2019/06/26 のログ
ご案内:「設定自由部屋(鍵付)」に竜胆さんが現れました。
ご案内:「設定自由部屋(鍵付)」から竜胆さんが去りました。
ご案内:「平民区中央広場」に竜胆さんが現れました。
ご案内:「平民区中央広場」にモリィさんが現れました。
■竜胆 > 平民地区の中央部にある広場は、交通の要所としても、待ち合わせの場所としても便利である。
中央ということはどこから来ても同じ距離であるし、乗合馬車が多くやってくる。
それに、大きな噴水があるから、そこを待ち合わせの場所にするのも楽である。
少女は、本日は約束をしていたので、噴水の近く、ベンチに腰を下ろしていた。
そして、本を開いて眺めるのだ。
お約束は昼間―――さて、どこをどういうふうに回ろうか、と少女は考えるのだ。
まあ、彼女が来てからでもいいかしら、とかそういう行き当たりばったりもあるけれど。
■モリィ > 慣れない私用での外出。生活用品や食品の買い出しではなく、誰かと連れ立って出かけるというのは思えば子供の頃以来だろうか。
こんな時どんな格好をすればいいのか、化粧はどのくらい手間を掛けたほうがいいのかと悶々としていたら、思った以上に時間がかかってしまった。
その割に服装は地味なワンピースに、化粧だってすっぴんを隠す程度にほんのうっすら。
悩みすぎて肝心の準備にかける時間がなくなったせいで、殆ど日常生活と変わらない格好にせざるをえなかった。
こんなことなら衛兵隊の制服のほうがまだマシだったろうかと悔やんでも、もう帰って着替える時間もない。約束の噴水広場にやってきて――彼女の姿は遠目でもすぐに分かる。
目立つ翼に尾、真っ赤な髪。そしてこうやって見てみれば、他の誰より輝いて見える。
本を読む姿がとても絵になっていて、思わず惚けたように見とれてしまうが、首を横に振って気合を入れ直して。
「ごめん、お待たせしました竜胆。ええっと……今日はお日柄も良く…………じゃなくて、よろしくお願いします」
彼女の前に立って、微かに高鳴る鼓動を心地よく思いながら挨拶を。
■竜胆 > 行き交う人々、未だに祭りが終わらないせいか、普段よりも酔っ払いが多い。
まったく、面白くないわね、と小さく息を吐き出して少女は本をめくっていく。
書物の中身は、簡単な古代語の書物であり、過去の記録という所。
別に、どんな本でもいいのだけれども、こういうのは読める人間が少ないから、良い、と思うのだ。
誰かが近づいて来るのが分かる、視線を上げれば、彼女がいた。
地味なワンピースに、うっすらとしたメイク。
彼女の様子には、少女は笑みを浮かべてみせる。
パタン、と本を閉じ、少女は近くに手を差し伸べる。
空間の魔法を起動し、そのまま本をその中にしまいこんで立ち上がる。
「こんにちは、モリィ。
今日も、可愛いわね、デート、行きましょう?
どこに、行きたいかしら?」
いきたいところなければ、まずはお昼から、と思うのだけれど。
少女は軽く提案をして、手を差し出す。
■モリィ > 竜胆の笑顔に、苦笑や嘲笑の色が混じっていないことに心底安堵した。
変ではなかった。いや、百点満点では無いだろうけれど、それでも落第点ではない装いだったのだろう。
ほ、と吐息を漏らしている間に、彼女は読んでいた本をどこかにやって立ち上がっていた。
座っていた彼女が立てば、自ずと顔が近く感じる。優しげで可愛らしく、それで綺麗な竜胆、その瞳に吸い寄せられそうになって。
「は、はいっ。デート!? あ、デート……ですもんね、これ」
改めて言葉にすると恥ずかしい。生まれて初めて、待ち合わせをしてデートにゆくのだ。意識すると心臓が四方八方に飛び出そうと暴れ始める。デート、そう、デートなのだ。これはやばい、死んでしまうかもしれない。
「え、えっと……時間も時間ですし、ご飯なんてどうかな、なんて。竜胆は何か食べたいもの、あるかな……?」
恐る恐る。一庶民である私の知っている店なんてたかが知れているし、あんな高級店に出入りしている彼女の口にあうかはわからないけれど、貯金をはたいて今日に備えておいた。
これだけあればある程度の店で食事できるはず。流石に富裕層向けのレストランなんかは厳しいけれど、でもここは格好良くご馳走したいなあ、なんて考えて。
■竜胆 > 個人的に言えば、化粧の匂いとかは、あまり好きではないので、あまり濃い化粧でないのは好感が高い。
ワンピースも地味というのは、彼女の性格からして仕方の無いところ、ここは、後で服の一枚でもプレゼントしちゃおうかしら、というところである。
落ち着いた服装というのは、良いと思うし、そもそも、遊びに行くのだ、身だしなみが整っていればいいと思うのが少女だ。
「あら、私とのデートは不服、かしら?」
そうは思ってない、彼女のワタワタした様子が楽しくてからかいを言葉にする。
そっと彼女の隣に立って、腕を絡めて握ってみせる。
「冗談、よ、あまり気にしないで?」
そう、行って見せて、自分よりも頭ひとつ高い彼女、その肩に、頭を寄せる。
―――角当たって、痛くないかしら、という心配はちょっとある。
少女の角はこめかみから後ろへ四角いのが生えてるから。
「食べたいもの……そうね、肉とか、お魚、かな?
