2022/05/28 のログ
ご案内:「平民地区/冒険者ギルド 訓練場」にエレイさんが現れました。
エレイ > 「──あっれー?」

ある日の夕暮れ時。
ギルドの訓練場に顔を出した男は、不思議そうに目を丸くしながら変な声を上げていた。
この訓練場、普段は訓練に励む冒険者たちで賑わっており、そうした連中を冷やかしたり、
気が向いたら軽くアドバイスしたり手合わせに付き合ったりするのが、男の暇つぶしの一つであった。
この時間帯でも、基本的に何人かいたりするのが常なのだが──

「……珍しく誰もいないというあるさま。緊急のクエストでも入ったかな?」

──今は、訪れたばかりのこの男以外、誰もいなかった。
ポリポリと頭を掻きながら周囲を改めて見渡しつつボヤいてみるも、その声に答える者は今の所不在のようで。
フンス、と小さく鼻を鳴らしつつ、無人ゆえか普段より広く感じる訓練場の広場をざしざしと歩き始め。

エレイ > 「こんな日もあるものなのだなという顔になる。む……まったく、出るときはちゃんと片付けろよ」

ふと、足元に一本の長剣が無造作に落ちているのに気づくとそれを拾い上げて嘆息一つ。
刃引きが施された訓練用の代物だ。

「………」

男はなんとなく、それを片手で握って掲げてみる。訓練で幾度も使い込まれて、使用感まみれの剣。
その剣に特別、何かあるわけでもない。特に用向きはないのだから、さっさと所定の位置に片付ければ良いだけである。
しかし、なんとなく──本当になんとなく。男はそれを、両手で改めて握り直した。

「……ふむ……」

す、と正眼に構えて、そのまま佇む。目を閉じ、ゆっくりと呼吸をする。
──何気ない動作だが、妙に様になっている。というか、見るからに素人のそれではない。
男はギルド所属の冒険者なのだから、素人でないのは当然と言えば当然なのだが──
その技術の洗練度が、佇まいを見るだけでも伝わりそうな程であった。

エレイ > 剣を構えたまま目を閉じ、佇むこと十数秒。

やがて目を開くと同時に剣をゆっくりと振り上げ、緩やかな半歩の踏み込みと共にゆっくりと振り下ろす。
あまりにも基本的な、上段の斬撃の動作。
その動作を、2度、3度。男の表情が何故か緩む。
何かを懐かしむような、そんな表情を浮かべながら、一人素振りをし続ける。

その素振り、緩やかな動作なのに剣の描く軌道にブレは一切なく、寸分違わず同じ場所を通過し続けている。
剣を振り上げて止める場所、振り下ろして止める場所もまったく同じ。
正確極まるその動作が、数えるのも馬鹿らしいほど膨大な量の反復練習の賜物であることは、見るものが見れば解るだろう。

エレイ > そうしてしばらく素振りを続け──やがてふ、と息を吐きながら剣を下ろす。
暮れた空を見上げて少し笑ってから、剣を片付けるとふらりと訓練場を後にして──

ご案内:「平民地区/冒険者ギルド 訓練場」からエレイさんが去りました。