
 一つは武器を刺された獣が飲み込む絵。
 傷を負うことになろうと、自らの内側に何を取り込むのかを、自らで定めよと。
 一つは王冠と玉座。
 絵柄からは想像できないが、抗い続けた先に得られるものがあるということか。
 彼女の言葉と、自身の解釈とをまとめながら、硬く握りしめていた拳を開いて、
 サウロは自身の胸に手を当てる。
 彼女の目には、何が見えているのか。彼女の瞳に映る自身に纏う何かまでは、わからなかったが。)

「恐怖と、向き合う……」

(いつまでも目を反らし続けるわけにもいかない現実だ。
 それを、占いという形で示してくれた彼女の言葉に、ぎゅっと胸の前で手を握り締める。
 そして彼女の目をまっすぐに見つめて、ふ、と表情を和らげた。)

「────今はまだ、どうすべきかわからないけど、
 ……一度きちんと、考えるよ。……ありがとう、ダアト。貴女に占って貰えて、勇気を得た」

ダアト > 占いのなか、一貫して漂うのが不安やトラウマといった感情。
確かに無力であることは怖い。無力であればどうなるか知っていれば知っているほどその怖さは増していく。
けれどこの背景にあるものはきっとその恐怖だけではないと魔女は考えていた。

「……。」

彼女から言わせると子供だましのような占いだけれど
それでも誰かの灯火になればよかったと魔女は思う。
全く自分でも嫌になる位甘い考えだけれど……

「……そう、か。」

少しだけ胸の澱が氷解したような青年の表情を見て
瞳を閉じ短く告げると口元に僅かに笑みを浮かべる。
無力と恐怖は自らを呪う呪いになる。
こういった術式の一番恐ろしい所はいつしかそれらが溶け、消え失せても
それを基にして芽吹いた自らへの呪いが受肉し、成長し続けることにある。
そうして茨となった呪いは術者ですら自覚しないまま容易くその喉を食い破ってしまう。
この青年がそうなってしまわないよう少しでも力になれたなら嬉しいと魔女はほっと小さく息を吐いて

「そう、じゃな。もし……直し、たい、と、思うの、で、あれば
 術者に、解除、させ、る、のは……勿論、じゃが
 ……辞めて、おい、た、方が……良い、じゃろう。
 魔術、や、呪いに……それなり、に、理解が、ある……相手、を、探せ。
 もし、可能で、あれ、ば、男女、何方、で、も、
 閨を共、に、出来る、相手で、あれ、ば……なお良い。
 ……無理に、とは……言わぬ、が。」

治療するにあたりどう足掻いてもその状況を一部でも説明、再現することになる。
それは傷を抉るような行為になる為、おいそれと勧められるわけではないけれど……
きっと避けては通れないからこそ、早めに自覚しておいた方が良い。

「この、辺り、では…そう、多い訳、では、ない、が
 ……コクマー、の、信者、なら……可能性、は、十二分、に、ある。
 学園、辺り、に、行け、ば……見つか、る、じゃろう。
 ……ヤルダ、バオート、の、方角、は……凶方位、じゃ。
 余り、近づか、ぬ、方が……良い、やも、しれぬ」
 
特に水商売を生業とするものは呪術等に関わる事を忌避する傾向が強い。
それは彼女らの歩んできた歴史によるものが大きいが……
同時に彼女らがそれに影響されやすいという理由もあるため無理は言えない。

サウロ > (自由騎士として活動するほどに、女性が受ける被害という現実を目の当たりにしてきた。
 救えなかった手も多い。男であっても無力感に苛まれる時もあるというのに、それが非力な少女であれば尚更。
 夜が来るたび不安になって、朝が来るたび安堵して。
 もし彼女とこの場で出会い、占ってもらえなかったら、いつかは疲れ果てて何もかもを投げ捨てたくなる日が来ていたのかもしれない。
 こく、こくとゆっくりと紡ぐ彼女の声に首肯する。
 様々な助言をしてくれる彼女の言葉を胸に刻むように頷いていたが、閨を、という言葉には「ん゛」と声を詰まらせた。)

