2022/09/03 のログ
ご案内:「庵」に影時さんが現れました。
ご案内:「庵」にラファルさんが現れました。
■影時 > 宿暮らしも気づけば長いが、時折。そう、時折だ。こういう過ごし方を求めるのは郷愁なのだろうか。
故郷を捨てたものの癖に、何を思うか。
枯草を褥に夜露を凌ぎ、土の冷たさに身体を浸しながら泥水を啜るもののくせに。
だが、こうして金がたまるならば、こういう過ごし方も決して駄目――とは言い切れまい。
装備の面で言えば、消耗品を使い過ぎて、報酬と出費が釣り合わないということは、実のところ多くない。
実力を十二分に出しうる装備が揃い、損耗を気にせずに済むなら、時が経てば存外懐が温かいということもある。
宝石の類に替えて、万が一の際に貯蓄、あるいは然るべきところに預けるばかりではない。
己が伝手を辿り、異国趣味が過ぎて素寒貧に傾きつつある、斜陽貴族の持ち物を借りるのだ。
其れがこの庵を模して建てられた土と木の建物である。
よっぽど凝り性だったのだろう。図面まで取り寄せ、綿密に王国の素材で可能な限り再現したところまでは見事。
だが、維持にまで意識やら何やらが回らなかったというのは、少々片手落ちが過ぎるが。
「……――大工の技を覚えておいてよかったというのは、僥倖って云やぁ僥倖かね」
朝方から建物の清掃、補修から始め、粗方終わったのは日中過ぎ。
身体を清め、ついでに頼んでおいた酒類や肴を呑み喰らっていれば、気づけば斜陽の時刻を迎える。
庵の庭先に面した縁側は、時間をかけて草を毟って整えれば、砂利と岩の配置で自然を模した特有の小さな庭園の情景を取り戻している。
草履履きの足を延ばし、傍らに置いた酒瓶から猪口に酒を注ぎ、口に運ぶ。
遠く、鳥が鳴く情景は今この時だけを見れば、此処が異国の場所であることをつい忘れる。
■ラファル > 風が流れると書いて、風流と呼ぶ。
さやさや、さやさや、と静かに流れる風は、その男性の体を優しく冷やしていこう。
一日を掛けて、庵を修繕した彼の近くに、ちょこんと座る一人の子供がいた。
彼と似通った東方風の女児の服を着た子供は、金色の髪の毛をしていて、ツインテールに縛った子供。
きらきら光る金色の瞳は人の目ではなく、竜の目を持った子供。
彼の弟子であり、教え子であるラファルという少女。
忍者の弟子ではあるが、人間ではなく、人竜という、人と竜の相の子でもある子供だ。
お酒を飲んでいる彼の背中に、まとわりついて、お酒を飲んでいる男性を覗き込んでいる。
まあ、子供だからか、退屈を感じているのでもあるのか、ぐりぐりと頭を擦りつけたりする。
お酒を飲むこと自体を邪魔することはなく、時折は視線を風景を眺めて。
「大工仕事かぁ……。」
忍者屋敷とか作るのも、手作りなのかなぁ、と師匠の背中にぺとーっと張り付きながら。
幼女は頚を傾いで思う。
覚えれば、色々と面白そうなことができるよなー。と思うのが子の小娘の思考回路。
まあ、今は、と、のんびり張り付くだけである。
これはこれで、心地よいのだ、男性の、師匠の大きな背中は、子供にとって、あったかいのであった。
■影時 > 何事にも粋を見出す――というほど、数寄者にはなりきれていないない。
けれども、様々な贅を凝らした調度や建物の内装を見ていれば、さながら毒抜きの欲求めいたものを覚えるのだ。
目を射るような財宝の輝きや、毒々しいまでの造形とは過ぎると心を侵しかねない気がする。
さらに今は、特別講師をやっていれば、他の教師との連動や調整、云うコトを聞かない生徒を宥めるなど、遣ることが多い。
下手に手を出して、痛い目を見させるというのは、親権者等から厄介な突き上げが起こりうる。
そういったことが嫌で特別講師を辞した、職を追われたといった事例は情報を集める中で嫌でも耳に入る。
(……その手の厄介事は、願い下げの癖に、なぁ。)
本当、何をやっているのやら。良さげな生徒でも捕まえて、手籠めにして憂さ晴らしでもすればいいものを。
そんな内心を知ってか知らいでか、曲げた背筋にまつわりつく熱とくすぐったさを覚える。
肩越しにちらと後ろをを見れば、金色の髪がすぐに目に入る。手伝いも兼ねて連れてきた弟子にして竜の子である。
「元々の住処、里は山の中だったからな。……街から職人をわざわざ呼んで、という訳にもいくまい?