女の子らしくはないけれど、ガッツリしたのがいいの。
味はともかく、いっぱい食べられるところが、いいな。」
とはいえ、半分は竜であり、その本能の方が欲してしまうのだ。
肉であれば、特に文句はないわ、と。
高級レストランよりは、大衆酒場とかそっちのほうがいいな、と彼女を見上げるのだ。
■モリィ > 「不服!?」
とんでもない、とブンブン首を横に振る。
むしろ楽しみなんだか緊張なんだか、昨晩は中々寝付けなかったくらいだ。
色恋沙汰とは無縁だと思っていた自分がこうなるとは人生わからないものだと妙に悟ったりもした。その後すぐ寝落ちたけれど。
「す、すごく楽しみでしたけど……デートだなんていうと、やっぱり恥ずかしいです。だってここ、往来ですし……」
知り合いにでも聞かれた日にはとてもじゃないが顔を見ることができなくなってしまう。
腕を絡める竜胆の手が、あの晩と変わらず優しくて、肩に当たる彼女の頭と角の感触が心地よい重みを与えてくれる。
寄り添ってくれるだけで心が満たされていくようだ。
緊張でガチガチになりながらもそっと手を握り返し、彼女に歩幅を合わせて歩き出す。
「あまりからかわないでくださいよ、私いま竜胆の一言一言で心臓が大変なことになってしまうんですから」
もう、と怒ってみせるが表情は恋した女性と共に過ごす一日が嬉しくて、喜びに緩んでしまっていていまいち迫力はない。
「お肉やお魚……この時間からやってるところだと……うーん、それじゃあ新しいお店に行ってみます? 私もまだ行ったことは無いんですけど、衛兵隊の先輩たちが結構褒めてて」
あの人達、自分の楽しみに関しては正直なんでそこそこ信用していいと思うんですよね、と普段頼りにならない汚職衛兵な先輩たちの唯一と言っていい美点を有効活用する機会が訪れたことに、お店が美味しかったら今度少しだけ優しくしてあげようなんて考えながら。
「何でも煮込んだ牛肉と玉ねぎをコメの上に乗せたシェンヤン風の……ドンブリ? とかいう料理らしくて。卵とチキンやポークカツなんかを乗せたのも美味しいらしいんですよ」
間違っても女二人のデートで行く店では無いような気もするが、デートに気合を入れすぎて上品な店ばかり下調べしていたのが裏目に出たので案内できる店はそう多くない。
美味しいといいな、なんて考えながら足取りをそちらに向けてみる。
■竜胆 > 「恥ずかしがることはないわ、だって。人は基本自分が主役の世界でモノを見るのだもの。
脇役[他人]にそんなに意識を払う人なんていないわ?
それこそ、このまっただ中で、裸になってまぐわったりしない限り、ね?」
余りにも変な行動を起こさなければ、別に女の子同士がイチャイチャしながら歩こうが、誰も気にすることはない。
大丈夫よ、と少女は笑う。
もし、気にしたり、いいよってきたときは、思い知るだけ、よ?と、目を細めた少女は囁く。
そそ、とした足取りで、少女も彼女の歩調に合わせる。
「それなら、その心臓が止まらないようにしっかりしないと。
でも、自信がないわ?」
嬉しそうに言ってくれる彼女に対して、少女は目を細めてみせる。
茶化したり、軽口行ったり、気軽なことをポンポンしたいと思っているし。
それに………。
「へえ?新しいお店、それは興味深いわ。
そこにしましょうよ。」
あまり外出はしない、というか、外出しなくても家のコックが美味しい物を作ってくれるのだ。
外出の理由はあまりなく、新しい店と聞けば興味が沸く。
「へぇ……聞くだけでも、美味しそうね。」
ドンブリ、たしかシェンヤンの方での食器だったか、サラダボウルににた陶器の入れ物だったはず。
そこに牛肉とか、玉ねぎとか、コメの上に乗せるらしい。
すごくガッツリしてそうだ、ウキウキしてしまう。
「食事を終えたら……次は、私のおすすめ、案内するわね?」
少女は、いい?と首を傾ぎながら、彼女とともに歩みを進める。
■モリィ > 「そうなんでしょうけど、やっぱり私は気になってしまって」
恥ずかしがらないでいい、と言う竜胆の言葉はきっと正しいのだろう。
しかし、しかしそこまで堂々と出来ない私は、ちらと目が合うだけで、視線を感じるだけで注視されているように感じてしまうのだ。
きっと相手は気にも留めていないのだろうが、やっぱり恥ずかしい。
竜胆と一緒に居ることが、ではなく、私なんかがこんな可愛らしい女性とこんなふうに親しげにくっついて歩いていていいのか、という自信のなさ故に。
「――ってま、まぐ……そういうことをお昼の往来で言っちゃ駄目!」
とんでもない爆弾発言に、ものの例えだと分かっていても焦る。周りを見回して誰も気にしていないことを確認して、小さくため息。
「竜胆は度胸もあっていいな。頼りになるっていいますか、そういうふうに堂々と出来たらいいんですけど」
衛兵、お巡りさんとしてなら堂々とできるが私人としてはとてつもなく引っ込み思案なのだ。そういう私から見れば、惚れた贔屓目を引いても竜胆は輝いて見える。
「止まった時は責任とってください。毎晩枕元に化けて出るので」
下手くそな軽口で応えながら、竜胆の笑顔にまた心臓が止まりかける。
卑怯だ、こんなに可愛いなんて。惚れた贔屓目を足して掛けて、その笑顔は心臓に悪いくらいにときめいてしまう。
「じゃあそこに。何を注文しようかな……」
どうやら竜胆は新しいもの好きなのかもしれない。思ったより乗り気な彼女と連れ立って、どんな料理なのだろうと想像を膨らませながら町並みを歩く。
「竜胆のおすすめ? た、楽しみなようでちょっと怖いかな……」
また目の玉が飛び出るほど高級なところとかでないといいのだけど。
ああいうお店は竜胆にときめくのとはまた別の理由で心臓が止まってしまう。
ともあれ、彼女が勧めるのであれば拒む理由はない。いいよ、と頷いて立ち止まれば、目の前に件のお店。
大通りに面した小さな建物を改装して店舗にしたらしい。
小さな酒場のような店は思った以上に賑わっているようで、これは結構待たされるかなと少し覚悟をするが、どうやら食べ終わればすぐに支払いを済ませて退店するのが暗黙のルールのようだ。
ゆったり落ち着いて食事できないのは残念だが、待たされること無く直ぐに食べられるのはありがたい。料理自体もさほど待つこと無く供されているようで、なるほどこれは庶民受けが良いわけだと小市民の一人として納得しきりで扉をくぐる。
「すみません、二人で」
すぐさま通された座席に、向き合うように座って。
それからメニューを見て、少し考える。
「……うーん、私はビーフドンブリに半熟卵をトッピングしようかな……美味しそうですし、看板メニューって書いてありますもんね。竜胆はどうします?」
ふと視線を上げれば、正面に座る竜胆の顔に見惚れてしまう。どの角度から見ても可愛い。好き。――落ち着け私、いくらなんでも陥落するのが早すぎやしないか。まだ腕を組んで手を繋いだだけだぞ。
■竜胆 > 「性分もあるのでしょうね?人を気にしていないといけないお仕事だし。」
憲兵というのは怪しい存在を探して見つけて捕まえる職業。
つまり、いろいろ人のことを気にしていないと、怪しい存在を見つける事もできない。
だから、人よりも人のことを気にしてるのだろう、と。
そもそも、竜である自分は、プライドの権化とも言えるぐらいに自分中心な性格だ。
故に彼女の性質をそんなふうに捉えたりした。
「あら、じゃあ、夜、人のいないところで……ね?」
思わず大声を上げる様が可愛らしくて、じゃあ、と耳元に囁いてみせる。
周囲を確認しているので、ほら、言ったとおりでしょう?と彼女を見上げるのだ。
「自分を好きになればいいのよ、度胸なんて、それに尽きるわ。」
少女は竜の性質全開のまま、彼女に言うのだ、そんなにおどおどしても、何もいいことないわ、と。
「あら、それは嬉しい。守ってくれるのね?
