2022/09/04 のログ
影時 > ――そう。利便は向こうからやってこない。代価を支払わない限り、起こりえない。

然るべき代金を払えば、サービスが回る。便利になる。快適になる。
物事には裏表があることが分かっていれば、適度な使い方を心掛けることができる。
とはいえ、知らぬ土地で利便を望むというのは、実に大変なことである。

異国の地の日用語の体得、習得はまず序の口。
だが、この国のようにある程度根差して、拠点を据え、諸々の信用を得るというのは、易いことではない。

「……嗚呼、無いわけじゃァないが、それは大体山の上から下に降ろす方だな。
 製材した材木を運び上げるのは、牛馬の類を使わないと易くねぇ仕事だ」

伐採した原木、丸太の類を筏に組んで川で流すというのは、場所によってはよく見るやり口である。
だが、位置エネルギーの考え方に基づいたロジックに逆らうやり方、手段というのは労力が掛かる。掛けざるを得ない。
まだ現地で伐採した丸太から切り出し、材木としていく方がまだ多少はやり易いところであった。
故郷まで飛んで行った弟子が何をやらかしていたかは、流石に知らない。
しかし、間違いなく驚嘆しただろう。
龍ならぬ竜の子とはいえ、そんなものが不意に現れ、跋扈するというのは、新手の狐狸魔性の類と疑っても不思議ではあるまい。

「おう、呑め呑め。一滴も残してしまうにゃ、どれもこれも惜しい奴だ」
 
この幼女は酒を飲み、好める。であるがゆえに、分け振舞うことに特段ためらいもない。
樽を何個も干すような呑み方をするものではないが、予め何本も頼んではいる。
呑み切れなければ未開封のものを持って帰ってもいいが、開封したものは呑み切らなければ、悪くなってしまう。それはもったいない。

酒肴の類が欲しければ、背にした奥の部屋のテーブルに幾つか並んでいる。
生魚や生肉の類ではなく、火を通したものが多いが、腹を満たすには十分だろう。

ラファル > 対価と、代価をもって、食料、労働、品物、様々な物事を解決していく。
 だからこそ、快適を求めて、人は金を集めて、サービスに交換していく。
 そんな、ポイントを貯めて、吐き出すような生活をぐるぐると回して、世界が回っているのだ。

 しかし、しかし。
 面倒くさいことに、国によって、対価は変わる。代価も変わる。
 師匠の国では、大判小判と言った、金の板、この国ではゴルドという金貨。
 それに、その金の塊に依っての価値が変わり、使えなくなる。
 それを考えれば、師匠はとても大変な思いをして、今の場所を得たと言えるのだろうか。
 出会う前の彼を、深く知る訳ではないので、何とも言い難い、他の人より知っていると言っても、本人の事を知らないことだらけだ。

 師匠にとっても、ラファルにとっても、知らないことは、未だに多いのだ、と言って良いのだろう。

「そうなんだね。
 師匠の国は……魔法は。」

 言いかけて、止まったのは思い出した。
 あの国に魔法というのは一般的では無かった、魔法という名称すらなかった。
 陰陽道だの、妖術だの呪術だの……そんな表現の上に、一部も一部、此方の魔法使いを10分の1の確率にした程度の人数。
 自分の肉体を強化する魔法すら、無かったように思える。
 ああ、と落胆の理解の声を零すのだ。
 退治しようとしていた陰陽師たちを脅かして、左無頼達を吹き飛ばし。
 新たな怪異として思われていたかもしれないけれど、知ったことない、だって、此処にいるのだもの。
 向こうの竜種ともかちあうことなかったし。

「いいお酒でスナァ。」

 にひひぃ、とお酒を一口、桜色の唇を吊り上げて、にっかぁ、と笑って見せる。
 酒精を、樽事ぐびぐびするのも好きだし、このようにちまちま飲むのもだって好きだ。
 唯々、お酒を飲むなら。というわけでもなくて。

「あい、追加。」

 お酒の席なら、お酒を一つは持って行くのが酒飲みの礼儀。
 樽に込められた、芳醇な匂いの、焼き酒。
 麦から作られた、エールに、蜂蜜酒
 いくつか持ってきて、好きなもの飲もうよ?と、コトンと首を傾ぐ。

影時 > 幸か不幸か、物覚えは良いのは幸いした。
他所の国の言葉でも、通じる言語があれば、それを取っ掛かりとして片言程度から習得を始めるのは不可能ではなかった。
そうでもしなければ対価となりうる労働、仕事を得ることはできない。
あるいは手持ちの財貨となる金銀珍品を交換し、当座の資金とすることもできない。

