2020/06/30 のログ
ご案内:「植物公園」にビョルンさんが現れました。
ご案内:「植物公園」にアイリースさんが現れました。
ビョルン > 小糠雨の午後。
思いつくままに「雨の花を見よう」と伝書を飛ばしたのが一刻程前。

仕事は早めに切り上げて黒い傘を差し、単身で赴いて公園の敷地へ。
門から程近い場所で合流を待ち。

アイリース > 「……ふぅっ」

雨の降る中、私は小走りで待ち合わせの場所へと向かう。
できる限り屋根の下などを通り、急いで目的地へ。
公園の入り口近くまで来れば、すぐ傍に伝書を飛ばしてきた人間を見つけ。

「お待たせいたしました、若様」

自分のほうが遅く到着してしまったので、その非礼を詫びつつ。
相手の傍へと駆け寄る。なんというか。
先に到着しておきたいシーンだったのだが。
まぁ、結果やむなし、だ。

「……傘をお持ちいたしましょうか」

相手が手に持つ傘を見て、そう声をかける。
こういうときは、私が傘を持って、相手が濡れないようにするのが一番いいと思う。

ビョルン > 相手の姿を認めれば、向ける視線に体温が宿る。
さりとて出先なれば大きく表情を崩すことなく口元に薄い笑みを浮かべる。

「急に呼び立てたのは俺の方だ。
 今着いたところだし、気にするな」

相手には傘がない。
傘の柄を渡しながらも、視線は前途に向けたまま横に並ぶように肩を抱き寄せた。

「こんな天気の日くらい、洋装すればいいのに」

和服の裾は長い。
相手を濡らさぬように相合傘に収まる。

アイリース > 「申し訳ありません。
 業務が長引いてしまいまして」

相手の言葉に、更に謝罪を重ねる。
主人を待たせる、など。従者としてはあるまじきことだ。
……といっても、まぁ。確かに急な呼び出しだったのは事実だが。

「ん……。
 あぁ、いえ。その。
 ……以前買っていただいた服を着て出歩いたところ……」

傘を受け取り、相手が濡れないようにする。
のだが、相手が肩を抱いてきたので。自然、私も濡れにくい状態に。
……これは、なんとも。傍から見たら、勘違いをされそうな状態だが。
相手のすることだ、拒絶もしにくい。
そう考えつつ、とりあえずは、相手に肩を抱かれるまま、歩く。

「……やたらに、口説かれまして。
 なんというか、普段と違う、この国に溶け込む服装、というだけで。
 羽虫か蟻のように男に集られるのは。正直。
 鬱陶しかったです」

うれしくないわけでもないのだが。
なんというか。軽佻浮薄な男どもに言い寄られても。
正直、迷惑ではある。
そのことを思い出し、思わずこめかみを押さえてしまうが。
ふ、と相手のことを見て。

「それで。今日はどんなご用事なのですか」

わざわざ公園に、ということは。
内密な話か。あるいは、この公園に何か重大な物が隠されている、ということだろうか。
私は、相手の言葉を、やや緊張した状態を維持したまま、待つ。

ビョルン > 「そうか、それは」

相手の服装についての話を聞いて言葉を探すように言葉を切る。

「なんとも妬けるな」

表現に困りながら発すると、照れ隠すようにそっぽを向く。
そのまま、公演の中を散歩。
園内は季節ごとに花が植えられているようだ。

「『雨の花』とやらを見に。
 ──それとただ、一緒に歩こうかと」

訥々と。
騙りながら進めば風景に初夏の花々が混じりはじめる。

アイリース > 「冗談ではありませんよ。
 目立たないのを旨としている忍が。
 人目を『惹く』のでは話になりません」

いや、時にそういう必要があるのも間違いないのだが。
たとえば、囮、陽動としての任務のときは。
逆に人の目を集めまくらなくてはいけないのだが。
普段の生活においては、目立たないのが一番なのだ。

「……そうですか。
 かしこまりました。お付き合いいたします」

緊張しながら待っていれば、相手の口から出たのは。
なんともまぁ、風流な言葉。
この相手に、どんな考えがあるのか。それはわからないが。
そういうことなら、付き合うのが任務だし。

(……そういうのは、嫌いじゃないしね)

