2021/05/08 のログ
ご案内:「王都近くの森の中」にティカさんが現れました。
ティカ > 薬草採り。
駆け出し冒険者にとっての定番であり、時には戦闘技術など欠片も無いスラムの子供が受けたりする事もある常設依頼である。
それでもわざわざ金を払って冒険者に依頼を出すのは、そんな仕事でも多少は危険が潜んでいるからだ。
本日もまた、そうした事実を身をもって体験する事になった駆け出し冒険者が一人、森の中を命がけで疾走していた。

「くっそ、しつけぇ! いい加減諦めて他の獲物狙ってろよ!」

ぜはっ、ぜはっと大きく息を乱す小躯が、地面から突き出した木の根に足を取られてすっ転ぶ。
なだらかな坂を文字通り転がり降りて藪を突っ切り、枝葉を撒き散らしながらも立ち上がる。
再び地面を蹴りつつ後方を振り仰げば、『グギャッ』『ゲギャギャッ』という耳障りな声と、木漏れ日の中にチラつく濃緑色の小柄な影。
ゴブリンだ。
手斧や農具の一つもあれば、ただの村人でさえ返り討ちに出来るだろう雑魚中の雑魚。ティカとて最近少しはまともな武具を手に入れた事もあって、1:1なら負けはしない。1:2でも戦いを挑んでいたと思う。
でも、5匹はやばい。
正式に剣術を習った事もなく、村娘に毛が生えた程度の膂力しか持たぬティカがソロで相手取るには荷が勝ちすぎる相手だった。

ご案内:「王都近くの森の中」にネメシスさんが現れました。
ネメシス > 突如複数の風切り音が響き渡り、ゴブリンの2匹が断末魔を挙げた。

「まだ生き残りが居るわ。
始末するわよ。」

白銀の騎士の号令で再び弓が放たれる。
二度目の射撃は更に2匹のゴブリンを地に沈める。

ゴブリン達は事態を把握する間もなく、突然仲間を失っていく。
残る一匹のゴブリンも恐怖に足を取られ、先に追い回していた冒険者を気に掛ける余裕すらない様子。

冒険者の女性にとって反撃の機会が巡って来たと言えるだろう。

ティカ > 「――――っ!?」

ただただ逃げる事に必死で周囲の索敵になど気を回す余裕の無かった駆け出し冒険者は、背後からの突然の悲鳴と、続いて森に響いた勇ましい号令に目を見張り、慌てて周囲に紅眼を走らせた。
号令に応じて樹間を走った矢雨が更に数匹のゴブリンに命中したのだろう。
『ギガッ!?』『ギャッ、ギャギャッ!?』と明らかに困惑した声音が聞こえてくる。
そちら顔を向ければ、想像していたよりも遥かに近い位置まで迫っていた一匹のゴブリンが利き腕に矢を生やしたまま右往左往する様が目に入る。
即座に腰の剣を引き抜いて反撃に出れば、少なくともその一匹はあっさりと打ち取る事が出来ただろう。

「……ッはぁ、はぁっ、はぁっ、た……助かった……のか……?」

しかし、村を滅ぼし、己を穢した山賊共への復讐を誓って冒険者に身をやつしたと言えど、所詮は元村娘。生来の戦闘勘など持ち合わせてはいない。
その上、ただでさえ体力不足の小娘が、ここまで必死で森の中を駆け続けてきた消耗が、助かったという安堵と共に押し寄せてきたのだろう。
思わずその場にへたり込み、荒れた呼吸を繰り返しながら、ただただ慌て続けるゴブリンの末路をただの傍観者として見届ける事しか出来なくなっていた。

ネメシス > ゴブリンは近くに座り込んだ女性に意識を割くこともなく、騎士の号令による第三射で絶命してしまう。
腕や腹、頭に矢を突き刺した状態で息絶える姿はゴブリンと言えど痛ましい。