夜も毎日愛し合えるわね。
大丈夫と、この目は、幽霊もちゃんと見えるから」
軽口に、いいわね、それと、言ってみせる。
その時は、ちゃんと枕元だけじゃなくて、私の上に乗ってね、と。
「この看板メニュー。ポークとチキン、一番大きいの。
……一口だけ、味見させてね?」
二つ特盛で注文する。
ビーフは彼女が頼んだので、残りを少女は注文するのだ。
そして、一口ずつ分け合いっこしましょと、笑うのだ。
おすすめにちょっと躊躇する様子に、それは、ひ、み、つ、と指を軽く振る。
「―――なぁに?」
自分を見て、顔を赤くしたり頭を振ったり。
面白い様子の彼女に、問いかけてみるのだ。
■モリィ > 「人の居ないところでなら……いやそれでも駄目ですよ?」
危うく乗せられそうになったけど、そもそもそういうことは自宅とかで言うことですよと言い返す。
もっとも耳元での囁き声と、一緒に耳をくすぐる竜胆の吐息で顔を真っ赤にしていてはむしろ期待しているようにすら見えてしまうが。
「……ともかく、自分を好きに……というのはちょっと難しいです」
17年の生涯がこの性格を形作ったのだから、一朝一夕で変わるものとは思えない。
私が好きな私はお巡りさんである私で、そうでない私は地味だし可愛くないし無駄に大きい、おおよそ女性の魅力に乏しい存在だと思ってしまう。
だからこそ、真逆の竜胆にこんなにも惹かれてしまうのかもしれない。彼女と一緒に居れば、その振る舞いを近くで見ているだけで幸せになれるような気がする。
「……呪われるとか考えな、ま、毎日!?」
そりゃあ呪うつもりは無いですけど。叶うことなら死んでも竜胆と一緒に居たいですけども、毎日愛し合うってつまりそういうこと?
というか幽霊もちゃんと見えるって幽霊実在するの? 見たことあるの? と短いやり取りに詰め込まれた情報量の多さに混乱しながら、ぎゅっと竜胆の手を握りしめる。
――幽霊になっても竜胆と愛し合える生活なら悪くないかもしれない。どこかで殉職したら割と本気で幽霊への転職を考えよう。
上に乗るかはさておき。
「一番大きいの……」
周囲のテーブルを見る。
抱えるほどの器に山盛り、多分あれが一番大きいのだろう。
これがこの細い身体の何処に収まるのか。しかもふたつ。
竜ってすごい。私はそう思った。
「はは……分けっこはいいですね、そっちも気になってたんです実は」
チキンエッグドンブリはどうやらジューシーな鶏肉が売りらしい。
ポークフライドンブリはステーキのような豚肉を揚げ、チキンエッグと同じような卵で煮込んだものが乗っているとか。
竜胆とそれを少しずつ分け合うのが、なんだか親密な行いのようで嬉しい。
これからもいろんな物を分け合っていくのだろうか。そう思うと、勝手な未来予想図を描いてしまって顔が熱くなる。
「ふぇっ、な、なんでもないです!」
何、と問われて慌てて視線を井戸水の入ったグラスに移す。
まさか恋人みたいにあーんさせあう展開の妄想をしていただとか、言えやしない。
水をきゅーっと呷れば、この間の高級水には遠く及ばないがよく冷えた水の味で少しだけ冷静さが戻ってきた気がする。
そうこうしている内に、三つのドンブリがテーブルに届けられた。
湯気の立つ熱々のコメの上にこれでもかと乗せられた肉。これは美味しそうだ。
中央に鎮座する卵をスプーンの先で破り、流れ出た黄身を肉によーく絡めてから大きく一口分を掬い取り、掬い取り……
「あ、取り皿貰ってないですね……」
そもそもそんなものがあるのだろうか。無いかもしれない。少し逡巡して、解決策はあの妄想に頼るしか無いと決断に至る。
「……り、竜胆、あーん……」
震えるスプーンに手を添えて、こぼさないように竜胆の前に差し出す。
■竜胆 > 「むー。」
ぷく、とちょっと不満。
だって、そういう目的もちゃんとあるのだ、燃える下心、少女はしかし、まだ諦めてないしまた言おうなんて、思っていたりする。
「あら?私と付き合えるぐらいの魅力があるのに?
貴女を好きだという私がいるのよ?それでも、好きになれない?」
少女はそっと手を伸ばして彼女の手に触れる。
あなたに魅力を覚えて、貴女を求める女がここにいるのに、自分を認められないの?と。
少しぐらいは、認めてみればいいじゃないという竜の感覚。
「え?呪われてるじゃない。この国全部。
魔法だって、祝福だって、呪いだって……すべては、同じく作用するもの。
それが、プラスに行くか、マイナスに行くか、それだけの話でしょう?