「……、……それが、その……一番難しい、ところです」

(なまじ理性が強すぎるせいか、サウロは性に関しては堅物にも程があるレベルである。
 食欲と睡眠欲と性欲と、いわゆる人の三大欲求と呼ばれるものの中でも禁欲的とまで言えるほど、律してきている。
 幼少期からそういうものが教会の教えとしてよくない、悪魔が来るぞ、なんて脅しもあったせいかもしれないが。
 やはりだいたいはサウロの性格的な問題だ。
 そしてさらに問題があると言えば、それはもう、口にするのも憚られるぐらいの性癖を持ってるせいで。
 両手で頭を抱えるようにしてうつむいてしまう。
 無理にとは言わないと彼女も言うが、肉体の変化が起きる条件を思えば、そういう相手がいた方がいいのは事実だ。
 あるいは、そういう娼館をはやく見つけなければ。本当に娼館を占ってもらうか一瞬迷った。)

「ん゛んっ……、学院、学院ですね……」

(咳払い。ヤルダバオートへ行く機会はないが、そういう時こそ任務が入りやすい。十分注意しておこう、と胸に留める。
 頂きます、とテーブルの端にあった木製の樽のようなコップを手に取り、ぐっと呷る。
 喉を鳴らしつつ勢いよく半分まで飲み干し、酒精の香りと味わいを感じながら、ふう、と息を吐けばテーブルに降ろした。)

ダアト > 「これ、は、あくま、で、療術師、として、の……助言じゃ。
 余計、な、お節介……と、いうも、の、じゃな」

少々分を超えた発言かもしれぬと苦笑しながらカードを集め、とんとんっと纏めなおし
纏った空気を意図的に霧散させながら自らもお茶で口を潤す。
そうしている間に頭を抱えている青年をどこか面白そうに見やるもその言葉にはふと考えいるように口元に手を当て虚空を見つめる。

「確か、に、そう、容易く、は、ない。相性と、いう、ものも、ある、でな。
 それ、に、義務感、や……使命感、に、囚われ、て、いる、ような、
 者、でな、ければ、付き合い、きれ、ぬ、可能性、は、ある、から、のう。
 ……わし、に、言われ、る、のも、癪……かも、しれぬ、が
 相当、の、変わり、者、じゃろ、う、て。」

療術師や学者、研究者というのは治さなければという呪いにかかっていると表現する者がいるがそれはあながち間違っていない。
その治療の方向性が教会や国とは異なるせいで異端審問等にかけられたりもするのだけれど、
それでもそれを辞められないという点ではもう立派な呪いだろう。
ある意味最も適した相手かもしれない。

「なに、好み、に、適う、者がお、れば……試し、に、声を、かけて、みれ、ば、よい。
 主の、見た目、なら、そうそう、無下に、は、扱われ、ぬ。
 そう、して、繋がり、を、辿って、ゆけば……よい。
 ……勿論、信頼、でき、る、か、否か、の、判断、は重要、じゃが、な?」

なんというか堅物の青年だ。自由騎士で節制しているという辺り、教育の影響もあって
そんな軟派な男じみた事はしにくいのかもしれないと思案する。
口が軽い相手に相談して大きく広まったなら仕事がしにくい等という事もあるだろう。

サウロ > 「相当な変わり者……要するに、肌を重ねるのも、治療や研究の一環として見る可能性がある、と?」

(性交渉をそのような視点で見たことはなかったので、意外だというように顔を上げて目を瞬かせる。
 義務感や使命感でそういう行為をするのはどうなのか。ありなのか。
 腕を組んで真剣に考え込んでいる。療術師、と言う彼女はどうなのだろうと、その表情をじっと見つめた。
 今日この場で彼女に相談したのも、彼女であれば誰それに面白おかしく吹聴するような人柄ではないと信用しているからで。
 こうしていくらか負担を和らげてくれたことにも感謝している。
 そんな彼女が、好みに敵う者に声をかけてみるといい、というのもサウロにとっては難題で、
 またも眉間に皺を寄せて、うぅん、と唸りながら考え込んでしまう始末である。