ゴブリンがら倒れてから草や枝を踏み分け、複数の足音が女性の元へ近づいてくる。

先頭を歩いているのは白銀の騎士らしく、一人だけ金属音だ。
後に続く部下数名は革の靴に布の服と言う簡単な出で立ちである。

白銀の騎士は森の中で荒い呼吸をあげている女性の姿を見つけると、真っすぐ歩み寄る。

「こんにちは、怪我はない?」

騎士は笑みを浮かべては、女性の顔を覗き込む。
その様子を離れた所から見守る部下達。
彼らは一様に人相が悪く、一目見ると山賊のように見える。

ティカ > 邪妖精の最後の一匹も、程なくストッと頭部に矢を生やして他の4匹同様に屍を晒す事となった。
偶然救いの手が現れなければ、自分がああなっていたかも知れない。
枯れ葉の絨毯の上にへたり込んだままそんな考えを頭に過らせるティカは、キルトアーマー越しにもそれなりな膨らみの伺える双丘を上下させ、土埃に汚れた頬から汗を伝い落とした。
そんな放心状態も、こちらに近付く複数人の足音を耳にすればふら付く下肢を叱咤して立ち上がる。
このままもうしばらくへたり込んだままでいたい。
そんな風に考えてしまう程の安堵とは裏腹に、どこかむすっとした表情で恩人を出迎えてしまうのは、苛烈な過去が少女から素直さという美徳を奪い去ってしまったから。

「――――あぁ、おかげ様でな。……その、助かった。………ありがと」

ティカの目の前に現れたのは簡素な装備に身を包む男達を引き連れた鎧姿の小躯だった。その内に隠した豊満さを感じさせる全身鎧の胸部装甲や、汗だくの自分とは随分違って思える涼やかな声音からしても、眼前の騎士が自分と大差ない年代の同性なのだと窺い知れる。
胸中で深まる安堵が、紅瞳を脇へと泳がせながらもティカにしては珍しい素直な礼を述べさせた。
木漏れ日の反射する白銀鎧の煌びやかな風情が、汗と埃に塗れた自分のみすぼらしさを意識させる。
そのせいで何やら妙にドギマギしてしまったティカは、離れた場所から様子を伺う男達の人相の悪さにも気付く事はなかった。
その結果、普段の少女であれば持ち合わせている野良猫めいた警戒心も、今は随分と薄まっていた。

ネメシス > 「どういたしまして。」

白銀の鎧に身を包んだ騎士は元気な小娘と言った形容が正しい程、楽しそうに少女を眺めていた。
歩くたびに金属音を響かせながら、女性の周りをうろうろと。
どことなく不機嫌そうな表情の女性の顔をちらりと覗いてみたりと落ち着きがない。

「怪我はなさそうだけど、一応事情も聴きたいわ。
うちの拠点まで同行してもらえる?
ここから近くだし、後ろに載せてあげるからそんなに苦労は掛けないと思うけど。」

騎士が声を掛けている間、男たちがゴブリンの死体をそれぞれ二人がかりで運び出していた。
森の入り口には荷馬車が待機しており、男たちはそれがいつものことと言わんばかりの手つきで死体を積んでいる。

馬車の隣には数頭の馬が待機しており、ネメシスはそのうちの一頭を指さす。

「ほら、行きましょ。
先にお風呂に入ってくれてもいいわよ。」

騎士は女性を連れて行こうと、手を差し出す。

ティカ > きっちりと装飾の施された白銀鎧はティカの想像以上に高価な物だろうし、この歳でこれだけの部下を抱えている所を見ても恐らくは貴族。
金持ち娘の騎士ごっこの結果として救われたのかと思えば、複雑な思いが無いでもないが、それでも今は素直に助かった事を喜ぼうと思う。
とはいえ、自分とは生きる世界の違うお貴族様にじろじろと見られ続けるというのは居心地が悪い。相手が命の恩人となれば、流石のティカも悪態をつく事は出来ず、眉間の皴を深くして汗の伝う頬の赤味を広げるばかり。

「事情っつっても、薬草採りの最中にゴブリン共に襲われたってだけで……くっそ、折角集めた薬草も捨てて来ちまったじゃねぇか、畜生」

腹立ちまぎれにゴブリンの屍を足蹴にしたのは、恩人たる貴族少女に負い目の様な物を感じてしまっている自分を誤魔化すため。要は『ビビッてなんかいねぇんだぞ!』という虚勢である。
それでも、恩人の申し出を素気無く切り捨てる程の礼儀知らずというわけでもないティカは