毎日してほしーなー?」
簡単に言えば、バフとデバフである。能力増強の呪いに能力減衰の呪い。
イメージで、祝福と呪いに分けてるだけであるのだろう。
人って、不思議よね?なんて、言ってみせる。
毎日うえにのって、いちゃいちゃらぶらぶしないのー?と。
「うん、あれならちょうどいいかしら。」
一番大きい器を眺める少女は満足そう。
ドラゴンのお腹はそれなりにすごいのである、一番下の妹見たらきっと卒倒するだろう。
竜胆の三倍は軽く食べる。育ち盛り万歳。
「じゃあ、少しずつ交換しようね。」
にっこり笑いながら、自分の分をモサモサ食べ始めるのだが、その速度は速いのだ。
竜なので、ガツガツかっ込むようにしたいけれど、少しばかり我慢してお上品に。
それでも一回の分量は大きくパクパクモグモグと。
「ふふ、何でもないの?ほんとに……と、言いたいところだけど。
今はこれ以上は言わないでおきましょう。
ほら、冷めないうちに食べましょう?」
ね?と言いながら、丼をそっと手のひらで指して。
そして、あーんとスプーンが持ち上がる。
自分の方に差し出されるそれに対して少女は。
「あーん。」
ぱくん、と食べる。
お肉に沁みたたれが美味しいと思える。
これもいいわね、と思いながら、自分の方。
まずは、ポークの方を肉と一緒に掬う。
「はい、あーん。」
そう言って、モリィの方に差し出した
■モリィ > 「えっ、ええっ……」
不満そうに頬を膨らませる竜胆におろおろ。どうして、と理由を考えるけれど思い至らない。
自由を愛する竜の血族だと言うし、発言の自由を制限するような物言いが気に入らないのかも。
そう考えて、ごめん、じゃあせめて私しか居ないところだけにしてほしい、とお願いする。
「……う。そう言ってくれるのはとても嬉しいけど……ん、うーん。少しずつ、頑張ります」
竜胆が好きと言ってくれるのは嬉しい。心が弾む。でも、考えてみればそう言ってくれる人の前で自分に自身がないのは失礼なのかもしれない。
だから少しずつ、少しずつ自分が誇れる自分に、彼女が誇ってくれる私になれるよう頑張ろうと思った。
「……だからその時まで、見捨てないでくれると嬉しいな」
そっと寄り添ってつぶやいた。
「そうなんですか?」
学問としての魔法や、歴史にさほど興味のない小市民的衛兵としてはこの国が呪われているとは知らなかったことだ。
あまりおおっぴらに言うと貴族や王族がいい顔をしないだろうけど、竜胆なら大丈夫そうだと思ってその発言を諌めたりはせずに頷く。
「そういう考え方になるんですね。もっと呪いって恐ろしい得体のしれないものだと思ってました。魔法と同じようなものなんですね。なるほど……じゃあ幽霊って魔法生物とか精霊とかと同じ……?」
まあいいか、と深く考えるのをやめた。
もし殉職したら竜胆のところに出る。毎日彼女に乗るかどうかは、死ぬまでにその経験をするかどうか、それをどう思うか次第だろう。
乗らずにいちゃいちゃらぶらぶは……たぶん絶対する。今日突然死ぬのでもなければ、このペースだと絶対に遠からずメロメロに堕とされてしまうだろう。
「あれでちょうどいいって……」
成人男性でも苦戦しそうだな、なんて量をちょうどいいなんて言う竜胆に慄く。
あんなに食べるなら毎日の炊事が大変そうだ、というところまで考えて、いや何を自然に私が毎日竜胆のために台所に立つ前提で戦慄しているのだと脳内のエプロン姿の己をかき消す。
――もしそういう仲になれば、それも吝かではないけれど。
そんなこんなで竜胆がスプーンを頬張り、美味しそうにもぐもぐと可愛らしい頬を動かすのを楽しく見守る。
美味しそうに食事をする子は可愛いものだ。いつか私の手料理も――ってだから。
またも脳内に現れた主婦の自分を遠い未来に追い返し、竜胆の差し出したスプーンを……
そうだった。人にあーんする時は自身もあーんされることを覚悟せねばならない。
しかも、竜胆はさっき早速そのスプーンで美味しそうに自分のドンブリを掻き込んでいた。
「かっかか、間接……!」
間接キスだ。
間接キスである。
間接キスに間違いない。
どうする。どうしよう。どうしたらいい。硬直して考えるが、そのうちにもどんどん店のお客は回転していく。
時間を掛ければ店員から迷惑そうに見られるだろうし、休暇中とはいえ衛兵が市民に迷惑をかける訳にはいかない。
覚悟を決めろ私。目を瞑り、口を開けて、一息に竜胆のスプーンを頬張る。
もぐもぐと噛みしめれば、肉汁染み出す豚肉と濃いめの味付けの卵、そしてタレのよく染みたコメが美味しい。
「…………ぁ、これ美味しい」
目をぱちりと開けて、思わず顔を綻ばせる。竜胆と一緒というだけで数割増しで美味しく感じるが、それを差し引いても人気が頷ける味だ。シェンヤン風、侮りがたし。
自分の分のビーフドンブリを、竜胆ほどハイペースではないにしろ美味しく食べながら、この店が長く続いてくれることを願う。
また竜胆と食べに来たいな、なんて。
■竜胆 > 「仕方がないわ、ね。」
オロオロする彼女、しかし、謝罪の言葉に、軽く肩をすくめて見せるポーズをしてみせる。
しかし内心としては、まだまだ制限付きでも許可が来たので、ぐ、とガッポーズしたいぐらいである。
「ふふ、ええ……少しずつでいいわ、モリィのこれまでを否定したいわけでもないのだしね。」
自分に自信がない相手に、急に自信を持たせるのは難しいというよりも、洗脳のようなものである。
少しずつ、少しずつ、自身を持ってもらうしかないのだ、彼女がその意識を持ってくれただけでいい、と少女は思うのだ。
「判ったわ。大丈夫、よ。」
彼女と自分では生きる時間が違うのだ、その時までというのは少女にとってそう遠くはない。
だから、寄り添う彼女のほほにそっと手を触れて、なでて見せるのだ。
「ええ。この国は、神の加護に守られているのでしょう?
