2021/09/06 のログ
ご案内:「メイナード孤児院」にアリエノールさんが現れました。
アリエノール > 「わざわざお越し頂いて、本当に有難う御座いました」

形良く薔薇色の唇を綻ばせ、微笑んでゆるりと頭を下げる。
相手に何も言わせないための、慇懃で、取り付く島もない言葉遣い、声の調子、笑顔、態度。
この数週間で学習した全てを駆使して頭を垂れれば、相手は苦虫を噛み潰したような顔で、
渋々ではあっても引き下がるしかない。
真っ当な『篤志家』であれば、そうでなくてはならないからだ。

「ええ、勿論、また遊びにいらしてくださいませ。
 私も子供たちも、楽しみにお待ちしておりますわ」

如才なく付け加えた台詞は、暗に、この話はこれで終いだと伝えるもの。
そうでなくとも、ここは孤児院の門前。
時刻は既に子供たちを連れだすには遅く、辺りは暗い。
そして、己に、今宵、子供達を目の前の男の求めに応じ差し出す気は、
当然、微塵も、無かった。

時折、こうした輩が訪れることがある。
煌びやかな格好で、寄付を申し出て、厭らしく笑って。
そうして最終的には、子供たちのうちの一人を、あるいは複数を、
引き取りたい、ようなことを言い出すのだ。

――――――決して、養子として育てたいためではない。
そのぐらい、もう、己にも理解出来ていた。
だからこそここでは、一歩も引く気は無い。

ご案内:「メイナード孤児院」にルヴィエラさんが現れました。
ルヴィエラ > (何とかして、目的を果たしたい『篤志家』と
決して引き下がろうとしない修道女が相対する中
不意に、何処から現れたのか。 その横から気配が割り込むだろう。
灰色のローブを纏い、暗い中では、フードの中の人相も伺いにくい様相で
何処か不思議に響く――意識を揺らす様な、中世的な声音、で。)

「―――――……やぁ、取り込み中失礼するが。
メイナード孤児院とは、此処の事かな?」

(尋ね人の様に、そう修道女へと問い掛ける
建物を一度見上げ、其れから、遅れての挨拶めいて、軽く胸に手を当て、会釈をすれば
相対して居た『篤志家』にもまた、軽く会釈をすると共に。)

「やれ、随分と立派なお方だ、孤児院に目を掛けて居るとはね。
だが、今宵は生憎もう遅い。 子供たちも、既にお休みの時間、では無いかな?」

(起こすのは忍びないのでは、と、通りすがりの第三者として
相手を一度「真っ当な人間」として持ち上げた上で、立ち去る事を促すのだ
今宵、引き下がるきっかけを作る様に。 そして何より――話を聞かれていたと
そう、相手へと、言外ながら、忌避感を抱かせる様に)。

アリエノール > そうでなくとも、この国では、ひとの生命はひどく軽い。
己のように、消費されるためにつくられたものならばまだしも、
何故、こんなにも軽く扱われているのか、はじめから不思議だった。
親、という名の庇護者が居るかどうか、最初はそれが分かれ目かと思ったが―――――

「いえ、どうぞお気になさらず。
 贅沢はさせてやれませんが、今のところ、
 皆様がたからのお心遣いで充分に、日々の糧には足りておりますわ」

うちの子は皆、元気はつらつとしておりますでしょう?

そうまで言えば、追加の寄付で何とか、と言いかけていた相手は、
更に苦々しげに顔を顰めた。
曰く、彼が養い親となれば、子供はきっと、より豊かな暮らしを―――――
そんなことを言って、食い下がりたかったのかも知れない。

しかし、そこに闖入者があった。
見ず知らずの、男、であると思う。
女だとすれば、少しばかり背が高いような。
そして、どこか、―――――己が言うのも変だが、つくりものめいた風情を感じさせた。

「―――ええ、メイナード孤児院は確かに、ここのことですわ。
 私の知る限り、ほかに同じ名前の施設は御座いません」

現れた第三の人物に身体を向け、軽い首肯と共に、静かな声で。
この人物が善意の人であるかどうか、現時点で、知る術は無いけれど、
―――――すぐに、簡単な計算が働いた。

「そうなのです、子爵様、実はもう、子供たちはほとんど夢の中ですの。
 ですから、そう、今度いらっしゃるときは是非、
 お昼間に……お茶を、皆でご一緒に」

小首を傾げて微笑めば、それで終わり。
本当にお茶の時間に再訪してくるか、それとも、闇に乗じて強硬手段に出るか、
少なくともそれは、今夜、ではないだろうから。

豪奢な仕立ての馬車に乗り込み、逃げるように立ち去る貴族を見送り、
己は改めて、闖入者の方へ視線を向けた。

「それで、……子供たちも寝静まっている、この時刻に。
 貴方は私どもの施設に、どんなご用でしょう?」

ルヴィエラ > (元より、気丈な修道女の姿勢によって、趨勢は決まって居た
あくまで己は、撤退に至るまでの篤志家の判断を、ほんの少し早めただけ
けれど、少なくとも無為な言葉の応酬で、この場に立ち続ける無駄は
少なくとも多少は、省けた筈だ