「じ、自分で乗れっから」

貴族娘の繊手に薄汚れた手を重ねる事も出来ず、パンパンと身体をはたいて土埃と枯葉を落してから馬によじ登った。
村で生活していた時、父に強請って馬に乗せてもらった事はあるけれど、自分で馬を操ることまでは出来ないティカなので、よじ登った後にはいかにも慣れていない様子で鞍に跨り、恐らくは同乗してくれるのだろう貴族娘におずおずと身を任せる形となるだろう。

ネメシス > 小娘は見られた側の女性が複雑な感情を抱いているなど露知らず。
ゴブリンの死体を足蹴にする様に元気そうだな、と少しずれた感想を頂いていた。

「ふ~~ん、じゃあ森の中でいきなり襲われたって所かしら。
王都の近くでこんな目に合うなんて困ったわね。」

女性と共に森の入り口に向かう合間、頷きながら耳を傾ける。
成果物である薬草を手放してしまったと聞いた時には眉尻を下げて悲しそうな表情を浮かべるが。

「そ、じゃあ行きましょ。」

見るからに乗り慣れていない事が伺える動きだったが、ネメシスをはじめ誰もそのことには触れず。
女性の後ろに跨ると、手綱を手に。

「行くわよ。」

皆に出発の号令をかけ、ぞろぞろと歩き出す。
ネメシス達の後ろをゴブリンの死体を載せた馬車が付いていく。
今回は大切なお客を連れているので一行の足取りはゆったりとしたものとなる。
それでも半時ほどすればネメシスの言う拠点へと辿り着く。

木造の拠点であるが、複数の城柵に囲まれた武骨な拠点となっている。
厳めしい顔の門番達を通り過ぎ、ネメシスと女性を載せた馬だけが一番奥の建屋に近づく。
手前で馬から降り、扉を潜るとオークのテーブルが設けられた広めの空間が広がっていた。

「着いたわ。 たっぷりと汗をかいたでしょうし、先にお風呂に入らない?
お腹が空いてるなら食事を用意しても良いわよ。」

主を出迎えにやってきた従者たちに手伝ってもらいながら、ネメシスは早速衝立の向こうで鎧を脱ぎ始める。

ティカ > 騎士ごっこなんぞをしているだけあって、この娘は貴族には珍しいお人好しなのだろう。本日の稼ぎである薬草を捨ててきてしまったという悪態に、はっきりとした同情の表情を浮かべる彼女の様子がティカの警戒心をますます緩めた。

「まぁ、あたしが襲われたのはもう少し奥の方だったし、ゴブリン共はほっときゃぽこぽこ増えやがるからな。運が悪かったってだけの事だろ」

鎧越しとはいえど、貴族娘の豊乳が背筋に押し付けられ、その太腿に挟み込まれ、背後から抱き締められるかの姿勢はティカを変に緊張させた。そんな内心を悟られないように、悪びれた口調で気の早い事情聴取に応じるティカ。
そうこうする内に辿り着いた拠点は、貴族令嬢のお遊びというにはかなり本格的な物だった。
貴族娘の騎士ごっこにこれだけの金を払える親というのは、最早男爵や子爵といった下っ端などではなく、それこそ伯爵や侯爵、場合によっては王族クラスだったりするのではないかとティカの動悸が早まる。

「い、いや、いい。あたしも暇じゃないし、さっさと用事をすませようぜ」

やたらと太っ腹な先輩冒険者の資金援助でいくらか装備を整える事が出来たし日々の食事もきっちりととる事は出来るようになったが、それでも赤貧と言っていい暮らしぶりは変わっていない。
そんなティカにとってはお風呂も食事も思わずぴくっと反応してしまうくらいに魅力的ではあったが、高位貴族と思しきお嬢様と長く一緒にいて下手なことをしてしまってはまずい。
もう既に普段と変わらぬ口調でここまで来てしまっているのだ。
気が気ではない。
移動の間に呼吸も落ち着き汗だくの身体もすっかり乾いてはいたが、そんなティカの頬を冷たい汗が一筋伝い、ぎゅっと眉根を寄せた紅瞳が不安げに泳ぐ。

ネメシス > 「放っておけば勝手に増えるみたいもんね。
一匹見つけたら20匹は居るなんて言う人も居たわ。」

冗談なのか本気なのか、馬上でもネメシスは上機嫌であった。
女性が体を触れ合った事を意識していた時、ネメシスもまた肌の感触や汗ばんだ身体から薫る甘い香りを密かに楽しんで。