まあ、確かに言い方は悪いだろうけれど、さっきの論で言えば、同じなのよ。」
この国が呪われているわけではない、祝福されている。
つまり、魔法がかかっていることは間違いがなく、それを人から言えば祝福、魔族から言えば呪いであろう。
先ほどの言葉で彼女が理解したので、そういうことよ、と。
「なんだって、恐ろしいものよ?だって、モリィの拘束魔法、動けなくなったところで暴行加えられるし。
何者も、使い方次第なのよ。
魔法生物は、いろいろ種類あるからね一概には言えないわ。
精霊は、同じよ、自然霊が力を持って精霊だし、ね。」
幽霊は人の意思だけなので、そこまで力がないだけで、結果は同じくアストラルボディの存在でしょう、と。
少女はもしゃもしゃとご飯を食べながら、言って見せて。
「私は小食な方よ?
竜は基本一食牛一頭。」
そう、人竜だから、少ないのである、竜はもっと多くを食べるわ、と。
だから、基本はそれ専用にコックがいるのよ、とあまり外に出ない理由はここにあるのだ。
「もう、後ディープなのしてあげるから。」
間接キッスで動揺しちゃって、可愛らしい子。
でも、いまそこでまごまごするのはよろしくないわと、更に言っておこう。
とはいえ、すぐに戻ってきたので良かった、と思う。
後で、本当にディープなキッスをしてあげよう、決めた瞬間である。
「でしょう?」
美味しいと彼女が喜ぶ、少女は笑って次はこっちね、と鳥の方。
手早く食べて、次に移動しないといけないし、と。
さっきから見ているが本当に可愛らしいわ、と少女は思うのだった。
■モリィ > 「よかった……」
大丈夫、と受け止めてくれる、撫でてくれる竜胆に誇れる自分になろう。
彼女の愛を受けられるにふさわしい人間になれたなら、その時に改めてありがとうと言おう。
だから今は頬に触れる手に手を重ねて、その優しさに微笑むのだ。
「ふむ……捉え方、使い方次第ということですか。何にせよ、竜胆の知見は私なんかじゃとても考えつかないところまで考えてて凄いです」
この国全体に掛かった加護、または呪いなんて考えたこともなかった。魔法に詳しい竜だからこその視点なのだろうか。
幽霊についてもオカルトではなく理屈の存在として解説してくれる竜胆は、可愛らしい少女なのに頼もしい先生のようですらあって、そういうところにも惹かれてしまう。
「力は無いにしろ精霊と同じ存在……魔法をいっぱい研鑽すればもう少し力のある幽霊になれるのかな」
竜胆の枕元に立って、その、そういうことをするにせよ。彼女の守護霊のようなものになるにせよ。
吹けば消えるような幽霊より、もう少ししっかりした幽霊になりたいものだ。そうそう死ぬつもりは無いが、死ぬまでにもう少し魔法の練習をして魔力を鍛えておこう。
そんな真面目な話はさておいて、食事の続きだ。
自分の分のご飯を、我ながらハイペース気味に頬張りながら竜胆との間接キスの混乱を落ち着けようと努力する。
そんなところに投げ込まれる、竜の食事事情という豆知識。
「牛一頭って。一日三頭? いや野生動物みたいな食事なら数日に一食……? どちらにしても凄い……竜胆が少食で心底よかったです」
胸をなでおろす。下手をすれば毎日牛を捌くような生活をするかも知れなかったのだ。
竜胆が少食で本当に良かった。少なくとも人間の範囲での大食いなら、なんとかなる。
「ん゛ンっ……!!」
むせた。
ディープなのってつまり深いやつで、深いやつってつまりディープなキスのことだろう。
食事中にそういう性的なことを言う竜胆に恨みがましい目を向けながら、差し出されたチキンのスプーンをぱくり。
こっちも美味しい。どちらかと言うとこれが一番好きかもしれない。
もぐもぐと咀嚼しながら、頭の中は料理への感想と竜胆の豪快な食事姿への感心が半分、ディープなやつへの期待や困惑が半分でごちゃごちゃだ。
――気がついたら自分のぶんの器は空になっていた。後半食べた気がしないが、竜胆の完食を待っている間にお会計を済ませておく。
これだけ食べてお腹いっぱいになってこのお値段かぁ、安いなあ。
■竜胆 > 「モリィは、心配性。ね?
早く食べないと、ここでイチャイチャしてると……ね。」
もう少し撫で回したくもあったけれど、少女は手を離す、ここは回転率の速い食事処であり、ここでずっと食事をしていると近くの他の人に怒られてしまうのだ。
リア充爆発しろオーラがそこかしこに湧いてしまうのであろう。
まあ、リア充爆発しろ言われても、僻みねと鼻で笑って終わらせるのがこの少女だが、彼女はそうもいかないだろうし。
「そういうこと、なのよ。
まあ、ほら家にあった魔導書とか、書物を読みあさっているからね、腕のいい錬金術の師も、いるし。」
本人の前では絶対に言わない、一言を付け加える。
魔力等に関しては、少女はその竜眼で見ることが出来るし、見ると常時うっすら国中に魔法がかかっているようにも見えるのだ。
そして、魔術というのは超常現象を、理屈に落とし込み、技術とする体系であるから、彼女でも学べばわかるものであると思っている。
視界が違うだけである、と言いたいところ。
「ええ、ほら、リッチというアンデッドがあるじゃない、あれは本当に、魔法を研鑽した存在が不死を得ようと、己の魂を変質させて、崩れた亡骸に取り付いた結果、だもの。
肉体を捨てていれば、精霊クラスではあると思うわ。
―――リッチに関しては、私の見解なだけ、だけど。」
もぐもぐもぐもぐもぐ、ごくん。と食べて終えてから、少女は彼女に説明して。
魔法を研鑽するなら、手伝おうか?と笑ってみせた。
「そうかしら。あの巨体を考えると、牛一頭でも少ないと思うわよ。
とはいえ、基本的には、空気中にある魔力とか、そういうのも食べてるし、それでいいのかしらね。」
物理的な食事と魔力の補給、魔力で肉体を維持するなら、それでもいいのかも、とか。
そういえば、母は何を食べてあんなに小食でいいのだろう。
ふと、考えるも今は思考から追い出した。
「大好きよ、モリィ。
後で、とろとろになるくらいにしてあげる。、ね。」
むせた。
刺激が強かったらしいが、少女はウインク一つはなってスルー。
もぐもぎゅたべて、終わって。
視線を向けたら支払いをしているのが見えた。
そして、食べ終わったし、と立ち上がり、彼女の方へ。
彼女の腕を抱いて、胸を押し付けて。