私としても。そういう、のんびりとした時間は好ましいので。
以降、黙って相手と共に歩いていく。
ちらほらと、美しい花が見え始めれば。
思わず、目を奪われてしまう。
考えてみれば、ゆっくりと花を愛でるなど、いつぶりか。
思わず、笑みがこぼれてしまうが。すぐに表情を引き締める。
一応は、相手の護衛も兼ねているのだから、気は抜けない。

ビョルン > 「ならば、今度はもう少し地味な日常着を買い求めるか」

己は。
いい格好して綺麗な髪で貧民地区の睨みを効かせて幾らのものだ。
人目を惹くことについては、特に意識はない。

「──俺は初めて聞いたのだが、知っているかな『雨の花』。
 もしかして、東のものだったりしないだろうか」

菖蒲、杜若は季節を終え。
太陽の花との隙間の時期に咲く花があるという。
この辺りにあると聞き及んだ場所で足を止めれば。

「うーん……?」

そこにあったのは思っていたような鮮やかで華やかな植物ではなかった。
書籍で見る、大脳のようだと、ふと思う。

アイリース > 「あぁ、そうしていただけると、助かります。
 やはり、多少服に余裕があったほうがいいと。
 最近、思いはじめました」

外出するのに、気楽に着ていける服。
そういうのがあると、かなり気持ちが楽である。
なにせ、時節柄この服装は、ちょっと暑い。

「恐らくは、私の知識が間違っていなければ。
 ……この様子なら、すぐ近くにありそうですよ」

雨の花、というものについて考えれば。
候補は数種類にまで絞られる。
あとは、公園内の植物の並びを見れば、おのずと答えは導き出せるわけで。

「……ふふっ。ご期待に副えませんでしたか?
 これが、雨の花。紫陽花という植物ですよ」

相手の首をかしげる様子に、思わず笑みがこぼれてしまう。
が、私としては、予想的中だったので。
相手に笑みを向け、顔を覗き込み。

「この時期によく見かける花ですね。
 青、赤、紫が主な花の色で。
 素朴ではありますが、私は、好きな花です」

……まぁ、花はわりと例外なく好きなんだけれども。
ただ、紫陽花のもつ繊細さ……もっといえば、地味さ加減は。
静かな強さのようなものがあって、私は好ましいと思っている。

ビョルン > 「じゃあ、今度買いに行こう。
 それとも、自分だけで選んだ方が気楽というならそれでも」

思えば余所行き服過ぎたのかもしれない。
そうして相手の格好をもう一度見やり。

「夏の服は持ってこなかったのか。
 王国に長居するつもりでは、なかったと──…?」

そうして花の前に立てば、初めて見るものらしくしげしげと観察している。
小さな花の集合体の中に色の濃淡があり、丸く大きい。
ふぅん、と唸る声。

「変わった花だな。
 蘭や薔薇のようなものを想像していた」

紫陽花、と聞けばその名前を復唱する。

アイリース > 「……そうですね。選んでいただいたほうが。
 私は、この国の普通の服装をあまり知りませんので」

なにせ、勤めている店は娼館である。
普通の格好の女性など、まぁ見ない。
なんで、選んでもらったほうが無難だろうと思う。

「……いえ。
 この季節になったら、忍装束で過ごすつもりでしたので。
 まさか、娼館の女将になるなど、想像もしておらず」

装束は案外涼しいので。
あれを着て、影に隠れていると、わりと夏場も耐え切れるのである。
……そう考えていた私が、まさか勤め人とは。
未来のことはわからないものである。本当に。

「こちらの国では、美しい、という花ですと。
 そういうものを想像する方が多いようですね。
 ですが、東の地には、こういった。
 目立たぬ美もあるのですよ」

大きく、美しく、映える花。
それもまぁ、いいのではあるが。
こういった、地味な美しさというのは。
私にとっては、どこか忍の美学に近いものを感じるのだ。
私は、そのまま。相手の傍に立ち、紫陽花を見る。
……なんともない時間、というのは、悪くない。