旅した中で、大体が金貨もしくは銀貨、または銅貨を通貨としていたのは助かった。
国が変われば、貨幣の「貝」の字の成り立ちの如く、希少な貝殻を通貨としている事例があったそうだ。
大判小判、はたまた自然金の塊、砂金の類を始末を兼ねて換金という手管ももちろんあった。
故郷の場所によっては、一定の価値を保証する紙幣の概念があったが、保証を担保する国がなければそんなもの、意味がない。

「……――陰陽道、呪鬼、他に何があったかね。流れ込んできた道術の類もあったか?
 この国で云うところの魔術、魔法とは違う絡繰り、ろじっくとやらの奴だ」

興味あるのか?と。何か言いたげな様子も見えた弟子の言葉を酒交じりの思考で耳を傾けつつ、心の中で指折り数える。
侍の数と比べて、忍者と同じくらいに巷間に溢れた、物珍しい類と云える術体系だ。
己が振るう忍術はどちらかといえば、そういった術の流れを取り入れている方だが、往々にして王国で聞く魔法に近いものではある。
とはいえ、絵物語などで見聞きするような派手派手しい印象はなかったか。

「舶来だろうが、船旅を耐えて無事にこっちまで行きついた奴らだ。云わば、面構えも違う」

安酒――かもしれないにしても、易くない船旅を経て、この国に入ってきたものだ。少なからず相応に値も張る。
新鮮な魚介類を捌いて炙り、香味の類と一緒に食うような肴や、米の類も欲しくなる味わいである。
掃除、整備の前提とはいえこの庵を借りていられる時間はまだある。
宿をもし出るなら、こういったものを買い上げて住みかにしたいものではあるが、ちまちまと干すだけでも事足りよう。

「ったく。どこから出した、とは聞かんが、やっぱり一つくらいそのうち頼むかね。氷か水の類はあったかな……」

そのうえで、弟子が酒を出して、追加してゆく。
何処から出したかとは、聞くまい。恐らくはそういった諸々を収納できる魔法の鞄か袋の類であろう。
開けたままにしていた酒瓶の口に栓をして草履を脱ぎ、奥の部屋のテーブルに歩もう。
肴と一緒に伏せていた酒杯の類も、そこにある。酒を混ぜて飲むやり方も嫌いではないが、味わいながらとなると、そうもいかない。

ラファル > 「神道てのもあったと、思うよ?
 んーん、興味は薄い、かなー?信仰魔法……僧侶さんの魔法に近い気もするし。
 おいちゃんの教えてくれる忍術で十分。」

 忍者の技術は、何方かと云えば、技術を体系化し、作り上げているようにも思える、師匠の言う通りに、ロジックの方だから。
 ラファルでも覚える事が出来たのだろう、魔法と同じように体系を組んでの物だったから、だ。
 一定の行動行為から紡ぎあげて作られる特殊技術、なのだ、と。
 それに、感覚的な魔法で言うなら、精霊魔術があるし、風の精霊魔術があるので、これ以上欲しいとは思えなかった。
 覚えられるとかではなく、魅力を感じていない、というのが一番説明としてしっくりだろう。
 そもそも、呪いのようなドロドロとしているのは、好みではない。
 忍術の外法として、有る物は、修めるが、本当に必要な時では無ければ、使う気も起きないのだ、と。

「きりっ。」

 面構えが違うらしい、お酒のラベルを見て。
 まあ、味わいとかが違うという意味なのは知っていて、キリっとしてみる。
 その辺りのお酒は、最近はリスは力を入れて購入している。
 家庭教師の為に、というのが多い。その辺りを力入れれば、他に先んずれば。
 師匠が離れにくくなるだろうと、言うリスの思惑。
 そうでなくても、何か有れば離れていくのだろうけれども、手近に安く故郷の食事が手に入るなら。
 近くに居てくれる理由にはなるだろう、と。
 トゥルネソルの商品の中には確かに、醤油も、みそも、納豆さえも、ある。

「お酒だもの、飲むためにあるもんねー?
 何処から出したかは、内緒ー。」

 背中にあるバックパックは見た目よりも色々な物が入るし。
 ラファル自身魔法を使ってそう言ったことができる、だてにドラゴンではないのだ。
 前に、ベルトの中に、モノをしまって消したこともある、そう言う魔法的な仕舞う場所は、幾つかあるのだ。
 その中の何処からかは、内緒ー、ニマニマ笑う幼女。
 でも、飲むことが来稀な嬉しそうに、とたたたっと、その後ろについていく。