「さ、次、行きましょ?」
次は、デザート、ねと。
■モリィ > 「知識が深いんですね。しっかり勉強している証拠で、偉いと思うわ」
こくりと頷く。本を読むというのは、平民には難しいが貴族でもしっかりやっている者はそう多くないとも聞く。
蔵書を揃えることはステータスだが、それを読むのは別。そういう貴族が豪華な書斎に価値ある本を集め、しかしそこから知恵を得ることもなくただ死蔵しているという話をちらほら耳にするが、竜胆はそうではないらしい。
そういえばこの間は図書館で会ったし、今日も待っている間に本を読んでいた。
学ぶ意志が強い人は好ましい。それは即ち真面目な人だから。
「あ、あー。リッチ、見たことは無いですが騎士団が稀に相手取ったりすることもあるとか」
へぇ、あれがそうなんだ、と納得しきり。なるほど確かに話に伝え聞くリッチの魔法の凄まじさは強力な精霊の一種なのかもしれない。
「え、いいんですか……? 竜胆に教えてもらえるなら上達できそうです。手が空いてるときにでも、ぜひ!」
ぱ、と笑みを浮かべて竜胆の教えを請う。竜胆ほどの使い手に師事できれば、仕事に役立つ魔法を覚えることもできるだろうし、更にはさっきの話ではないが仮に殉職しても竜胆と一緒にいられる。
しかもその訓練時間も竜胆と一緒なのだ。なんと素晴らしい提案なんだろう。
「…………わ、私も大好きですけど」
とろとろにされちゃうのか。怖いような、どこかで期待しちゃうような。
呼吸を整え、抱きついてくる竜胆に寄り添って店を出る。
「……すごくやわらかい」
いや、竜胆の胸の話ではなくてこれはさっき食べたお肉の話であって。
断じて抱きつかれた時に押し付けられた胸に、ちょっとキュンとしたわけではないのだ。
「ん、次ですね。デザート……ま、また高いところですか……?」
恐れおののくは先日の記憶。貴族向けのお菓子は流石に厳しいけど、竜胆がそう望むなら頑張らねばと気合を入れる。
■竜胆 > 「だって、魔導というのは……学ばないといけないもの。」
生半可な学術ではないのである、覚えることは多岐にわたるし、師がいなければそれが大変なのである。
それに、蔵書のほとんどは魔導書で……竜たちが集めているのをもらってきたそれを使うのだ
魔導書で魔術を覚え、魔術を学んでいるのだ。
そしてわからないことがあれば、図書館で足りない部分を補っているのである。
別に真面目、というわけではないのだった。
「なんというか、リッチは……いろいろ歪むから、正直モリィには目指して欲しくないわ。」
それに、死んでしまったら、それで終わり、そのあとを生き延びようなんて、生きる存在としては冒涜だもの、と。
死に関しては、野生の動物に近しいそれであるのだった。
「本当は……魔導師に学ぶのがいいのだけれど、私にはツテがないから。
あと、私の教えは、結構本能的よ?」
理屈がわかりきってないから、あやふやなところ多いからね、と。
本当は、自分だって教わりたいぐらいなのだ、が彼女と一緒に痛いし、というのが大きいのだ。
「じゃあ、後で、たっぷり、しましょ。
……うれしいわ?」
大好きだという言葉とともに、柔らかいという言葉、過去形でないので胸の話だと解釈。
もっと触っていいのよ、と押し付ける少女。
むにむにむにむに。
「……もう、恐怖症かしら?
平民地区にあるパンや、よ。普通のケーキだから。
お値段お手頃、がいいんでしょう?」
ちゃんとわかってるから、と。
頭をナデナデしてしまう少女だった
■モリィ > 頷くばかりだ。
私自身、魔法を身につけるまでは猛烈に勉強をした。幸いにも相性が良かったのか、本からの知識だけである程度まで完成させることは出来たがそれ以外の魔法はさっぱりだから。
師を持ち、学べば魔法使いになれるかもしれない。けれどそれは困難な道なのだ。
その道をゆく竜胆への憧れが募ってゆく。
「ん、はい。リッチになったらしわしわのミイラみたいになってしまいますからね」
見た目も劣化するし、魂も劣化する。そんな姿、もしなったとしても竜胆には見られたくないと思うだろうし。
人の域で頑張ろう。そう改めて決意する。
「本能的……私もそんな感じだから案外うまくいくかもしれないし。ふふ、楽しみにしてます」
「楽しみにしてるのは魔導の教えであって、後でたっぷりはた、楽しみにしてないですからね!」
押し付けられる柔らかいものに耳の先まで真っ赤になってごまかす。
とはいえ、まっすぐに欲してくれる竜胆と一緒にいると少しずつそういう行為へのハードルが下がっていくのは自覚するところではあるのだけれど。
……あとでたっぷり、かぁ。こんなに柔らかい竜胆とあとでたっぷり……ううっ。
「うん、お手頃が嬉しいです。きょ、今日はその……支払いは全部私が持ちたいから」
この間は竜胆にご馳走になってしまったし、そのくらいの見栄は張りたいのだ。
撫でられると目を細めて腰を曲げ、膝を屈めてしまう。竜胆に撫でられるのが思いの外気持ちいい。もっと撫でて、と言ってしまいそうになるのを頑張って飲み込んだ。
■竜胆 > 「寿命で、シワシワになるのはいいけれど、リッチでシワシワになるのは許さないから、ね?」
リッチは、人からは逸脱してしまっている、人として限界を超えるのはともかく、人外としての変質は、人では耐えられぬだろう。
見た目シワシワはともかく、それ以外のモノが人としての箍を外し、狂ってしまうのだ。
彼女のそんな変質は見たくはないのだ、とおもう。
「とりあえず、魔法に関しては、教えることはなかったから、手探りだから、ね。」
だから、許してよね、と少女は苦い笑いをこぼしながら、言って見せるのだ。
耳まで赤くしている彼女の様子に、ニマニマと妹のような笑みを浮かべるのである。
「楽しみにしてる、く・せ・に。」
真っ赤になっている彼女にたいして、すーりすーり、と腕に体をこすりつけるのだ。
身長高い彼女を見上げて、うふ、ともう一度笑って見せるのだ。
「……もう。
ええ、いいわ?今日は、ご馳走になるんだから。」
彼女のプライド、見せてくれるのだから、それに乗っかることにしよう。
撫でながら言って、教えるのは平民地区、商業ギルド近くのパン屋。
そこは彼女も知ってるだろう、安くて美味しいお店である。
■モリィ > 「ふふ、好きな人に学べるなんて嬉しい」
