2022/12/25 のログ
■ヴァン > 時間が経ち、賑わっていた店も少しづつ客が帰っていく。
「今年は……いい年だったな。親父と和解できたのは予想外だった。
色んな人と知り合ったし……酒量も減ったな」
今の己の身体は、己一人だけのものではない。
立場ある人間が自分を律する、あるいは他者からの忠告として使われる言葉だ。
男にとっては、文字通りの意味になる。身近な者との感覚共有。
「これを飲み終わったら終わりにするか。明日も早い」
これまでの男ならば毎日スタウトを6杯、3リットルは飲み干していた。一日中身体からアルコールが抜けない状態。
今日はその半分だ。それでも半日は酒が残っている勘定になるが……。時折飲まない日もある。
アルコールへの逃避は少なくなっているようだった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」にマーシュさんが現れました。
■マーシュ > 夜も更けて、人々が帰路につき始める中に、訪う一人。
小さな靴音と、外気の冷たさを伴うことに申し訳なさそうにしつつ扉を開いた。
「────、……こんばんは?」
酒場の扉をくぐり、顔見知りの女店主などに挨拶を交わして。
それからカウンターで一人酒を煽っている知己にゆっくり歩み寄ると挨拶を向けた。
いつものそれ、ではあるものの……普段より祭事が多かったせいで多少くたびれた風味はにじんでいるのかもしれない。
■ヴァン > 店から出る者達が入口の扉を開けていく中、来客を告げるドアベルに顔を向ける。
元々穏やかな表情ではあったが、誰かがわかると口許の笑みが深まった。
「やあ、久しぶり。冬至祭も終わって、一段落ってところかな?」
右手をあげて挨拶をした後、男の隣、入口から遠いスツールを引いて座るように促す。
僅かに残っていたスタウトを飲み干すと、店主に酔い覚ましの水を頼んだ。
この前会ったのは、ラインメタルから戻り王城に赴いた時だったか。
服装を見るに、主教の祭祀は多くが片付いたのだろう。
「何を飲む?……なかなか連絡がとれず、すまない」
魔導具でやりとりをすることはあっても、纏まった時間がとれなかったことを詫びる。
■マーシュ > 落ち着きつつある酒場のざわめきを感じながら、交わす言葉に、女もまた緩く笑みを向ける。
「お久しぶりです、……そうですね、今宵の分は終わりましたので」
促しに応じる様に引かれたスツールに腰を預けると、互いの近況などを改めて口にするも──祭事は日をまたぐこともあるし、微妙なところを告げて。
取りあえず時間ができたので顔を見せに来たのだけれど、思えば少し間があいてしまっていたことに互いの言葉でようやく認識する程度には、忙殺されていた。
「ええと……ワインか、水でお願いいたします」
前者はともかく後者は酒場に対してはあまりそぐわないだろうことは自覚しつつ、いつもの注文を返した。
続く詫びの言葉にはこちらも首を横に振り。
「いいえ、忙しいのはお互い様ですし。ヴァン様はお仕事がふえたのでは?」
実家と和解し、王都と所領のパイプ役になったのであれば、それなりにこなさねばならない事務仕事も増えるはず。
そんな言葉をつらりと告げて、それから少し苦みを孕んだ笑みを浮かべ。
「私も少々勤めが立て込んでおりますので、致し方ないかと」
今宵はそんな中でもたまたま時間が取れたから挨拶に赴くことができたのだと静かに言葉を重ね。
■ヴァン > 「そうか、何日か続くこともあるものな……お疲れ様」
女性店主はにこやかに注文を受け付けると、店の中で上等な部類のワインを樽からグラスに注いだ。
マーシュへ提供した後、当然のように男の注文票にさらさらと書き加える。男と店主の視線に火花が散った気がした。
「そうだな……増えてはいるが、まだこれからかな。政治というより、商人みたいなことをしている。
元々うちの家は内政重視というか、王都の政治に興味がないんだ。隣国とも貿易でうまくやってて、国境問題もないし。
どちらかというと、領地が近い貴族との貿易や魔族の国周辺を治める貴族への資金調達が多い」
この3週間ほどであったことを思い返す。王城や富裕地区に赴くことは増えたが、まだ忙殺されるほどではない。
苦笑を浮かべた相手に不思議そうな顔をする。
「年が明ければ少しは落ち着くのかな。お互い、体調には気をつけて過ごそう」
水が入ったタンブラーに口をつける。ふと何か思い出したのか、数秒口をあけた状態になった。
周囲を見遣る。この場で話すべき内容か迷っているようだった。
■マーシュ > 「ええ、ありがとうございます」
………オーダーをしたのは己なので、己の伝票につけてくれてもいいのだが、と女店主と、男の無言のやりとりを眺めながら困ったように笑って見守っていたのだが。