「干物とか食べるー?」

 マグメールは、東方のように海に面した所が多いから。
 海の幸はそれなりに手にしやすい。
 特に、干物とか、生魚、とか。

影時 > 「勘定に入れ忘れてたなァ、ありがとうよ。
 と言っても、あっちもあっちでまた毛色が違うから、教えられるのは別の事柄になるなあ」

参り方、祈り方といった作法ならばともかく、神仏の力を借りてどうこうという神通力の類は、流石に専門外だ。
少しでも後継に伝えられるよう体系化した術体系、武技とは違う信仰の産物やら異能は突然変異的に現れる感がある。
異能に開眼した忍びは、もはやあるだけで驚異にして脅威だが、狙われるが故に長生きし難いものでもあった。
外法の類は――未だ教えるか教えないか。己には珍しく、決めかねる点が多々あるが。

「そうそう、そういうツラ。――と云うにゃちょっと何か違うか……」

どちらかといえば、船旅という過酷と運任せを潜り抜けた古強者めいた面構えがイメージにあった。
沈没船から引き揚げたワインが、地上で熟成したものとは違う味わいをしていた、という噂は聞くが、本当だろうか。
雇い主がそういった事物への投資、投機をしているかにもよる。
己を慮ってくれているのか、ねらい目なのか、舶来の米酒をよく扱ってくれているらしいのは助かっている。
寝酒やら兵糧丸の仕込みなど、この国の酒を買うのでは、ままならぬことがいくつもあるだけに。

「まァな。ったく、物入りの機会を考えれば……今度話しておくか。
 ああ、食う。炭火は……っと、熾しておいて正解だったな」

収容量に上限がないようなアイテムの類は悩ましいが、利便性を考えると旅のロマンより優先せざるを得ない機会が多い。
其れが悩みだ。あれやこれやと背に大荷物を担ぐよりも、最低限に済ませられるのはどれだけ楽なことか。
似たようなことを遣る場合、巻物をこさえて様々な道具を封印する――というのはあるが、それもそれで嵩張るというもの。
台所まで行けば、炭火を熾しておいた小さな火鉢がある。
干物があると聞けば、それであぶって食うと良い塩梅になりそうだ。

新鮮な魚介類があるとはいえ、流石に土地が違えば、山葵まで臨むのは贅沢だ。
そうであれば、火を通して食べる方が、どちらかといえばしっくりくる。

ラファル > 「ううん、でも、色々あるみたいだし……そう言う意味では、混雑してるよね。
 良いよ、有るのは知ってるだけだしね。」

 興味はないし、神に祈るような精神性は持ち合わせていない、力を借りて動向よりも、自力で何とかするのが竜だ。
 傲慢な種族と言って良いのだろう、それは、生まれつきの性質と言って良い事なのだろう。
 そして、ラファルは、生まれつきの異能を持つ存在と言える、そもそも、人間ではないので当然と言えば当然か。
 遠く離れた国だから、狙われることも少なく終わるのだろう。

「む―……?むん。」

 キリッ、でなければ、ギラッ、だろうか、きゅぴーん、だろうか。
 古強者と云うには、ラファルは幼くて、子供であるから無理な物である、熟成が足りない。
 どうにか、少しでもと、するのだけれども、旨くはいかないのだろう。
 違うと言われて、あれや、これや、と悩んでみるのだった。
 リスは、東方の物に関しては、其れなり以上の投資はしている。
 安全に海を渡る事も出来るし、竜の速度で飛べば痛みを少なくも出来る。
 なので、言うなれば、両方なのである。
 その中には、ラファルだけでは無く娘たちを良く面倒見てくれているお礼の側面さえもあるのだ。

「んに?
 じゃあ、干物ー。」

 便利は便利でいいだろう。
 わざわざ制限を無理に作る必要はなく、楽は楽でいいと思うのだけども。
 それを制限しての修行と言うなら制限する。そう言う事ではないのだろうかとは思いながら。
 てれてててーん、と干物を一枚二枚三枚四枚。
 お酒と一緒に食べると、とてもおいしい、あぶればさらにおいしい。
 だから、ジュルリ、ともう涎が垂れるのである、欠食児童。
 はい、と、火鉢の火を確認している師匠にそれを手渡すのであった。