手探りだろうとなんだろうと、竜胆に学べるというのが重要なのだ。
不真面目ではあるが、こればっかりは仕方ない。
私のことを案じてくれる彼女であれば、妙な道に迷い込む前に引っ張り戻してくれるだろうし。
「たのっ、楽しみになんて……」
意地悪な笑顔で身体を寄せてくる竜胆にされるがまま。
柔らかくて可愛らしい彼女がくっついてくると、こちらまで妙な気を起こしそうになってしまうし、楽しみでないかと言えば、私だっていい年の女だ。気にはなっているけれど。
でも、彼女のように堂々とそれを認めることはまだ出来ないだろう。
「うん、竜胆にカッコいい所を見せたかったんですから」
彼女の引っ張るままに歩みを進めれば、何度か買いに来たこともある話題のパン屋。
「へぇ、ここってケーキも扱ってたんですか。竜胆、意外と庶民的なお店も詳しいんですか?」
店は知っていたけれど、ここでお菓子も手に入るなんて。
もう少し娯楽や嗜好品にも興味を持ったほうがいいのかなあ。これから竜胆とデート、することもあるだろうし。
■竜胆 > 「でも、モリィは、魔導の何を学びたいのかしら?」
最初のそれである、彼女が学びたいのはわかったが、何のために、何を学ぶのか、それが聞きたいのである、仕事もあるのだから、教えるところは絞らないといけないのだし。
彼女の仕事的なものであれば、あの捕獲の魔術で十分な気もするのだけれど、と。
「私は楽しみ、よ。
モリィと、体を重ねて……愛し合うの。」
こう、意地を張るような彼女に対して、少女は甘い笑いを浮かべて見上げるのだった。
彼女と、交わって、いやらしい事を……交尾をしたいと思うのは間違いないのだ。
「そういう意地は、可愛いって言うのよ?」
だって、子供の背伸び、みたいに見えてしまうのだし。
見えてくるパン屋を見ながら、少女にいって、心当たりないかしら?と問いかける。
「今の時期だから、売れるからね。
ほら、公主の降嫁の騒ぎで、いろんなところで甘いお菓子とか作って売ってるわ。」
最近できてるようなものだから、と少女は言いつつ、扉を開けてはいる。
普通のパンの香ばしい匂いに混じり、甘い空気も、はちみつや砂糖の匂いもしてきて。
ケーキ、楽しみ、と笑って。
■モリィ > 「何、っていうとなんだろう」
確かに竜胆の言う通り、今の時点で仕事上魔法が足りなくて困ったことはない。
でも、学びたい。その理由を深く考えてみると、それはどういう魔法を会得したい、とかではなく。
「学ぶために学びたい、というか」
これまでもほぼ独学に近い形で魔法を学んだのだ。そこに他者の知見を交えることで、理解を深めたい。
その上でどんな魔法を身につけるか、というのはまた未来の私が考えることだろう。
魔法に対して理解が深まれば、仕事上の困難にぶち当たった時にこんな魔法が必要だ、とすぐに理解することもできるだろう。そういう下地がほしいのだ。
それを得るのは自身の個人的な学びが重要だろうけれど、竜胆に師事することでその材料を得られる。
「だから極端な話をすれば、竜胆の話を聞きながら竜胆の練習を見せてもらうだけでもいいんですよ、多分」
そこで竜胆の使う魔法に興味を持てば、それについて教えを請うわけだし。
「…………う。ま、まあ、私も拒否はしませんけども」
今までの態度からすれば、それは同意に等しい発言だろう。
楽しみだ、とかしたい、なんて言えなくても、したい竜胆を拒まないという意思表示はイコールでこちらの胸の奥にほのかに目覚めた期待を伝えている。
「かわ……うっ、やっぱり竜胆には勝てないのかな」
心当たりは……まあ、やけに子供扱いされるのはよくあることではあるけれど。
「あー。公主さまのお祝いですか。あっちのことは殆ど軍や騎士団が仕切ってますから私達はさっぱり実感湧かないんですよね。あっちこっちのお店が催しをやってるのはそういう……」
言われてみれば、ちょうど時期も重なっているような気がする。
小麦とバターの焼ける匂い、そしてそれに混じった甘い匂いに期待を抱いて、ケーキの売り場へ竜胆と二人で寄り添い歩み寄る。
■竜胆 > 「………んー?」
彼女に何を学びたいのか問いかけたが、それに対しての返答に関しては彼女からも上手く返答が帰ってこない。
彼女自身が何を学びたいのかがわかっていない模様、さて、どうしたものだろうか、と首を傾いでしまう。
しかし、次の返答で、なるほど、という理解を覚えることにしたのだ。
彼女の魔法も自分と同じように、基礎ですらないのであろう。
「わかったわ、つまり基礎が知りたいということね。」
基礎に関しては、本来は学校に行けばいいのだろうけれど、彼女にはその時間はないのだ。
自分もいい復習になるだろう、それならそれでいいか、と思うことにした。
「私が使う魔法は多岐にわたるし……今は錬金術も使ってるし。さて、どうしたものかしら、ね」
彼女の必要とする技術と、自分の学ぶ技術はさて、上手く噛み合うのであろうかと、首を傾ぐのだ。
「うれしいな、じゃあ、もっとグイグイ、言っちゃお。」
否定はしないという言葉に対して、嬉しそうに笑ってみせる。
覚悟してよね、なんてことも言って見せようか、彼女の期待に応えて、そのうち彼女を物にするわ、と。
目を細めて笑う少女、勝ち負けの話じゃないと思うんだけどな、と。
ケーキの近くに移動する彼女に寄り添いながら、私はこれ、とシュークリームを。
生クリームたっぷりの大好きなケーキ。
■モリィ > 「そういうことになると思います」
基礎がなっていないまま実践レベルにまで磨いてしまった魔法。
それをより洗練し、矯正するのに基礎知識は必要だ。
我流とは言え私よりうんと理解が深く勉強熱心な竜胆であれば、基礎を学ぶにこれ以上無い先生になってくれるだろう。
「何でもいいんですよ、竜胆のやり方で教えてください」
噛み合うならそのまま飲み込むし、噛み合わないなら本を読むなりしてすり合わせていくことはできるはずだ。
むしろ色々な魔法を使える竜胆だからこそ、そこらの教師以上に広い視野を持っているかもしれないし。
「……えっ。あ、あまり勢いよく来ないでくださいよ?」
覚悟してと言われれば身を跳ねさせてしまう。
竜胆がこれ以上の猛攻を仕掛けてくれば、もう耐える自信はない。
あれよあれよという間に裸で彼女の寝床に収まる羽目になるだろう。
――嫌じゃないけど。嫌じゃないけど!