着替えに袖を通している間、ネメシスは衝立の隙間から女性の様子をさり気なく伺っていた。
それまでの勇ましい様子は影を潜め、恐縮しているのか警戒しているのか口調に動揺が伺える。

白のワンピース姿に着替えると、女性の背後に駆け寄り、両手でぎゅっと抱きしめる。

「え~、折角来たんだしゆっくりして行ったらいいじゃない。
あ、それとも私のことを警戒してる?
別に気を遣う様な相手じゃないわよ。
聖バルバロ騎士団のネメシスって言うの。」

ワンピース姿となったネメシスはメリハリの付いた女性らしい体型をしていた。
鎧越しでも伝わる大きな胸が今度はしっかりと女性の背に触れるだろう。
揺れ動く紅瞳を覗く顔は妙に喜びに満ちていた。

序でとばかりに自己紹介もしてしまう。
聖バルバロ騎士団と言えば正規軍よりもでかい面をしている私兵の集団である。
女性が世情に詳しいのなら、良い評判も悪い評判もどちらも耳にしているかもしれない。

ティカ > 「さっき見かけたのが5匹だから……うっわ、それじゃああの森に100匹もゴブリン共が潜んでんのかよ……」

指折り数えて顔をしかめるティカだったが、100匹くらいなら潜んでいてもおかしくないと思えてしまうのがゴブリンの恐ろしい所。さっきの奴らにつかまって、そんなゴブリンひしめく巣穴に連れていかれなくて本当に良かったと思う。
そんな思考で貴族娘と密着中という状況に対する緊張を忘れようとするティカが香らせるのは、ほのかな汗の匂い。幸いにして王都から日帰りの出来る程度の距離だったので、幾日も野営を続けた後の饐えたような匂いでは無く、若い娘らしい甘酸っぱさを伴う雌フェロモン。

「―――ぅわひゃあっ!? な、い、いいいいきなり何……っ、い、いや、別に警戒とかはしてねーけど……お、おう、あたしは、あれだ、ティカってんだ」

下手を打つ前にお暇しようと逃げ道を探す小動物の様に視線を彷徨わせていたティカは、突然の抱擁、しかも先程とは違って武骨な鎧ではなくワンピースの薄い生地越しの柔らかな体温にひとたまりもなく慌てふためく事になった。
かぁぁっと頬を染め、紅眼をあっちこっちに彷徨わせ、貴族娘の腕の中で小柄な体躯を硬直させる。
名乗りの直前に彼女が口にした《聖バルバロ騎士団》という組織名は、落ち着いていてさえいればティカにいくらかの良くない噂を思い起こさせただろうが、貴族娘からの突然の抱擁という不意打ちに混乱状態となっている今はネメシスという名を覚えるので精一杯だった。

ネメシス > 「う~ん、となると問題よね。
うちの団員達に掃討範囲を広げるように伝えておくわ。」

元々野生の魔物狩りを目的に展開していたネメシス達であったが、100匹と具体的な数字に思わずため息を吐いてしまう。
具体的な被害が生じる前に数を減らす必要があるだろう。

そして、移動中に嗅いだ女性の香りをネメシスは忘れていなかった。
元々欲の強い性格だけに、仲良くなる機会を伺っていく。

「ねえティカ、やっぱり汗かいてるわよ。
警戒してるってわけじゃないのならお風呂位入れるわよね?
ほら、さっさと汗を流してすっきりしちゃいましょう。」

緊張で汗ばんでいるのもあるだろうが、じっくりと抱き合えばやはりフェロモン以外の臭いはどうしても漂う。
ネメシスは相手が頬を紅潮させ、冷静な判断が下せそうにない状況なのを見抜くと、抱きしめたまま強引に風呂場へと直行する。

板張りの廊下を抜け、すぐさま浴場へと到着する。
そこは屋根と囲いのある露天風呂。
山から持ってきたと思われる石の浴槽に温泉が注がれており、近づいただけで硫黄の香りがする。

「後で街まで送るから、ね。」

手前の脱衣所で漸く解放し、背中を向けた状態で着替えたばかりの服を脱ごうとする。