ビョルン > 「着回せるように何着も買ったほうがいいかもな」

そこいらの女が着ているような服なら、恐らく何でも似合うのではないかと頷いて。

「──忍装束」

女の予測では己を隠密護衛するはずだったのだろうから、さもありなんだろう。

「あと、晴れた日と雨の日の傘も買わないと──」

油断すれば相手の肩が傘の下から出て濡れかける。
身を小さく寄せ合って相合傘。
そうしながら、花の話を聞けば頷いて。

「東国はきっと、花が多いのだろう。
 菖蒲などは一輪で独り立ちしているような──そう、蘭にも負けないような艶やかさがある」

そうした一方、紫陽花のような花もある。

「向日葵なども──一つの花に見えて、たくさんの花の集まりということになっているらしい」

ふと思い出して告げて。

アイリース > 「お手数おかけいたします」

相手の言葉に、頭を下げる。
なんというか、従者なのにずいぶんと気を使ってもらっていて。
これは、働いて恩義を返さなくてはいけないなぁ。

「はい。機能性はバツグンなんですよ。あれはあれで」

見た目がちょっと、なので。
普段使いはできないのは難点ではあるが。
っていうか、あんなの普通に着てたら、痴女扱いである。
……あの弟子は、普段から着てた気もするが。

「傘、ですか。
 ……えっと、そこまでは」

相手が、更に買い物について言えば。
私は、少し遠慮しようかと。
傘まで買ってもらっては、悪い気がするのだが。

「そうですね。ですが、こちらの国にも。
 東に無い花もあるでしょうから。
 どちらが、ということはないですよ」

その土地の花には、それぞれの美しさがある。
競い合うものではなく、それぞれの美しさを楽しめれば良い。
……そのあたりは、この相手も理解はしているのだろうけれども。

「……そうなんですね。
 実は私は、そこまで花には詳しくないのです。
 薬草毒草の類には明るいのですが」

なにせ、修行修行の毎日だったので。
相手の知識に驚きつつ。目を閉じる。
……静かで、良い場所だ。
この国に来てから。こんな落ち着いた日々は初めてかもしれない。

ビョルン > 「いや、ええと──」

それが己の楽しみでもあるので大歓迎である。
という意味を『どういたしまして』だの『案ずるな』といった言葉に乗せきれず語尾を濁す。

「ああ──そんなだった」

相手の弟子の格好がどうにも目立つので拾ったケープを被せたのは己だった。
勿論、人目にはつかなかったのだけれど──と、頷きながら。

「そういえば帽子も買ったのだっけ。
 氷雨の季節までには傘も要るだろう」

期限なく己の傍に居てくれるのならば、季節の洋装と同じようにいずれは必要となろう。
相手の言葉に頷けは、からりと笑い声が上がる。

「薬草毒草と聞いて、今日の夕餉の菜を聞こうとしていたのが喉へ切っかかった。
 どこかへ寄って、帰るかい」

そうしてまた、違った天気の別の日も必ずまた来ようとか話しながら雨の花の前から歩き出そうとする。

アイリース > 「……はい?」

なんだか、はっきりとしない言葉に。
思わず首をかしげ、聞き返してしまうのだけれども。
どうにも、相手の言葉は消え入るようなもので。

「……えぇ。でしょうとも」

おそらく、同じ人物のことを考えたのだろう。
私は、短くそう言うにとどめた。
なんというか、そうしなくてはいけない空気があった。

「……はぁ。そういうのでしたら。
 お言葉に甘えさせていただきます」

この相手は、一度こうと言ったら、聞き入れない頑固さのようなものがある。
恐らくは、遠慮を重ねても話は聞き入れられないだろうから。
私は、素直に相手の言葉に感謝の意を表し。

「そうですか。えぇ、ならばそういたしましょう。
 ……そうですね。少し、通りの店を二、三。
 商店は、見るだけでも面白いので」

相手の言葉に、思わず笑みを強めてしまうけれども。
私は、相手と共に、歩き始める。
今度は、また別の花を見に来るのも面白いかもしれないな、と。
そう考えながら。相手に寄り添っていき。

ビョルン > 相手を伴い、富裕地区の公園から下町は貧民地区の花街まで。
女の気の向くまま足の向くまま従う。
帰りは青果市場でまだ青い檸檬を買い、食後に蜜と冷水で割って女へと供した。

ご案内:「植物公園」からアイリースさんが去りました。
ご案内:「植物公園」からビョルンさんが去りました。