確かに此処がメイナード孤児院である、と確証を得られれば
其れは良かった、と頷いて、其の僅かに覗く口元に弧を描く
そうして、其のやり取りによってようやく離れて行った男の姿が
馬車と共に、濃い闇に消えるのを暫し、見送ってから。)

「―――――孤児院と言うのは、何処も彼処も似た様な物だね。」

(やれやれ、と。 明らかに一芝居打ったとでも言うべき砕け方で
修道女の方へ向けて、肩を竦めて見せた、か。
そうして、改めて。 相手に向けて、慣れた会釈を返したなら。)

「――――一寸した見学、と言った所だね。
実は、私の所で働いて居る娘の内、幾人かが此処で育った様でね。
そんな縁で、少しばかり様子を見に来た、と言う訳だ。」

(―――を、知って居るかね?

理由として、告げた名前は確かに、自らの館で働く娘の一人の名。
とは言え果たして、目の前の彼女と直接縁が在るとは限らないが
相手が知って居ても、知らずとも、そう言う訳だと告げる態度には、繕った様相は無い、筈だ

そうして――暫し、相手の顔を見る。 まるで、何かを見通す様に、じっと、其の姿を眺めた後で。)

「――――それにしても、不思議な物だ。
君は随分と"出来が良い"様だが…どんな縁で、此処に?」

(ふ、と、囁いた言葉は。
少なくとも、他の誰にも聞く者は居ないだろう
けれど、遠回しながら、まるで相手の本質を突くような台詞と共に、緩くその顔を覗き込めば

少し、悪戯っぽく笑み。 提案するのだ。 ――少しばかり、お話をしよう、と)。

アリエノール > 馬車が去って行ったとは言え、ここは王都。
完全に人通りが絶えることも、街路を照らす明かりが皆無になることも、稀。
だから、見知らぬ男と二人、相対したくらいでは、己も動じることはない。
見つめる眼差しは凪いでおり、表情は穏やかだ。

「そうでしょうか、……私、ここ以外の施設は、そう多く存じませんけれど。
 ここは、子供たちにとって、最低限、そう在るべき環境に、
 整えられていると自負しておりますわ」

それが、己の矜持の在り処だ。
見学―――――という言葉に、僅か眉宇を曇らせたのは、
それもまた、自称篤志家たちが良く使う方便でもあったから。
男の告げた名前にも、己は首を傾げるばかりで。

「……申し訳無いのですが、私、ここに来て長くは御座いませんの。
 その方はきっと、私がここへお世話になる前に、
 貴方のところへ引き取られたのだと思いますわ」

その名が珍しいものなのか、有り触れたものなのか、己の知識では判別不能。
しかし、当たり障りの無い答えを用意するのは難しくなく、
向けられる視線が、聊か不躾だとも思ったけれど、――――――

「――――――――失礼、ですけれど」

丸く見開いた瞳を、数度、瞬かせる程度の間。
それを誤魔化しと取るか、本物の戸惑いと取るかは相手次第。
だが、己は少なくとも外見上、完璧に取り繕ってみせた。
微笑も、眼差しも、静かなまま揺るがない。
そこにごく微か、淡い困惑の色を混ぜて。

「さきほど、貴方もおっしゃった通り、もう遅い時間ですわ。
 子供たちも早起きですけれど、私も朝は早いので……
 お伽話でしたら、お昼間に、ゆっくりお聞かせくださいませ」

彼の抱いた疑惑を、今はまだ、認める気は無い。
ゆうるりと、頭を下げて―――――――修道女の姿は静々と、門の中へ消えた。

ご案内:「メイナード孤児院」からアリエノールさんが去りました。
ルヴィエラ > (そう――己もまた、この孤児院を守る彼女にとっては
先の篤志家となんら変わらぬ、気を許してはならぬ相手、と言う事だ。
相手から向けられる視線の其れが、同類の物であったとて
己もまた分かって居るからこそ、気にも留めまい

これは――挨拶、の様な物だ
動揺を見せる事なく、少なくとも表面上は、冷静に対応して見せた相手に
此方も又、其れ以上を追求する事は無い。
踵を返す姿を、引き留める事も無く、あっさりと見送ったなら
その後ろ姿に向けて、また、先刻とは違い、少々道化めいた仕草で会釈を向け。)

「その通り、時間も時間だ。 では、またいつか、機会が在れば。
ごきげんよう、お嬢さん。」

(そうして、自らも又、踵を返して、宵闇に消えて行く。
少なくとも今宵は、平穏を取り戻した孤児院の中で、きっと
穏やかに眠る子供たちばかりが、何も知らぬまま――)

ご案内:「メイナード孤児院」からルヴィエラさんが去りました。