「……商人?」
不思議そうに言葉を鸚鵡返しに。
神殿騎士、が本分のはずだが、司書や、そして経営者という面もある。
また一つ彼の職位が増えたということなのだろうか、なんて無言のまま思うのだが、国境付近の安定のための資金調達ときけば納得したような表情を浮かべた。
「いえ、これからまたしばらく忙しくなりそうですから───、ええ、新年の祭事を終えれば少しは……?」
末端と言えど、……否、末端だからこそやることは増えるものだ、なんて応じて、渡されたワイングラスに唇を寄せる。
………普段口にするものよりも大分上質なものであることに気が付いて、僅かに眉を上げたが何も言わずにそのままゆっくりと味わうことにした。
だからこそやや長く落ちた沈黙に気が付いて、どうかしましたか、と女の方から水を向けた。
■ヴァン > 店主も男も女の視線に気づいたか、にこりと微笑む。
雇用主と雇われ店長というよりは腐れ縁の友人のようだ。
「貿易や流通は商人に任せていたが、それだと一部の地域には物資が届かなかったり、余計な費用がかかっていたりするんだ。
それで、周囲の貴族から必要な物資を聞いて、管轄下の商人に依頼をするんだ。その折衝役をしている」
魔族の国との国境では多額の費用がかかる。武器・兵士・兵站。全てに金がかかる。
平和な国境を治める領主としては、血を流すのではなく金を送るのが国への貢献となることを知っている。
末端のくだりには曖昧に微笑んだ。男は店の経営者として使う側でもあれば、家のパイプ役として使われる側でもある。
図書館の副館長という中間管理職でもある。年の瀬になるとどの立場でも仕事は増えるばかりで減る気配が見えない。
水を向けられて、再度周囲を見渡した。誰も彼も酔っていて、素面なのは相手と店主のみ。意を決して口を開く。
「あぁ、いや。故郷に戻るきっかけになった、調査の話をしてなかったと思ってさ。
結構、収穫があった。どうやら、当時のラインメタルでは大きく分けて二つの神が信仰されていたらしい。
ヤルダバオートと、名前はわからなかったが一柱の神。例の祭りは元を辿ると宗教対立が背景にあったようだ。
とはいえ、主教が辺境の土着宗教を教化した、という風でもなかった。まるで同じ宗教の派閥争いのような――」
百年単位の過去の話。旧い文献や石碑、口伝などから辿り着いた結論。男は酔ってはいるが、目は真剣だった。
結局全てはわからなかったと肩を軽く竦めてみせる。
■マーシュ > 二人のやり取りに女もおかしそうに笑って、そのある種軽妙なやり取りを楽しんでいる。
雇用関係らしいが───あまりそういったことは感じない間柄だった。
「流通などには詳しくないですが、窓口を一つにして一括で買い上げたほうが安くなるのは、理解できますね」
宗教関係者と言えど、金銭のやり取りがないわけではない。
個人ではあまり意識はしないが、組織としては、商用の取引がなされているのは確かだ。
その手続きの補佐などに追われていたのを思い出して僅かに眼差しが遠くなるけれど、首を横に振って思考を切り替え。
ワインを片手に耳を傾ける話などではなかったのかもしれないが。
さほど口にしているわけではない。
意識や思考能力は確かなままだ。それを理解しているからかややあってから届けられた言葉に興味深そうに双眸を瞬いた。
主教は一神教ではなく、多神教。
それ故にほかの信仰を取り込み融和的に教化することも行っているからこそ、ある種の寛容さを持ち合わせている。
それ故に対立、という言葉が意外で沈黙したまま耳を傾ける。
「……わからないよりは、と思いますけれど……過去のことを調べるのは難しいですね」
何もかもが明確になったわけではない、とくくられた言葉に対しての言葉をやや慎重に選ぶのは己が宗教関係者であるからだ。
たとえ、己の属する機関が清廉なばかりではないと知りつつも、だからと言って主神に相当する存在についての言及は憚られる。
真剣な相手の言葉を勿論否定するつもりはなく、興味深い話であると受け止めた。
事実、興味深い。
王都に残っている、己が閲覧できる資料には記載のないものだからこそ。その霧に包まれた部分を照らす情報は何となく探究心や好奇心をくすぐられるものだった。
■ヴァン > 「そんな所かな。うちは舶来物を扱うから、特にね」
必要な所に必要な物がいきわたるように、その過程で暴利を貪る者が出ないように計らう仕事。まるで商人ギルドのようだ。
己の現状に、本当に商人みたいだ、と口にした。
「現地に赴いて、初めてわかったことばかりだ。故郷のことなら何でも知っているつもりだった。
知れば知るほど、いかに自分が知らないかがわかってくる。いい経験になったよ。