だから、大工やら鍛冶やら自分たちでやるしかなかった、というワケだ」
何もかもが手作業だ。俗にいう忍者屋敷のような仕掛けだらけの住居も何もかも、その手で手掛けざるをえない。
猪口に口を付け、その合間に思い返すように息を吐き、虚空に目を遣る。
背中に張り付いた重みを微かに揺らすが如く、上体を前後に僅かに動かす。それは子供を背負っていれば、あやす親の仕草にも似て。
■ラファル > ぺっとり張り付いていると、師匠の様子は何か思考を、深く、深く掘り下げているようだ。
最近、自分への家庭教師以外に色々と忙しそうだ、ラファルを学校に入れた後に、彼自身が教師として入ってもいた。
だからだろう、することがとても多くなっているようで、自分への授業も減っている。
と言って、学校での授業で、ラファル自身も忙しくなっているので、それによる不具合はない。
とは言え、寂しいというのもあるし、構って欲しいと思う所もあるのだ。
子供だからこそ、それを隠すことなく、師匠の背中にペットリと張り付いている。
一応、静かに飲みたそうなので、それを組んでいる積りなのである。
「そだっ……け? あー。あー。そっか。
確かに来れないなら、自分で作るしか、無いよね。」
東方、道でいっぱいの国だ、山の中だとして、山の中に住まう人なら、問題なく来るような気がしたが、違う事を思い出す。
師匠の国の事を知りたくて、ばびゅーんと飛んで、眺めたことがある。
なんか、色々屋根の上に登って、弓矢を射かけて来たのを覚えてる。
魔法だか何だかを使ってきたのも覚えてる、効かなかったけど。
確かに、平地に住んでいる人が多かった、偉そうな人はみんな平地で、師匠のような山に住む人はいたが、隠れていた。
それを思い出しながら、成程、成程、と。
感心している間も、師匠は視線を何処かに飛ばしている。
ゆらるゆらゆら、優しく揺れる師匠の背中の上で、ふみぃ、と鳴いて。
「何か、持て余してる?」
こう、疲れているというには、雰囲気が違う。
と言って、訓練とか、バトルとか、そんな雰囲気でもなさそうだ。
すり、と頬を擦りつけつつ問いかける。
■影時 > 思うことは、他所とはいえ人の世に関わっていれば幾らでも出てくる。
今のようなコトを始めたことから、ではない。故郷を捨てても、結局人世を捨てられないものである。
食事、寝床――いずれもすべて、万事自給自足にできるものではない。
飢えたら、狩猟と採取で事足りる? 戯けたことを。そんなもの、まず飢える前にこそ遣らねばならぬというのに。
旅を続けるに何にしても、己が興味を満たす意味でも、やはり人の世とのかかわりは捨てられないのだ。
「そうだぞ? 忍びの里というのは俺が知る限り、山奥に位置してる。材木を担いで来れはすまいよ。
焼け落ちた難関の山城の址を作り変えて、集落に作り替えている奴らも居たなあ……」
己も弟子も学院に関わるようになると、個人としての家庭教師として教授する頻度はどうしても欠ける。
その辺りも含めて、学院で学びを得るがためとはいえ、其処は仕方がない。
だから、こういった口伝めいた物語りを酒に任せて行うのも、偶にはいいだろう。
戦いの世の中では難関、守るには易く攻めるに難い山城の類は流行ったが、世が平らになると、そうもいかない。
ひとっとびして、故郷を見たというのなら、そういった大名たちの城下町も見てきたことだろう。
忍びの里というのは、一見して見破れないよう、山間の寒村を装っていたりもするものだ。
放棄された城址の類の再利用もまた然り。石垣が残っていれば、其処から建物を作り直すのも難しい沙汰ではない。
「さて、な。煩悩と云うよりは――俗世の何やら、とかを持て余してンのね」
猪口を傾ければ、直ぐに空になる。
傍らに置いた盆の上に置いた酒瓶を掴み、手酌で注ぎ――、呑むか?と肩越しに後ろの姿に差し出してみようか。
汲んだ井戸水で冷やしていた冷酒だ。水より上げてもなお冷たさがよく残っている。
■ラファル > 人であること、というのは、群れる、と言う事なのだろう。
人の世で、人の世界で、群れに入るからこそ、人たるのだろうと、半分獣の幼女は考える。
今までは、師匠に師事するまでは、気ままに空を飛び、腹が減ったらその辺を食って、唯々過ごしていた。
何もかもが、ラファルのえさであり、玩具だった。
ただ、人の世界は、獣にとっても、色々と、刺激的だった。
脳天に直撃するぐらいには、色々と知識的な意味で、刺激だったのだ。
面白いと感じているから、感じ続けているから、今もまた、ラファルは、人の真似をする。
「材木を持って移動するのを発明したりしないの?
そう言うの、人間の十八番でしょ?
有る物を有効利用するの、得意でしょ?」
荷物を運ぶために、馬車を、船を、色々な物を作る人間。
材木を担いで運ぶ、というのは、原始的に過ぎるのではないだろうかと、ラファルは不思議に思う。
山城の址を作り直すのをするなら、そう言うのもしそうだとは思うのだ。
人間は、愚かであっても、馬鹿ではないのだから、と上からの目線で考える竜娘『おこちゃま』。
お酒を飲み飲み、思い出すように語ってくれる様子に、そうなんだ、と。
大名たちは驚いていたのを思い出す。
曲者―とか、出会えとか。弓も術も何一つ聞かないし、唯々観察するだけの幼女結局飽きて帰った。
いろんなところを満たし、隠れ里だって、幾つか見つけている。
忍びの里だって、見つけて、忍び込んで帰ってきているのだ。
「お酒、のむー!」
コメのお酒、風味とのど越しの良いお酒。
姉妹に漏れず、幼女もお酒は大好きで。
わーっと嬉しそうにお猪口に手を伸ばし、すい、と一口。
喉を統べる清涼なお酒、冷燗の酒は、きりりとしていて、しかし、ほんのりと甘い。
おいしー、と目を細めて、隣に腰を掛ける。
お酒を飲むモードに。