 それなりに整っている顔なので、娼館通りを歩けば声を掛けてくる女性に出会うことも多い。
 日常的な面では、流石にそんなあぴっろげに声を掛けられアピールされることもないのだが。
 だからだろうか、やんわりと断りを入れる事はあっても、自分から積極的に女性にアピールしに行く機会は殆どないことに気付いた。
 要するに経験不足というものである。)

「…………」

(不意に椅子から立ち上がって、反対に座る彼女の傍らまで近づいていく。
 急にどうしたと思われるかもしれないが、サウロは片手をテーブルの上にある彼女の手の傍らに、触れるか触れないかの距離へ置き。
 もう片方の手で、フードから出る白銀の毛先へと這わせるように、柔らかいものに触れるように指に遊ばせる。
 カードを手繰っていた彼女の細い指先とは異なる、鍛えた男の無骨ながら整った指先が、彼女の頬に微かに触れるだろうか。
 そして至近距離から、細められた碧の双眸が、彼女の紫紺の瞳を覗き込む。)

「……貴女も、一晩僕に絆されてくれますか? ダアト」

(明らかに相談していた時の声より、ワントーン落とした色香の籠る声音を、彼女にだけ聞こえるように囁く。
 ────ナンパのつもり、らしい。)

ダアト > 「そう、いった、相手、で、あった、方、が、より、目的、に、は近づけ、る。
 なに、より、主は……相手、に、気を、使い、すぎ、る。
 それ、位、自分本位、な、相手の、方が……負担、に、なら、ず、に、済む、じゃろう。
 長く、付き、合う、必要が、ある、相手、である、なら……尚更な」

呪いというものは如何化けるかわからない。
それは本人と、そしてその内容を知るものだけにしか理解できない事。
だからこそ、その恐怖と悩みを共有できる相手が理想的ではある。
……そしてきっと、この青年は”自身を目的とする相手よりずっと楽なはずだ。”

「……ふむ?」

僅かに触れる指先から微かに伝わる体温に目を瞬かせ
そういえばその条件に合致するなぁと今更ながら他人事のように考える。
……そう、ある意味とても合理的かもしれない。
少なくとも療術師としての呪いはこの胸に巣くっている。
そして、この青年は気が付いていないが”外部に伝わる心配はない。”
……曲がりなりにも嗅覚は効くタイプなのかもしれない。
触れられた頬に軽く頭を預けながら唇が弧を描き

「言って、おく、が……魔女、を、相手、に、するの、は
 ……”やすく”、は、ない、ぞ?」

くすくすと笑いながらそっと聞こえる程度の声色で囁き返す。
魔女を相手に誘うなんて、随分変わった騎士だなぁと面白がっているようで。

サウロ > (相手に気を遣いすぎるという言葉には、そうだろうか、と一瞬考え。
 そう言う面もあるし、真面目過ぎるきらいがあるので諸々余計なことまで考えてしまうのは事実。
 今のサウロは彼女から見ればどう映るのだろうか。
 サウロとしては、信用できる彼女にならばと、打ち明けることも出来ると思えた。
 これ以上親身になってくれる彼女に甘えすぎてはいけないと思う気持ちもあるし、
 関係性が壊れてしまうのも寂しいと思う気持ちもあるが、踏みだす勇気は得た。
 奇しくも、彼女が与えてくれたものだ。