そうして賑やかに談笑しながら、可愛らしく並んだケーキの前にやって来た。
竜胆がほとんど即決でクリームたっぷりの物を選ぶ一方で、目移りしながらうーんとケーキを物色する。
悩ましい。どれも美味しそうだからなおさらに。
悩んで悩んで、うんうんと唸って、お芋のケーキを選ぶ。
タルトの上によく裏ごしした芋のペーストが、まるで麺のように細く渦を巻いて盛ってある可愛いやつだ。
甘いお芋は大好きだし、チーズケーキと最後まで悩んだけれどこれにしようと決めて、店員さんにケーキを取ってもらう。
お支払いを済ませて、竜胆に買えましたよ、と微笑んだ。
■竜胆 > 「じゃあ、基礎を覚え直さないといけないわね。」
自分の中では基礎を覚えているつもりだが、つもりで終わってしまっている可能性があるのだ。
良い機会に初級の魔導書を引っ張り出そう……どれが初級だったかしら。
少女は自分の部屋の中を思い出す、多分彼女が自分の部屋に来たら驚くだろう。
部屋の中は、下から上まで本、本、本……という状況なのだから。
「任せておいて。」
なんでもいい、自分のやり方でいいというなら、少女は軽くウインクしてみせる。
とりあえずは、基礎の魔導書を引っ張り出しておくね、と。
「だーめ。
ちゃーんと、うけとめてね?」
竜の勢いです、ぐいぐいぐいぐいいきます。
肉食動物全開の少女は、目をキラーンと輝かせる。
現地はとった、とばかりの雰囲気であるのです。
それに、さっきの約束もあるのだし。
「じゃあ、あそこで、食べましょう?」
そう、彼女に笑いかける少女。
指さした先には、テーブルとベンチ。
こういう場所は、基本的に食べる場所があるから、買ってその場で食べることが出来るのだ。
それとも、二人きりになれるところに行く?と目を細める。
■モリィ > 「そこまでしてくれなくても……ううん、ありがとう竜胆、嬉しいです」
自分も学び直さなければ、と言う竜胆を慌てて止めようとして、思いとどまる。
そうまでしてくれる好意に甘えよう。本当に大変だったり面倒なら彼女はそう言ってくれる筈だし、そうでないからあんなふうに任せろと言ってくれるのだろう。
彼女のウインクに高鳴る心臓を押さえて感謝を込めて竜胆と繋いだ手を引っ張ってその頭に頬を寄せる。
事あるごとに人ではない竜だと言う割に、竜胆の髪からはふわりといい香りがした。
「……………………………………うん」
それからグイグイ来る竜胆に顔を背けて、多分耳が赤いから顔も赤いのはバレているだろうけれど、受け止めてねという彼女の言葉に頷いた。
多分理性が最後の一歩を踏みとどまっているだけで、心と本能はもうバッチリ完全に竜胆のことを受け入れているのだ。
1:2、2/3の過半数で竜胆受け入れ派の勝利なのだ。彼女が求めてくれるなら応じよう。表には出さないが、内心では殆どその方向で定まりつつあった。
「はい、じゃああっちで…………」
ケーキの乗ったトレイを持つからと竜胆の手を名残惜しみながら離し、イートインスペースにケーキを運ぶ途中でぴたりと動きが止まる。
そのままぎぎぎ、と錆びたおもちゃのような動きで踵を軸に180度反転して、ケーキ売り場のカウンターへ。
二言三言店員さんと話してから竜胆のもとに戻った時には、トレイの代わりにケーキの紙箱を手にぶら下げていた。
「…………えっと、あはは……」
魔法を教えてほしいなんてお願いも快く受け入れてくれて、自分に自信のない私を受け止め叱咤してくれて、助言をくれるし甘えさせてもくれるし、何より愛してくれる素敵な人竜。
今日のデートで彼女への好きはみるみる膨らんで、その……ベタベタくっついていちゃいちゃしたいのだ、とても。
公共の場でそういうことをしてはいけないという最後の理性が奮戦していたところに、竜胆自ら破城槌のような提案をしてくれたお陰で理性が吹っ飛んだ。
――二人きりになれるところなら誰に憚ること無くいちゃいちゃできる。
恥ずかしいけれど、それを誰かに見られることがないと言うだけで気がとても楽になるだろう。
理性は負けた。テイクアウトの紙箱を手に、竜胆の手を取ってしっかり指を絡めた繋ぎ方をして、お店を無言でつかつかと足早に出る。
■竜胆 > 「思いとどまってくれて嬉しいわ。」
一々の説明が必要なさそうで、安心したように少女は笑ってみせた。
まあ、彼女は頭は悪くないので大丈夫だろう、と思っていたけれど。
そして、匂いを嗅いでくれる彼女には、小さく目を見開いて。
「いぇい。」
嬉しそうに、同意をしてくれる彼女に、少女は軽く跳躍して。
じゃあ、行きましょうか。
真っ赤になって、自分の手を引いてくれる彼女、じゃあ、こっちに行きましょうと。
少女もまた、一緒に去っていくのだった。
ご案内:「平民区中央広場」からモリィさんが去りました。
ご案内:「平民区中央広場」から竜胆さんが去りました。