影時 > 「そう、……でもあンのかなぁ。
 逆に言えば、カミサマが一人だけで良いのかどうか、俺のような手合いから見れば気になるくらいだ」

あいよ、と。短く答え、承知したとばかりに頷こう。
積極的に神に祈ることはなくとも、職業柄信心深くなる者たちの心情については、理解が及ばなくともない。
忍びたる自分たちがなす行いは、世間から見れば悪と謗られても仕方ないことばかりである。
世のため人のため、悪を為す我らを赦し給え――と祈るのだ。
竜はいなくとも、龍は居た。目に見えずとも、自然に宿る、体現した猛威、脅威の具現者として。


「っ、クク。ラファル、まだそういう顔をするにゃ早すぎたか」

百面相めいた変な顔が過る弟子の表情の変化を見やり、瞬きしては肩を震わせる。
成長した美女の姿ではなく、まだまだ幼女然とした顔と体躯では、どうしても年季という二文字は表現が難しいだろう。
投資の様子には、弟子のみならず最近目をかけるに至っている雇い主の娘からも、話の一端は聞いている。
運搬能力については業務上の機密にも関わるがゆえに深くは聞かずとも、往還能力は実証済みと云える案件の筈。
故にそのおこぼれに、ちゃんと代金を払ったうえでありつける。

「善し、じゃぁ炙ってから食うか。そっちに火を持っていくから待っていろ」

荷物は軽いに越したことはないとはいえ、軽すぎるのも、携えているという実感が鈍ってしまうのがネックだ。
全身にかかる武具の重みから、装束のどこに手裏剣やら寸鉄を仕込んだ等を把握し、思い出すというやり口をしている。
旅の実感に加え、そうした事情があると、軽いことが常に正義とはどうしても言い難い。
用意されていた火鉢は抱えて運ぶのではなく、卓上に運べる構造に加え、取っ手を掴んで持って運べる造りだった。

とはいえ、それなりに重く頑丈に作られたものを運び入れ、畳敷きの部屋に置いた背の低いテーブルの上に置くのは大儀さがある。
火鉢の上に金網を敷き、用意してもらった物を並べる。そのうえでしばし待とう。

炭火の火力でじわじわと香ばしい匂いがし出せば、それが頃合い。
未使用の酒杯に別の酒を注ぎ、弟子と軽く乾杯めいたことを遣りつつ飲み食いしていれば、時が過ぎる。
どこぞの土地でも買って一軒家でも立てるなら、この位がちょうどいい。そんなことも思いながら――。

ラファル > 「わかんにゃい。」

 神様の概念などに関しては、特殊な所もあるのだろう。
 唯々、幼女にはそこ迄思考が行かないのもあるし、興味も薄い、この国は確か一神教だったか。
 ヤルバ何とかだったはず、でも、興味なければその程度だし、自称神は沢山いるモノだ。
 だから、一人で良いのかどうかは、に関して首を横にぶんぶん振るのみであった。
 物理的にある竜として、龍の存在は―――どう考えるべきか。
 異種なのか、亜種なのか、上位種なのか、矢張り、判らない。

「ぷー。」

 確かに10歳の子供には、年期の入った老兵の顔は、無理だろう。
 ただ、噴き出す師匠には、頬を膨らませての憤懣やる世形無しの合図を一つ。
 投資しても、お金は沢山あるのだから大丈夫なのだろう、と、思うのが、ラファルの思考。
 大きな失敗などは、今のところはないし、リスは其れなり以上の商才は持っているから大丈夫。
 リスクとリターンも、安全も危険も、どれも、ちゃんと把握している。

「あいっ♡」

 お魚さん、お魚さん。
 ルンルン気分でお魚を持って踊る幼女。
 クルクルり、と身軽に動いて飛んで回る少女は、普段から軽装若しくは無装。
 だから前回の冒険の時に吸い寄せられて大ダメージを受けたのだ。
 其れからは、首輪を、防具を漸く学習し始めた、程度。
 ただ、ただ、竜の筋力で言うなら、ラファルの筋力だと生半可な装備では、重さを感じないのもある。
 それこそ、見た目の重さよりも重い金属で作られた枷のような鎧になってくるのだろう。
 スーツアーマーを身に纏って、今と変わらぬ動きが出来ると言えば、判ってくれるか。

 その辺りは、今は後にして。
 のんびりわくわく、お酒の席が開かれる。
 小さな小さな、静かな酒宴で、夜が、更けていく――――

ご案内:「庵」から影時さんが去りました。
ご案内:「庵」からラファルさんが去りました。