 ──頭を傾ける彼女の笑う声がする。流石に少し恥ずかしいのか、サウロの眦は多少赤く色づいて。
 彼女の少し冷えた頬を、サウロの体温を移すように指が撫で、手首を返して掌が包む。
 テーブルに置いた手もまた、彼女の手に重ねて、その大きさの差が分かるように包み込み、
 軽く持ち上げて、手の甲へと軽く唇を触れさせる。)

「────貴女に受け入れて貰えるなら、幾らでも」

(柔らかく目元を和らげて、そう返す。
 見目だけで言えば彼女は小柄で、華奢で、年端もいかない少女ぐらいである。
 が、やはりその雰囲気だろうか、自分よりも年上を相手にしているような感覚がある。
 騎士という性分だろうか、それとも彼女の纏う雰囲気だろうか、彼女の前に跪きたくなるような心地を覚えながら、
 そのまま掌を下にして、エスコートするように差し出して。
 受け入れてくれるのであれば、そのまま席を立とう、と。)

ダアト > 包み込まれる掌に感じる熱は蜂蜜酒の様に染みこんでいく。
その感触を味わうように確かめるように暫く目を閉じていた魔女は
小さく笑うと再び青年と視線を交わす。
瞳の奥を覗き込むような、何処か面白がっているような表情を浮かべながら。

「……魔女、相手、に、剛毅、な、事、じゃ。
 多少、なり、と、も、躊躇う、とこ、ろ、じゃろ、う、に」

お伽噺の魔女であれば、それと契約したものは皆可哀そうな結末を迎える。
酒場で管を巻くような暴漢紛いの男達ですらそういうものだと知っている。
少なくとも、こんな風に接する相手と見る人間は少ない。

「……よい」

それでもこの青年は考え、奮い立ち、声を絞り出したのだ。
見上げる青年の僅かに朱が差した眦を見て嗚呼、美しいなと思う。
色々と葛藤もあっただろう。
それでも道を歩まんとする姿はまさに強く在ろうとする人間の有様で
……魔女はそういった人間がどうしようもなく好きだった。

「何処、へ、なり、とも……つれて、ゆく、が、良い。
 暫く、主、の、影に、なる、のも……悪く、は、ない」

そう告げると掌を重ね、僅かに引かれると共に立ち上がる。
教育を受けたのはずいぶんと昔の話だが、染みついた記憶と体が覚えている。
最も、あのころはもっと素直に受け答えをするように言われていたけれど。
……表には出さないが、羞恥心というものを無くしている訳ではない。
これくらいは大人ぶらせてほしい。

サウロ > 「魔女というより、貴女だからです」

(言葉を交わし、人となりを知り、信頼が置けると思った相手だからこそだ。
 魔女は魔女でも、彼女は良い魔女だと胸を張って言うだろう。
 まだ何を奪われたわけでもなく、むしろ与えられてばかりなのだから。
 面白そうに笑う彼女と視線を合わせれば、「あまり笑わないでください」と少しばかり気恥ずかしそうに言う。
 不慣れな誘い文句を面白がられているのかと思っているようで、もう少し女性を口説く台詞を学ぶべきかと真剣に考え込む真面目。
 自分から誘い、受け入れて貰って、少しばかり安堵する。
 彼女の大人の対応に、人はやはり見かけによらないものだなぁと実感しているようで。
 まさか彼女の内心がどうなっているかまでは、推し量ることは出来なかった様子。
 こういう時に気の利いた言葉が出てこないのだから、不慣れなのも伝わってしまうかもしれない。
 握った手を離さないように握りながら、奥ばった席から階上へと移動するだろう。

 ──彼女が注文してくれたものはきっと男を部屋に送り届けてから二人に合流する気満々だった黒猫が
 「なんでだよ!?」と言いながらも綺麗に平らげてくれるだろう。
 それと行違う形で、二人の姿は酒場の喧騒から遠ざかっていった──。)

サウロ > 【中断、継続】
ご案内:「平民地区・酒場」からサウロさんが去りました。
ご案内:「平民地区・酒場」からダアトさんが去りました。