知識は文献だけじゃない。有形無形の文化となって残ってるんだな」
一度聖印に手を伸ばして、すぐ離した。まだ話していないことがあると伝えるサイン。
聖印を掴んで念話をしないのは、この場所では傍受される危険性を警戒しているのだろう。
これまで語ったのはいざとなれば酔っ払いの話、大昔の話として流すことができる。
「あの祭りも、いずれは起源を多くの人が忘れて、ただ秋の終わりに行う祭りになるのかもしれない。
それがいいことなのか、悪いことなのか――俺にはわからない。資料として残らないのには、それなりの理由があるんだろう。
さて……今日はどうする?飲み終わったら王城に帰るかい?」
外を見遣る。ここ数日で急に冷え込むようになり、男は朝夜にはジャケットの上にコートが必要か考えるようになっていた。
挨拶で顔を出したのだから、長時間の滞在は考えていないだろう。ただ、一度室内の暖かい空気を知ると外出は億劫になる。
女性店主は男の伝票を手に取って、宿泊の記入をするかどうか女の返答を待っているようだった。
■マーシュ > 「お茶なんかがそうでしたね」
あまり多くを聞いたわけではないし、自ずからそういったことを聞き出す性分でもないからそれほど知っているわけではないが。
聞き知った情報を記憶からひきだして応じた。
「実際に目で見て触れて、得たものが多いのでしたらそれはいいことではないかなと。個人的にはご家族と和解できたのがうれしいですが───?」
相手の仕草を目にとめて、訝しそうに目を細めるもののその場で何かを紡ぐことはない。
念話として言葉を届けることは可能なはずだが、そうしないことにもおそらく理由はあるのだろう。
手にしたワイングラスを軽く揺らし、香りを立てる。
一口二口、と傾けてゆけば徐々に残りはなくなってゆくのを少し名残惜しく感じながら。
「───当時の人が記録に残さなかった理由もあるとは思います。……私たちは当時を生きていたわけではないですから、ヴァン様がお祭りに感じている思い出や記憶を、大事にできればよいのではないでしょうか?……私にとっても、一つの思い出になりましたし」
何があったというわけではない。ただ穏やかな時間だった。
けれどそれを重ねられることは、戦もまだほど近い現状では大切なのではないか、などと紡いで。
「そうですね、少し疲れていますし──部屋を取ってもよろしいでしょうか?」
僅かな目配せは、まだ何か話したりないことがあるのではないかと問うようなそれ。
己のその言葉が、誰の伝票に影響するのかは───、女店主の手元を見れば明らかなのに小さく笑いもして。
そののち、女自身の希望を告げることになった。
■ヴァン > 少し驚いたような表情。
「そう。ほとんどのお茶は王都に一度海路で運ばれてから陸路で各地に向かう。
場所によってはラインメタルから近くの港に寄港させて陸路を使った方が安くあがったりする。
あぁ、親父と和解できたのは予想外だったが、本当にいいことだった」
己が話したことを覚えていてくれたことが嬉しいのか、にこにこしている。
家族のことに言及されると、謝意を伝えるように頭を軽く下げた。
「残せなかったか、残したくなかったか。
マーシュの言う通りだな。俺達は今を生きている。それを大事にできればいい」
部屋をとるという言葉に女店主はにこやかに笑うと、親指と人差し指で輪を作り毎度、と返答した。
すらすらと伝票に連ねた後、カウンターの壁側にある鍵かけから一つを手に取った。
カウンター席に並ぶ二人を交互に見比べて、からかうようににやにや笑う。
『この鍵、ほんまに使うんか?』
男は笑って誤魔化すのみ。女はさて、どう答えたか――。
■マーシュ > 機嫌のよさそうな相手に、女もまた穏やかに応じる。
向けられるしゃいに対しては大したことはできていない、と応じるのは変わらないのだが──。
「そのこと自体を想像したり、物証を集めてゆくことは楽しいとは思いますけれども」
過去に起こった出来事。それらは一服の絵画に込められた謎かけの様でもある。
それを一つ一つ丁寧になぞっていくのは、己も嫌いではないからこその言葉を。
女店主の機嫌がよくなるのは、売り上げとして数えられているからか。
オーナーの伝票に記載していたらあまり意味はないように思うものの───鍵を手にして、揶揄うような言葉に対して、女は頬を染めた。
なんといっていいのか。笑ってごまかしている男は助けてくれそうにない。
少しだけ賑やかな時間を過ごしたのち、女店主の鍵を受け取って階段を昇って行ったのは確かだ。
その後は女店主の想像通りとなったのかは定かではない──。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」からマーシュさんが去りました。